誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

高肺血流high flow(ハイフロー)と酸素投与について  どういう子には酸素を使ってよくて、どういう子は駄目か?  ~基本49~

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今回は講義した内容をあげようと思います。若い先生たちからのリクエストで、「どういう子に酸素を使ってよくて、どういう子は駄目か救急とかでの対応を知りたい」みたいな議題を与えられたので、作ったスライドをもとに書いていきます。以前にも書いているhigh flowの内容を書いているので、high flowとか血行動態の理解に何も不安がない人は読む必要はないです。high flowの理解や対応に自信がない人はちょっと覗いてみてください。では、いってみましょう。

 

今回の内容について

high flow(高肺血流)について実際の診療でどう判断したらいいか、ということを主眼に

今回は話をしていきます。みなさんが迷われるのは救急外来などで循環器疾患を持っている患児が来た時に「この人は酸素を投与していいの?駄目なの?」という事だと思います。酸素を投与すると逆に調子が悪くなる人が多くいるので、酸素投与を考えないと行けないのが循環器のややこしいところかもしれません。今回は基本的に、新生児とかは省いて話をしています。新生児だったら救急外来とかには来ないで、入院しますし、上級医なしで初期対応をしたりすることはほぼほぼないでしょうから、あまり話はしません。でもhigh flowの考え方は新生児の術前の管理にこそ重要なので、基本的にはどんな疾患でも今回話す内容を理解しておくことは重要だと思います。と言ってもhigh flowとはなんぞや?という人もいるでしょうし、小児循環器はじめての人にはなかなか難しいかもしれませんので、順を追って話をしていきますね。

今回の話の内容は

・high flowとは何か?まずはVSDを例に考えるよう。

・SpO2が100%のhigh flowはどう判断するか?

・SpO2が100%ではない人のhigh flowはどう判断するか?

    単心室と2心室疾患について

について話をしていきます。

ということでこれを理解してもらえれば、循環器の患児が救急できても、「酸素いっていいのかな?なんか酸素いくと余計良くない疾患があったようななかったような…」という悩みも幾分か薄れるかと思います。

 

high flowについて

まずhigh flowという言葉ですが、簡単に言うと高肺血流(high flow:ハイフロー)=肺に血液がたくさん流れている状態の事を言います。以前にも記事にしているので参考にしていただけるといいかもしれません。今回はそこまで詳しくないかもしれませんので。

<high flowについての記事>

 

肺にたくさん血液が流れている状態、言葉は簡単ですね。もうちょっと詳しく言うと、体全体に流れる血液の量よりも多く肺に血液が流れている状態です。普通の正常の心臓であれば、下の図のように全身に流れる血液=肺に流れる血液(全身に流れる血液を10とすると肺にも10流れる)になります。しかし、先天性心疾患だと、いろんな所に孔が開いていたり、形がそもそも変だったり、謎の手術をしていて、血液の流れが変化している場合が多々あります。普通の心臓では肺に流れる血液=体に流れる血液のため、high flowなんて状態にはならないのですが、先天性心疾患では、全身に流れる血液と肺に流れる血液の量が同じにならないことが多々あります。全身に流れる血液よりも肺に流れる血液が多いときに、僕らはこの状態をhigh flowというわけです。このhigh flowをしっかり理解しておくことは先天性心疾患において最重要課題だと思います。

 

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図:high flowについて

 

high flow:VSDを例にして

例えば、VSD(心室中隔欠損症)について考えましょう。VSDでは右室と左室の間に大きな孔が開いています。心室は肺にだけ血液を送ればいいので、RV圧=20-30mmHg程度です。それに対して、心室LV圧=100mmHg程度です。このように、右心室と左心室は大きな血圧の差があります。心室と左心室の血圧差は70~80mmHg程度もあります。

普通は壁があるので、右心室と左心室の血圧の差があっても問題ありませんが、VSDが開いていると、血圧の差に従って、血液が流れていきます。大動脈と同じくらいの大きさの孔が心室中隔に開いていると考えると、心室からは大動脈とVSDに同じ量の血液が流れます。左心室⇢VSDを通った血液は右心室を少しだけ通り、ほとんどそのまま肺に流れます。そのため、図のように考えると血液は大動脈に10VSDに10流れます。

 

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図:high flow:VSDを例に

そうすると、大動脈⇢全身に10の血液が流れます。そして、全身からIVC、SVCを介して10の静脈血が右心房に返ってきます。還ってきた10の静脈血は右心房⇢右心室⇢肺動脈へと流れていきます。そうすると、肺には静脈から返ってきた10の静脈血とVSDを通ってきた10の血液の合計が流れますつまり、肺には20の血液が流れる事になるのです。

・全身に流れた血液は10

・肺に流れた血液は20

なので、肺には全身の2倍の血液が流れることになります。全身より肺の方に多く血液が流れているので、この状態をhigh flow(高肺血流)と言います。全身に流れる血液が変動したらどうなるのでしょうか?と思われる方もいるかもしれませんが、全身に流れる血液は基本的にある程度一定になります。そうでないと人間の生命活動は維持できないので、大体一緒なのです。つまり、全身の循環を保つため、全身に流れる血液はある程度キープされます。

なので、VSD例も普通の心臓も全身には10の血液が流れます。でも、VSDでは肺に20も流れる事になります。肺に多くの血液が流れる状態、これがhigh flowです。

 

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図:high flow:VSDを例に2

 

VSDではhigh flowになるとどうなるか?

先程の例で示したように、大動脈とほぼ同じ大きさのVSDが開いていると、全身に10、肺に20の血液が流れ、肺には全身の2倍の血液量が流れる事はわかりましたね。では、肺にたくさんの血液が流れるとどうなるのでしょうか?VSDを見るとそれがよくわかりますので、VSDを例にhigh flowになるとどうなるかを示していきます。

 

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図:high flow:VSDを例に3

図のように肺に20の血液が流れると、肺はたくさん血液がきて、アップアップになります。

肺が水浸しで溺れるような感じです。たくさん血液が肺にくると、それを酸素化しないといけないので、たくさん呼吸して酸素を取り込まないといけません。なので、多呼吸になります。しんどいです。多呼吸になり、カロリーを消費するので体重が増えにくくなります

あまりこの状態が続くとしんどいので、肺は血管を締めて、肺にこれ以上血液が来ないようにします。肺の血管がしまり、肺高血圧の状態になります。肺の血管を締めて、血液が来ないほうにブロックしますが、血管を収縮しているので、肺の血管内の圧は上がってしまいます。これがhigh flowによる肺高血圧です。肺高血圧の状態になると、体は少し楽になりますが、困るのはこれが続く場合です。肺高血圧(PH)が続くと、将来的には予後が悪いです。肺高血圧(PH)が6ヶ月以上持続すると肺高血圧(PH)は不可逆(ちなみに不可逆になってしまった肺高血圧をEisenmenger(アイゼンメンジャー)症候群といいます)になります。不可逆になってから、high flowの原因を取り除いても(例えばVSDを治してあげて、肺血流が多い状態を改善する)、肺の血管は収縮したままになり、肺高血圧が残ってしまうのです。肺高血圧症では運動なども難しいですし、喀血などしたり右心不全になったりして予後も悪いので将来的には非常によくありません。(はっきりどれくらいかは言及できませんが、50歳で50%くらいの生存率と昔覚えた記憶があります。VSDなんか治してしまえば普通の人と同じ寿命が期待できるので、それと比べれば肺高血圧はよっっっっぽど悪いです。わかりやすい予後の数字あればコメントください。)なので、こういう状態であれば、肺高血圧が不可逆になる前に手術が必要になります

簡単に話すと、

  • 肺に大量の血液がくるのでアップアップになり、しんどくなる
  • しんどい上、多呼吸でカロリー消費し、体重も増えない。
  • 肺はこれ以上血液を受けきれないので、肺の血管を締めて肺血流を制限する。
  • 肺高血圧になる。
  • 6ヶ月以上、肺高血圧が続くと不可逆に!なので、その前にVSDの手術を!

という感じになります。では、VSDがhigh flowになったら困るのはわかったかと思いますが、high flowになったらどういう症状を呈するのか見ていきましょう。

 

VSDがhigh flowになったときの臨床症状は?

high flowになることはわかったかと思いますが、実際high flowの子が救急外来に来たときには、どういう症状を呈するか話をしていきます。

まず先程も述べたように多呼吸になります。1分間に呼吸を60回以上とかするようになります。1秒に1回以上呼吸をしている状態ですね、パット見てもしんどそうです。多呼吸なので、カロリーもたくさん消費しますので、体重が増えません。ついでに呼吸がしんどいので、ミルクもガブガブ飲めず(哺乳不良)、それも相まって体重が増えません。大体VSDの子は4kg台まではいきますが、5kgまでは増えない事が多いです。体重の増加量を見ても、high flowかどうかは見て取れるかと思います。

また検査ではレントゲンの肺野が白くなります。肺血管陰影の増強のため、レントゲンは全体的にしろくなります。また肺に多く流れた血液は肺から結局左房に還ってくることになりますので、左房にも大量の血液が還ってきます。大量の血液は左房から左室に渡されるので、左室も大量の血液がきます。左房、左室は大量の血液がくるため、大きくなります。これを反映して、レントゲンでは心拡大が認められます。普通の子はCTR(心胸郭比の事、胸の大きさと心臓の大きさの比率です)が50%程度ですが、high flowでは肺血流が増えている=左房/左室が大きくなるため、CTRは60%くらいになります。心エコーをすると、4chで4つの心房心室を出すと左心室、左心房が大きく見えます。心臓に詳しくなくても、4chくらいは出せると思いますので(後期研修医や研修医とか…)、左心系の拡大が確認できるかと思います。

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図;VSDを例に high flow症状など 4の図

まとめると、VSDのhigh flow時の臨床症状は

・多呼吸(1分に60回以上)

・哺乳不良(お母さんにミルクの飲みをききましょう)

・体重増加不良(4kg台にはなるが、5kgにはならない)

・胸部Xpで心拡大、肺血管陰影の増強

・心エコーで左心系の拡大

などです。VSDを例に考えるとSpO2:100%の人のhigh flowはわかりやすいと思います。症状は一緒です。high flowになると基本的に上記のような症状が出てくるので、基本中の基本である、VSDをしっかり押さえておくといいかなと思います。下にレントゲンと心エコーの図を載せておきます、こんな感じになります。

 

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図:VSDを例に5 Xpと心エコー

 

 

酸素投与はhigh flowを悪化させる

VSDのhigh flowについては大丈夫でしょうか?high flowは肺に血液が増えている状態であり、しんどいですね。肺に血液が増えている状態で酸素を投与すると、high flowは悪化し、状態は悪くなってしまいます。SpO2を見て気軽に酸素投与ができないのが先天性の心疾患であり、「high flowなのか、違うのか」を考えないと酸素投与によって状態をより悪くしてしまうかもしれません。では、なぜhigh flowに酸素投与をしてはいけないのか、を考えていきたいと思います。

酸素を投与すると悪くなってしまう可能性があるのはhigh flowの状態の患児です。肺に血液が多く流れている状態の時です。酸素には肺の血管を拡張させる作用があります。high flowのように肺に血液がたくさんいって困っているときに酸素を投与すると、より血液が肺に流れやすくなります。その結果、余計に肺に流れる血液が増えて、high flowが悪化してしまいます。なので、high flowの患児には基本的には酸素を投与しないほうがいいのです。ちょっと難しい言葉で言うと、酸素は肺血管抵抗を下げるのです。酸素は肺の血管の筋肉を弛緩させるので、肺にはより血液が流れやすくなるのです。これが酸素の作用であり、high flowの状態で酸素を投与してはいけない理由です。

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図:酸素はhigh flowを悪化させる

図のようなVSDの児であれば、そもそも全身に流れる血液が動脈血だけなので、SpO2はほぼ100%であり、あえて酸素を投与したりしないですよね。でも呼吸がしんどそうにしていると、酸素を言ったら効果あるかも、と考えてしまうと、逆にhigh flowを更に進行させてしまいますので、このような症例には酸素投与はしてはいけないのです。VSDはSpO2:100%のhigh flowの疾患の代表的な例ですが、このように、普段からSpO2の低下が認められない、high flowの疾患がVSDの他にもいくつかあります。血液の流れを考えればわかるでしょうが、どんな疾患があるか、考えていきましょう!

 

SpO2:100%のhigh flow疾患を考えよう

SpO2が100%であり、high flowの状態になる疾患を思いついたところで列挙していきたいと思います。基本的には先程話したVSDと考え方は全く同じです。症状もhigh flowなので全く同じです。多呼吸、体重増加不良、哺乳不良、肺高血圧などなどです。列挙すると

・VSD 心室中隔欠損症

ASD 心房中隔欠損症(超軽いhigh flow)

PDA 動脈管開存症

・AVSD 房室中隔欠損症

・一部のDORV 両大血管右室起始症

・AP window 大動脈肺動脈窓

などになります。もしかしたら他にもあるかもしれませんので、思いついたら足しておきます。このような疾患がありますが、どれも基本的に上記のような症状を呈します。こういう疾患ではhigh flowになっている可能性がありますので、症状を見て、酸素を投与するかどうかはしっかり見極めていきましょう。

 

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図:SpO2が100%のhigh flowを考えよう

 

ASDの場合は…

ASDは実はhigh flowにはなるのですが、ちょっと他とは違います。ASDの場合はhigh flowの程度が非常にゆるいので多呼吸になったり、体重増加不良になったりすることはかなり稀です。その理由を考えてみましょう。

心臓の中の血圧を考えますと、右房は血圧が5mmHg、左房は血圧が6-7mmHgです。つまりほとんど心房間の圧較差がありません。せいぜいあったとしても1-2mmHg程度です。ちょっとだけ右房のほうが血圧が低いので、血液は左房⇢右房へ流れていきます。しかし、圧較差は1-2mmHgだけです。そのため、どんなにASDが大きな欠損孔でも左房⇢右房に流れる血液は少ししかありません。そのため、たいしたhigh flowにはなりません。酸素いくら使ってもASDで問題になることはまずないと言えます。ASDはhigh flowになる疾患ではありますが、ほぼ酸素使っても問題になるほどのhigh flowではないと言うことです。

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図;ASDの場合

ということでSpO2:100%のhigh flowはいいですかね。ということで、次回はSpO2:100%じゃないhigh flowについてやっていこうと思います。