誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

不整脈:上室性頻脈(SVT) IART(心房内回帰性頻拍)、AFL(心房頻拍)について  〜基本47〜

<スポンサーリンク>

長々とおやすみしていてすみません。久しぶりに不整脈の話の続きをしようと思います。

前回まではAVRTとAVNRTの話をしました。今回はリエントリー性のSVTの最後、IART(心房内回帰性頻拍)の話をしていきたいな、と思います。実際、先天性心疾患を扱っている病院で働いていると、これも結構多いような印象があります。特に術後の患者さんで成人になっている人とかには結構な確率でこのIARTが起こります。なので、個人的にはAVNRTとかはあまり遭遇することがありませんが、IARTは割とよく見ています。

IARTの中に皆さんのよく知っているAFL(フラッター)や心房の切開線の回りを回る切開線リエントリー頻拍(incisional reentrant tachycardia)なども含めて話をします。(これらが正確に定義としてIARTに含まれるのかはよくわかりません。が似たようなものなので一緒に話をします。)心房の切開線の回りを回っているものも、三尖弁の回りを回っているものも心房内の一部なので、まとめてIARTとして話をしていこうかと思います。IARTで重要なのはまず、リエントリー回路に房室結節がふくまれていないことです。これが一番大事になってきます。次に大事なのが、心房のレートと心室のレートが1:1では無いことが多い、ということです。AVRTやAVNRTとの違いを意識して頭に入れていくのがポイントかな、と思います。では、いってみましょう!

 

IARTの回路に房室結節は含まれていない!

IARTはintraatrial reentranl tachycardiaの略です、日本語にすると心房内回帰性頻拍です。つまり心房の中でグルグル回る頻脈であり、リエントリー回路は心房の中にあります。このIARTにはみなさんのよく知っているAFL(フラッター:心房頻拍)なども含めて話をします。AFLは三尖弁の回りを回るリエントリー性の頻拍(正確に言うとIVCと三尖弁の間⇢三尖弁の回り⇢心房中隔を上行⇢SVCの前⇢右房自由壁を下降する…)ですが、AFLも心房の中でグルグル回っているので、これもIARTの一部として話をしています。先天性心疾患の患者さんでよく見るのが、心房の切開創の回りをグルグル回るリエントリー性の頻脈です。(上にも書いてあるように切開線リエントリー頻拍incisional reentrant tachycardiaと言う名前があるようです。)手術をする時、ほぼほぼ心房を切開するので、大体の患者さんには心房に切開創がありますが、手術で切ったところは電気を通しませんので、その回りを旋回するように電気が回ってしまうのです。下の記事に機序について長々説明している記事をリンクしておきますので、よくわからない人は下の記事を参考にしてください。下の記事で説明しているのが、まさにIARTの頻脈です。

<リンク:リエントリーについて>

www.inishi124.com

こんな感じで心房の中の電気を通さないところがあると電気は電気を通さないところを迂回して回りを回っていきます。回りを回る時に回り終わった時に最初の心房筋が不応期をだっしていると、また回ってきた電気刺激に反応してもう一回電気を通さないところの回りを回りだします。これが繰り返されると、リエントリー性の不整脈ができてしまいます。つまり心房の中で電気を通さないところがあればその回りを回りだす可能性があると言うことです。心房の中で電気を通さないのは三尖弁などです。そして先天性心疾患であればだいたい手術をしていますので、手術の切開創がありますので、そこも電気を通しません。つまり手術の切開創の回りや三尖弁の回りをIARTは回ります。心房内でリエントリー回路を形成しているので、IARTと呼ばれています。最も重要な点は心房内をグルグルまわるので、リエントリー回路に房室結節が含まれていない事ですリエントリー回路に房室結節が含まれているのがAVRTAVNRTでしたが、房室結節が含まれていないところがIARTと決定的に違うところなのです。では房室結節がリエントリー回路に含まれているのと、含まれていないのでは何が違うのでしょうか?

 

f:id:inishi:20210201213732j:plain

図:IARTのリエントリー回路について

 

f:id:inishi:20210201213752j:plain

図;AFLの回路について 下の*に説明がありますが、読まなくていいです。

  • ちなみに知らなくてもいいかもしれませんが、AFL(心房頻拍:フラッターとよく言われます)の回路は正確には上の絵のような回路ではありません。詳しく知りたい人は教科書などを参考にしてもらうといいですが、AFLは通常、IVCと三尖弁の間⇢三尖弁の回り⇢心房中隔を上行⇢SVCの前⇢右房自由壁を下降するように三尖弁の回りを反時計回りに回ります。下図を参考にしてみてください。そのため模式図で書いたような三尖弁の回りを回るものはちょっと不正確になりますので一応書いておきます。ま、結局三尖弁の回りではあるんですが。
  • また三尖弁の回りをまわるものがあるなら、IVCやSVC、CS(冠静脈洞)の回りを回るものがあるはず、と思った方もいるかもしれませんが、実はIVCやSVCのまわりは回ることができません。上の図のようにSVCとIVCをつなぐ分界稜(crista terminalis)は電気を通しませんので、IVCやSVCの回りを回ることができないのです。またIVCとCSにも静脈弁(Eustachian valve:ユースタキオバルブ?ユースタキアンバルブ?なんて呼ぶか正確にはわかりません。。。この弁は胎児の時にIVCの血液を卵円孔に送るため存在していたような弁で、ほとんど残ってない人から結構残っている人まで様々です。)という弁があり、IVCとCSをつないでおり電気を通しません。そのため、IVCの回りやCSの回りを電気が回ることはありません。なので三尖弁の回りを回るものしかないのです。AFLもIVCと三尖弁とか、三尖弁とCSをアブレーションで焼いて電気を通さない線でつないでやるとAFLは起きなくなります。なので、AFLっていうのは三尖弁の回りっていうより心房の中を大きく回っているという方がイメージがあっているかもしれません。結局三尖弁の回りではありますが。。

 

房室結節が含まれているリエントリー回路と含まれていないリエントリー回路

リエントリー回路に房室結節が含まれているのと含まれていないのでは何が違うのか、ここでは考えていきたいと思います。それには、まずは心房心筋と房室結節の伝導速度を知っておかないといけません。おそらく以前にも記事にしたことはあると思いますが、大事なので、もう一度おさらいをしましょう。心臓の各部位はそれぞれに伝導速度が違います。まずは心房や心筋などの普通のポンプとして働く機能的な心筋の伝導速度です。心房や心室などの普通の心臓の心筋の伝導速度は大体1m./秒くらいの伝導速度です。不整脈の最初の方で話をしたかもしれませんが、プルキンエや右脚・左脚など、「赤い高速道路」は普通の心筋よりずっとはやく4m/くらいと4倍も早いのです。なので、刺激伝導系を通ると4倍も伝導が速いのでnarrow QRSになるのです。それは良いとして、普通の心房は1m/秒なのに対して、房室結節の伝導速度は超遅いです。房室結節は0.1/秒程度です、つまり普通の心房の1/10程度の速度です。房室結節は激遅な細胞なのです。リエントリー回路に房室結節が含まれているAVRTAVNRTは房室結節が激遅なため、リエントリー回路を1周回るのに結構時間がかかってしまいます。なので、AVNRT150-200bpmくらい、AVRTでも180-220bpm程度のスピードでしかリエントリー回路を回れないのです。それに対して、IARTではリエントリー回路に含まれる細胞が普通の心筋細胞のみで構成されるので、リエントリー回路を1周するのに300bpm前後もの速さで回ることができます。つまり、IARTはAVRTやAVNRTと比べて周期がだいぶ短いです。P波の間隔がだいぶ短いです。

 

f:id:inishi:20210201213843j:plain

図:IARTとAVRTの違い

またリエントリー回路に房室結節が含まれていない事で、リエントリー回路を回る速さがだいぶ違いますので、P波とQRS波の比も変わってきます。AVRTやAVNRTなどは房室結節が含まれているため、リエントリー回路を1回回るごとに必ず1回心室に伝導します。つまりP波が1回出るごとにQRS波も1回でます。房室結節が一番不応期が長いので房室結節が反応できるということは、他のどの心筋も十分に不応期を脱しており、リエントリーで電気が回ってきても反応できるという事なので、必ずリエントリー回路を回るごとに心室も収縮し、QRS波も認められるのです。つまり、AVRTAVNRTではP波が1回でたら、QRS波も必ず1回認められます。つまりP波とQRS波の比は1:1です。AVRTやAVNRTではP波とQRS波が1:1の割合で認められますが、これはリエントリー回路に房室結節が含まれているから起こる現象になります。

 

IARTではP波:QRS波は2:13:1になることが多い

もちろんIARTでもリエントリー回路を1回回るごとに電気が伝導して房室結節を通り心室に伝導する事は可能です。しかし、多くの場合、房室結節をリエントリー回路に含まない心房内のみを回るIARTは高速でグルグルとリエントリー回路を回ります。回るたびに房室結節にも電気が伝導しますが、速い周期で電気信号がくるため、その速度で電気信号が来ても房室結節は不応期を脱しておらず、つながらない事が多いです。なので結果的にP波とQRS波の比は2:1だったり、3:1だったりすることが多いです。これは房室結節がリエントリー回路に含まれていないため、リエントリー回路を高速でまわってしまい、房室結節が不応期を脱する前に次の信号がきてしまうため、「房室結節⇢心室」にはリエントリー回路を2回、または3回まわっている間に1回しか伝導しない事がよくよく起こります。このためIARTではP波とQRS波は2:13:1などで認められる事が多いです。逆に言うと、2:1や3;1など、1:1でないリエントリー性に頻脈を見た時にはIARTを考えればOKです。AVRTとAVNRTは必ず1:1なのでP波とQRS波の関係が1:1でなければIARTです。もしくはAFとかかもしれませんが、いずれにせよAVRTとAVNRTは違うので除外して考えてOKです。

 

f:id:inishi:20210201213909j:plain

図;IARTの心電図。IARTはP波:QRS波=2:1や3:1になる事が多い

 

IARTにはATPが効かない!じゃ治療は・・DC

そして、もう一つ、房室結節がリエントリー回路に含まれていないと、治療においても重要な事が起きます。それはATPです。ATPは房室結節を一時的にブロックする薬だったので、リエントリー回路に房室結節が含まれていれば、不整脈を止める事ができます。でもIARTはリエントリー回路に房室結節が含まれていないので、ATPを打っても不整脈は止まりません。房室結節をブロックしてもリエントリー回路は房室結節と関係ない心房内のどこかをまわっているので、不整脈は止まりません。ATPを打ってもずっとリエントリー回路を電気は回りっぱなしになるのです。しかし、この性質を利用して診断に使うことは可能です。IARTなのか、AVRTなのかよくわからないことが実際の臨床ではよくあります。心電図をとってもどこがP波なのか?みたいなケースはよく経験します。またIARTでもP波:QRS波が1:1のときもなくはないです。もちろんP波がしっかりわかって、P波:QRS波が2:1だとわかれば確実にIARTですが、実際の臨床ではそんなにきれいにわからないケースもたくさん存在するのです。

そんなときにATPを診断的治療として使用することがありますATPを打ってみて、不整脈が一瞬でもとまればAVRT、まったく止まらずP波がずっと続く場合はIARTと診断できます。IARTなのか、AVRTなのか迷う時にはATPを打ってみるのはいい方法です。これもとても重要な事なので、必ず頭に入れておくと良いと思います。IARTはATPが効かないので、これがAVRTとAVNRTとの大きな違いでもあります。でもATPが効かない、と覚えるより、なんで効かないのか、を理解しておくと覚えなくてもちょっと考えれば理由がわかりますし、頭にもはいりやすいですよね。なので、必ず上記を理解してIARTにATPが効かない事を理解しておきましょう。

 

f:id:inishi:20210201213937j:plain

図:ATPを打った時のIART

ではIARTはATPが効かないのであれば、何をしたらいいでしょう?Valsalva手技やβblockerやNaチャネル遮断薬で止まることもありますし、ペースメーカーが入っていればover drive pacingなどを試してもいいでしょう。でもこれらで止まらないことも多く、確実なのはDC(除細動: 1J/kg 同期)になります。なのでIARTの場合は多くの場合、DCをすることになります。注意してほしいのはDCする前に「いつからIARTが続いているのか?」を把握する事です。IARTは心房内を高速出回っているため、心房筋は高速で動いていることになります。大体300bpm前後で心房はずっと興奮し続けることになります。こんな早い周期で興奮すると心房は収縮できず、ずっとふるえているような状態になります。ずっと震えていると血液は心室に駆出されず、ずっと心房にとどまっている状態になります。すると血液がだんだん固まってきて血栓ができてしまいます。もし不整脈が始まってから48時間たっていれば心房内に血栓ができている可能性があります

もし血栓ができた状態でDCをして不整脈が治ったとしたらどうでしょう?不整脈が治り、再び心房はふるえるのをやめ有効に動き出すため、右房や左房にできた血栓が動き出し、肺や全身に駆出されてしまいます。最悪の場合、左房にできた血栓が、心房が動き出した途端に流れて脳に駆出され、脳梗塞を起こしたりするような事が起こったりします。IARTを止める際は必ずいつから不整脈が起こっているのかを探り出し、長い時間が経過していれば、経食道エコーで血栓がないか、しっかりチェックする必要があります。心房内の血栓は軽胸壁エコーでは十分に描出できず、経胸壁エコーではなく、経食道エコーが推奨されています。胃カメラみたいなやつです。これ起きたままでやると本当にしんどいです。かなりやられたくない検査の一つですね。経食道エコーで血栓がなければDCなどで不整脈を止めても大丈夫ですが、血栓があればまず血栓を溶かしてからでないと不整脈を治療してはいけません、だって脳梗塞になったら最悪ですからね。これは重要なのでIARTのときは必ずいつからの不整脈かを把握し、治療してしまっていいのか、しっかり判断するようにしてくださいね。

 

まとめ

ということでIARTは大体頭に入ったでしょうか?簡単にIARTをまとめると、

 

・IARTはAFLや切開線の回りを回るものなど心房内で回るリエントリー。

・IARTのリエントリー回路には房室結節がふくまれていない。

・房室結節がふくまれていないので、リエントリー回路を速く回る。(300bpm前後)

・リエントリー回路を速く回るので、2,3回に1回しか心室につながらない。

 ⇢ つまりP波:QRS波=2:1または3:1などになる(1:1にならない)

・房室結節がふくまれていないので、ATPが効かない。

・IART⇢ATP効かない、AVRTやAVNRT⇢ATP効く。これを利用して診断的治療もOK。

・IART開始後48時間経過していれば血栓の有無をチェックしてから治療を。

 

大体こんなところになります。IARTが心房内の切開線のまわりや三尖弁などのまわりを回り、房室結節がふくまれていないからリエントリー回路を回る周期が速く、P波は300bpm前後になります。速いため、房室結節は不応期になってしまい、2回もしくは3回に1回しか反応できず、P波:QRS波は1:1にはならないことが多く、2:1や3:1によくなっています。そして房室結節がリエントリー回路にふくまれていないからATPも効かず、治療には薬剤も効かなかったりすることも多く、最終的にはDCをすることが多いです。治療をする前にはどれだけ不整脈が続いていたかをチェックし、48時間以上続いていれば経食道エコーで血栓の有無をチェックするようにしましょう。ま、簡単に言うとこんなところです。

 

長々とリエントリー性のSVTについて話をしてきましたが、大丈夫でしょうか?AVRTとAVNRT、IARTがSVTのリエントリー性頻脈でしたね。簡単に言うと、リエントリー性頻脈はどこかをグルグル回っている頻脈でした。リエントリー回路を電気が回りだすと頻脈になります。なので、突然始まり、頻脈中の心拍数が一定でした。頻脈も突然終わります。そしてリエントリー回路に房室結節が含まれているとATPが効き、P波とQRS波は1:1で伝導していました。(AVRTとAVNRT)リエントリー回路に房室結節が含まれていないとATPは効かず、P波とQRS波は1:1でないことも多く2:1や3:1がよくあります。(IART)これらの違いを認識しつつ、SVTの9割がAVRTとAVNRTであることもしっかり覚えておきましょう!ちなみにAF(心房細動)もリエントリー性の頻脈に含まれます。マイクロリエントリーと言われるやつです、成人先天性心疾患ではまあまあ見ますが、あまり小児では見ません。なので、AFはみんな知っているでしょうし、他で勉強してくださいね。ここではとばしてしまいます。

 

f:id:inishi:20210201214033j:plain

図:リエントリーの簡単なまとめ

ではいよいよ次は異常自動能について話をしていこうと思います。(もう忘れてしまったかもしれませんが、SVTにはリエントリーと異常自動能の主に2つがあります、次回からはリエントリーじゃない方の異常自動能についてやっていこうと思います。) 先天性心疾患の分野を見ていると術後のJETやEATなど異常自動能の頻脈は結構よく見ることがあるので、統計的には9割がリエントリーかもしれませんが、体感的には異常自動能はもっと割合が多いような印象です。なので異常自動能もしっかり勉強していきましょう。