たまーにくるコメントは返事してませんが、一応ちゃんと読んでいます。今回は下記の様な質問があり、大事な話なのでしておこうと思い書きます。質問はこんな感じでした。
「凄く初歩的な質問で申し訳ありません。看護師です。 三尖弁閉鎖でsat70くらいの子がいます。シャントを作っています。普段このくらいこsatだと、酸素をあげすぎてspo2があがることは苦しいということはなんとなくわかりますが、はっきりとした理由がわかりません。教えて頂けますか。」
質問の感じからしてしばらく循環器をやっている看護師さんではないかな、と思います。おそらく酸素あげてSpO2上げるとしんどくなるっていつも言われているし、臨床的にもそうだけど理由がわからない、今更聞けない、、、みたいな感じかな、と思います。気持ちわかります。なんとなく当たり前みたいな空気流れているし。。状況違ってたらすみません。この質問はみなさん秒で答えられますか?これは非常に基本的な質問ですが、秒で答えられる人は少ないのではないかな、と思います。簡単に言うと「酸素を上げるとhigh flowになるからしんどくなる」のですが、これはブログの初期に結構時間をかけて記事を書いている項目です。high flowは基本的な項目で循環器の考え方の中では最も重要なところです。なので、ここはわかっていてほしいところです。基本的なところではありますが、基本が最も難しく習得しにくいのです。みなさんも得意な事とか、得意なスポーツがあればわかると思いますが、基本は最も重要であり、習得しにくいものでもあります。僕もこの考え方が身につくまでに1年以上かかっています。丁寧に全て書いてある教科書はありませんので、仕事をしながら先生や先輩に聞いて、患者さんから実感として学び取って確立しました。このブログではなるべく大事な事がわかるように文字で表現を変えて何度も説明したり、普通の教科書では書いてないほど、長々と説明しています。もし質問した人がhigh flowのところを読んでいても、なお質問をしてくるようなら、「だれでもわかる先天性心疾患」って書いた以上、わかるように説明しようと思います。
三尖弁閉鎖の血行動態
この質問だけでは情報が少ないので、正確な心臓の形がわかりませんが、おおよそ下の図のような感じだと思います。三尖弁が閉鎖しているため、静脈血はIVC・SVC⇢RA⇢卵円孔を通って⇢LA⇢肺静脈から還ってきた動脈血と混ざり⇢LVに流れていると考えられます。右室は小さくても認められ、VSDを介してLVとつながっており、その右室は肺動脈とつながっていると考えられます。シャントとしているという事はおそらく肺動脈の狭窄があり、LV⇢VSD⇢RV⇢PA(肺動脈)と血流を流すだけでは肺の血液は十分ではないため、BT shuntをたてて、大動脈の枝、鎖骨下動脈から肺動脈に管を作り、不足している分の肺血流を増やしているのだと考えられます。ズラズラ字で説明しましたが、下の図のような血液の流れをしていると考えられます。
図:TAの血行動態
この患児の血液の流れをもっと単純に考えると「静脈血がRAに集まり⇢卵円孔⇢LAで肺静脈からくる動脈血と合流⇢LVに集まり、LVから大動脈と肺動脈に駆出」と同じだと言うことがわかるでしょうか?つまり単心室であり、一つの心室から大動脈にも肺動脈にも血液を駆出しているのです。SpO2を決めるのは全身から還ってきた静脈血と肺静脈から還ってくる動脈血の混ざり具合によって決まります。わからない人は図を見て考えるとすぐわかると思います。
図:TAのSpO2
<SpO2について>
この患児のSpO2について考えていきます。静脈血のSpO2を60%としましょう。(実際大体60-70%くらいかな)肺静脈から還ってくる動脈血は肺が問題なければ当然100%です。身体中の全ての血液を10とすると、全身に5、肺に5流れる場合は60%の血液が5、100%の血液が5になります。LAで混ざる血液は60%と100%のちょうど間の80%になり、LVに流れる血液も80%、全身にも80%、肺にも80%の血液が流れ、全身のSpO2を測ると80%になります。このように肺と全身に同じだけの血液が流れた場合には大体80%前後にSpO2になります。今度は肺に7.5流れて、全身に2.5流れる状態を考えましょう。全身に2.5流れると言うことは全身から還ってくる静脈血60%の血液は2.5しかありません。それに対して、肺に7.5流れているので、肺静脈から還ってくる100%の血液は7.5もあります。LAで合流するとSpO2は(60%×2.5+100%×7.5)/10で計算でき、90%と言うことになります。全身に2.5、肺に7.5、つまり肺に全身の3倍の血液が流れた場合に、SpO2は90%になると言うことです。
<high flowについて>
high flowのところで話しましたが、肺に血液が多く流れると肺はしんどくなります。肺に血液が多く流れる事をhigh flow(ハイフロー)といい、すごくポピュラーに使われる言葉にも関わらず、あまり教科書で説明がありません。高肺血流とか書いてある事が多いかな?肺に多く流れると言うのは何が基準に多いかと言うと、全身に流れる血液が基準となっています。全身に流れる血液より多く肺に流れればhigh flow(ハイフロー)、肺に流れる血液が少なければlow flow(ローフロー)です。low flowは全然しんどくありません。TOFなどがlow flowの代表的な疾患ですが、TOFはしんどくないので、呼吸がハアハアすることはありません。体重もよく増えます。対してhigh flowの代表的な疾患のVSDなどではハアハアして呼吸が早く、ミルクもなかなか飲めずハアハアするので、体力も多量に消費して体重が増えません。臨床経験があれば納得が行くかな、と思いますが、high flowはしんどいのです。新生児の先天性心疾患は「肺にいくら血液が流れているか」を考えることが全てです。コレ以外は枝葉です。みんな生まれた子がどれくらいhigh flowなのかを考え治療計画をしているのです。先天性心疾患ってかなり単純なんです。極論を言えば、high flowか違うか、これだけです。なので、頑張ってここだけは押さえることをおすすめします。
high flowがしんどいのはわかったが、SpO2が低いのはしんどくないのか?と多くの人は考えるでしょう。新生児はお腹の中でSpO2:70-80%くらいで生きていたので、コレくらいのSpO2ではまっっったくしんどくありません。みんな平気にしています。僕らはいつもSpO2:100%近くで生きているので、90%くらいに下がったらかなりしんどいですが、新生児は慣れているので、なんともないのです。さすがにSpO2:70%を切ってくると低酸素でしんどくなるでしょうが、70%くらいで低酸素で蘇生になることはまずありません。もちろん新生児がSpO2;90%とか、SpO2が70-80%よりも高くなっても全然しんどくないのです。普通のnormal heartの新生児はSpO2:100%くらいですが、全くしんどくないですよね。
症例に戻ると・・・
ではこの三尖弁閉鎖の子に戻りましょう。もうわかると思いますが、「この子の酸素濃度(SpO2)を上げる」という事は実質、肺に流れる血液を増やす事になるのです。そうでないとSpO2はあがりません。上の例に示したように肺と全身1:1で血液を流した場合にSpO2は大体80%になります。酸素を上げてSpO2が上がるのは、酸素によって肺血管抵抗が下がり、より肺に血液が流れやすくなるため、肺に流れる血液が増えて肺静脈の動脈血も増え、結果としてSpO2が上がったのです。単心室の体の中で起こっている事はこういうことなのです。なので、SpO2を上げたらしんどい理由は肺の血液を増やしているため、しんどくなっているのです。high flowを助長しているのですね。SpO2が上がるから肺の血液が増えるのではなく、肺に流れる血液が増えた結果この心臓であれば結果としてSpO2が上がった、と言うことです。なので、しんどくなったのです。心臓の形などを考え、その子にあわせて酸素を投与しないと逆にhigh flowにさせてしまい、しんどくなる、という結果を招くことが先天性心疾患にはたくさんあるのです。(むしろ7〜8割くらいはhigh flowの疾患なので、単純に酸素投与するとしんどくなるケースの方が多いです。)
めっちゃくどくど説明しましたが、わかってもらえたでしょうか?これでわからなければ、high flowの記事を読み返してみてください。それか機嫌のいい時に担当の先生に聞いて理解するしかないと思います。普段の行いが良ければ、ちゃんと答えてくれるかもしれません。いくつか前の記事に目次がのっているので、その基本の項目にhigh flowの事とかが書いてあります。「基本」ってめっちゃ大事です。読まなくても題だけ見たらわかるわ、って人以外は小児循環器を理解したければ、知っておいてほしいところです。後ついでに言うと、VSD、TOF、HLHSの疾患を押さえておくとなおいいかな、と思います。
という事で質問の答えについて書きました。次こそ不整脈に行きたいと思います。記事の内容は書けたのですが、図に苦戦していてアップできていません。すみませんが、ちょっとまっていてください。