造影の検査について前回は話をしました。圧の説明や造影について話をしましたが、あまりそれだけではピンと来ない事が多いのではないでしょうか?実際のところは疾患毎にポイントがあって、どこを押さえないといけないかが、違います。ある疾患では非常に重要なポイントでも、他の疾患ではさほど重要視されない箇所などがあり、同じカテーテル検査と言えども見るべき箇所は疾患によって違ってくるのです。という事で、今回はこのカテーテル検査の所見と疾患を絡めて説明していこうと思います。ただし、今回は疾患の説明はほとんどしませんので、わからなければ、疾患について勉強してからもう一度この箇所を見ていただくとよりわかるようになるのではないか、と思います。
ちょっと長くなるので、2つに分けて話していきます。まず今回はASD、VSD、TOG、TGA術後、TAPVC術後について話していきます。それぞれの疾患がわかっていれば楽勝の内容です。では行ってみましょう!
ASDに関してはほとんどカテーテル検査をする必要ないです。ASDのカテはほとんどカテ治療になります。ASDのカテ治療は非常に多く、以前にもASDの記事で少し書いているかと思います。あえてカテのポイントを言うとしたら、
・PHの有無
・Qp/Qs
・PAPVCの有無
上記くらいかな?と思います。PHがあれば、VSDと同じで手術をすると逆効果になる可能性がありますので、心エコーで見てかなりPHがありそうな人はASDを閉鎖する前にPHの程度をチェックしておく必要があるかもしれません。Qp/Qsは基本的に1.5以上が治療の適応になりますので、この値も頭にいれておくといいと思います。またsinus venosus typeのASDなどで多かったりしますが、ASDでは肺静脈の還流異常(PAPVC:部分肺静脈還流異常症)を合併していることがちょこちょこあります。心エコーで完璧に肺静脈の診断をつけるのは難しいので、カテで肺動脈を造影して肺静脈のretrunを見て肺静脈の走行を確認しておくことは有用かな、と思います。ま、これはCT取れば済む話なので、絶対カテでないといけないのはPHが強そうな場合ですね。
VSDのカテーテル検査
VSDも同じようにあまりカテをすることがない疾患です。ほとんどエコーで手術の時期を決定できますし、エコーでVSDの位置も決定でき、エコーが最も重要な検査になります。ただし、前々回の時に例に出したようなPHの症例ではカテーテル検査をする機会があるかもしれません。あえてカテをしたとしたら、以下の点がポイントになるかな、と思います。
・PHの有無
・Qp/Qs
・PHがあれば酸素やNO負荷の結果
VSDのカテは症例をあげて説明したのでいいかな?PHの有無や酸素・NO負荷が見るべきところになります。Rpは8単位・m2以上なら負荷が必要で、反応して8単位・m2未満になれば手術は可能です。ということでPHでは酸素やNOを投与してRpが低下したか、などをチェックする必要があるかな、と思います。Qp/Qsは手術が必要なVSDでは結構高い値がでるので、これは他のカテではあまり見ない高値がでるかな、と思います。
図:VSD、ASDのカテ
TOFのカテーテル検査
TOFでは心内修復術前にカテーテル検査をします。そのうち無くなるかもしれませんが、おそらく今の所、日本の病院では大体どこもやっているのではないでしょうか?TOFのカテに関しては基本的に造影の検査が重要です。圧に関してはあまり重要ではありません。そもそもPHがあるTOFなんてほとんどないので。。。ポイントは以下の点です。
・LVEDVの大きさ
・肺動脈弁の大きさ
・PSの部位と程度
・Coronary
パッと思い浮かんだのはここらへんかな、と思います。TOFでは手術の検討のためにカテーテル検査をしますので、そのために必要な情報を集めます。
まずLVEDVです。左心室の大きさはたいていのTOFでは小さめです。手術までは、右心室+左心室から全身に血液を送っていたところを、術後には左心室だけで全身の血液を賄わないといけません。あまりにも左心室が小さいと心内修復術後に左心不全に陥ってしまいます。なんおで、手術をする時にはある程度左心室が大きくないといけません。基本的には左心室の大きさが正常の80%以上の大きさがあれば手術後に左心不全にならず大丈夫、だと考えられています。逆に左心室の大きさが正常の60%未満であれば、心内修復術は避けたほうが良いと考えられます。次に最も重要な肺動脈弁輪径の大きさです。TOFの記事で詳しく書いてありますので、そこを見てもらったほうがいいかな、と思いますが、TOFの手術では弁輪温存できるかどうか、が重要になります。正常の80%以上の大きさ、内藤の基準を満たしている事、など病院によって採用している基準が違うかもしれませんが、弁の大きさはかなり重要です。心エコーでももちろんあたりをつけますが、よく見えない事もあったりしますので、正確なサイズは造影の側面像で測るのではないかな、と思います。肺動脈弁輪径、かなり重要ですね。下に内藤の基準もちょっと載せてますので、参考にしてください。次に、PS(肺動脈狭窄)の部位です。右室流出路(RVOT)とも言います。TOFでは肺動脈弁下のConusが張っていて狭窄している事がほとんどです。(infPS(肺動脈弁下狭窄))加えて、肺動脈弁上もよく狭窄しています。左の肺動脈も狭窄している事がありますので、カテで形態を見て手術の計画を立てる必要があります。最後にCoronary(冠動脈)です。冠動脈が普通に走行している場合には問題ありませんが、たまに左からCoronaryが出ていて右室流出路を横切っている場合があります。右室流出路を広げるため、右室切開を加えることがほとんどですが、もしCoronaryが右室流出路を横切っていれば右室を切る事ができなくなります。心エコーでもCoronaryの走行を詳しく見る事ができず、造影してカテで確かめる必要があります。TOFのカテで確認しておくべき重要な所見の一つです。
TOFのカテの術前で重要な箇所を列挙しました。しかし、TOFでは心内修復術後にはまた違ったポイントを見る必要があります。PVR(肺動脈弁置換術)を考慮する時には右室の大きさなどがポイントとなります。この事についてはまた後で説明していきます。
図:TOFのカテ
TGA、Jatene術後のカテーテル検査
TGAのカテーテルはBASをするため術前にすることもよくありますが、その時はBAS、カテーテル治療が中心となります。心房間が狭くなければBASも必要なく、術前にカテをする必要もありません。ということで、今回は術後のカテーテル検査について説明します。術後のカテーテル検査ではいくつかポイントがあります。
・冠動脈の狭窄の有無(起始部チェック)
・左右の肺動脈の狭窄の有無
術後カテで見るべきポイントとしては上記かな、と思います。特に冠動脈ですね。うちの病院では術後半年から1年くらいでカテをしています。個人的には術後半年頃で6kg超えてたらカテを入れます。冠動脈の狭窄は最も怖い合併症でほとんど術後1年以内におきます、特に術後3ヶ月以内が多いです。なので、半年で問題なければその後問題になることはほぼほぼないかな、と思います。重要なところは冠動脈の起始部をしっかり見ることです。造影で大動脈とかぶって起始部が見えないことが多く、いろいろと角度を工夫して映さないといけません。小さいのでなるべく大人みたいに選択的に造影しなくてもわかるように工夫します。もしわからなかったらlaid back法で造影してみます。それでもわからなければ、選択的にやるか考慮します。次に左右の肺動脈を見ます。TGAではJatene手術の時にLeCompteをするので、左右の肺動脈の根本が高い確率で狭窄します。これに関しては心エコーで流速をはかり狭窄の程度は評価できていますが、心エコーの所見とあっているか、カテでしっかり確認する必要があります。必要あれば、バルーン拡張術などのカテーテル治療を施します。
図;TGA術後のカテ
TAPVC(総肺静脈還流異常症)術後のカテ
これはどこの病院もしているかどうかわかりませんが、うちの病院では術後6ヶ月から1年くらいでしています。TAPVCの最大の問題はPVOです。術後のPVOは大抵心エコーなどでPHの所見があったり、肺静脈のflowが早かったり、と拾える事が多いですが、カテーテルでもPVOがないかどうかを確認しています。ほとんどTAPVCの術後のカテはそれが目的です。
・PVの狭窄・閉塞の有無
・PHの有無
どちらもPVOのチェックです。PVは左右のPAを造影して、そのreturnを見て判断しています。PVOがあれば、PHも認めますので、PHの有無も重要な所見になります。この時点でPVOがなければ、TAPVCはほぼその後問題になることはありません。
図:TAPVCのカテ
という事で今回は疾患別にポイントを話していきましたが、長いので続きは次回にします。次回はPA/IVS、BDG術前、Fontan術前・術後、TOF術後やRastelli術後などについて説明していきます。