前回からいよいよDORVをはじめてしまいました。前回から1ヶ月くらい開いてしまいましたが、この記事を書くのにだいぶ苦労しました。正直看護師さん向けと言うにはかなり難しい内容なのです。小児循環器を目指す医師向け(研修医とか専攻医とか?)に近いかな、と思います。今回の記事はこのブログの中でも最も長い記事になっていますので、ちょっと頑張らないと読めないかと思いますが、DORVの山でもある、この分類の話は非常に大事なので頑張って理解するようにしましょう。一番下に参考にした本やおすすめの本を載せてますので、よかったら見てみてください。
まず前回は「150%ルール」と「線維性連続がない」という2つのDORVの定義について話をしました。DORVってここらへんをしっかり認識しておかないと理解に苦しむ疾患なので、DORVの定義がしっかり理解できていない人は前回の記事をまず理解するようにしてください。今回はDORVの幅広いバリエーションについて話をしていきます。いろいろな名称が出てくるのでかなり難しく、みんなの挫折ポイントの一つだと思いますが、実はシンプルな考え方の上にできている分類なので、なるべく理解できるように簡単に話をしていこうと思います。ちなみにDORVを勉強しようとしている人はTOFやTGAなどは知っていると思いますが、DORVを理解するにはTOF(ファロー四徴症)とTGA(完全大血管転位症)、単心室(Fontan手術)などについて知っておかないと完全に言っていることがわからないと思います。以前に記事も書いていますし、教科書にも載っていますのでまずそれらの疾患を勉強してからDORVを勉強するようにしてください。なるべく簡単に話そうとは思いますが、TOFとかTGAみたいな言葉を使わないと説明が難しいのでよろしくお願いします。
DORVのバリエーションの幅について
DORVはバリエーションの幅がとても広いです。TOFのような血行動態から、TGAのように大血管スイッチ術をしないといけないもの、単心室血行動態をきたすものまで幅広く存在します。これらの幅広い疾患を分類するのはとても大変ですが、今回はこれらをどう分類しているか、説明していこうと思います。
図:DORVのバリエーション
上記の図のように幅がとても広いです。基本的にDORVの分類は治療に焦点を当てた分類をしています。なので、特に心内修復術をして、二心室になるDORVは細かく分けられています。それに対して、単心室になるDORVは特にコレと言って分けられておらず、必死になって分類する必要はありません、なぜならどれも治療は一緒で単心室になるため、グレン手術⇢Fontan手術へと進むためあんまり細かい分類には意味がないからです。なので、今回は上の図の特に二心室修復が可能なDORVがどう分類されていて、どのように考えるといいかを話ししていこうと思います。ちなみにこの二心室修復が可能なDORVの分類は京都府立医科大学の山岸正明先生が、わかりやすく記載しています。そちらを読んでもわからない人はこの記事を見てみてください。なお下記の図は山岸先生の図を引用させていただきました。記事の最後に引用させていただきました書物を載せておきます。この図も山岸先生のものをなるべくわかりやすくしようとしているものですのでよろしくお願いいたします。
DORVの分類を考える前に
二心室のDORVの分類を考えるには、いくつか心臓の部位についてしっておく必要があります。それが以下の4つになります。
・Couns septum(=infundibular septum=outlet septum)
・VIF(ventriculo-infundibular fold)
・VSD
・大動脈と肺動脈の位置関係
上記の4つの位置関係によって二心室修復できるDORVは分類しています。聞いたことある言葉がほとんどだとは思いますが、はじめて聞いた人もいると思うので、説明していこうと思います。
ちなみに上のConus septumはinfundibular septumと言う方が一般的なようです。TOFの記事でConus septumで説明しましたので、この記事ではConus septumで話をさせてもらっていますが、infundibular septumと同じ意味です。
まず1つ目はConus septum(漏斗部中隔)です。TOFの記事を読んで頂いた方にはお馴染みだと思いますが、大動脈と肺動脈の間にある筋肉です。もともと大動脈と肺動脈は動脈幹という一本の管でしたが、発生の過程で大動脈と肺動脈の2つに分かれていきます。この2つの大血管、肺動脈と大動脈の間にある筋肉がConus septumです。
2つ目はVIFです。VIFについては前回結構説明しているので、前回の記事を見てください。簡単に言うと、大動脈弁・肺動脈弁と僧帽弁・三尖弁の間にある筋肉のことを指します。これがあることがDORVの診断基準の一つになっていますので、これも重要なファクターになります。前の記事にも少し書きましたが、実はこのVIFをConus(円錐)って言う場合もあります。なので、普通の心臓の場合には大動脈部の円錐(conus)=VIFは吸収されてなくなってしまいますが、DORVの場合にはこの円錐(conus)=VIFが残りますので、大動脈にも肺動脈にも円錐(conus)ができることになってしまいます。これを両側円錐(bilateral conus)って言ったりもしますが、意味は「VIFが大動脈弁と僧帽弁の間にもある」とか「線維性連続がない」っていうのと一緒になります。紛らわしいと思いますが、この円錐(conus)=VIFなので教科書でbilateral conusなどの記載があっても「Conus septum(円錐中隔:大動脈と肺動脈の間にある筋肉)」をごっちゃにしないように気をつけてくださいね。
当初、TOFの記事ではConus septumをConusと省略していましたが、それは間違いでしたので、今回の記事では必ずConus septumと記載するようにしています。(ちなみにTOFの記事のCounsの間違いは訂正させていただきました。すみませんでした。)
基本的には「VIF=Conus」と「Conus septum」をごっちゃにしないように、今回の記事では「VIF」と「Conus septum」という言葉を使っていこうかと思いますのでよろしくお願いします。infundibular septumで慣れている人すみません。DORVのところの言葉の使い方は結構難しく僕も正確にはよくわかってないので、間違って認識している場合もありますが、もし間違っていたら教えてもらえると嬉しいです。
3つ目はVSDです。VSDは心室中隔に開いている孔です。これはおそらくみんな知っていますよね。このVSDの位置がどこにあるかで、治療方針が大きく変わってきますので、特にVSDの位置について意識しながら見てもらえれば、と思います。
最後に大動脈と肺動脈の位置関係ですが、大動脈と肺動脈はわかりますよね。この位置関係がどのようになっているかで手術の方針がかわってきますので、非常に重要になってきます。大血管とVSDの位置関係、どちらが前でどちらが後ろか、またどちらが右でどちらが左か、、、どういう風に大動脈と肺動脈が位置するかに注意して分類を見ていきましょう。
この4つ、「Conus septum、VIF、VSD、大血管の位置」を意識することでこの分類は理解できるようになると思いますので、それを意識して考えていきましょう。またこの分類は治療方針に密接に関係してくるので、とても有用だと思われます。では、次はこの4つがどう関係してくるかで、分類が変わるか、見ていきましょう。
DORVの分類について
では分類について具体的にみていきましょう。まずはこの分類を詳しくわけた図を載せますので、まずはこれを見てみましょう。これを見て大体の人は「やっぱり小児循環器は向いてないや。」と諦めたかもしれませんが、まだ諦めるのは早いです。順を追って考えていけば、めちゃくちゃ複雑に見えるこの分類も結構シンプルでわかりやすいことがわかります。ちょっと大きくなってしまったので、2つの図にわたって分類を書いてしまいましたが、図の上の方の図が右心室から中身を覗いているような形の絵になります。橙色が心室中隔になり、心室中隔欠損孔(VSD)がその上に開いています。VSD越しに左心室が見えており、僧帽弁の一部とVIFがのぞいて見えます。この上の図では主にConus septumの挿入部位やConus septumとその他の大動脈などの位置関係に注目してみてもらうといいかな、と思います。下の段の絵は頭の方から心臓を覗き込んだような図になっています。大動脈肺動脈の位置関係、Conus septumの挿入部位、VSDの位置など重要なものがすべてわかるような図になっています。もちろんこの図を考えたのは僕ではなく、山岸先生の図を写したものなのでオリジナルが見たい人は山岸先生の著作のものを探してみてください。という事でとりあえず、分類の図を見ていきましょう。
図:DORVの分類
パッとこの図を見て理解できなくてOKです。この分類は一見複雑に見えますが、実は治療と結びついた、とてもわかりやすい分類です。順を追って考えていきましょう。まずは大雑把にこの分類を言い表すと、「大動脈と肺動脈がぐるぐる回る」分類です。大動脈と肺動脈がぐるぐる回ることによって、位置関係がかわってきますが、それを分類したものになります。下の図をまず見てみましょう。
図:DORVの分類 AoとPAを回しただけ
これだけ見ると非常にシンプルですよね。もちろんDORVなので、150%以上右心室から大動脈と肺動脈はでていますが、それをぐるぐる回しただけなのがわかります。では正常心の位置に最も近いところからはじめていきましょう。
通常の心臓(正常心)に最も位置関係が近いものが{S.D.N}DORVになります。この{S.D.N}っていうのは心臓の解剖学的な位置関係を表したものになります。はじめの文字は心房の位置、次の文字は心室の位置、最後の文字は大血管の位置を表しています。{S.D.N}って記載していれば「普通」って事です。つまり正常心と同じように、右心房が左心房の右に、右心室が左心室の右側に、大動脈が肺動脈の右側に位置していることになります。これを小難しく言うと{S.D.N}という表記になります。{S.D.N}DORVは大きなVSDと血行動態が同じような感じになります。しかし、{S.D.N}DORVの中には肺動脈が狭窄しているケースも多く認められ、そういう場合は血行動態がFallot四徴症(TOF)とほとんど同じようになりますので、DORVのFallot typeって言ったりもします。
それがもうちょっと回るとOriginal Taussig-Bingと言われる形になります。大動脈が右若干後ろに、肺動脈が左若干前のような位置関係になります。よく教科書にside by side(真横に大動脈と肺動脈が並ぶことをside by sideって言います)って書かれてたりしますが、ほぼ真横の若干肺動脈が前という認識のほうがいいかな、と思います。名前がかなり意味不明かもしれませんが、しょうがないのでこれは一旦覚えるしかありません。でもこんな名前があったような、、、くらいのゆるい覚え方でいいです。一応知りたい人がいると思ったので名前の由来やoriginal Taussig-Bingの条件?みたいなものを下の記事に記載したので、書いておきますが、今のところは無視してOKです。はじめに報告した人の名前がついているだけか、と思っておいてください。もうひとつ言っておくとoriginalってところが大事です。Taussig-Bingとoriginal Taussig-Bingは違うものなので、混同しないようにしてください。
そして、もうちょっと回ると、Posterior TGAになります。なぜposterior TGAっていうかと言うと、理由は2つあります。まず1つ目に大動脈と肺動脈が回ることによって、位置関係を考えると、大動脈は完全に右心室から出ている状態になり、肺動脈は左心室に最も近い位置になります。後でVSDの位置については話をしますが、VSDも肺動脈の下に開いていて、左心室の血液がそのままVSDを通って肺動脈に流れるような血行動態になります。つまり、posterior TGAって言うのはまさに血行動態から考えると、TGAと同じようになっているのです。じゃ、「TGAタイプのDORVでいいじゃん」って思う人もいるかもしれませんが、TGAっぽいDORVは他にもあり、わけて考える必要がありますので、このようにposterior TGAと名前がついています。2つ目の理由としてはこの「posterior」という言葉がポイントになります。このposteriorっていうのは「後ろの」っていう意味があります。つまりposterior TGAって言うのは「後ろのTGA」って言っているようなものです、でもこれじゃ意味わからないですよね。正確に言うと、「大動脈が後ろにあるTGA」っていう意味なのです。普通のTGAでは大動脈弁が前で、肺動脈弁が後ろになります。しかし、このposterior TGAではTGAの血行動態にも関わらず、肺動脈弁が前、大動脈弁が後ろになります。大動脈が後ろにあるため、posteriorと名前がついているのです。まとめると、posterior TGAは①TGAのような血行動態になるから②TGAとは違い、大動脈が後ろ、肺動脈が前、になっているので、このような名前になっています。
では分類に戻って、posterior TGAから、もうちょっと回ると、ついには大動脈が前になってきます。表には大血管転位型DORVとなりますが、なんのことはない、ただ、大動脈と肺動脈がくるくる回ってついに大動脈が前になった形の事をいっているだけです。posterior TGAの時にも話をしましたが、TGAでは大動脈が前で肺動脈が後ろです、これが大血管転位型になるので、この分類のここからは大動脈と肺動脈が回り回ってついに大動脈が前にくるようになるのです。ちょうど回り回って、前に大動脈が来て、肺動脈が後ろになった状態を、false Taussig-Bingと言います。このfalse Taussig-Bingも先程のposterior TGAと同じでTGAのような血行動態になります。大動脈は完全に右心室から出ており、肺動脈はVSDから左心室の血液が流れてくるため、血行動態はTGAと一緒です。この謎の名前は先程出てきたTaussig-Bingから来たものです。詳しく知りたい人は下の記事を見てください。
false Taussig-Bingから、もうちょっと回ると{S.D.L}DORVと呼ばれる形になります。この{S.D.L}っていうのは話すと長くなりますが、一応簡単に説明すると、心臓の解剖を表している言葉です。最初の文字は心房の位置(右心房が右ならS、右心房が左心房の左ならI)、次の文字は心室(右心室が右ならD、右心室が左心室の左ならL)、最後は大血管の位置(大動脈が肺動脈の右だとD、大動脈が肺動脈の左だとL)の事を指しています。普通の正常心であれば、{S.D.N}(本当は最後の文字はDなのですが、正常の時は特にN(normal) と最後の文字がなります)と表記されますが、この{S.D.L}DORVはちょっと正常と違います。Sは心房の位置が普通(右房が右)、Dは心室の位置が普通(右室が右)、Lは大血管の位置が逆(大動脈が左、肺動脈の右なので、普通と逆です)っていう意味です。つまり{S.D.L}DORVっていうのは大動脈と肺動脈がくるくる回って大動脈がついに肺動脈の左に来た状態を言います。
もうちょっと回るとほぼほぼもとに戻ってきた状態になり、この状態をACMGA(anatomically corrected malposition of the great arteries)と言います。日本語で言うと、解剖学的に修正された大血管転位症、みたいな名前です。なんでこんな名前になっているかと言うと、このACMGAは血行動態的には最初の{S.D.N}DORVや普通のVSDと血行動態的にはほぼ一緒です。しかし、大動脈の位置関係が、「大動脈が左・前、肺動脈が右・後ろ」にあるため大血管転位の血管関係になっているのです。「血行動態的には普通、だけど大血管転位の血管の位置関係」なので、解剖学的に修正された、みたいな長い名前になっているのです。
だいぶ説明が長くなってしまいましたが、大動脈と肺動脈がくるくる回っていろいろつけられている名前が違うことがわかりましたか?まずは{S.D.N}DORV⇢Original Taussig-Bing⇢PosteriorTGA⇢false Taussig-Bing⇢{S.D.L}DORV⇢ACMGAって感じで大動脈と肺動脈がくるくる回ることによってその位置関係で名前がついています。大動脈が後ろで肺動脈が前に出ている場合は正常大血管型DORV(NGA:normal great arteries型DORVと書いている事もあります)と記載されていますが、{S.D.N}DORVとOriginal Taussig-Bing、PosteriorTGAがこれにあたります。途中でも書きましたが、大動脈が前で肺動脈が後ろの場合、つまり大血管転位症(TGA)のような大血管の位置関係になっている場合には大血管転位型DORV(TGA;transposition of the great arteries型DORV)と記載され、false Taussig-Bing、{S.D.L}DORV、ACMGAなどがこれにあたります。とにかく、今のところ、DORVは「大動脈と肺動脈がくるくる回って、その位置関係で名前がいろいろついている」、と理解してくれてたらいいかな、と思います。では、ここからはもうちょっと細かく、VSDの位置、Conus septumの位置なども踏まえて分類を見ていこうと思います。
Conus septum(漏斗部中隔)について
ここからはConus septum(漏斗部中隔)について話をしていこうかな、と思います。TOF(Fallot 四徴症)の記事をよんでくださった方々には馴染みがあるかと思いますが、大動脈弁と肺動脈弁の間にある筋肉の事をConus septumと言います。このConus septumがどっちの方向に向いているか?どこに入っていくのか?というのがこの分類の大きなポイントになってきます。下の図を見ていただくと、Conus septumがどういう向きでどのように位置しているかがわかると思いますので、ちょっとざっと見てください。
図:Conus septumの位置関係と分類
当たり前の事ですが、大動脈と肺動脈の間にある筋肉がConus septumなので、大動脈と肺動脈の位置関係と密接に関係しています。ここで見るべきポイントはどこかと言うと、「Conus septumがどこに入っているか」です。教科書とかでは「挿入している」とか書いていますが、どこの方向にConus septumが入っていくか、向かっているか、これが診断をつける上で大変重要なことになってきます。これだけではよくわからないでしょうから、一つ一つ見ていきます。
NGA型DORVからいきます。まず{S.D.N}DORVですが、この時は全体的に右に寄ってはいますが、最も普通に近い位置関係になります。大動脈が右後、肺動脈が左前になります。この場合は心臓の左の方、僧帽弁の方向にConus septumが向いていますが、心室中隔に当たってしまい、そこに挿入していることになります。なので、Conus septumが左(僧帽弁)の方に向かって、心室中隔に入ってしまうやつが{S.D.N}DORVと言われるものになります。
そこからもう少し大動脈と肺動脈が回ると肺動脈は左で若干前、大動脈は右で若干後くらいの位置関係のoriginal Taussig-Bingになります。それに合わせてConus septumも回り、心室中隔に当たらず、VSDを通って、僧帽弁の方に向かって、僧帽弁に入っていくような形態になります。これがoriginal Taussig-Bingです。
Original Taussig-Bingからもう少し回るとposterior TGAの形になります。大動脈はさらに右に、肺動脈はさらに左になります。すると、間にあるConus septumももう少し回り、ついに右の方を向くようになります。その結果、今度は心臓の右の方にある三尖弁にConus septumが入るようになります。これが非常に重要なポイントになります。Conus septumが邪魔になり、左心室の血液は大動脈の方には全く入らず、全部肺動脈に入るようになるのです。そのため、この形態はposterior TGAっていう名前がついているのです。original Taussig-Bingであれば、Conus septumは僧帽弁の方に向いているため、少しは左心室から大動脈に血液が流れ、手術なしでもかろうじて生存できTaussig-Bing Heartとして発見されたのではないかな、と思います。
では次はTGA型DORVにいきたいと思います。大動脈と肺動脈は回り回って、ついに大動脈が前に来て、肺動脈が後ろになります。大動脈は肺動脈の右前方から前後関係のあたりの位置になります。この状態がfalse Taussig-Bingという形です。そうなると間にあるConus septumは三尖弁のところから大動脈と肺動脈の間を通り心室中隔の前の方に入る事になります。ちょうど左心室から流れてきた血液をブロックするような形でConus septumが位置しますので、左心室の血液は肺動脈にしかいきません。この状態も先程のposterior TGAと同様、TGAの血行動態です。この2つ、posterior TGAとfalse Taussig-Bingは血行動態が非常に似ていますが、血管の位置関係が違うので、そこがポイントになります。
もう少し回ると、ついに前に来た大動脈が肺動脈の左に位置する{S.D.L}DORVになります。つまり大動脈は左前、肺動脈は右後という形態になります。この時Conus septumも回り回って、また僧帽弁の方にはいるようになります。Conus septumだけ見るとoriginal Taussig-Bingと一緒ですが、大動脈と肺動脈の位置関係が逆なため、一緒にしないようにしましょう。なので、まず大動脈と肺動脈の関係を見てから、その後Conus septumを見るようにしましょう。するとまず間違えないのでいいと思います。
では、最後に回り回ってさらに大動脈が左前、肺動脈が右後の形、ACMGA(anatomically corrected malposition of the great arteries)です。先程の{S.D.L}DORVからさらにConus septumも回りますので、今度は大動脈と肺動脈の間くらいに位置する心室中隔(比較的後ろの方)に入る事になります。この時には完全に左心室の血液はそのまま大動脈に入る形になっており、ほぼ普通の心臓とか普通のVSDとかと同じような血行動態になります。Conus septumが邪魔をして、左心室の血液は肺動脈にいかないようにブロックするような形になります。
これでついにConus septumもぐるっと一周回る旅が終わりました。このConus septumがどこに入るか、で診断が大きく変わります。例えば、origina Taussig-Bingとposterior TGAとかは大きな違いになりますし、Conus septumの挿入位置はDORVの診断の上では極めて重要です。そのため、図をもう一度みて、どこに入るかをしっかり認識するようにしましょう。では、最後にVSDの位置関係について話をしていきます。もうちょっとなので、頑張っていきましょう。
Levの分類:VSDの位置の考え方
ぐるぐる回る分類の考え方を完成させるまえにDORVでのVSDの位置について知っておかないといけない分類がありますので、まずその話をしていきますね。DORVで重要となるのがVSDの位置です。上の分類では大血管(大動脈と肺動脈)、Conus septum、VSDの位置関係によって分類がされています。分類を理解する上で最も重要なのが大血管の位置関係ですが、VSDの位置関係も非常に重要になりますので、ここではVSDの位置関係について考えていこうと思います。
DORVの二心室修復を考える時に重要なポイントになるのが、左室の流出路(左心室の出口のこと)です。二心室修復するためには右心室⇢肺動脈、左心室⇢大動脈という感じでつながっていないといけません。しかし、DORVは右心室から大動脈も肺動脈も出ているため、右心室の出口に関しては肺動脈も大動脈もくっついているためあまり考えなくてもいいですが、左心室の出口に関してはしっかり考える必要があります。例えば、{S.D.N}DORVやFallot typeのDORVの場合には左心室から一番近いところに大動脈があり、その大動脈の下にはVSDがあります。そのため、二心室修復を考えるときには、左心室からVSDを通って大動脈に行くルートを作ってあげれば左心室の出口(流出路)は確保されます。このように大動脈の下にVSDがある時をsubaortic VSD(大動脈弁下の心室中隔欠損)と言います。こういう場合には左心室の出口の確保にはそれほど困らないことが多いです。手術でVSDから大動脈にかけてパッチを当ててあげれば左心室⇢VSD⇢パッチ⇢大動脈と左室流出路を形成することができるのです。もちろんこの左心室の出口のどこかで狭窄がおこらないかなどの注意するべき点はありますが、考え方はとてもシンプルなので理解しやすいかと思います。
それに対して、困るのはposterior TGAやfalse Taussig-Bingのように左心室に肺動脈が一番近く、肺動脈の下にVSDが開いているような場合です。なぜなら、左心室は大動脈に血液を駆出しないといけないのですが、posterior TGAやfalse Taussig-Bingは肺動脈がすぐ近くにあり、大動脈は非常に遠いからです。このような位置関係、つまり肺動脈の下にVSDが開いているような場合をsubpulmonary VSD(肺動脈弁下の心室中隔欠損)と言います。このようなsubpulmonary VSDの症例で二心室修復をする時には治療をどのように考えてあげたらいいでしょうか。実はこの場合もそんなに複雑に考える必要はありません。途中までは上と同じです。左心室と肺動脈は非常に近い位置にありますので、まず左心室の出口、VSDから肺動脈にかけてパッチをつけてやれば左心室⇢VSD⇢パッチ⇢肺動脈と血液の道ができます。そして後は大血管転位(TGA)とかと同じように大動脈と肺動脈を入れ替える、大血管スイッチ手術(ASO)をしてあげればいいのです。と簡単に言いましたが、手術自体はかなり大変になります。subpulmonary VSDの症例の場合には大血管スイッチもしないといけないので、その事を意識していかないといけません。いずれにせよ、上記のようにsubaortic VSDやsubpulmonary VSDでは手術のステップが違うにせよ、左心室⇢大動脈への左室流出路を作ってあげることができます。まとめると
<subaortic VSD>
・大動脈弁の下にVSDがある。
・二心室修復の時はVSDから大動脈弁にかけてパッチをあてる。
<subpulmonary VSD>
・肺動脈弁の下にVSDがある。
・二心室修復の時は①VSDから肺動脈弁にかけてパッチをあてる。②肺動脈と大動脈を入れ替える(ASO:大血管スイッチ手術)
という感じになります。なので、どの血管の下にVSDが開いているかで治療方針が結構変わってきますので、どこにVSDが開いているかを把握することは結構大事になってきます。実はVSDがどこに開いているかでDORVを分類しているLevの分類というものがあります。よく教科書に載っているものです。こちらの分類のほうがVSDの位置関係だけ理解すればいいので理解しやすいですが、治療や詳細とより結びつくのはここで紹介している分類だと思います。(分類かどうかもよくわかりませんが)また、その他にもTaussig-Bingとか謎の言葉が出てくるとそこで思考停止してしまうと思うので、一見難しそうだけどそうでもない、この「大動脈と肺動脈がくるくる回る分類」を全面に出してこのブログでは紹介しています。一応Levの分類も教科書によく出てくるので下の図で紹介しておきますね。
図:Levの分類
全然紹介してませんが、doubly committed VSDとかremote VSDとか言うものもあります。doubly committed typeは大動脈と肺動脈、両方の弁の下にVSDが開いているもの、remote typeっていうのは逆に大動脈と肺動脈、どちらからも遠い位置にVSDが開いているものを言います。なので、DORVのremote typeとかって言われたら、VSDは大動脈からも肺動脈からも遠い位置にあるんだな、と思ってもらったらいいです。でもremoteって言われても大動脈と肺動脈の位置関係は把握できないので、診断名としては不十分な印象もしなくはないです。
診断名のところにDORV(subpulmonary VSD)とかって書いていることも多いかと思います。posterior TGAとかfalse Taussig-Bingとか書いてないけど、そういう風に書いている場合は「二心室修復するのに大血管スイッチ手術をしないといけないんだな」と認識してもらったらいいかな、と思います。でもDORVのsubpulmonary VSDって言われても大動脈と肺動脈の位置関係は把握できないので、診断名としては不十分な印象もしなくはないです。なので、全部を把握でき、治療方法も想像しやすい、ぐるぐる回る分類をしっかり覚えておいたほうがいいのではないかな、と思います。でも共通言語として、remoteやsubpulmonaryなどはDORVでは必ず出てきますので、必ず知っておかないと話がわからなくなるので、覚えることが多いとは思いますが、Levの分類もしっかり認識するようにしましょう。
VSDの位置について
では、VSDが大動脈弁の下か、肺動脈弁の下か、両方の下か、両方からも遠いか、という考え方を一旦理解してから、またぐるぐる回る分類に戻っていきましょう。大動脈と肺動脈がぐるぐる回る分類では「大動脈と肺動脈の位置」「Conus septumの入るところ」「VSDの位置」で大体分類できます。なので最後のVSDの位置について話をしていこうかと思います。
図:VSDの位置に注目して
まず{S.D.N}DORVです。Fallot typeのDORVでも同じですが、この場合にはVSDはConus septumが心室中隔に挿入した後方にVSDが開いています。丁度大動脈弁の下に当たりますので、{S.D.N}DORVではVSDの位置はsubaortic VSD(大動脈弁下)になります。
もう少し回るとoriginal Taussig-Bingになりますが、Conus septumが僧帽弁に挿入するため、VSDは大動脈弁下にも肺動脈弁下にも認められます。doubly committed VSDという形になります。VSDを通り越して僧帽弁にConus septumが挿入するためVSDをConus septumが大動脈側と肺動脈側の2つにわけたような形になります。
もう少し回るとposterior TGAになりますが、Conus septumは三尖弁側に入る事になるため、VSDは肺動脈弁の下に認められることになります。subpulmonary VSDという形になり、血行動態はTGAと同じ、左心室⇢肺動脈へ、右心室⇢大動脈へ、という血行動態になります。
もう少し回ると今度は大動脈が前に来てTGA型DORVになります。大動脈が右前、肺動脈が左後、または大動脈が前、肺動脈が後ろであるfalse Taussig-Bingの状態になります。Conus septumは三尖弁から心室中隔の前の方に入るため、VSDは肺動脈弁の下にできます。これもposterior TGAと同じでsubpulmonary VSDとなりTGAの血行動態になります。
もうちょっと回ると{S.D.L}DORVとなり、大動脈が左前、肺動脈が右後になり、Conus septumは再び僧帽弁に入る形になります。original Taussig-Bingと同様、VSDをConus septumでわけるような形になりますので、これもoriginal Taussig-Bingと同じ、doubly committed VSDになります。前にある大動脈弁の下にも肺動脈弁の下にもVSDがある形態になります。
そして最後にACMGAです。もうちょっと回って、Conus septumが再び後方の心室中隔に入るところまで回ると、VSDは大動脈弁下にできます。subaortic VSDとなり、血行動態的には{S.D.N}DORVや普通のVSDと同じようになり、回り回って普通になった、みたいな状態になります。
分類をまとめると・・・
DORVの大動脈と肺動脈がぐるぐる回る分類について話をしてきましたが、理解できましたか?最終的な図は下記のようになります。上の図ではちょっと立体的に書いている図も一緒に載せているので、上の図の方がおすすめではあります。
図:DORV分類
まず{S.D.N}DORVではPAが左前、Aoが右後という普通の位置関係です。Conus septumは心室中隔に挿入し、VSDは大動脈弁下(subaortic VSD)に認められます。血行動態としてはlarge VSDに近い状態であり、PSがあるとFallot四徴症と同じような状態になりPSがある場合にはFallot typeと呼ばれたりします。
次にoriginal Taussig-Bingですが、PAは左前、Aoが右後もしくはほぼside by sideに来たりもします。最も重要なのはConus septumが僧帽弁側のVIFに挿入し、VSDは両大血管の下、つまりdoubly committed typeとなるところです。どちらかと言うとLVの血液は肺動脈に行きやすいですが、大動脈にも流れていきます。ここらへんは治療に大きく関わってきます。
もう少し回ると、posterior TGAとなり、PAは左前、Aoは右後の位置のまま、Conus septumは三尖弁側のVIFに挿入します。すると完全にVSDは肺動脈弁下となり、subpulmonary VSDとなり、TGAの血行動態となってきます。
もう少し回るとついにAoが前、PAが後ろという位置関係になってきます。これをfalse Taussig-Bingといい、PAが左後ろ、Aoが右前の位置関係になります。Conus suptumは三尖弁のVIFから心室中隔前方に挿入し、VSDは肺動脈弁下にでき、posterior TGAと同様、subpulmonary VSDとなり、TGA血行動態となります。
さらに回るとAoが左前、PAが右後となり、Conus septumは僧帽弁側のVIFに挿入します。この状態を{S.D.L}DORVと言います。VSDはoriginal Taussig-Bing同様、doubly committed VSDとなり、どちらかと言うと、左心室から大動脈にいきやすい形になります。
最後にもうちょっと回ると、Aoが左前、PAが右後の状態のままConus septumは後方の心室中隔に挿入します。VSDは前にある大動脈弁下にでき、TGAの血管関係にも関わらず左心室から大動脈へと血液が流れる血行動態となるため、Anatomically corrected malposition of the great arteries(ACMGA)となります。
大動脈と肺動脈の関係、Conus septumの入る位置、VSDの開いている位置、これらをあわせて考えると分類がしっくり来ると思います。なかなか理解が難しいと思いますが、イメージとしては大動脈と肺動脈がぐるぐる回る、みたいなイメージです。長々と話をしてきましたが、これでなんとか理解してもらえたらありがたいです。
次回はこの分類とDORVの二心室修復に関して、どのように治療していくのか、というあたりを話していこうと思います。
本の紹介
ちなみにこの記事を書くのに参考にした本がいくつかありますので、下記にリンクを載せておきます。以前にも紹介しました、黒澤先生の「心臓血管外科の刺激伝導系」のDORVのところや、日本小児循環器学会が出した「小児・成育循環器学」の山岸先生のDORVのところなどを一番参考にしています。
またDORVの分野に限らず小児循環器の分野では藤原直先生の「小児心臓血管外科手術」は非常にわかりやすいので、小児循環器を目指す人はぜひとも読んでいただきたい!と思いますので、これも一応載せておきます。今までこの本紹介していなかったのですが、小児循環器全般としては個人的には一番おすすめです。