誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

DORV(両大血管右室起始症) その7 Posterior TGAやfalse Taussig-Bingについて(いわゆるsubpulmonary type DORV) その3  Nikaidoh手術について  〜疾患43

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前回お話ししたHalf-truned truncal switch手術については概ね理解できましたか?今回はHalf-truned truncal switch手術と同様にDORVのsubpulmonaryVSDに肺動脈狭窄を合併した状態で行われる手術、Nikaidoh手術についてお話しをしていきたいと思います。Half-truned truncal switch手術が理解できればNikaidoh手術は似たような手術なので、割とすんなり理解できるかと思います。前回の話にも実はちょっとだけNikaidoh手術がでてきていたのですが、気がつきましたか?今回はこのNikaidoh手術について簡単に話をしていきます。最近の記事はヘビーすぎて書いているぼく自身も結構しんどいので、Nikaidoh手術は少し軽めに話をしていきますね。

 

Nikaidoh手術とは・・・

Nikaidoh手術とは前回やったHalf turned truncal switch手術と同じように大動脈を基部ごとごっそりとって移動させる手術です。Half turnedのようにくるっと回転させるのではなく、後ろに並行移動をするのがNikaidoh手術になります。まずは図を見てイメージをすると早く理解できると思いますので、下の図を見てイメージしてみましょう。

図;Nikaidoh手術

Nikaidoh手術はHalf turned truncal switch手術と同じように大動脈を根本からごっそりとってしまいます。冠動脈はくっつけたまま大動脈と大動脈弁を一塊にしてとってしまい(これをAortic rootと言います、truncal blockと同じような感じです)、肺動脈のところはとってしまい(正確に言うと吻合に使いますが、イメージとしてはとってしまう感じです。)、肺動脈の空いたスペースのところに大動脈の根本(Aortic root)ごと後ろの方に並行移動してくる感じです。そうすると大動脈は元々あったところより後方に移りますので、心室から近い位置になり、将来的な左室流出路狭窄の心配がなくなります

肺動脈はどうするのか、と言うと、Half turned truncal switch手術と同じようにLeCompteをして前方に持ってきます。そして、スペースが小さいので右室切開を加えて右室流出路を確保します。肺動脈の後ろの壁は大動脈の前方の方にくっつけ、肺動脈の前方の方の壁はTOFのように弁付きのPatchで広げて再建してあげます。これがNikaidoh手術です。

右室流出路はPatchにする必要は必ずしもなく、日本だったら弁付きの導管(ePTFE valved conduitなど)にする場合があったり、日本では少ないですがホモグラフト(人の肺動脈弁を使用する)やContegra(牛の静脈弁を使用する)を使用する事もあり、そこは必ずしもTAPのようなPatchで形成する訳ではありませんので術者に委ねられるところだと思います。とりあえず、こんな感じでNikaidoh手術は施行されます。Half turned truncal switch手術と似ていますよね?大動脈を根本ごとごっそりとるところが同じなので、この手術も非常にインパクトがあります。しかし、この手術はHalf turned truncal switch手術と比べると少し適応の範囲は狭くなります。と言う事で、次はNikaidoh手術の適応について考えていきましょう。

 

Nikaidoh手術の適応について

Nikaidoh手術の適応についてですが、実は前回のHalf turned truncal switch手術のところで少し出てきています。Half turned truncal switch手術と同様、適応となる疾患は基本的には2つ、TGA(Ⅲ)=TGAにVSDとPS(肺動脈狭窄)を合併するタイプ、とDORV false Taussig-Bing+PS(肺動脈狭窄)になります。Half turnedと同様に、他にもccTGAなどで施行されており、大血管がTGA関係(肺動脈と大動脈入れ替わっている関係)で、VSD、左室流出路が狭い二心室が可能な形態であれば、Nikaidoh手術が可能である可能性があります。(Half turned truncal switch手術も同様ですが。)基本的にはHalf turned truncal switch手術と同じ疾患が適応になるのですが、違いは肺動脈の狭窄の具合です。前回でも図が出てきたと思いますが、下の図を見てください。

図:Nikaidoh手術の適応

ポイントは肺動脈の狭窄の具合です。Half turned truncal switch手術は割と広い範囲の肺動脈狭窄が適応になります。軽度の肺動脈狭窄から、中等度の肺動脈狭窄までが適応になり、肺動脈/大動脈比で0.3-0.8くらいの軽度の肺動脈狭窄から中等度の肺動脈狭窄が適応になります。対してNikaidoh手術は中等度(中〜中-重度)の肺動脈狭窄が適応になります。肺動脈/大動脈比で0.3-0.5程度の中等度の肺動脈狭窄のみです

理由は2つあります。

肺動脈の狭窄が正常―軽度の場合はNikaidoh手術の適応にはなりません。Nikaidoh手術は冠動脈を切り離さずに並行移動するため、あまり移動距離が大きいと冠動脈が狭窄してしまいます。そのため、肺動脈狭窄が軽度のものは移動距離が大きくなるためHalf turned truncal switch手術、もっと軽度の場合はASO(大血管スイッチ手術)の適応になってきます。

またあまりにも肺動脈の狭窄が強い場合は、あまり心室と大動脈の距離が遠くないため左室流出路の狭窄の心配もあまりないため、そのままRastelli手術、もしくはREV手術を施行した方が良いです。肺動脈/大動脈比で<0.3の場合には左室流出路の心配がなくなる、というNikaidoh手術のメリットを生かしきれず、かつ手術侵襲だけかなり大きくなってしまうためRastelli/REV手術が適応となり、Nikaidoh手術は適応になりません。よって、肺動脈狭窄が中等度から高度の間あたりの狭い範囲がNikaidoh手術の適応になります

Nikaidohs手術のメリットをしっかり考えてもらえれば、なぜNikaidoh手術がこんなに狭い適応なのかを理解してもらえるのではないかと思います。現在でもちょいちょいこの手術をすることがありますので、Half turned truncal switch手術を勉強する際には一緒に覚えてもらったら良いのではないかな、と思います。

 

まとめ

今回はNikaidoh手術について話をしていきました。絵が重要なので、しっかり見てどう言うふうに治すのかイメージ出来ればOKだと思います。イメージできなければ、おそらくそれは僕の絵がよくないので、「Nikaidoh procedure」でgoogleの画像ででも調べてもらえば色々出てくると思います。

Nikaidoh手術はHalf truned truncal switch手術と同様に大動脈と大動脈弁を一塊にして取り出し、後方に並行移動する手術です。冠動脈は切り離さずつけたまま並行移動します。肺動脈はLeCompteをし前方に持ってきて、Patchで拡大したり導管にしたりして作ります。並行移動することで左室流出路狭窄のリスクは減少し、冠動脈を付け直す手技がないので、Half truned truncal switch手術より少し楽になります。しかし適応範囲は狭く、肺動脈/大動脈比で0.3-0.5くらいの中等度から中等度と重度の間くらいの狭窄が良い適応になってきます。

と言う事でNikaidoh手術はもうOKですね。もしこの手術を施行することがあれば思い出してもらえたらと思います。では次回はここ最近講義などをすることが多かったので、その一部を記事にしていこうと思います。その後またDORVに戻ってきますね、いや、いつDORV終わるのやら・・・。

 

参考文献;

“Nikaidoh procedure: a perspective “Hisashi Nikaidoh : European Journal of Cardio-Thoracic Surgery 50 (2016) 1001–1005