誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

心室中隔欠損症(VSD:Ventricular Septal Defect)について 〜 疾患1

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VSDは最もよく見る疾患の一つだと思います。

心室と左心室の間に孔が開いている疾患です。

High flowの話で結構でてきたのですが、もう一度おさらいしていきます。

 

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VSD

 

上記のような形をしています。

簡単ですね。

しかし、この疾患、割と奥が深くて細かいところまで理解するのはとても大変です。今回は細かいところはなるべく省き、「木を見ず、森を見る」的な考えで話していこうと思います。

VSDはhigh flowになる疾患であり、high flowを理解する事が重要です。もしhigh flowがよくわからなければ、以前にhigh flowを説明している記事がありますので、そこを参照してください。

 

では、ここから本題に入ります。次の項目に沿って話をしていきます。

  • VSDは左室が大きくなる
  • VSDの大きさについて
  • VSDの経過について

 

VSDは左室が大きくなる疾患!

まずVSDの血行動態について話します。

VSDは右心室と左心室の間の孔です。

心室は血圧20-30mmHgで、左心室は100mmHgなので、孔が開いていると血液は左心室から右心室の方へと流れていきます。

が、まずここで注意です。

VSDを通る血液は右心室に入るのではなく、右心室をちょっと通って、そのまま肺動脈に流入する、というのが実際のところです。

なので、極端な事を言うと

 

  心室(LV)→VSD→肺動脈(PA)→左房(LA)→左心室(LV)

と血液が流れていきます。

肺に流れる血液が増えますので、high flowになってしんどくなります。

 

実際の症状としては、

呼吸数が増えて(1分に40回以上の呼吸数)、ハアハア呼吸しているため、ミルクも飲みにくくなり、ミルクも飲めない+ハアハアしてカロリーを無駄に消費するため、体重が増えません。High flowでしんどい子は、大体4kg台までは体重はふえますが、6kgまで増加する子はまずいないです。

 

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VSDはLVが大きくなる

図VSDはLVが大きくなる

 

血行動態に戻ると、肺の血液が増えるので、肺から戻る血液も増え、左房、左室に還流する血液も増加するので、左心系(左室や左房)が大きくなります。

VSDを通って血液が右心室に流れる、という意識であれば、VSDは右心室が大きくなる疾患と思ってしまいそうですが、実際のところは、左心室が大きくなる疾患なので、間違えないでください。

心室はかすって、ちょっと通るだけで、肺動脈に直接流入するような形になり、それが左心系に返ってきますので、心室ではなく左心室が大きくなるわけです。

 つまり、VSDは右心室ではなく、左心室が大きくなる疾患

です。

これよく勘違いする人がいるところなので、頑張って理解しましょう。

 

VSDの大きさについて

次にVSDはVSDを通って肺に血液が増える、high flow の疾患です。

(high flowについては以前詳しく記載しています、過去の記事を参照してください。)

 

VSDは生まれた直後は生理的肺高血圧のせいで右心室の圧力が高いので、右心室と左心室の圧較差が少なく、high flowは軽いのですが、生理的肺高血圧がとれる生後2週間から1ヶ月にかけてしんどくなっていきます。

生理的肺高血圧については下記リンクを参照ください。

https://inishi.hatenablog.com/entry/2019/02/18/124754

 

以前話したように、high flowの程度は「孔の大きさ」×「圧の差」で決まります。生理的肺高血圧の間はどんな「VSDの大きさ」でも「圧の差」は大した事ありませんのでしんどくなりません。生理的肺高血圧がとれる生後1ヶ月後くらいから本格的にVSDはhigh flowになっていくのです。

そして右室と左室の圧の差はどの人でも大体同じになりますので、しんどさはVSDの大きさによって決まってきます。おおまかに分けると下記のようになります。

  VSD > 6mm → 大きい。乳児期に手術。

  6mm > VSD < 4mm → 微妙。乳児期の手術を避けられるかも。

  3mm > VSD → 小さい。手術必要ないかも。

前にも話しましたが、大動脈の大きさは新生児で大体6mmくらいですが、これより大きいVSDの場合はしんどくなり、肺高血圧になる可能性が高いです。イメージすれば簡単だと思いますが、大動脈弁よりVSDが大きければ、全身に駆出される血液より肺に行く血液の方が多くなりますので、容易にhigh flowになり事が予想できます。

肺に血液が多くなりますと、はじめはなんとか受け入れるのですが、そのうち受けきれなくなり、肺の血管を収縮させて、肺に血液がこれ以上流れないように肺が抵抗をはじめるのです。これが肺高血圧です。

このため、ひどいhigh flowは途中から臨床症状がよくなったように見える時がありますが、それは肺の血管が収縮して肺高血圧になってhigh flowを防いでいるだけで、よくなったわけではないのです。

肺高血圧がある場合は乳児期に手術をする必要があります。何故なら、6ヶ月以上肺高血圧の状態のままでいると、肺高血圧が残存してしまう可能性があるからです。

逆に言うと、肺高血圧が残存しなければ、VSDを急いで手術する必要はなくなります。

肺高血圧が残存するかどうかは経過を見てみないとわかりません。

 

・6mm以上のVSDはほとんど肺高血圧が残存します。

・4-6mmの人が微妙なラインで肺高血圧が残る人と残らない人がいます。これくらいのVSDの人はどっちになるかは経過を見ないとわかりません。

・3mm以下の人は肺高血圧にまずなりません。ので、乳児期に急いで手術をする必要はまずないです。

 

こういう事でVSDは肺高血圧が残るかどうかが、乳児期に手術をする必要があるかを決める重大なポイントであり、それを決めるのは大体VSDの大きさになります。

VSDの大きさは今後の治療方針に大きく関わってくる事項です。なので、

「何ミリのVSDか?」

「肺高血圧が残っているか?」

を気にしてVSDをみなければいけないのです。

 

では次回はVSDの経過について話していきます。