誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

ファロー四徴症( TOF: tetralogy of Fallot ) 臨床経過4 肺動脈弁置換術について ~ 疾患10

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前回の心内修復術は理解できたでしょうか。

心内修復術が終わるとしばらくは手術と無縁の生活になります。

TAP法で修復した人も、弁輪温存で修復した人もしばらくは変わりません。

しかし、TAP法で修復した場合は肺動脈弁の逆流が必ずあります。

肺動脈弁逆流は良くても軽度から中等度の逆流があります。弁の逆流をなくすことは本当に難しいのです。

 

肺動脈弁の逆流がある状態で長いこと過ごしていると、次第に右心室への負担が蓄積してきます。10年、20年と逆流がある状態で過ごすとどうなるでしょうか?今回は図のこのあたり、肺動脈弁置換術の話をしていきます。この時期になると、大人になっているTOFの人たちも多く、こども病院や小児科にTOFの大人が入院してくる、という事になります。

 

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TOF臨床経過PVR

図:臨床経過

 

肺動脈弁の逆流があると言う事は、右心室から肺に駆出した血液が、一部右心室に戻ってくる、という事です。逆流の分だけ、右心室には次の心拍で送り出さないといけない血液が増えます。このため、右心室の負担が増え、右心室は次第に大きくなってきます。大きくなるとますます負担は増え、耐えきれなくなると右心不全を起こします。

  →肺動脈弁逆流により、右心室に負担がかかり、右心室が大きくなる。

心室が大きくなってくると、心室の入り口についている三尖弁も引き伸ばされ、大きくなり、三尖弁逆流(TR)を呈するようになります。すると今度は三尖弁逆流のせいで右房も大きくなってしまいます

  →右心室が大きくなり、三尖弁逆流が生じ、右房も大きくなる。

右房も大きくなってくると、不整脈が出やすくなります

 

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PVR(肺動脈弁置換術)

図:大人になったTOF

 

まとめると

肺動脈弁逆流の影響で、右心室が大きくなり、その影響で右心不全・三尖弁逆流・右房の拡大・不整脈も生じるようになってくる、という事です。肺動脈弁の逆流を長年放置していると、こういう事で困ってくるんですね。また心不全はあまりにも右心室がおおきくなってしまうと、手術をしても右心室の機能が戻らなくなってしまうことがわかっています。そのため、こういう困ったことが起こる前に、肺動脈弁の逆流を治すため、肺動脈弁置換術を施行してあげないといけません。

ポイントは「いつ再手術(肺動脈弁置換術)を施行するか」という事です。

 

いつ再手術をするか?

再手術をするときにはある程度体格が大きくなっています。早くても再手術は10歳くらいになることが多いので、この時には肺動脈弁置換術(生体弁の人工弁に肺動脈弁を入れ替える手術)をしてあげます。では手術の時期はどうやって考えればいいでしょうか?

 

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PVRのタイミング

図:いつ再手術するか?

 

・あまり肺動脈弁逆流があるままで放置していたら、右心不全になり、不整脈もでてきます。その前に再手術をしたいですね。

・しかし、人工弁は寿命があります。持って10-20年くらいなので、10-20年後にはまた人工弁を取り替える再手術をしないといけない。

・生きている限り再手術をしないといけないため、なるべく生涯で受ける再手術はなるべく少なくしたい。なるべく再手術は遅らせたい

 

この3つのポイントを考えないといけません。簡単に言うと、

「右心不全にならない範囲で、なるべく再手術は先延ばしにしたい」

というのが、心情なのです。

この再手術の適切なタイミングは過去の先生方の苦労により、割り出されました。それは右心室の大きさで決まっています!

心室の大きさがある一定の大きさになった時点で肺動脈弁置換術をすれば、右心不全にならずに再手術できる、という事がわかったのです。

その値は

  RVEDV index(心室の大きさを体表面積で割った値)=150

です。右室の拡張末期容積(簡単に言うと、右心室が一番大きくなるところの容積)を体表面積で割った値が150を超えた時点で再手術をすべきである、という事です。(カテーテル検査やMRIの結果で決めます) このタイミングを大きく超えてくると、右心機能が術後に戻ってこなくなる事があるので、このタイミングは重要なのです。

そのため、外来で長々と診ている先生方は「いつが再手術のタイミングなのか」を考えており、適切なタイミングで手術をするように計画しているのです。そろそろかな、と思ったらカテーテル検査やMRIの検査を行い、右心室の大きさがどれくらいかを測定し、再手術などを提案しているのです。

 

TOFは10年、20年たってもいろいろと診ていかないといけないところがたくさんあるのです。

・右心室の大きさ、動き

・肺動脈弁の逆流の程度

・肺動脈弁の狭窄の程度(今回は触れてませんが、これのせいで再手術になることも多いです)

・三尖弁の逆流(TR)の程度

不整脈の有無

・大動脈弁の逆流の有無(これも今回触れてませんが、円錐中隔の前方偏位のため、肺動脈は小さく、大動脈は大きいので、ARも出やすいです。)

このように箇条書きにしてみましたが、心内修復術が終わってから、大人になってもTOFは診ていかないといけないところがたくさんあります。大人になっても入院してきて、手術したりするので、再手術のポイントについても知っている方がいいかな、と思います。

 

まとめ

  肺動脈弁逆流のため、右心室が大きくなる

   →右心不全、TR、右房拡大、不整脈が起こる。

  これが起こる前に肺動脈弁置換術を行う!

   →タイミングはRVEDV index(RVEDVI)が150の時。

 

という事でした。では次回は肺動脈弁置換術を10-20年毎にしないといけなかった患者さんには朗報とも言えるカテーテル治療について少し話をします。まだ日本でできないので、知らなくてもいい話かもしれませんが。