誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

DORV(両大血管右室起始症) その6 Posterior TGAやfalse Taussig-Bingについて(いわゆるsubpulmonary type DORV) その1  〜疾患41

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前回の最後に「次回はOriginal Taussig-Bingについて話をしていきます」と話しましたが、Posterior TGAやfalse Taussig-Bingを先に話したほうが理解しやすいのでは?と思いまして、今回はこの2つから話をしていこうかと思います。この2つは大動脈と肺動脈の分類ではちょっと違う位置にありますが、血行動態的にはほとんど一緒になります。なので、治療方法や血行動態に関してはかなりほぼほぼ一緒と考えてもらったらいいかな、と思います。

この2つの疾患、Posterior TGAとfalse Taussig-Bingは両方ともTGAの血行動態になります。この2つは両方ともに治療法として大血管スイッチ手術を選択することになります。なので、この2つを勉強する前にTGAについてしっかり理解しておく必要があります。TGAを理解していないと、ちょっと理解が難しいのではないか、と思いますので、まずTGAを復習してから、この2つ、posterior TGA、false Taussig-Bingについて勉強するのがおすすめです。

リンク:TGAについて

 

www.inishi124.com

ちなみにこの2つは両方ともsubpulmonary VSDの形態であり、広い意味でのTaussig-Bingにあたります。多くの病院では病名にposterior TGAとかfalse Taussig-Bingとは病名がつけられておらず、ただDORV(subpulmonary VSD type)としか書いてない場合も多いかと思います。細かく分けるほど、治療法や血行動態が違わないので、こういう病名を大体は採用しているのが実際のところです。誰でもわかる先天性心疾患の記事を読んでいて、「うちの病院ではDORV(subpulmonary VSD)っていう病名がよくついているのに出てこないな」と思っていた方は少し読んでいて困惑した方も多いとは思いますが、今回の記事ではそのsubpulmonary VSD typeのDORVについて話をしていきます。

 

Posterior TGAとfalse Taussig-Bingについて

ちょっと復習にはなりますが、両方の疾患は同じ血行動態にはなりますが、形は違っていますので、そこをしっかり認識するようにしましょう。

 

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図;Posterior TGAとfalse Taussig-Bingの形態

上の図のようにPosterior TGAは大動脈が後ろ、肺動脈が前になり、Conus septum(infundibular septum)は三尖弁側のVIFに挿入し、VSDは肺動脈弁の下に位置することになります。上記の特徴はどれも重要ではありますが、Posterior TGAで、最も重要な特徴は肺動脈弁の下にVSDがある(subpulmonary VSD)ということです。Subpulmonary VSDの場合、左心室の血液はVSDを通って肺動脈にそのまま送ることになり、血行動態的にはTGAの血行動態になるのです。TGAの血行動態なのに、TGAとは違い、大動脈が後ろ、肺動脈が前にあるため、このDORVはPosterior TGA(posteriorって言うのは後ろ、という意味であり、大動脈が後ろのTGAという意味でPosterior TGA)という名前がついいています。

同様にfalse Taussig-Bingでも同じようにsubpulmonary VSDの形態を取ります。形態としては大動脈と肺動脈がぐるぐる回って、やっと大動脈が右前に、肺動脈が左後ろになった状態がfalse Taussig-Bingの状態です。VSDは肺動脈の弁の下にあり、Conus septum(infundibular septum)は三尖弁のVIFから前方の心室中隔に挿入することになります。このfalse Taussig-Bingも上記のPosterior TGAと同様にsubpulmonary VSDなので、TGAの血行動態になります。Posterior TGAと一番違うところは大動脈と肺動脈の位置関係です。Posterior TGAでは大動脈が右後、肺動脈が左前ですが、false Taussig-Bingでは大動脈が右前、肺動脈が左後になります。これがfalse Taussig-Bingです。false Taussig-Bingの名前については「Taussig-Bing Heartについて」の記事で書いていますが、Original Taussig-Bingが発表された当時、正確な形態がわからなかったので、subpulmonary VSDのDORVをTaussig-Bingと間違えて報告したことに起因しています。Original Taussig-Bingとは形が全然違いますが、当時はCTも今のようなエコーもなかった時代なので、しょうがないとは思います。

ちょっとむずかしいことを書きましたが、以前の記事に詳しく書いているので、どうしても理解したい人は前の記事を読んでください。細かいところもわかってほしいのですが、簡単に両者の違いを言うと、

・posterior TGAでは大動脈が後、肺動脈が前

・false Taussig- Bingでは大動脈が前、肺動脈が後

です。なので、TGAの血行動態をしていてDORVの形態の場合、大動脈の位置に注目すれば大体は両者を見分けることができます。false Taussig-Bingであれば、TGAと同じように大動脈が体の前の方(胸側)にきていますし、posterior TGAであれば普通の心臓と同じように大動脈が体の後ろの方(背側)にきています。なので、それで簡単に見分けることができるかと思います。

この形態、つまりsubpulmonary VSD typeのDORV(Posterior TGA、false Taussig-Bingの形態のDORV)は結構います。前回話しをしたTOF typeやVSD typeの{S.D.N}DORVほどではありませんが、DORVの3割くらいがこのsubpulmonary VSD typeのDORVにあたります。なので結構見かけますので、これを期にしっかり理解しておくようにしましょう。

では次にsubpulmonary VSD typeのDORVの血行動態について話をしていこうと思います。

 

Subpulmonary VSD typeのDORVの血行動態について

今回話をする、Posterior TGAとfalse Taussig-Bingは両方とも代表的なsubpulmonary VSD typeのDORVになります。Original Taussig-Bingも半分くらいここに足を突っ込んでいるような疾患ですが、Original Taussig-Bingはまた今度、話をしますので、今回はこの2つ、Posterior TGAとfalse Taussig-Bingについて考えていこうと思います。

subpulmonary VSDDORVTGAと同様の血行動態

どちらもsubpulmonary VSDであることが最も重要な部分です。subpulmonary VSDのDORVでは、左心室の血液の出口がないので、VSDから駆出されることになります。VSDは肺動脈弁の下に開いていますので、左心室の血液はLV⇢VSD⇢肺動脈へと流れていくことになります。一方右心室からは大動脈と肺動脈両方が出ていますが、肺動脈に流れる血液は少なく、心室の血液の多くは大動脈に流れていくことになります。そのため、血液は右心室⇢大動脈、左心室⇢肺動脈と主に流れることになります。これは完全大血管転位症と同じ血行動態になります。そうなると、大動脈には右心室からの血液しか流れていかないため、チアノーゼになってしまいますので、心房間で肺静脈から返ってきた酸素濃度の高い血液を左心房⇢右心房⇢右心室へと流す必要があります。TGAと同様にsubpulmonary VSD typeのDORVでも心房間のmixingが必要になってきます。なので、卵円孔もしくは心房中隔欠損症があることが必須になってきます。もし心房中隔に卵円孔などが開いていなければ、もしくは卵円孔が狭ければBAS(心房中隔裂開術)を施行する必要があります。という事で、subpulmonary VSDのDORVはほぼほぼTGAと同じような血行動態になりますので、TGAと同じように考えてあげるとポイントがつかみやすいと思いますので、TGAをまずしっかり勉強してから、subpulmonary VSDのDORVを理解するように努めましょう。記事の上の方にTGAの記事のリンクを貼っていますので、そこから見てもらったらと思います。

 

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図:subpulmonary VSD typeのDORVの血行動態

半数以上に大動脈弓の異常(CoAIAA)を合併!

subpulmonary VSDのDORVには高率に大動脈弓(Arch)の異常を伴います。現在いる病院の以前の発表では75%に大動脈弓の異常を合併していると報告しており、他の論文なのでも6, 7割などの報告もあります。一般的には「subpulmonary VSD(広い意味でのTaussig-Bing:意味がわからない人はTaussig-Bing Heartについてという記事を読んでください)のDORVは半数がArchの異常を合併している」と認識しておけばいいかな、と思います。そのまま覚えてもらってもいいのですが、「血液が流れない臓器は育たない」の法則で考えてもらうとわざわざ暗記しなくてもいいかな、と思います。

胎児期からの血液の流れを考えてみると、左心室の血液はVSD⇢肺動脈に言ってしまい、右心室からの血液も大動脈と肺動脈に分かれて流れるため、大動脈に流れる血液が少ないと考えられます。以前にも話したように、血液が流れると血管や心臓は育ちますが、血液が流れないと血管や心臓は育ちません。HLHS(左心低形成症候群)の時にそのように説明しましたが、ココでも同じように考えてあげれば、暗記せずともsubpulmonary VSDのDORVに大動脈弓の異常が合併することがスッと理解できるのではないでしょうか。話を戻すと、subpulmonary VSDのDORVには大動脈に流れる血液が少ないので、大動脈弓の異常を伴う事が多いのです。具体的にはCoA(大動脈縮窄症)、IAA(大動脈弓離断)です。なので、手術をする時にはArchに異常がないか、必ずチェックする必要があります。かなり高率に異常を合併するので、subpulmonary VSDのDORVの時には大動脈弓は必ずチェックしておきましょう。

 

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図:Archの異常を半数に合併する

大動脈弓の異常を合併しているので、手術で治してあげればいいんでしょう?と思われるかもしれませんが、それだけではありません。Archの異常を合併している場合には生まれてすぐに動脈管を開いておくためにLipoPGE1などのプロスタグランジン製剤を投与してやる必要があります。DORVの勉強をしている人であれば説明する必要はないかもしれませんが、IAA(大動脈離断)では大動脈弓が離断しており、頭部の血流は大動脈から還流されていますが、下肢の血液は肺動脈⇢動脈管⇢下行大動脈を通して還流されています。なので、動脈管が閉じてしまうと下肢の血流が途絶えてしまい、腎不全、肝不全などのショック状態(ductal shockダクタルショックと言います、よく使う用語なので知っておくといいです)になってしまいます。CoAでも同じように下肢の血流が動脈管に依存していたり、動脈管組織が大動脈弓に混じっていて(迷入)、動脈管が閉じると、一緒に大動脈に混じっている動脈管組織が収縮してCoAがひどくなる可能性があります。なので、CoAでもIAAでも、下肢の血流が動脈管に依存しているため、subpulmonary VSDのDORVではすぐにArchをチェックしてプロスタグランジン製剤を流すようにしましょう。

冠動脈の異常が非常に多い

もう一つ、subpulmonary VSDのDORVの特徴ですが、冠動脈(Coronary)の走行が異常な場合がとても多いです。いわゆるShaher 1以外のCoronaryの形態をしているものが半数あります。血行動態というよりは形態の異常で特徴的なものです。single coronary(Shaher 3型とか)だったり、singleじゃなくても、実はShaher 5のようにsingle+conus branchがもう一つのsinusから出ているような形態もよく認められます。また、Shaher 9(Leidenで言うと{1R, 2LCx})のように通常のShaher 1の逆バージョンのような冠動脈の走行をしている場合がよくあります。他には冠動脈の壁内走行(intramural )(TGAの冠動脈の分類の記事に記載)もDORVに認められたりしますので、そういう冠動脈の走行異常にも注意が必要です。とにかく、半数は走行異常を認めているので、安易にshaher 1と診断すると痛い目に合うことが多いかな、と思います。個人的にはエコーでは限界があるので、大血管スイッチ手術の前には、造影やCTなどの他の画像検査でしっかり特定しておいたほうがいいかな、と思います。それだけCoronaryの異常が多いので、頭に入れておきましょう!

 

まとめると、ポイントは

・血行動態はTGAと一緒

・大動脈弓(CoAやIAA)の異常を半数に伴う

・Coronaryの走行異常を半数に伴う

上記の3つになります。subpulmonary VSDのDORVの血行動態はほぼほぼTGAと同じです。左心室の血液はVSDを通り、肺動脈に行き、右心室の血液は肺動脈と大動脈、両方に行きます。なので、大動脈に流れる血液は右心室からくる静脈血です。このままだとチアノーゼになってしまうので、心房間のmixingが必要になります。心房間が開いてなければBASをして開ける必要があります。心内修復術には大血管スイッチ手術(Jatene手術)を施行します。またsubpulmonary VSDのDORVにはCoAIAAなどのArchの異常を半数に伴います。動脈管が閉じてしまうとDuctal shockになってしまうので、生まれたらすぐにプロスタグランジン製剤を流してあげるようにしましょう。またTGAと比べてsubpulmonary VSDのDORVでは冠動脈の走行異常が多いです。半数にCoronaryの異常を伴っています。singleだったり(Shaher 3)、singleもどきだったり(Shaher 5)、Shaher 1の逆バージョンだったり(Shaher 9)とココらへんが多いと思いますので注意しておきましょう。

 

Posterior TGAとfalse Taussig-Bingの経過について

subpulmonary VSDのDORVの血行動態、および特徴はつかめたでしょうか?大体血行動態がわかると、次に気になるのは今後の経過だと思います。考えれば想像できると思いますが、血行動態はTGAとほぼ同じなので、経過もかなり似たような経過になっていきます。実は経過もPosterior TGAとfalse Taussig-Bingの両者は大体一緒になります。両者ともにsubpulmonary VSDであり、subpulmonary VSDは両方とも最終的には大血管スイッチ手術を施行することになります。病院によっても治療方針は多少変わるかもしれませんが、よくある経過を書きますと下の図のようになります。

 

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図:subpulmonary VSDのDORVの経過

まず出生後に診断をつけます。Posterior TGAやfalse Taussig-Bingなどのsubpulmonary VSD typeのDORVは血行動態がほぼほぼTGAと一緒なので、先程話したように心房間のmixingが十分かどうかで、BASが必要かどうかが決まります。その後はTGAと同じように、大血管スイッチ術(Jatene手術)をする方向になっていきます。大動脈弓の異常を伴わない症例に関してはTGAと同じように日齢5-10くらいで大血管スイッチ手術をしたらOKかと思います。しかし、subpulmonary VSDのDORVではCoAやIAAのような大動脈弓の異常が半数に合併していますので、通常のTGAと比べると手術は複雑になってきます。そのような症例に関しては現在いる病院では通常二期的に手術を行っています。手術を終えてからは基本的にはTGAと同じように肺動脈の狭窄、冠動脈の合併症、大動脈弁の逆流、あと大動脈弓の手術もしている場合には大動脈縮窄などがなければ再手術せずにいけると思います。簡単に言うとこんな感じの経過が一番一般的な経過ではないでしょうか?

 

しかし、この疾患、subpulmonary VSDのDORVでは肺動脈の狭窄を合併していたり、大動脈が細かったりといろいろなバリエーションがあります。なので、そういうのも加味すると手術の方法が変わったりしていきますので、上記のようにならない場合もあります。そこらへんも話すと、だいぶ長くなってしまうので、次回はそこらへんも含めて話をしていきます。