誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

不整脈:心房性期外収縮(PAC)について  〜基本41〜

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今回は心房性期外収縮について話をしていきますね。PAC(premature atrial contraction)とよくみなさんが言っているやつの事です。前回の不整脈の表を見ると、PACは上室性不整脈にあたります。上室性不整脈っていうのは、心室より上(大雑把に言うと心房)から出ている不整脈の事です。上室性不整脈にはPACとSVT(上室性頻脈)があります。この上室性不整脈には特徴があります。それは、上室性不整脈は基本的には「narrow QRS波」だと言うことです。

心房で不整脈が起こるのですが、その不整脈は基本的には心室に伝導します。しかし、心房と心室は基本的には電気を通しません、唯一電気を通すのが房室結節です。房室結節を通った電気はHis束⇢左右の脚⇢左右の心室へと電気が伝わります。心房の不整脈は刺激伝導系を伝って電気が伝わるため、一瞬で電気が伝導します。一瞬で電気が伝導するため、QRS波はnarrow QRS波になります、これが上室性頻脈の基本です

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図:上室性不整脈はnarrow QRS

なので、基本的には上室性不整脈である、PACやSVTはnarrow QRS波の不整脈になるのが基本です。これは非常に大事な事で、後々話す、心室不整脈などと区別する時にまず見る大きなポイントになります。見分けるためのポイントはやはり正常時の普段の心電図です。普段の心電図のQRSの波形と不整脈の時のQRS波の波形が同じ波形ならば、上室性の不整脈の可能性がかなり高くなってきます。なので、基本的には上室性不整脈ではnarrow QRS波であり、narrow QRS波の頻脈とかだったら、大体は上室性の頻脈なので、そう考えてもらったらいいです。

 

例外もあります、wide QRS波でも上室性の不整脈の事が…

先程、narrow QRS波の不整脈なら大体上室性の不整脈、と話ましたが、wide QRS波だったらどうでしょう?おそらく普段みなさんは「wide QRS波ならPVC、narrow QRS波ならPAC」くらいの感じで考えているかもしれませんが、PACでもwide QRS波になることが多々あります。特に先天性心疾患の方には上室性の不整脈でもwide QRS波になることが多いです

上室性不整脈の基本はnarrow QRS波なのですが、先天性心疾患の人には普段からwide QRS波の人がたくさんいます。手術の影響とかでwide QRS波になったりとか、普段からwide QRS波の人が結構いるのです。なので、不整脈の勉強の最初に言いましたが、「正常の時の心電図(入院時のものとか、普段の心電図)」が大事になります。

下の図の例は修正大血管転位症(cTGA)の術後の心電図です。この方は普段からwide QRS波なので、上室性頻脈(SVT)になってもwide QRS波になります。一見、この波形だけ見るとVT(心室頻拍)と見分けがつきにくいですが、これは心房から出た、上室性頻脈(SVT)です。普段の心電図と頻脈時の心電図を比べるとQRS波の形は同じになります。図にPVCの時の波形も載せていますが、全然違う波形になっていますね?このように「普段のQRS波と同じ形なのか、違う形なのか」は先天性心疾患では非常に大事です。そしてこれは頭を使わなくても普段の心電図と比べるだけで、わかります。なので、「上室性の不整脈は基本的にはnarrow QRS波だけど、wide QRS波の事も多く、判別には普段の心電図が大事」と頭に入れておきましょう。

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図:上室性の不整脈でも例外が…

また上室性の不整脈であれば、必ずP波があります。心房で不整脈が起こるので、当たり前ですね。このP波を探す事も非常に大事です。でも臨床で診ていると、P波を探しても正直はっきりわかることは少ないです。この例にあげている心電図も「多分これがP波?」みたいな感じで書いていますが、こんな感じでかなりわかりにくいです。知識として上室性の不整脈にはP波がある、というのは知っていた方が良いとは思いますが、これで判別するのはムズカシイのです。しかし、QRS波の形は比較的判別しやすいです。なので、P波がわからなかったとしても、QRS波の形は必ず確認するようにしましょう。

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図:上記のまとめ

 

PACpremature atrial contraction:心房性期外収縮

めっちゃ前置きが長くなりましたが、ここからPACについて説明していきます。PACは心房性の期外収縮です。心房のどこかの心筋細胞が突然興奮する事です。単発で終わるので、期外収縮と言います。このPACが出るとどうなるでしょう?大体は心房を伝わって、房室結節に伝導して、刺激伝導系を通って心室に伝わります。なので、PACが突然出ると、P波とそれに続くnarrow QRS波が出てきます。これがみなさんが想像しているPACではないか、と思います。しかし、実はPACは心室への伝導の仕方が3つあるのです。

・普通に伝導

・PAC with block

・変更伝導

この3種類あります。なのでこれを説明していきますね。

 

PAC:普通に伝導

まずは図のように「普通に伝導」です。これは最もわかりやすい形です。PACが出て、それが普通に心室に伝導していく形です。房室結節⇢His束⇢左右の脚⇢心室の心筋へと普通に刺激伝導系を伝わるので、narrow QRS波がP波の後に続きます。これが普通のPACの形です。

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図:普通の伝導

 

PACPAC with block

次にPAC with blockです。これはどんな形かと言うと、手前の脈からかなり早いタイミングでPACが起こる場合にPAC with blockになります。不応期の話を覚えていますよね?不応期は房室結節が一番長いので、前の脈からすぐのタイミングでPACが出ると、房室結節がまだ不応期を脱していない時があります。房室結節が不応期を脱していないと、PACの電気を心室まで伝える事が出来ません。なので、図のようにPACが出ただけで、後に続くQRS波が出ないことがあります。これがPAC with blockです。

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図:PAC with block

P波は実際のところ、T波とかに重なったりする事が多くてわかりにくい場合が多いです。下の心電図をみてもらうとわかりますが、P波がT波の中にあり、わかりにくいです。その後のQRS波もでないので、一見なんか脈が延びたように見えます。しかし、これはPAC with blockであり、SSSとかAVBではありません。PACが早いタイミングで出ただけです。なので、こんな心電図を診た時には隠れたP波を見つけて、PAC with blockが出ている、と判断したらいいと思います。次はちょっと複雑な変更伝導です。

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図:PAC with blockの心電図

 

PAC:変行伝導

PACの最後の伝導様式は変行伝導です。これはPAC with blockのタイミングよりちょっと遅れてPACが入った場合に起こる伝導様式です。変行伝導では、PACの前の脈からまあまあ早いタイミングでPACが入るのですが、PAC with blockほど早いタイミングではないので、房室結節やHis束は不応期から脱しています。しかし、右脚or左脚どちらかの「脚」がまだ不応期から脱していません。こんなタイミングでPACが入るとPACからwide QRS波の脚ブロックの形」で伝導します。これを変行伝導と言います。PACの後に右脚ブロックの波形でQRSが出たり、PACの後に左脚ブロックの波形でQRSが出たりします。

実は右脚と左脚は年齢によって不応期の長さが違います。新生児期や乳児期では右脚よりも左脚の不応期が長いため、PAC⇢変行伝導で心室につながる時は左脚ブロックの形で繋がります。でも大きくなると(幼児期以降)は左脚よりも右脚の方が不応期は長くなるため、PAC⇢右脚ブロックという形でつながることになるのです。大人では変行伝導と言えば、PAC⇢右脚ブロックなのですが、小児では年齢によって、左脚ブロックの変行伝導が認められるのでちょっと注意が必要になります。とは言え、左脚なのか右脚なのかは覚える必要はないです。とりあえず、PACからwide QRS波につながる変行伝導っていうのがある、って事を頭にいれましょう。なので、もしかしたら、皆さんの中にはPAC⇢変行伝導をPVCと勘違いしていた人がいるかもしれません。これはよくあることなので、間違えないように注意しましょう。下の図と心電図の例を載せておくので参考にしてください。

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図:PAC変行伝導

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図:変行伝導の心電図

 

まとめ

今回は上室性不整脈とPACの話をしました。まず上室性不整脈は、上室性不整脈に基本narrow QRS波が続く事を話しました。基本はそうですが、先天性心疾患ではよく元からwide QRS波の人がいるので、wide QRS波になることも結構多いです。なので、元の心電図と比べる事が重要です。またP波を探すのも助けになると思います。(しかし、かなり難しかったりしますが)

また今回は心房性期外収縮(PAC)の話をしました。PACは3つの伝導様式があります。普通に伝導、PAC with block、変行伝導の3つです。普通に伝導はPACが出た後に普段出ているQRS波が続く伝導様式です。次のPAC with blockはPACの前の脈からすごく早いタイミングでPACが出るため、房室結節がまだ不応期に陥っている状態です。そのため、PACは出るけど、心室には伝導せず(房室ブロックのような状態)、PACの後のQRS波はなしになります。これがPAC with blockです。最後に変行伝導です。変更伝導は前の脈から割と早いタイミング(PAC with blockほど早くはない)でPACが入るため、房室結節、His束は不応期を抜けているが、右脚もしくは左脚が不応期から脱していない状態です。そのため、PAC⇢wide QRS波の右脚ブロックもしくは左脚ブロックの形で伝導します。これが変行伝導です。PVCと間違えやすいので、変行伝導、気をつけましょう。

 

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図:PACまとめ

ということで今回はPACについて話しました。PACとセットでPVCの話をした方がわかりやいすかな、と思いますので、次回はPVCを話していきますね。