誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

不整脈:異常自動能(abnormal automaticity) EAT(異所性心房頻拍)、MAT(多源性心房頻拍)、JET(接合部異所性心房頻拍)について 上室性頻脈(SVT)全般の治療   〜基本48〜

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今回からはSVTのもう一つの機序、「異常自動能」について話をしていきます。異常自動能はリエントリーとは違ってだいぶわかりやすいです。特徴もリエントリーとは全く違うので、リエントリーとの違いを意識しつつ、頭にいれていくといいかと思います。不整脈全体から見た頻度は少ないようですが、入院中にはよく遭遇するSVTなので、看護師さんは知らないといけない不整脈です。この異常自動能には以前やったPACなども含まれています。とりあえず機序からやっていきましょう。

 

異常自動能について

通常の心臓は洞結節が自分で勝手に興奮して脈を作り出します。この洞結節が交感神経とかでコントロールされているのが普通の心臓の脈ですね。異常自動能は何かがきっかけで心房に心筋が勝手に興奮しだす状態です。勝手に興奮しだすのは洞結節の役目だったはずですが、他の心房の心筋(心房心筋や房室結節などの心筋)が洞結節と同じように勝手に興奮して脈を作り出してしまうのが異常自動能です。リエントリーと違って特に回路が必要とかそういう条件はないので、簡単ですね。

異常自動能は心筋の細胞が勝手に興奮しだすので、リエントリーとは全く違う特徴を有します。その特徴は大きく2つになります。

・頻脈中の心拍数が変動する。

・DCが効かない!

この2つが主な特徴です。

まずは1番目の「頻脈中の心拍数が変動する」です。異常自動能といいうのはリエントリーと違って勝手に細胞が興奮しているので、どんどん興奮したら脈は速くなるし、ちょっと落ち着いてきたら脈はゆっくりになってきます。洞結節とおんなじです。普通の洞結節も寝ていれば脈はゆっくりになり、運動すれば脈ははやくなります。それと同じように異常自動能の頻脈もゆっくりになったり早くなったり変化します不整脈中の脈が変動します。リエントリーはグルグル回るのでその周期でしか頻脈は起こらず、頻拍中の脈が一定でしたが、異常自動能は違います、頻脈中に心拍数が変動するので、リエントリーと見分ける大きなポイントになります。非常に重要なので、必ず頭にいれるようにしてください。

そして2番目に「DCが効かない!」です。不整脈治療のイメージでよくあるのが、「困ったらなんでもDCが効く」ってないですか?ありますよね。ギクってした人はたくさんいるでしょうが、こういう人少なくありません。実は異常自動能はDCが効かないのです。洞結節と基本的には同じです。DCをしても脈は一旦リセットされるだけで、また出てきますよね?これと同じで異常自動能でもDCをしても自動能はなくなったりしません。異常自動能を獲得してしまった原因を改善したり(つまり心房の負荷になっている事を改善したり、血行動態を改善したり…)、薬剤で自動能を抑え込んだり、鎮静して心臓も落ち着かせたり…など。異常自動能はリエントリーみたいにサクッとDCで、とかATPでサクッと治ったりがなかなか難しい不整脈です。治療に関してはまた話をしますが、大事なのは異常自動能にはDCが効かない、という事です。これは大きな特徴なのでしっかり頭に入れておいてください。

あと、おまけで覚えるなら、異常自動能はsinus と非常に動きが似てますが、sinusと決定的に違うのはP波の向きです。もしかしたら、洞結節のすぐ近くの心筋細胞から異常自動能の不整脈がでていればP波はまったく同じになってしまうかもしれませんが、多くの場合は心房の違うところから出ていますので、sinusと全然違う向きになっていたりします。例えばsinusはⅠ、Ⅱ、Ⅲ誘導で陽性ですが、右房の下の方から異常自動能の不整脈がでていればⅠ誘導は陽性でもⅡ、Ⅲ誘導は陰性かもしれません。上の2つのような重要事項ではありませんが、P波の向きは診断の助けになります。なので12誘導心電図は不整脈であれば異常自動能でも必須になります。

 

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図:異常自動能について

 

EATとMATについて

異常自動能は心臓の心筋が勝手に興奮する不整脈でしたね。特徴は頻拍中の心拍数が変化する、DCが効かない、でしたね。異常自動能にはいろいろな種類があります。下の図に羅列してみますね。

・PAC(premature atrial contraction)心房期外収縮

・EAT(Ectopic atrial tachycardia)異所性心房頻拍

・MAT(Multifocal atrial tachycardia)多源性心房頻拍

・JET(Junctional ectopic tachycardia)接合部異所性頻拍

などがあります。PACも一応異常自動能にいれているので、ここに書きました。PACはEATなどの異常自動能の頻拍が出現する前にもよくPACがポツポツ認められる事があり、前兆になったりします。ま、それはいいとして、まず下の図をみていきましょう。異常自動能はリエントリー回路とかなくて、どっかの細胞が勝手に興奮して頻脈を起こします。なので、どこの細胞が興奮して頻脈を起こすかによってちょっと呼び名が変わってきたりします。

まずEAT(異所性心房頻拍)です。EATはよく見ます。心房のどこか1つの心筋が異常自動能を獲得してしまい、興奮して頻脈を起こします。ポイントは心房の一箇所の心筋が異常自動能を持ってしまい、頻脈を起こすところです。そのため、P波の形は1つです。後で心電図の例を出しますのでP波の形を見て参考にしてください。

MAT(多源性心房頻拍)は複数の心房心筋が異常自動能を持ってしまい、いろんなところが頻脈を起こすものです。これは結構厄介でなかなか治りません、難治性の不整脈の一つです。前いた病院で、このMATに非常に難渋したので、とても印象的でよく覚えています。ちょっと心電図は手持ちでは見つけられなかったので申し訳ないです。

 

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図:EATとMAT

 

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図:EATの心電図

 

異常自動能の治療は?

治療は非常に基本的なものになります。異常自動能にはDCは効きませんので注意です。DCみたいなパッと効く、必殺技的な治療はないのです。異常自動能では不整脈っぽい治療と言うよりかは、基本的な事をするのが治療になります。ではどんな事をしていけばいいでしょうか?

まずするべき治療は鎮静です。いろんな薬剤をやってもどうしても止まらなかった頻脈が鎮静剤でパッと止まった、なんてエピソードは循環器をやっている人ならよく経験していることだと思います。また基本的ですが、電解質の補正もすぐにしましょう。K、Mgとかを適正に調整したらパッと止まったりしたりすることもよく経験します。体温が高い場合には冷やしたり体温を下げる事で心筋の興奮を抑えることができますので、体を冷やしたり、術後であれば胃に冷水を入れたりして体温を下げることができます。これは結構効くので原始的な方法ですが、バカにはできません。また血行動態を改善することも重要です。例えば貧血の場合に輸血をしたら止まったり、カテコラミンを投与しているのであれば、できるだけ下げてあげたり、利尿剤で水分を適正に引いてあげたら止まったり、と血行動態を改善することも不整脈の治療に繋がります。なので、このような基本的な事をまずやってあげる事が重要です。どんな不整脈もそうですが、①鎮静、②電解質補正、③体温を下げる、④血行動態改善(水分引いたり、カテコラミンできるだけ下げたり、輸血したり…)などの基本的な事をまずしてあげましょう

それでも止まらなかった時、薬剤を考慮していきましょう。何を使うか、これと言った正解はないかもしれませんが、よく使用されるのはNaチャネルブロッカー、βblocker、Kチャネルブロッカーなどです。具体的な薬剤で言えば、タンボコール、インデラル、ソタコールやアンカロンです。ソタコール以外は静注・内服両方あるため、効果的なものを内服にしたりでき、即効性のある治療としてでなく、予防として使用する事ができます。ここらへんの薬は本など見なくても静注量や使用の仕方、溶かし方などを覚えておく事がおすすめです。ただ注意が必要なのは副作用です。心機能を抑制する作用(陰性変力作用)があったり、低血糖があったり、甲状腺や肺線維症など結構重篤な副作用が多いので使用は最低限を心がけるべきかな、と思います。それでもなかなか止まらないこともまあまあありますので、不整脈の治療は結構たいへんです。ちなみにこれらの基本的な治療は循環器の管理の基本的な事なので他の不整脈の治療にも当てはまりますので、マスターしておくと良いかと思います。

 

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図:SVTの治療について

 

JETについて

では異常自動能のとり、JET(Junctional ectopic tachycardia:接合部異所性頻拍)について話をしていこうと思います。JETは術後のICUとかに勤めている看護師さんは見たことがあるかと思いますが、その他にはあまり馴染みのない不整脈かもしれません。よく心臓の術後に起こり、治療に難渋するため、結構悪名高い不整脈のひとつではないでしょうか。

JETは接合部の異常自動能の頻拍です。接合部は房室結節の事です。つまり、房室結節が勝手に興奮して頻脈を起こすのがJETになります。特徴としては、

・心房が収縮しない

・接合部(房室結節)の頻脈なのでP波はない。

・JETの治療は結構難しい。(DCも効かない、薬剤なども効きにくい)

などがあります。最大の特徴としては、JETは房室結節以下の頻拍なので、心房は全く関与しない、ということです。なので、心房は収縮もしないし、P波も認めません。これがJETの大きな特徴でもあり、難点の一つです。以前、心房収縮(A kick)が心機能に大きく影響している話をしたと思いますが、心機能は心房収縮がないと25%程度低下してしまいます。高齢者だと最大50%くらい落ちたりすることもあるようです。なので、JETだと心房収縮がないので、だいぶ心機能が落ちてしまうのがまず困った所です。そして、もうひとつの大きな特徴は、JETは治療が難しい、ということです。まず異常自動能なので、DCは効きませんし、多くの薬剤が効かない事が多いです。アミオダロンが最も効果があり、70%に効果がある、という報告があったりしますが、もっと効かない印象です。

手術では術後の5-10%の患児に認められ、AVSD(房室中隔欠損症)やVSD(心室中隔欠損症)、TOF(Fallot四徴症)など、房室結節やHis束付近の操作がある時に起こりやすいです。また年齢では6ヶ月未満の新生児、乳児にJETが起こりやすいことがわかっています。JETを起こすと頻脈+心房のA kickがなくなり、血圧が低下し、血行動態の悪化を招くため、心臓の術後としては非常に困った状態になります。

治療はEATやMATのところに述べた基本的な治療方法をまずしていただき、アンカロンを投与する、と言ったところです。胃に冷水を入れて体温を下げる方法鎮静にプレセデックスの使用などは結構効果があるようです。プレセデックスは結構な不整脈に効くのでJETの治療でも推奨されます。それでもどうしてもJETを抑え込むことができない場合はJETと共存する方法をとることもよくあります。具体的にどうするかと言うと、まずオノアクトなどのβblockerを使用してJETの心拍数を少しでも落とします。例えばJETが200くらいのJETだったとしたら(もちろん異常自動能なので変動するのですが…)、βblockerを入れると200⇢170くらいに心拍数をコントロールできるかもしれません。少し心拍数をおとしたところで、JETの心拍数より少し早いタイミングで心房ペーシング(A pace)をいれてやるのです。たいてい心臓の術後には一時的なペーシングリードがついているので、心房をペーシングしたりすることができます。これを利用して、JETより少し早いタイミングでペーシングしますJETの心拍数が170だとすると180くらいでペーシングを入れてやります。心拍数は少し早くなってしまいますが、心房をペーシングするので、心房が動きます。つまり、脈はちょっと早いけど、A kickを入れることができるので、JETより血行動態的にはましな状態になる、ということです。ちょっと難しいですが、わかりましたか?不整脈を止めることはできないけど、血行動態に少しでもいいように心房をペーシングして動かし、A kickがある状態にして血行動態や状態の改善をはかるのです。たいてい心房ペーシングを入れると血圧が10くらい上昇し、血行動態が安定していきます。これで状態を立て直し、JETと共存しながら術後急性期を乗り越えるのです。どこかでアミオダロンが効いてきて、JETが止まったり、血行動態が改善してJETが止まったりします。JETという不整脈を治せませんが、JETと共存する、こんな方法も治療のひとつであり、頭に入れておくと役に立つと思います。

 

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図:JETについて

下にJETの心電図を載せます。典型的な例でP波がない、SVTです実際のところはP波は心拍数よりももっと遅いペースで認められるかもしれませんが、QRS波とまったくバラバラ、かつQRS波よりも遅いペースです。図の心電図のwide QRSですが、術後のCRBBB(完全右脚ブロック)の影響でこのような波形になっています。VTじゃないですからね。ここらへんの鑑別は術直後の心電図があれば見分けやすいかと思うので、イベントの前後は心電図をしっかりとっておきましょう。

ということで、JETをまとめるとJETは房室結節からでる異常自動能の頻脈です。主に術後に起こり、なかなか治療が難しい不整脈です。P波は認められず、QRS波のみというのが特徴です。またJETでは房室結節以下しか動かないため、心房収縮は認められません。心房収縮がないためA kickをいかせず、心機能は低下します。なかなか治らない+心機能が低下するやっかいなやつです。体温管理+電解質補正+鎮静しまくる+アミオダロンで治療しましょう。それでも駄目なら、βblocker+A pacing(心房ペーシング)でJETと共存をはかりましょう

 

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図:JETの心電図

 

まとめ

異常自動能に関して今回はお話しましたが、大丈夫でしょうか?異常自動能にはEAT、MAT、JETなどがあります。特徴は主に3つくらい、

・頻脈中の心拍数が変化する。

・DCが効かない。

・P波がsinus と違う、もしくはP波がない(JET)。

あたりです。治療は何度も言いますが、DCは効かないです。まずは鎮静、電解質、血行動態の安定、体温管理など当たり前の事をしましょう。それでも駄目なら、薬剤を使って行きましょう。タンボコール、インデラル、ソタコール、アンカロンなどは使いこなせれたらより管理しやすいかと思います。

 

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図:異常自動能のまとめ

ということで異常自動能についてはこんなところにしようと思います。リエントリーと異常自動能、この2つでSVTはいいと思いますので、その違いを明確にしておいてください。もう一度まとめた表を載せておきますので、整理しておいてください。

 

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図:SVTまとめ

ということで次回からはまた先天性心疾患に戻っていきます。VTとか心室性の不整脈は気が向いたらやろうとは思いますが、あまり小児で心室性の頻脈はお見かけしないので。QT延長のTdPの時とか心筋炎の時とか、そういう場面くらいではないでしょうか?次回何をするかまた考えておきます。