誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

総動脈幹症(Persistent truncus arteriosus)について Rastelli手術について 疾患27

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前回はTruncusの血行動態と出生から心内修復術までのところをざっと説明しました。その中でRastelli手術がでてきたと思いますが、この手術は重要なので、ここで一回ちゃんと取り上げようと思います。

もともとはTGAのⅢ型(AoとPAが普通の逆についていて、VSDがあり、かつ肺動脈が狭いタイプ)に対する修復術でした。肺の血流を確保する方法であり、今回のTruncus、PAVSD with MAPCAとか・・・いろんな疾患で施行している手術です。中でもTruncusはRastelli手術が必須の疾患なので、ここで大きく取り上げておこうと思います。意外にいろんな教科書見ても大きくとりあげていない事が多い印象です。

ま、とは言え、そんなに詳しく知らなくてもいいよ、という人は

 

 Rastelli手術=右心室と肺動脈を導管でつなげる手術

 

とこれだけ覚えておいてもらえればOKです。外科の先生に詳しく話してもらってもいいのですが、とりあえずこれくらい知っておいてほしい、という所をもう少しだけ詳しく話しておきます。

 

Rastelli手術について

心内修復術をする際に全身に送るところはTruncal valveを使うとして、肺動脈はそもそも弁も主肺動脈も無いことが多いので、Rastelli手術という手術で右心室→肺動脈の血流を確保する必要があります。

TOFのように肺動脈の狭窄だけなら、TAPという方法でできたのですが、そもそもTruncusには末梢の左右の肺動脈はありますが、真ん中の主肺動脈、肺動脈弁がありません。動脈幹が大動脈と肺動脈にわかれない病気なので当たり前ですが…。という事でないものは作るしかありません。

Rastelli手術は下図のように導管で右心室と肺動脈をつなぐ手術です。これだけです。

 

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図:Rastelli手術

 

ポイントは「導管は成長しない」という事です。

大人と子供の大きな違いは「大人は体のサイズは変わらない」というのに対して、「子供の体はぐんぐん成長する。」と言うことです。

体が成長するという事は現在のサイズにピッタリの導管をつけても1年後にはサイズアウトしており体に対して小さい導管になってしまいます。体に対して小さい導管だと肺動脈狭窄になってしまい、右心室に負担がかかるようになってしまいます。

じゃ、もともと大きめの導管つけておけばいいじゃん?って思うかもしれませんが、そうすると大きすぎて胸骨と心臓のスペースに入り切らず導管が折れたり、冠動脈を圧迫したり、という問題がでてきます。なので、大体「体に適切なサイズよりちょい大きめでなるべく長くもつサイズ」の導管を現在のところはつけるようにしているのです。

一応、「これくらいの体格にはこのサイズの導管をつける」という基準みたいなものがあるので、記載しておきます。おそらく全国の病院でそう大きく違うことは無いのではないかと思いますが、実際のところは自分の病院の心臓血管外科の先生に聞いてください。参考までにということで。

 ・3kg前後:12mm

 ・10kg前後:16mm

 ・30kg前後:24mm

くらいがひとつの目安だと思います。24mmがつける事ができたら成人でもいける大きさだと思いますので、導管がもつ限りこの大きさで、もう問題ありません。多少体格や心臓のもともとの病気、手術の方法によっても使用する導管のサイズは変わりますが、とりあえず上記を目安としていったん覚えてもらってもいいかな、と思います。

 

TOFのTransannular patch(TAP)とRastelliをごっちゃにしないで!

TOFのTransannular patch(TAP)を覚えている方はRastelli手術とTAPをごっちゃにしないように気をつけてください。TOFのTAPを忘れてしまった人も下の絵を見ながら考えていきましょう。

 

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図:TAPとRastelli

 

Rastelliは主肺動脈が全部導管なので、成長しませんが、TAPは主肺動脈の上部だけパッチ(人工物)なので、下半分は自己組織です。そのため、パッチの部分は成長しませんが、自己組織の部分は成長します。逆流や狭窄の問題さえなければTAPは1歳で手術しても一生サイズアウトのため再手術をしなくてもいいのです。なぜなら、下半分の自己組織は体のサイズにあわせて成長するからです。実際のところはTAPも逆流や狭窄の問題のため、大きくなって再手術をすることがほとんどです。でも理論的にはサイズアウトしないので、サイズの問題で再手術する必要はないのがTAPです。

それに対してRastelli手術は主肺動脈が全部導管です。子供が成長して体が大きくなっても導管は大きくなりません。なので、小さい頃につけた導管はいずれ体に対して小さくなってしまい、サイズアウトしてしまいます。小さくなった導管は肺動脈狭窄になりますので、適切なタイミングで交換が必要となります。一般的には24mmのものが入れば成人でもいける大きさなので、24mmが入るまでになるべく交換を少なくしたい、というのがRastelli手術を考える時の重要事項となります。子供服はサイズアウトすれば新しくすればいいだけですが、心臓の導管はそう簡単に再手術して取り替えるわけにはいきません。なるべく生涯の再手術の回数を少なくすることが心臓や本人にとって重要なのです。それを踏まえてRastelli手術は戦略をたてる必要があり、常にサイズアウトを意識している必要があるのです。今回のところでTAPは必要なかったかもしれませんが、Rastelliとごっちゃにして考えている人がいたので、明確に違うという事を意識してほしく書きました。まとめると

 

 ・TOFのTAPは下半分の自己組織が成長するからサイズアウトしない。

 ・Rastelli手術は導管は成長しないのでサイズアウトする。

 

このためRastelli手術では無理ない範囲でできるだけ大きな管をつけられるように戦略をたてていきます。

 

ではTruncusではどうか?

Truncusに話しを戻すと、TruncusではRastelli手術をするのですが、bil.PABを挟んで生後1ヶ月前後で心内修復術をするケースが多いので、体格は大体3-4kgくらいになります。この体格で入る導管は12mmになりますので、Truncusの初回のRastelli手術では大体12mmの導管をつけることが多いです。この時期の小児は人生で最も大きくなる時期であり、1歳になると体重は3倍ほど、約9kgになります。12mmの導管だときつくなってくるため、1-4歳頃に16-18mmの導管にサイズアップして付け替えます、つまり再手術です。

その後はどこまでいけるかですが、理想的には30kgまでその16-18mmの導管がもってくれて、30kgで24mmの導管をつける、というのが理想かな、と思います。実際のところ狭窄や逆流などの問題があり、そういう風にならないケースも多いと思いますが、一応そんな風に考えてもらえたらいいかな、と思います。

 

素材は何を使用しているか?

導管に使われる素材に関してあまり興味ある人はいないかもしれませんが、簡単に説明します。ヨーロッパなどでは導管の材料として「ウシの頚静脈弁」などの生体材料(人とか動物の弁)を使用している事が多いです。しかし免疫反応があったり、石灰化(子供は成長期でどんどん新しい骨や体を作るためカルシウム代謝です。そのため大人より石灰化しやすいです。)して弁が固くなり、狭窄になってしまったりして必ずしも成績良好とは言えません。

日本ではこういう生体材料が手に入りにくく、人工血管などで用いられる人工シート(ePTFEシートなど)で弁を作って縫い付けた導管を使用したりしている事がほとんどです。耐久性もわりとあってそこそこの成績です。ただ弁だけに関してはもともとの生体の弁が一番機能はいいので、はっきりとどっちがいいとは言い切れませんが、人工シートで作成した導管+弁は結構頑張っているという印象です。なんとも日本らしい治療だな、と思います。

 ・日本は導管にePTFEシートを使用し、弁を形成する。

 ・外国は生体材料などがメイン。

 

まとめ

今回はTruncusの心内修復術の時に施行する「Rastelli手術」について話しました。Rastelli手術は簡単に言うと「右心室と肺動脈を導管でつなげる手術」です。ポイントは、

・導管は大きさが変わらない。

(子供が成長するとサイズアウトしてしまう) 

・サイズアウトすると再手術をして導管を取り替える。

・体格による導管のサイズがある。

→新生児から乳児期初期は12mm、

→1歳10kg前後は16mm、

→30kg前後になると24mmが付けられ、大人まで同じサイズでいける。

という事になります。長々と書きましたが、ただ導管で右室と肺動脈をつなげる手術をRastelli手術と言うだけのことです。

Truncusの心内修復術は「VSD閉鎖+Rastelli手術+Truncal valveの形成」になります。Rastelli手術はいろんな疾患で出てくるので、知っている必要がある手術です。Truncusを勉強するついでにこの手術も頭に入れておきましょう。

 

という事でRastelli手術はなんとなくわかっていただけたでしょうか?絵でイメージをつける事が最も重要ですね。

Truncusは大体こんなところかなと思います。という事で次回は心室中隔欠損+大動脈縮窄(もしくは大動脈離断)+大動脈弁(もしくは弁下)狭窄について話していこうと思います。。。。なんで複合疾患なのか?は記事を見たらわかるかと思います。