誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

高肺血流high flow(ハイフロー)と酸素投与について  どういう子には酸素を使ってよくて、どういう子は駄目か? その2 ~基本50~

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前回はSpO2:100%の時のhigh flowについて話をしていきましたが、どうでしょうか?ブログの初期に話している事とかぶりますが、復習と考えてもらえたら、と思います。今回は前回の続きで、SpO2:100%でない時のhigh flowについて話をしていきたいと思います。

TA(三尖弁閉鎖)を例にSpO2:100%でないhigh flowについて

次はSpO2が100%でない疾患について、「どう考えたらいいか」という話をしていきます。全部の疾患について話すのは無理です。なぜなら、みんな形が違う上にやった手術もみんな違います。なので、どう考えたらいいか、を話していきます。

重要な事は「どういう形をしているか?」「どういう手術をしているか?」この2点です。

これさえ押さえれば、後はこれから話す考え方を理解できれば大丈夫です!そんな難しくないので、気楽にやりましょう。ではまず、三尖弁閉鎖症のBTシャント術後を例に考えていきましょう!

 

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図;TA s/p BTshunt

上の図はTA(三尖弁閉鎖)のBTシャント術後の図です。まず、high flowではない状態を考えます。high flowではない肺血流=体血流のとき、つまり、Qp/Qs=1の時です。(Qp/Qsは肺体血流比です。)三尖弁が閉鎖しているので、IVC、SVCから還ってきた静脈血10はASDを通って、左房に行きます。左房には肺静脈から還ってきた動脈血10があります。これに、IVC、SVCから還ってきた静脈血10が混じり、左房の血液量は20になります。左房から左室に20の血液が行き、そこから少量肺動脈に、大動脈に残りの血液が行きます。3の血液だけでは肺血流は十分ではないので、BTシャントを作りそこから肺に7の血液を送り、肺にトータル10の血液が流れる事になります。一方、全身には肺動脈に行った血液とBTシャントに行った血液の残り、つまり20-3-7=10の血液が流れます。つまり、この循環だと肺に10、全身に10の血液が流れます。これが肺と全身に同量の血液が流れる状態、Qp/Qs=1の時の血液の流れ方になります。

 

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図:TAのBTshunt後のSpO2について

では、Qp/Qs=1の時のSpO2を考えていきましょう!ここが重要になります。三尖弁が閉鎖しているので、IVC、SVCから還ってきた静脈血(酸素濃度60%とします)ASDを通って、左房に行きます。左房には肺静脈から還ってきた酸素濃度100%の血液があります。これに、IVC、SVCから還ってきた酸素濃度60%の静脈血が混じり、左房の血液の酸素濃度は80%になります。(静脈血10と肺静脈血10なので、酸素濃度は100%と60%のちょうど半分の80%になります。大丈夫ですよね?) つまり何が言いたいかと言うと、肺に流れる血液と体に流れる血液がちょうど同じ場合Qp/Qs=1の場合には全身に流れる血液の酸素濃度は80%になります。単心室の場合はこんな感じの血行動態になるため、ちょっと形は違っていても、大体同じように考えることができます。では、high flowの場合、SpO2はどうなるでしょうか?

 

high flowの場合どうなるか?

では、肺血流が増加した場合、つまりhigh flowの場合を考えていきましょう!肺血流=肺動脈に行った血液=肺静脈で還ってくる血液になりますので、肺静脈の血流=肺血流ということになります。ではこの肺静脈から還ってくる血液(=肺血流)は30とし、全身から還ってくる60%の静脈血(=体血流)が10あるとすると、左心房で混ざり40の血液になります。その酸素濃度を計算すると、図の式のような計算(100%×30+60%×10)/40=90%と計算でき、酸素濃度は90%になります。つまり、紫の血液は90%の酸素濃度の血液が流れることになるわけです。

 

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図:TAでhigh flowの場合

肺血流が多い状態、というのは左心房に還ってくる酸素濃度100%の血液が多い状態であり、全体のSpO2もそれに従い上昇します。この例で言うと、肺血流は30、全身の血流は10なので、Qp/Qs=30/10=3になります。つまり肺に全身の3倍の血液が流れるhigh flowの場合、SpO2は90%になるのです。つまりhigh flowになるとSpO2は上昇します!

すごく簡単に話すと、

肺血流=体血流の場合、全身に流れる血液のSpO2は80%

high flowの状態(Qp/Qs=3の時)、全身に流れる血液のSpO2は90%

つまりSpO2が80%のときは肺と体の血流のバランスが取れている状態です。こういう状態のときにはSpO2は80%くらいになるのです。逆にhigh flowの状態の時、例のように肺に30、全身に10の血液が流れる場合(Qp/Qs=3)、全身に流れる血液の酸素濃度は90%くらいとなります。一見、SpO2が80%と90%だと、なんとなく90%のほうが良さそうな印象があるかもしれませんが、例のTAのような血行動態だと80%でちょうどよく、90%だとhigh flowでしんどい状態なのです。

 

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図:単心室や2心室でSpO2が100%にならない場合の考え方

上の図のような考え方、つまり先程の三尖弁閉鎖の例の考え方がわかれば、後は全部一緒です。つまり、同じところから、肺動脈も大動脈も両方出ている場合、先程と同じように考えればOKです

・SpO2を測定して、80%前後だったら肺血流は良いぐらい⇢それより低ければ酸素を使ってもOK

・SpO2:85〜90%以上であれば、high flow!⇢酸素を使うとしんどくなる可能性が高い!

もちろんhigh flowの診断をする時には「Xpで心拡大ないか?肺野白くないか?」「呼吸数多くないか?」などの所見を見る必要がありますが、SpO2を見ると、大体のところがわかります。つまりSpO2が80%前後であれば、肺血流としてはちょうどいいのです。咳や感染があって悪そうでない限り、酸素投与はいりません。むしろ、90%もあるのに酸素を使うと、余計high flowがすすみ、しんどくなる可能性があります。「でも心臓の形や手術の方式が違っていれば、また違う基準になるのでは?」と心配するあなた、大丈夫です。全部同じです。全部TAの例と同じように考えれば万事問題ありません。それをいろんな例をあげて説明していきますね。

 

HLHS(左心低形成症候群)の場合

まずみんなの大好きなHLHS(左心低形成症候群)を例に出します。生まれたてはこんな感じの血行動態になりますね。HLHSでは左心系がしょぼしょぼなので、LVが小さく、上行大動脈も非常に細いです。全身の血液は肺動脈⇢動脈管を介して賄っているため、PDAを開けておくプロスタグランジン製剤が必須となってきます。図の血行動態を見てみると、

全身への血液心室⇢肺動脈⇢動脈管⇢大動脈という風に流れていきます。肺動脈への血液心室⇢肺動脈から流れます。つまり大動脈も肺動脈も右心室から血液が流れます

心室での酸素濃度は肺静脈から(=肺血流)の100%の血液IVC、SVCから(=体血流)の60%の血液この2つの血流量の比によって決まります。これ、さっきの三尖弁閉鎖と全く一緒ですよね?つまりSpO2を見れば、肺血流が多いのか?、少ないのか?、high flowなのか?、high flowではないのか?の違いがわかります。HLHSも三尖弁閉鎖と全く同じ考え方で肺血流を理解してもらえればOKなのです。では二心室の疾患、総動脈幹症(Truncus)などはどうでしょう?

 

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図:HLHSの場合

 

Truncus(総動脈幹症)の場合

総動脈幹症は大動脈と肺動脈が合体したような疾患です。なので、下の図のように全身の血液はIVC+SVC⇢右心房⇢右心室に来た静脈血と肺静脈⇢左心房⇢左心室に来た動脈血が混じり合い大動脈から全身に駆出されます。肺動脈も同じであり、肺動脈の血液はIVC+SVC⇢右心房⇢右心室に来た静脈血と肺静脈⇢左心房⇢左心室に来た動脈血が混じり合い大動脈から肺動脈に駆出されます。つまり肺動脈も大動脈も同じところから出ているので、さっきの症例同様、紫の血液が流れます。肺血流=肺静脈の血液(赤の矢印)なので、この割合によって、紫の血液のSpO2は変わります。肺血流=体血流ならば、SpO2は80%、肺血流が多ければ、それだけSpO2は上昇します。これもHLHSやTAと全く同じ考え方でOKなのです。実はどれも同じです。形にバリエーションはありますが、非常に単純に考えてOKなのです。

 

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図;Truncus

 

肺動脈閉鎖の場合

これも一緒なんですが、肺動脈閉鎖です。肺動脈がないので、肺血流は動脈管を介してまかなわれる疾患です。生存のためにはPDAにステントを入れるか、BTシャントをするか、等の介入が必要です。血液の流れですが、基本的には同じです。静脈血はIVC+SVC⇢右心房まで流れ、肺動脈が閉鎖しているため右室に行かず、ASDやPFOを通って左心房に行きます。動脈血は肺静脈⇢左心房とくるので、左心房で静脈血と動脈血が混じって紫の血液になり左心室に駆出され、そこから大動脈に流れ、大動脈から全身とPDAを通って肺動脈に流れていきます。ということで血液の流れは多少違えど、考え方は全く同じなので、紫の血液の酸素濃度は肺血流の量で決まります。肺血流が体血流と同じなら80%くらい、肺血流が多ければ85-90%となります。もう大丈夫ですかね?

 

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図:肺動脈閉鎖

ちなみにグレン手術やICR(心内修復術)までの姑息術、具体的に言うとBT shut術、RV PA conduit術、PDA stent術両側PA bandingなどの手術後も基本的に一緒です。BTシャントは鎖骨下動脈から肺動脈につなぎますので、大動脈と同じところから肺動脈に血液がいきます。RV-PA conduitなども下の図のようにRVから大動脈とRV-PA conduitが出るので、同じ所から大動脈、肺動脈が出ることになります。つまり手術をした後もグレン手術まではみんな考え方は一緒です。もちろん心内修復術(2心室修復術)をすればQp/Qs=1になりますので、もはやhigh flowの事は考えなくてもいいです。ということで基本的には

・SpO2が80%くらいなら、肺血流はちょうどいい。

・SpO2が90%くらいだったら、high flow。

このように考えてもらえればOKだと思います。心臓の形にはめちゃくちゃバリエーションがありますが、単心室は基本的にこのように考えてください。では、グレン手術以降はどうなのか?というところを考えていきましょう。

 

Glenn手術以降はどうなるか?GlennやFontanを考える。

ではここからはGlenn手術からは血液の流れがどうなるのかを考えていきます。心室の疾患は、生後3-12ヶ月くらいでグレン手術(bidirectional Glenn anastomosis:BDG)をします。具体的にはSVCを切り離して、肺動脈につなげる手術です。その時にシャントは基本的に取り去ります。下の図のような血行動態になるわけです。

 

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図:BDG

すると肺血流はどうなるでしょうか?結論から言うと、Glenn手術後は、どういう風に転んでも、high flowにはなりません。たいていQp/Qs=0.7-0.8くらいになることが多いです。

 肺血流:SVC⇢肺動脈

 体血流:肺静脈(=肺血流)+IVC⇢右室⇢大動脈

という感じに血液は流れます。SpO2は肺血流(=SVC)とIVCの血流のバランスで決まりますが、80-90%前後になることが多いです。SVCとIVCの血流を比べると頭のほうが血流が多いのですが、それでも全身に流れる血液はIVC+肺血流になるので、必ず全身に流れる血流のほうが多くなります。なので、グレン手術以降は基本的にhigh flowにはならないので、安心して酸素を投与してOKです。ではGlennの後はFontanになりますが、Fontanまで行くとどうでしょう?Fontan手術まで行くと、簡単です。下の図はHLHS s/p TCPCの模式図です。

 

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図:TCPC

IVCとSVCは肺動脈につながり、肺静脈の血液はそのまま全身に流れます。なので、基本的にSpO2は100%になり、(実際には90-97%くらいが多いです。)Qp/Qs=1になります。肺血流=体血流になるので、酸素を投与してもこの割合は変わりません。high flowになることもないので、high flowは考えなくていいです。つまりFontan術後はSpO2が低ければ、迷わず酸素投与OKです。どうでしょう、簡単ですよね?こういう訳で、迷うのはグレン手術までの患児です。Glenn手術後やFontan術後の患児ではいくら酸素を使ってもhigh flowになって困ったりすることはありません。なので、病歴を見て、BDG後とかTCPC後とか書いてあれば酸素投与を迷わなくていいのです。迷うのはGlenn手術までの状態の患児たちです。グレン手術以降は酸素バンバン使用していただいてOKですので、迷う必要はありません!

 

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図:単心室などのhigh flowの考え方

 

まとめ

今回は「high flow」と「酸素投与」について説明していきました。理解できたでしょうか?

SpO2:100%のhigh flowにはVSDやAVSD、PDAなどあります。high flowだと、Xpで心拡大肺野の血管影増強多呼吸体重増加不良etc…などが認められます。

この時は酸素投与はやめましょう

SpO2:100%でないhigh flowについては例で示したように、「大動脈と肺動脈が同じところから出ている疾患」を考えましょう。その場合は、SpO2:80%前後であれば肺血流はちょうど良い。そのため、酸素を使っても大丈夫です。SpO2が85~90%以上であればhigh flowなので、酸素を使わないようにしましょう

心内修復術後(2心室修復)、BDG(グレン)術後、Fontan術後は何も考えずに酸素を使ってOKです。high flowになることはありません。またSpO2が80%未満の場合はどんな疾患でもhigh flowでしんどいことはないので、どんな疾患でも酸素投与はOKです。

まとめとしては、こんな感じになります。できれば、病名を見て、どんな血液の流れになっているか、一瞬考えてもらい、上記の考え方で「high flowなのか、違うのか」を判断し、酸素投与を考えてもらったらいいかな、と思います。

ということで循環器疾患での酸素投与とhigh flowについて話をしていきました。話している事は以前作ったhigh flowの記事と一緒なので、そちらも一緒に見てもらったらいいかな、と思います。ということで、次回からは久しぶりに不整脈以外の全然別の疾患をしていこうと思います。