誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

DORV(両大血管右室起始症) その5 {S.D.N}DORV Fallot type、primary IVFとsecondary IVFについて  〜疾患40

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前回は{S.D.N}DORVのVSD typeについて話をしました。主な経過として、まず生後1ヶ月前後で肺動脈絞扼術を施行し、生後半年から1年で心内修復術を施行する、という流れでした。前回強調したかったのは、DORVの話の中でもいつも注意しておかないといけない、左室流出路狭窄(LVOTO or LVOTS)についてです。術後の左室流出路狭窄が起こるか、起こらないかが術後の予後を大きく左右します。術後の左室流出路狭窄は1割くらいのDORVに認められるため、そこそこの割合で発生してしまうので十分に注意が必要です。左室流出路狭窄さえなければ、VSDと同じなので、術後は普通の人と同じように暮らしていけると考えられます。

では今回は{S.D,N}DORVの肺動脈狭窄を認めるタイプ、俗にいうFallot typeについて話をしていきます。このFallot typeはDORVの中でも非常に多いタイプです。前回話したVSD typeよりももっと多く認められるのではないかと思います。大まかにはDORVの4割がこのFallot typeのDORVです。なので、しっかりおさえておきましょう。とは言え、このDORVはTOF(Fallot四徴症)とほぼほぼ一緒なので、TOFの事がしっかりわかっていれば新たに覚える事は少ないと思います。ということで{S.D.N}DORV Fallot typeやっていきましょう。

 

{S.D.N}DORV Fallot typeについて

先ほども説明しましたが、このタイプについてはTOFと全く同じ考え方でOKです。なので、あえてここで書くほどのことは何もありません。注意点もほとんど一緒です。{S.D.N}DORVでPSがある場合をおそらくどこの病院でもDORVのFallot typeと言っているのではないかな、と思います。それは治療法も経過もすべてTOFと同じなので、とても理にかなっています。違うところと言えば、「線維性連続があるのか、ないのか…」また「DORVでは冠動脈の走行異常が10%くらい(文献によっては40%っていうのもありました…)に認められるので、注意が必要」とか…TOFと違うのはこれくらいかな、と思います。違いについては後に説明していきます。ということで、まず経過表をみていきましょう。コレTOFのものと全く同じですが…。

 

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図:DORV Fallot typeの経過

ということで、TOFと同じなのでDORV Fallot typeは、PS(肺動脈狭窄)があるためlow flowになります。そのためSpO2が低くなり、その程度によっては治療方針が変わりますSpO2が低いと生後1-2ヶ月でBT shuntをはさんで、1歳くらいで心内修復術を行うことになります。なんとかなるくらいのSpO2(普段80%以上あり、Spellがない状態)であれば、BT shuntはせずに1歳くらいで心内修復術を施行することになります。これがわからない人はTOFの所を復習しましょう。

心内修復術後で弁輪温存ができれば、上手くいくと以後手術が必要なくなりますが、TAP(transannular patch)で弁輪を切ってしまった場合には再手術が必要となってきます。もちろん弁輪温存できても再手術が必要になるケースはありますので、必ずこのDORV Fallot typeでも長期的なフォローは必要になってきます。多くの場合、アスリートは厳しいですが、そこそこ運動とかもできるようになるので、DORVの中ではこのFallot typeも予後のいい方なのではないか、と思います。

まとめると、DORV Fallot typeはTOFとほとんど同じように考えてもらってOKなので、TOFの経過や治療などわからなければ下記のリンクを見て参考にしてください。

TOFについて

 

www.inishi124.com

 

TOFと{S.D.N}DORV Fallot typeの違いについて

上記のようにDORV Fallot typeはTOFとほとんど同じような経過なので、あえて新しく記述する事がないのですが、わずかに違うところがありますので、それをちょっと書いていこうと思います。

<2つのVSDの呼び方について(primaryとsecondary)>

まずDORVの定義のところで話しましたが、DORVの場合には線維性連続がありませんつまり大動脈弁と僧帽弁の間に筋肉が介在しています。DORVの場合どこを右室ととるかが難しいところであり、同時に「どこをVSDにするか」もTOFとは違うところになります。実はDORVではVSDが2つあります。図を見てもらうとわかると思うのですが、primary IVFと呼ばれるところとsecondary IVFと呼ばれる、この2つがVSDとなりますが、正確にはprimary IVFが正式なVSDになります。ちなみにこのIVFはinterventricular foramen(心室間の孔という意味です)でVSDと同じような意味です。

 

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図:primary IVFとsecondary IVF

primaryとsecondaryの考え方としては、下記のように考えたらいいかな、と思います。まずはDORVでの本来のVSD、primary IVFについて考えていきます。大動脈弁と僧帽弁の間にある筋肉=Conus=VIF:ventriculo-infundibular fold(線維性連続を切っている、僧帽弁と大動脈弁の間に介在する筋肉のこと、VIFまたはConusと言います)の部分から右室とすると、VSDは右心室と左心室の間の孔なので、このConusと心室中隔のところを結んだところがVSDになりますこのConusと心室中隔を結んだところはprimary IVFなので、primary IVFのところを本来のVSDだと考えられます

一方、図のようにConus septum(=infundibular septum)と心室中隔を結んだところをsecondary IVFと言います。つまり手術で閉じるVSDの位置はsecundary IVFのところであり、臨床的にはここをVSDとする方がわかりやすかったりもします。普通のVSDやTOFの場合にはDORVで言うところのsecondary IVFがVSDにあたります。なので定義上ではprimary IVFがVSDなのですが、secondary IVFは臨床上重要な位置であり、DORVの場合には2つをわけてしっかり認識する必要があります。

まとめると、解剖学的にはConusからを右室ととらえ、右室と左室の孔にあたるVSDをprimary IVFとし、臨床的には手術で閉じる所をVSDと考えsecondary IVFとする、という感じで理解してもらったらいいかな、と思います。実際にはprimary IVFは術後、左室流出路になるところなので、臨床上狭いかどうか重要ですし、secondary IVFはパッチで閉じる所なので、どれくらいの大きさがあり、どこに位置しているか、などが重要になってきますので、どちらも重要です。なので、TOFでは「VSDは何mmでどこにある」だけですが、DORVでは「primary IVFは何mmで、secondary IVFは何mmで…」という風に話をしないといけません。ということなので、DORVの場合にはVSDをprimaryとsecondaryにわけて考えるようにしましょう。共通言語なので、これは覚えるしかありませんが、DORVの場合、VSDと言ったらprimaryなのか、secondaryなのかを明確に分けないと話が通じなかったりするので認識するようにしましょう。

まとめると

・DORVの場合は本来のVSDがprimary IVF

・DORVの場合、手術で閉じるところがsecondary IVF

・primary IVFはConus(=VIF)と心室中隔を結んだところ。

・secondary IVFはConus septum(=infundibular septum)と心室中隔を結んだところ。

このようにDORVの場合にはVSDと一言で言ってもどちらの事を言っているかわからない事がありますので、きちんとprimaryとsecondaryを使い分けるようにしましょう。

 

まとめ

ということで前回と今回にわたって、{S.D.N}DORVについてお話をしました。肺動脈狭窄がない{S.D.N}DORVについては「大きなVSD(VSD type)」と同じような血行動態となります。多くは生後1ヶ月くらいで肺動脈絞扼術(mPAB)を施行して、1歳くらいで心内修復術を施行します。心内修復術の時に、左室流出路狭窄に注意する必要がありますが、それ以外は特に大きく問題になることはなく、左室流出路狭窄さえなければ心内修復術以後は普通の人と同じように人生をおくることができます。

肺動脈狭窄(PS)がある場合にはTOFと全く同じと言っていい経過をたどるため、DORV Fallot typeと言われたりします。TOFと同じで生後1-2ヶ月でBT shuntを挟んで1歳くらいで心内修復術をするか、BT shuntを挟まずに1歳くらいで心内修復術を施行するか、という感じになります。心内修復術後は肺動脈の狭窄と逆流の程度によって再手術が必要になります。弁輪温存ができれば、再手術が必要なくなることもあり、弁輪温存できるかどうかはTOFと同様に結構重要なことになります。

またVSDについてはDORVではprimary IVFとsecondary IVFの2つがあります。primary IVFは本来のVSDでありVIF(=Conus)と心室中隔を結んだところであり、secondary IVF手術で閉じるVSDの位置であり、Conus septum(=infundibular septum)と心室中隔を結んだところになります。DORVではこの2つをしっかりわけて話をするようにしないといけませんので、注意お願いします。

ということで、前回と今回にわたって{S.D.N}DORVについて話をしました。「大きなVSD」のような血行動態のもの、「TOF」のような血行動態のものがあるので、頭にいれておきましょう。DORVの中でも{S.D.N}DORVは結構な頻度であるので、頭に入れるようにしましょう。では次回はoriginal Taussig-Bingの血行動態や治療についてやっていきます。