誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

両大血管右室起始症(DORV)について その1  定義や成り立ちなど  〜疾患36

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今回からついに両大血管右室起始症(Double Outlet Right Ventricle : DORV)について話をしようと思います。DORVを知っている人はわかるでしょうが、DORVはあまりにも多岐にわたるため、一番説明しにくい疾患です。「TOFみたいなやつもいるし、TGAみたいに大血管スイッチ手術をするやつもいる、はたまたFontanになる疾患にもよくDORVって病名がついている気がする・・・・一体DORVってなんなんだ?どれが本当のDORV?」と疑問に思った人は少なくないはずです。僕も実際DORVの3割くらいわかっていればいい方かな、と思います、それくらいこの疾患については理解が難しいです。なので、3割わかっている人が話している、くらいの感じで読んでもらったらOKです。僕ら小児循環器を専門的にやっている人でも十分理解できていない疾患(いやいや、お前が不勉強なだけだろう、というツッコミはやめてくださいね。)を、そもそも理解しろ、と言うのは不可能に近いかもしれません。しかし、DORVを1割でもわかっていただけると、教科書に書いてある摩訶不思議なスワヒリ語のような言葉が少しは頭にはいってくると思いますし、トンチンカンな質問をして担当の先生を怒らせたりする事がなくなるのではないかな、と思いますので、頑張って勉強していきましょう。このブログでは0を1にするのが役目なので、超詳しい事までは書きませんが、誰にでもさわりがわかるように努力するつもりなので、DORVで悩んでいた人はぜひ目を通していただけたら、と思います。という事で、DORV行ってみましょう!

 

DORV(両大血管右室起始症)の定義について その1:150%ルール

定義とかすごい眠くなる話なので、話すのは好きではないのですが、一応何がDORVなのか、をきちんとしておかないと理解が難しいかもしれないのでちょっと話しておきます。つまらない話で申し訳ないです。

DORVっていうのは、両方の大血管、つまり大動脈と肺動脈両方が右心室からでている、というような疾患です。定義として一般的に使われているのが、「50%ルール」です。つまり「大動脈が50%以上右心室から出ている」というものです。みなさんもこの50%ルールよく聞くかと思いますが、今日からちょっとだけ50%ルールの認識を変えてください。むしろ150%ルールと再認識してもらったほうがいいかもしれません。何を言っているかと言うと、上の50%ルールは正確に言うと、「肺動脈が100%右心室から出ている前提で、さらに大動脈も50%以上右心室から出ている」という事になります。つまり肺動脈は右心室から出ている、これが前提で話をしているのです。でもこの後DORVを勉強していくとわかると思うのですが、肺動脈が100%右心室から出ていなくてもDORVって言われるケースも多々あります。そのためこの定義では混乱してしまうかもしれません。なので、今日からはできたらDORVは150%ルールで認識してもらったほうがいいかな、と思います。150%ルールとは「大動脈、肺動脈、2つの大血管があわせて150%以上右心室から出ている」という話です。(最初から150%ルールで書いている教科書のほうが多いかもしれません。)この150%とは大動脈と肺動脈がそれぞれ持ち分100%ずつあると考えて(なので大動脈と肺動脈合計で200%になります)、1つの大血管+もう一つの大血管の50%以上、あわせて150%以上が右心室から出ている、という考え方になります。なので、150%ルールでDORVは覚えておきましょう。150%ルールをもう少し詳しく言うと、例えば下の図のようないろんな例があります。(こっから眠くなるので図の下まで飛ばしてもOKです。)最も一般的なのがTOF型と言われるDORVで肺動脈は100%右心室から出ており、大動脈が50%以上右心室から出ているものです。これはわかりやすいDORVのケースですが、この大動脈と肺動脈が逆になった形、つまりTGAのような形のDORVもTOF型の次によく認められます。大動脈が100%右心室から出ており、肺動脈が50%以上右心室から出ているケースです。図のように普通の血管の位置関係と逆になっており、どちらかと言うと左心室に肺動脈が近く、右心室から大動脈が出ているような形です。こういうやつはTGAと同じように大血管スイッチ手術を施行します。また、単心室症例にもDORVは認められます。左心室が小さくて、両方の大血管が右心室から出ているものや、右心室が小さいにも関わらず、大動脈も肺動脈も右心室から出ている、左心系のDORVなどもいます。これはちょっと邪道な病名の付け方かもしれませんが、肺動脈閉鎖で右心系単心室の場合、よくDORVって病名がついていることがあります。もし痕跡的な主肺動脈が右心室から出ていればわかりやすいですが、主肺動脈がどこから出ているかよくわからない場合でも、右心系単心室で大動脈が右心室からでている場合にDORVって病名がついていることがあります。図をみてもらうとなんとなく理解できるかな、と思いますが、文字だけでは意味不明ですよね。このようにDORVは多岐にわたる疾患ですが、そこをはっきり理解しておかないとDORVは理解できないと思いますので、まず150%ルールとDORVの多様性を理解するように努力しましょう

 

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図:150%ルール いろんなDORV

 

DORV(両大血管右室起始症)の定義について その2:線維性連続がない

もう一つよく言われる「半月弁(大動脈弁とか肺動脈弁の事)と房室弁(僧帽弁や三尖弁)の線維性連続がない」というのもDORVの定義で出てくる言葉です。これについては下で少し話そうと思うので後で理解できるように書いておきますね。でもちょっとだけ簡単に説明します。普通の正常心でいくと、大動脈弁と僧帽弁は弁の付け根がつながっています。下の図を見るとわかると思いますし、心エコーの長軸とかを見るとわかりますが、普通の心臓では大動脈弁と僧帽弁の間に筋肉みたいな組織はありません。この大動脈弁と僧帽弁がつながっている様子を「線維性連続がある」と言います。逆にDORVではこの線維性連続がありません。TOF型のDORVを例にすると、下の図のように大動脈と僧帽弁の間が離れているため筋肉が僧帽弁と大動脈弁の間にあります。この筋肉をVIF(ventriculo-infundibular fold:心室漏斗部襞壁)と言います。VIFってDORVで悩んだ事がある医師だったら聞いたことはあると思うのですが、この僧帽弁と大動脈弁の間にあるのがVIFです。半月弁と房室弁の間にある筋肉がVIFであり、これがあるとDORVと言えるのです。これが150%ルールとともにDORVの定義でよく言われている事です。でもVIFは難しいし、とりあえずは150%ルールだけでOKだと思います。

 

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図:線維性連続とVIF

まとめると、DORVの定義を考えると、①150%ルール ②線維性連続がない この2つが定義になると思います。どっちかだけと言われたら150%ルールの方でいいのではないかな、と思います。なので、「1つの大血管+もう一つの大血管50%以上が右心室から出ている」のがDORVとしっかり認識しておき、おまけ程度でいいので、「線維性連続がなく、半月弁と房室弁の間にVIFがある」と頭の隅においておきましょう。

 

ちょっとだけ発生を考えよう!

DORVを考えるには発生をちょっとだけ考える必要があります。これがわからないとそもそもDORVがなんなのかが掴めないと思いますので、気軽な気持ちでちょっとだけ見ていきましょう。図がないと理解が難しいと思いますので、下の図を見ながら読んでいただけるといいかな、と思います。

まず心臓というのは、はじめは1本の管でした。それがぐにゃっと左側に曲がって下の図のような形になります。心尖部が左側を向いているのはこのぐにゃっと曲がる時に左側を向いて曲がるから心臓はたいてい左側を向いています。このぐにゃっと曲がったところの左側が将来の左心室となり、右側は将来の右心室になります。曲がった後、管は上の方にのびていますが、この管の上の方が将来の大動脈と肺動脈になっていきます。

 

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図:DORVの発生

この図を見るとこの将来大動脈と肺動脈になる管は、将来右心室になるところにくっついていますよね。普通の心臓であれば、ここからこの上の方にのびる管が左の方に移動していくことになります。しかし、DORVではこの上の方にのびる管が左の方に移動せず、そのまま右心室からでるような位置に留まり続けます。これがDORVのもともとの原因です。この上の方にのびる管は将来的に大動脈と肺動脈になりますので、左に移動してくれないと、将来右心室からそのまま大動脈と肺動脈が出るような形になってしまいます。このように心臓の発生の初期の段階で左に移動するはずの上の方にのびる管がそのままの位置にとどまってしまうため、両大血管右室起始症(DORV)はできてしまいます

この発生で頭にいれておくべきポイントは2つ、1つ目は「将来大動脈と肺動脈になる管が左に移動せずそのままの位置にとどまってしまう」ということ。2つ目は「心臓の発生の初期の段階で起こる異常」ということです。この2つのポイントがDORVを理解するのに非常に大事なポイントになっていきます。なぜ重要なのかはこの先読んで頂くと理解していただけると思うので、ちょっと頭にいれておきましょう。

 

「線維性連続がない」事について

DORVの定義で良く出てくる「線維性連続がない」って言うことに関しては、上でちょっと言及しましたが、それではよくわからないですよね。上でも説明したようにDORVの定義でよく言われるのが150%ルールと線維性連続がないって事でした。150%ルールは理解できるかと思いますが、線維性連続についてはちょっとむずかしいのでここで改めて話をしていきます

普通の心臓の発生の場合には、心臓が一つの管から左側にぐにゃっと曲がってできますが、上にのびた、将来大動脈と肺動脈になる管が左の方に移動し、ちょうど真ん中あたりのところまで移動します。そのため、大動脈はちゃんと左側の心室、左心室から出るような形になり、肺動脈は右の心室、右心室から出るような形になります。将来大動脈と肺動脈になる上にのびる管(動脈幹)が左に移動してちょうど大動脈弁になるところが、僧帽弁になるところにくっつくような状態になるので、大動脈弁と僧帽弁の間には筋肉がなくなり、あたかも大動脈弁と僧帽弁がくっついているような状態になります。この状態を小難しく言うと「線維性連続がある」っていう状態です。ここで言っている線維っていうのはおそらく僧帽弁や大動脈弁の、「筋肉ではない、弁の組織=線維」のことを指しています。そのため、大動脈弁と僧帽弁がくっついていることを線維(弁組織)がくっついている=線維性連続がある、っていう風に言っています。もうちょっと簡単に言えばいいのに…と思いますが仕方ありません。線維性連続って言われると意味不明すぎてアレルギー起こしそうですが、簡単な事で大動脈弁と僧帽弁がくっついるって事です。

 

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図;線維性連続について

ではDORVの場合はどうなるでしょう?上の図を見ながら考えていきましょう。もうわかるかとは思いますが、DORVの場合は将来肺動脈と大動脈になる管が左に移動してくれません。なので、将来右心室になる右側にとどまることになります。そのため、右側の心室、つまり右心室から大動脈と肺動脈が出たような形になりDORVになってしまいます。大動脈弁(肺動脈弁の場合もありますが…)と僧帽弁の位置関係を考えると、将来大動脈と肺動脈になる管が左に寄らないと大動脈と僧帽弁の間に距離が開いてしまいます。2つの弁の間に距離があるため、その間には筋肉が残ってしまうことになります。大動脈弁と僧帽弁がくっついて、間になにも筋肉がないと「線維性連続がある」っていう状態でしたが、大動脈弁と僧帽弁がくっつかずに間に筋肉がある場合には弁組織はくっついてないので「線維性連続がない」っていう状態になります。これがDORVの定義として言われている「線維性連続がない」っていう話になります。将来肺動脈と大動脈になる上にのびる管(動脈幹)が左に移動しないため、大動脈弁と僧帽弁がくっつく位置にならず、弁と弁の間に筋肉がある状態になってしまい、この状態を「線維性連続がない」って言うんですね。大丈夫でしょうか?ちなみにこの弁と弁の間にある筋肉がVIFです。なので、普通は大動脈弁と肺動脈弁の間にはVIFはないのですが、DORVのときにはVIFがこの弁と弁の間にあります。ということで、簡単に言うと大動脈弁と僧帽弁が離れているよ、と言うのを小難しく「線維性連続がない」って言っているのです。これでDORVの理解しにくいものの一つ、「線維性連続がない」っていう定義の意味は理解してもらえたでしょうか?

 

DORVの多様性について

DORVの定義や線維性連続については少し理解できたかな、と思いますが、DORVのややこしいところはそれだけではありません。冒頭でちょっと書きましたが、DORVにはTOF(ファロー四徴症)のようなタイプのDORVから、大血管スイッチをしないといけない、TGA(完全大血管転位症)のようなタイプのDORV、また左心室が小さくてFontan手術になってしまうような単心室のDORVなど、本当に多岐に渡るバリエーションがあります。他の多くの疾患の場合には大体の治療のストラテジーがあって例外は少なめだとは思うのですが、DORVに関しては治療法も血行動態もいろいろありすぎてひとくくりにはできない疾患なのです。では、なぜDORVにはこれほど多くのバリエーションがあるのでしょうか?それには上で説明した発生がヒントになっています。

DORVがどうしてできるかは上で説明したように、発生の初期の段階で、将来大動脈と肺動脈になる管が左の方に移動しなかったため、両方の大血管が右心室から起始するような形になりました。ここで重要になってくるのが、「発生の初期の段階で起こる異常」というところです。心臓が1つの管からぐにゃぐにゃっと曲がっていく過程は心臓の発生の初期の段階なのです。ちなみに、この動きは胎生20-25日くらいでできる話ですが、そんな初期の段階で異常が起こった場合、その後の心臓の形成によって、いろんなバリエーションができるのは容易に想像がつきますよね。大血管も心室の形成も正常にいけば、DORVはTOFタイプのようになってきます。心室の形成が正常にいっても、大血管の形成が異常であれば、TGAタイプのようなDORVも発生します。心室の形成もうまくいかなかったら、Fontanになるような単心室タイプのDORVもでてきます。これ以上にもいろいろなバリエーションがあると思いますが、その後どんな心臓の形成になっていったかでDORVは大きく形や血行動態を変えてくるのです。つまり心臓の発生の初期の段階での異常がDORVの原因なため、その後の心臓の形成によっていろんなタイプのDORVが発生してくる、ということです。これが「なぜDORVはバリエーションが豊富なのか?」という問の答えになります。なので、上記で話したように大動脈と肺動脈に将来なる管が左に移動しなかった、事とあわせてこれが心臓の発生の初期の段階で起こる、ということを頭にいれておくことは大事だと思います。

 

まとめ

両大血管右室起始症(DORV)の定義と成り立ちについては理解できましたか?すごくつまらない話になってしまって申し訳ないのですが、ここからわかってもらわないとDORVは非常に理解しにくい疾患なので、時間を使って定義や成り立ちについて話をしました。DORVの定義は

150%ルール:1つの大血管+もう一つの大血管の50%以上、あわせて150%以上が右心室から出ている。

線維性連続がない(半月弁と房室弁の間に筋肉(VIF)があり、弁と弁がつながっていない)

この2つでした。線維性連続の話はちょっと医師向けではありますので、150%ルールの事だけでもDORVって何?って言われたらすぐにピンと来るようにしていただけるといいかな、と思います。

また発生も重要です。なぜ線維性連続がないのか、なぜDORVにはめちゃくちゃバリエーションがあるのかは、発生を考えるとよくわかりました。DORVは発生の初期の段階で将来大動脈と肺動脈になる管が左の方に移動せず、将来右心室になるところの上にそのままとどまったからおきる疾患でした。そして、その管が移動しなかったため、将来の大動脈弁と僧帽弁の間に距離ができてしまい、線維性連続がなくなってしまいましたね。そして、発生の初期の段階で異常が起こるため、その後の異常に伴ってDORVはいろいろなバリエーションが出てきますね。

今回の話はこんな感じになります。次回はDORVのバリエーションに関して考えていくことにします。