誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

小児のカテーテル検査について〜症例で考えよう〜 その2 基本21

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前回の話は理解できましたか?かなり長い話で、計算とかいろいろあって眠くなった人も多かったのではないでしょうか?今回は症例を例に挙げてカテーテル検査の見方を説明していこうと思います。

前回の復習を簡単にしましょう。

・まず病歴、疾患を理解する。

・圧と酸素濃度の普通を頭にいれる。

・Qs(体血流量)を理解 Qs=全身で使う酸素÷(Aoの酸素-MVの酸素)

・Rp(肺血管抵抗)を理解 Rp=(肺動脈の平均圧―肺静脈の平均圧=PCW)÷Qp(肺血流量)

すごい簡単に説明すると前回はこんな感じの話をしました。全部理解できなくていいので、なんとなくわかったところで、疾患を見ながら考えていきましょう。なんとなくでOKです。疾患を理解すると、カテーテル検査の理解も一段と深まります。カテを理解したら、また疾患もさらに理解が深まります。そんな感じで一石二鳥な感じになります。僕らの教育も細かい話は何もなく、いきなり患者を担当させられてすべてそこから学びました。結局患者さんから学ぶ事が一番自分の学びになるんですよね。一番いいのは自分の入院の担当や外来の子からどうしてカテをするのか?検査は何を見ているのか?などを真剣に考える事です。ここでは、僕が適当に考えた症例を見ながらカテーテル検査を考えていきます。

 

カテーテル検査の例:心室中隔欠損症VSD

VSDのカテをやっている施設はもうだいぶ少なくなっているのではないでしょうか?おそらくカテなしで大体手術になるので、術前にVSDのカテをすることは少ないです。ただし、以下のようなケースでは手術前にカテーテル検査をしたり、しなかったりします。以前僕が書いたVSDの一般的な経過とちょっと違うので、その違いを感じつつ見てもらえるとより深く考えられるようになります。一般的な経過とちょっと違うとはいえ、こういう症例も少なからず世の中には認められます。本当はあまりいない方がいい症例ではありますが。。ということで見ていきましょう。

 

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図:VSDの圧

カテーテル検査の解説にすぐ入りたいところですが、これを理解するためには、まず患児の病歴とVSDという疾患について抑えないといけません。VSDという疾患が十分にできていなければ、以前にVSDについて記事を書いているので、ここにちょっと目を通しておいてください。(2019/4/22, 25の心室中隔欠損症(VSD:Ventricular Septal Defect)について)この記事の事を理解している前提で話をしていきます。それを踏まえた上で、この経過を見てみると一般的なVSDの経過と違う事が分かることがわかります。この患児のVSDの大きさは7mmです。VSDで言えば大きめになり、ほぼ手術が必要になるような症例です。自分であれば、3ヶ月以内を目処にほぼ確実に手術をお願いするような症例ですが、なんとこの症例もう5ヶ月にもなろうとしています。自己判断と十分な説明がなかったためか、親御さんが疾患の理解をしていないためこういう事が起こります(これは架空の話ですが、似たような経過はあります)。生後5ヶ月の児、VSDの大きさは7mmです。生後1ヶ月頃はhigh flowで苦しんでいたが、その後は肺高血圧で症状が落ち着いたのが経過から推測できます。肺高血圧になると肺の血流はある程度制限されますので、一見呼吸は落ち着いたように見え、体重も増えだしたりします。しかし、これはVSDがよくなったわけではなく、肺高血圧になっているだけなのです。5ヶ月で受診した際に心雑音が認めなかったのは肺高血圧でVSDを通るシャントが少ないせいだと考えられます。VSDがあるはずなのに、心雑音が聞こえない時は「VSDが閉鎖した時」もしくは「肺高血圧が進行している時」です。この患児は後者にあたります。つまり結構な重症の肺高血圧という予測がつきます。VSD7mmと大きく、肺高血圧を認めるため手術が必要と考えられますが、肺高血圧が完成するのは6ヶ月くらいという報告があり、もしこの時点で肺高血圧が完成していれば手術をすると余計悪くなるので手術をしてはいけません。「手術をしてもいいかどうか?」これを調べるにはカテをして肺高血圧がどれくらいなのか?酸素やNOに反応するのか?(肺高血圧は完成しているのか?を調べる検査です。酸素やNOに反応して肺の血圧が下がるなら、肺高血圧はまだ完成していませんので手術ができます。)などを調べないといけません。これがカテをする理由です。この患児の経過は実は結構危険です。運良くhigh flow心不全にならずに、肺高血圧のため落ち着き経過していますが、運が悪いとhigh flowからショックになって死んでしまう可能性もあります。また、high flowで死んでしまうよりましですが、肺高血圧が完成してしまえば将来の予後は悪く、運動などはできなくなってしまいます。短命に終わることもほぼ確実です。なので、なるべくこのような経過にならないように小児循環器はVSDを診ています。しかし、こうなってしまったので、仕方ありません。ここで重要になるのは肺高血圧が完成しているかどうか?です。肺高血圧が完成していれば、VSDを閉じると右室の圧の逃げ道がなくなってしまいますので、余計に悪くなる可能性があります。しかし、肺高血圧が完成していなければ、手術をしてVSDを閉じてやれば、いずれ肺の血圧も下がり通常の子を同じように過ごせるようになるからです。これがこのVSDの子の背景です。

どうですか?ここまで理解してやっと検査の結果を見ることができるわけです。いろいろ測定していますが、このカテのポイントは肺高血圧の程度、ということになります。いろいろなところの圧が書いてありますが、肺の圧が一番重要であり、そこらへんを理解できればOKなのです。

という事で具体的な数字をみていきますと、黒い文字は普通の圧なので、ちょっと使いますが、あまり気にしなくていいです。しかし赤い文字で書いているRVの圧とPAの圧はかなり高い数字になっています。肺高血圧は平均圧が20mmHg以上であれば肺高血圧と診断しますが、この子は50-55mmHgと結構高いです。ついでに言うとPAの収縮期圧80mmHg前後(=RV80mmHg)LV圧の値81mmHgとほぼ同じような値です。こういう状態を「等圧のPH」っとか言います。PHの程度を示す言葉ですね、よく聞くので頭にいれておくといいかもしれません。話を戻すと、LVRVには圧の差がほとんどない(8081なのでほぼ同じ圧)ので、VSDが開いていてもVSDを流れる血液がなく、心雑音も聞こえなくなるのです。とりあえずここまではOKですね?PA圧は高く、肺高血圧があるということがわかりますね。ここからがこのカテの本番です。

次に、ここで酸素を負荷します。酸素は肺の血管を開く作用があります。なので、基本的に酸素を投与すると肺の血管は開き、肺の圧は下がります肺高血圧が完成しておらず、肺の血管が普通に反応する場合には、酸素を投与すると肺の血圧が下がるのです。逆に肺高血圧が完成していれば、酸素を投与しても肺の血管は開かず肺の血圧は下がりません

・肺高血圧完成⇢酸素やNOに反応せず。

・肺高血圧未完成⇢酸素やNOに反応あり。

という感じです。肺高血圧が完成しておらず、肺の血管が可逆性ならば、VSDを治療すれば肺高血圧は治るはずです。生後3ヶ月くらいならば、肺高血圧があっても完成していないため、手術をしてVSDを治してあげれば肺高血圧は治ります。しかし、生後6ヶ月近くなってくると肺高血圧が完成している可能性があります。この症例はおそらく大丈夫だと思われるが、肺高血圧が万が一完成していれば、手術をしてはいけないので、そこをしっかりチェックしておく必要があると言うことです。

ここでもう一度カテーテル検査の結果に戻ります。酸素を負荷した後の結果をみていきましょう。肺動脈の圧は代表して、LtPA(左の肺動脈)の圧で比較していきます。でもLtPAの圧を見ると、81/27/54mmHgと、ほとんど酸素を負荷する前の結果と変わっていません。「肺の血圧が下がっておらず、肺高血圧は完成してしまっているのか・・・。じゃ手術は駄目だな」と思うのはちょっと早いです。よく見ると酸素負荷後のLtPAの酸素濃度は97%とだいぶ上昇しています。酸素負荷前は87%だったのが、97%まで上昇しています。この酸素濃度からQpを計算すると酸素負荷時はQp=11.56になります。酸素負荷前はQp=6.7だったのが、11.56まで上昇し、酸素を負荷するとほぼ2倍の血液が肺に流れる事がわかります。つまりどういう事かと言うと、肺の血圧はほとんど変わらないけれど、酸素負荷後は肺に2倍くらいの血液量が流れている、ということです。「酸素負荷後に2倍近く血液が流れる」と言うことは肺の血管が酸素に反応して肺の血管の抵抗が下がり、肺に血液が流れやすくなり、その結果VSDを通って酸素負荷前の2倍近くの血液が肺に行った、ということです。2倍近くの血液が肺に流れる事で、また肺の血圧が酸素負荷前くらいに上がった、ということがわかります。これを表す指標が肺血管抵抗=Rpという数字です。肺の血管への血液の流れやすさを肺血管抵抗で表します。前回話した、圧と酸素濃度から計算できる指標です。検査の結果をみてみると、肺血管抵抗=Rpは酸素負荷前が3.4、酸素負荷後は1.99と低下しています。「肺血管抵抗(Rp)が低下している」ということは「肺の血管が酸素に反応して肺への血液の流れやすさは改善している」という事が言えます。肺高血圧が完成していれば、酸素を投与しても肺の血管は反応せず、肺血管抵抗は下がりません。しかし、この患児は酸素負荷することで肺血管抵抗=Rpは低下しており、肺の血管が反応していることがわかります。つまり肺高血圧は完成しておらず、肺の血管はhigh flowが改善すれば肺の血管が反応して、肺高血圧が改善する、事がわかります。結論を言うと、「肺高血圧は著明な状態ではあるものの、酸素投与にて肺血管抵抗が改善するため、肺高血圧は完成しておらず、VSDの手術ができる」事がこのカテーテル検査から導き出されるのです。

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図:酸素負荷のイメージ

ちょっと長くてわかりにくいので、まとめます。今回のカテーテル検査の目的はVSDのため、肺高血圧が完成しているかどうか、をチェックする事が目的です。カテーテル検査の結果は

・肺高血圧は著名。等圧の肺高血圧あり

PAの圧は80mmHgくらい、平均圧でも50-55mmHgと高い。

・酸素負荷で血管の反応をチェックする。

・酸素負荷で、肺動脈の圧は変わらないが、肺血管抵抗が下がる

 ⇢酸素負荷でLtPA圧は82/15/53⇢81/27/54と変わらないが、Rpは3.4⇢1.9に低下。

・つまり肺高血圧は完成しておらずVSDの手術は可能

ということになります。

いや、どうでしょう、カテーテルの結果をちゃんと説明しようと思うとこれだけ話さないといけません。前提となるVSDの知識や病歴がわからないと何言っているのか全然わからないと思います。なので、前回も書きましたが、病歴、疾患の知識がかなり重要になるのです。ポイントがわからないと、たくさんの数字がただの睡眠導入剤になるのですが、わかると一気に単純な検査だと思えるようになります。

 

ということでもう1例くらい症例を例に挙げて説明したいのですが、VSDでもこんなに長くなってしまうので、疲れますし、あきるでしょうから、次に進みたいと思います。次回はカテーテルの検査の「造影」について説明していきます。