誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

DORV(両大血管右室起始症) その4 {S.D.N}DORV VSD type、左室流出路狭窄(LVOTO)について  〜疾患39

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DORVのこの前の分類は理解できましたか?あの記事(2021/4/15のDORVの分類 疾患37の記事)を書いて疲れてしまい、しばらくサボっていました。申し訳ありません。しかし、壮大なDORVについてはまだまだはじまったばかりなので、ここで休んでいるわけにはいきません。今回は{S.D.N}DORVについて話をしていこうと思います。

なお、DORVまで来ると、説明に関してはだいぶ端折ったものになります。今回の記事を理解するには、VSDの血行動態high flowについてTOF(Fallot四徴症)についてなどをしっかり理解していないと難しいかもしれませんので、そこに不安がある人は復習してから見てください

{S.D.N}DORVは肺動脈が左前、大動脈が右後、の位置関係にあります。Conus septum(円錐中隔)は心室中隔に挿入し、VSDは大動脈弁の下に位置することになります。これがサクッとわからなければ2つ前の記事に気合を入れて書いていますので、そこを読んで理解するようにしてください。

まず血管の位置関係ですが、肺動脈が左前にあり、大動脈が右後にあるのはDORVの中でも通常の血管関係に最も近いものになります。またVSDも大動脈弁の下に位置するので、これもよくある「VSD」や「TOF」などに近い血管とVSDの位置関係になります。そのため、この{S.D.N}DORVはDORVの中でも最も正常心と近い形をしており、肺動脈の狭窄の有無で「VSD」に近い血行動態を示したり、「TOF」に近い血行動態を示したりします。

 

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図:{S.D.N}DORVについて

 

 

{S.D.N}DORVの2つのタイプについて

{S.D.N}DORVは大きなVSDと同じような血行動態のものと、TOFのような血行動態のものと2種類います。肺動脈の狭窄がなければ、大きなVSDと同じような血行動態になりますが、肺動脈に狭窄がある場合はTOF(Fallot四徴症)のような血行動態になります。血行動態に関しては、そこまで詳しく記載しませんが、VSD(心室中隔欠損症)やTOF(Fallot四徴症)のところを参考にしてもらえるとありがたいです。

教科書などには大きなVSDと同じような血行動態になるものを「VSD型(VSD type)」、Fallot四徴症と同じような血行動態になるものを「Fallot型(普段はFallot type(ファロータイプ)と言ってます。)」と記載してあったりもします。個人的な経験ではあまりVSD typeとかいうのはあまり聞かないので(手術所見とかでは書いてあります)、大体「DORVのsubaortic VSDでPSがない」みたいな言われ方をしているような気がします。少ない施設での経験なので、VSD typeっていうのは広く使われている用語なのかもしれませんが、個人的にはあまり馴染みがありません。

対して、Fallot typeっていうのはよく聞きますし、数も結構います。一部の文献ではDORV全体でFallot typeは36%くらい占めるというものもあります。{S.D.N}DORVでPSがある場合にほぼTOFと同じような治療方針となりますので、こういうDORVはおそらく全国割と共通でFallot typeと言っているような気がします。

 

{S.D.N}DORVでPSがない「VSD」型について

ではまず、{S.D.N}DORVで肺動脈狭窄がなく「大きなVSD」型(VSD type)の方から経過を見ていきましょう。久しぶりに経過表を書いてみようと思います。

 

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図:{S.D.N}DORV(PSなし) VSD typeの経過

上記に書いたように、{S.D.N}DORVで肺動脈狭窄がない場合は大きなVSDがあるのと同じような経過になります。いろんなものを見ると一期的(一気に治すこと)に治したり二期的(一回姑息手術をはさんで、二回目で本格的に治す、二回にわけて治療する方法)に治したりする方法があると書かれています。個人的には、DORVの場合は二期的に治す方がほとんどなのではないかな?と思っていました。調べてみると、思っていたより一期的に治しているケースも多く、現在の病院ではここ15年くらいで2〜3:1の割合で二期的に治している方が多い様子だったので、一期的に治しているケースも思っていた以上にありました。一期的に治しているケースも結構あるんですね。でもここ5年くらいを見ると、ほぼ二期的に治しているようです。なので、今回は二期的に治すことを前提に話をしていきます。

VSD typeの{S.D.N}DORVは、生まれてから生後1ヶ月くらいで肺血流が多くなりhigh flowに苦しむことになります。ここで一気に心室中隔を閉じて、一期的に全部治してしまう(心内修復術)のでもいいのでは、と思うかもしれませんが、ここが普通の大きなVSDと違います。DORVでは大動脈が右心室から出ているので、ただ単純にVSDを閉じるだけではいけません。パッチをVSDから大動脈弁を含むように当ててあげる必要があるのです。なのでDORVの場合にはこれを左室流出路形成と言ったりします。単純なVSDの閉鎖とわけて考えてくださいね。もし生後1ヶ月くらいで一気に治すため左室流出路を形成するとしますと、左室流出路を形成するには体格が小さく、左室流出路の狭窄をきたす可能性があります。なので、一般的にはDORVではこの時期に一気に心内修復術を施行したりしません。たいていの場合は肺動脈絞扼術を先行させます。まず肺動脈絞扼術をして肺血流を制限し、high flowにならないようにします。すると体重も増えます。年齢が生後6ヶ月〜1歳、体重7〜10kgくらいの余裕が出てきてから心内修復術(左室流出路形成術:VSDから大動脈弁へのルートを作る手術)を施行するのが一般的かと思います。(この心内修復術のタイミングは施設で差があるかもしれません。)

 

DORVでは左室流出路狭窄に注意!

この手術の注意点としては、左室流出路狭窄(LVOTOとかLVOTS : Left Ventricular Outflow Tract Obstruction(or Stenosis) )です。VSDが狭くなったり、パッチが相対的に狭くなったり、流出路にいろいろな組織が出てきたり(内膜や線維性組織の増生)して、左心室から大動脈の流出路が狭くなってしまいます。DORV全般的に言えることですが、左室流出路狭窄には注意が必要です。コレさえなければ、術後は普通の人と同じようにすごせます。文献によっては術後のLVOTOは4.4%〜17%くらいと幅がありますが、大雑把に「LVOTOは1割くらいにあり得る」と思っておけばいいのではないでしょうか。左室流出路狭窄をきたした場合には、VSDを拡大したり、肥厚した筋肉や線維性組織を切除したり、パッチをつけ直したり…と再手術が必要になります。とにかくDORVでは左室流出路狭窄(LVOTO)を来さないかどうか、に非常に注意をはらっておく必要がありますので、頭にいれておきましょう。

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図;LVOTO

ということで、この{S.D.N}DORVのVSD typeでは左室流出路に狭窄を来さなければ、その後手術介入などは必要なく、普通の人として運動もなんでもできる状態になります。なので、ちょっと肺動脈絞扼術という姑息術を挟むことにはなりますが、まさに「大きなVSD」とほぼ同じような経過をたどることになるのです。

まとめると、

・{S.D.N}DORV VSD typeは肺動脈狭窄がないhigh flowになるタイプ

・生後1ヶ月前後で肺動脈絞扼術を施行。

・6ヶ月から1歳くらいで心内修復術を施行。

・左室流出路狭窄(LVOTO)に注意が必要。

・問題なければ術後はほぼ普通の人と一緒。

という感じになります。ポイントは左室流出路狭窄の有無ですね。治療法は今回は肺動脈絞扼術をはさんで、二期的に心内修復術をする方法を紹介しましたが、結局の所、{S.D.N}DORVのVSD typeは左室流出路の狭窄がなければ正直、一期的でも二期的でもなんでもいいのですDORVでは常に流出路狭窄に注意を向けて治療方針を考えていかないといけません。もちろん先天性心疾患はすべてそうなのですが、特にDORVは流出路狭窄が起きやすいので(左室流出路も右室流出路も…)、十分に流出路が確保されているかどうかが治療方針をわけるので、DORVでは特に流出路狭窄にはより注意を向けるようにしていきましょう。ということで、次は{S.D.N}DORVのFallot typeについて考えていきましょう。