誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

総肺静脈還流異常(TAPVC, TAPVR)について 疾患33

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記事の順番が変になって申し訳ありません。前の記事を編集して消してしまったので、再度アップします。2019年12月12日にあげた記事です。

 

記事を出すのが遅くなり申し訳ありません。今回からまた新しい疾患をしていきたいと思います。今回は理解しやすい、総肺静脈還流異常症をしていきます。これに関しては教科書を読めば大体の人が疾患をつかめると思うのですが、どうでしょうか?総肺静脈還流異常症はtotal anomalous pulmonary venous connection:TAPVCの略です。縮めるとTAPVCもしくはCをR:returnとする場合もあり、この時はtotal anomalous pulmonary returnを略してTAPVRと言います。でもどちらも同じ疾患、総肺静脈還流異常症をさしています。僕はTAPVCの方に馴染みがあるので、こちらを使っていきます。

 

総肺静脈還流異常症(TAPVC)とは

TAPVCとは「肺静脈が左心房に返ってこない疾患」の事です。通常の循環だと肺で酸素をたくさん含んだ動脈血が左心房に還ってきます。それが、左心房⇢左室⇢大動脈を介して全身に駆出されます。しかし、このTAPVCの場合、肺静脈は左房とは全然違うところに還ってきてしまいます。そのため酸素化された血液が左心房に還ってこないため、チアノーゼで困ってしまう、という疾患になります。では肺静脈が無名静脈(InnV)に還ってくるⅠaを例に血行動態を考えていきましょう。

 

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図:総肺静脈還流異常の血行動態

通常血液は全身で使われ酸素の少ない静脈血になります。全身から静脈血がSVCとIVCを介して右房に還り、その血液が右室に渡され、右室から肺に駆出されます。肺で酸素をいっぱい取り込まれた血液は赤い動脈血になり、肺静脈を介して左房に還るはずなのが、共通肺静脈という場所に4本の肺静脈が還ります。一旦共通静脈腔(common chamber)に集まった動脈血は垂直静脈という共通静脈腔とInnVを結ぶ血管を通りInnVに注ぎます。この垂直静脈は左肺動脈の前方を通りInnVに注ぐので、よく左肺動脈に圧迫され狭窄を起こします。(この事についてはまた後で説明します。)まとめると4本の肺静脈は共通肺静脈腔につながり、共通肺静脈⇢垂直静脈(vertical vein)⇢無名静脈(InnV)を介してSVC、右房などの静脈系に酸素の多い動脈血を送ります。静脈系に動脈血が還ってくるので、生きていくためには、酸素の多い血液をなんとか左心系に送らないといけません。どうするかと言うと、InnV⇢右房⇢心房間を通り、左房⇢左室⇢全身と動脈血を送る事になります。図に書いたものを説明しましたが、こんな感じで血液は全身へと運ばれます。

TAPVCの1つ目のポイントは心房間交通です。TAPVCではこのルートで動脈血を送るしかないので、必ずSpO2が下がります。100%には絶対ならず、90%台と言うことが多いです。なので、いくら酸素を使っても90-95%くらいまでしかSpO2が上がらない場合は疑ってみてもいいかもしれません。酸素の多い動脈血を送るルートはこれしかなく、卵円孔を介してしか動脈血を左房⇢左室⇢全身に送る方法がないので、卵円孔もしくは心房中隔欠損が開いている事がTAPVCでは必須になります。そして心エコーでしかわかりませんが、心房間交通は必ず右⇢左になります。(血液が右心房から左心房の方向に流れるという意味です。)PHがなくても必ず右⇢左になりますので、TAPVCを診断する上ではとても重要な所見になります。他の疾患であれば、大抵は心房間交通が左⇢右ですし、PHがなくて右⇢左ならかなり怪しいです。新生児の先生であれば、これがわかるようになっておいたほうがいいと思います。

2つ目のポイントはPVOです。このPVOはpulmonary vein obstractionの略で「PVO」です。そのまま訳すと肺静脈閉塞になってしまいますが、実際は肺静脈狭窄と閉塞、どちらの場合もPVOと言っています。(最近はPVS:pulmonary vein stenosisが少しずつ使われるようになってきてますが)なので、PVOといえば「肺静脈が閉塞した」と捉えずに、肺静脈が細いんだな、と考えてもらった方がいいです。この肺静脈狭窄=PVOですが、TAPVCでは大きな問題になります。上の図で説明したⅠa型では垂直静脈(vertical vein)が左の肺動脈に圧迫され、狭窄を起こすことがあります。図には表せてないですが、垂直静脈は心臓の裏(背中側)の共通静脈腔(common chamber)から出て左肺動脈の前を通り、心臓の最も胸側(前側)にあるInnVに流入します。垂直静脈は後ろから左肺動脈に圧迫されよく狭窄し、PVOを起こすのです。すると困ったことが2つ起きます。1つは酸素化された動脈血が肺静脈⇢共通静脈腔⇢垂直静脈⇢InnV⇢右房⇢心房間⇢左房⇢左室と流れ全身にいくはずが、垂直静脈が狭窄するせいで、流れにくくなってしまいSpO2が低下してしまいます。実際心エコーで垂直静脈の狭窄部のflowを計測し、meanPGが4mmHg以上(平均で1m/sec以上のflow)であれば、注意した方がいいです。6mmHg以上あれば、確実にPVOなので、手術を急ぐ必要があります。もう一つの困ったことは肺鬱血です。肺静脈が還ってきても出口である垂直静脈が狭窄しているので、血液が出て行けず肺静脈の血液は渋滞を起こしたような状態になってしまいます。すると肺静脈の血液がはけないので、肺動脈にも流れにくくなり(肺高血圧になる)、流れにくい肺に血液を送るため右心室が頑張らないといけなくなりしんどい状態になってしまいます。これがPVOの2つ目の困ったことです。簡単に言うと、PVOがあると動脈血が全身に行かずSpO2が低下し、PVOのため、渋滞をおこして肺鬱血になる、ということです。PVOはとても重要なポイントなので、TAPVCが診断できたら、直ちに「PVOはないか?」と疑ってかからなければいけません。SpO2が酸素を使っても80%台であればPVOの可能性がかなりたかいですし、呼吸がハアハアしていて、レントゲンで肺が真っ白であればPVOによる肺鬱血の所見なので、心エコーがなくてもわかるので、注意して見るようにしましょう!

まとめると、

 ・TAPVCは「肺静脈が左房にかえってこず、静脈系に還ってくる」

 ・生存には心房間交通が必須であり、必ず右⇢左に流れる。

 ・PVOに注意。SpO2<90%、Xpで肺鬱血あり。PVOあれば手術!

まとめちゃうと3行なので簡単ですけど、TAPVCは心房間交通とPVOをマスターしておけば、半分はわかったようなものです。なので、とても重要なのでりかいするように頑張ってください。

TAPVCは「肺静脈が左房に返ってこない疾患」です。今回はDarling分類のⅠa型を例にしましたが、無名静脈(InnV)に還ってくる他にも、いろんな所に還ってくるパターンのTAPVCがあります。この肺静脈はいろんな所に還ってくるのですが、肺静脈がどこに還ってくるかで一応分類ができており、Darling分類というのがよく使われている分類です。次はこの分類について考えていきましょう。

 

TAPVCの分類

TAPVCには一応分類があります。分類の名前は全然覚えなくてもいいですが、「Darling分類」と言う分類です。下の図をみてください。教科書にも必ず書いてあるので、載っける必要もないかと思いましたが、一応・・・。

 

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図;TAPVCのDarling分類

正直分類は見ればわかるので覚えなくていいです。でもこれ、わりと分類がわかりやすいので覚えようと思わなくても覚えちゃうかもしれません。まず心臓の上に還ってくるのがⅠ型です。心臓に還ってくるのがⅡ型です。そして心臓の下に還ってくるのがⅢ型です。いろんなところには別々に還ってくるのがⅣ型です。こんな感じで全身の上からⅠ、Ⅱ、Ⅲと数字がついているのです。英語にしているだけなのですが、Ⅰ型はSupra-cardiac、Ⅱ型はCardiac、Ⅲ型はInfra-cardiacと言います。訳すと心臓の上、心臓、心臓の下という意味です。循環器内科や心臓外科の先生が「TAPVCが生まれました。インフラです。」とか言っているのを聞いたことがあるのではないでしょうか?インフラとはInfra-cardiacの事でⅢ型のTAPVCの事を指しているのです。こんな感じでまず大まかな分類を覚えましょう。心臓のどこに還るか、それだけです。

 

 ・TAPVCは肺静脈がどこに還るかで分類されている。

 ・心臓の上はⅠ型(Supra-cardiac)、心臓はⅡ型(Cardiac)、心臓の下はⅢ型(Infra-cardiac)。

これが大まかな分類です。これにもうちょっとだけ付け足すと、Ⅰの後ろにaとかbとか付きます。

ⅠとⅡだけaとbがあるのですが、心臓(右房)から遠い所からabとついているのです。ⅠaだとInnVに、ⅠbだとSVCに還ってくる場合を指しています。つまり、InnVの方が右房から考えると遠いのでⅠa、InnVよりSVCの方が右房に近いのでSVCに還るためⅠbとなるわけです。Ⅱの場合も一緒で、Ⅱaは冠静脈洞(CS)に還る場合を指し、Ⅱbは右房に還る場合を指します。右房から遠い方からaとつけられるんです。そのため、右房より遠いCSに流入する場合をⅡa、右房そのものに還ってくる場合をⅡbというのです。ⅢはaとかbとかなくてIVCや肝静脈、門脈などに還る場合を全部Ⅲ型と言っています。つまり心臓より下にある静脈に還っていればⅢ型ということになります。Ⅳ型は例えば、Ⅰ本の肺静脈はSVCに還り、残りの3本が右房に還っている場合などをいいます。つまり還っているところがいろいろある場合がⅣ型というわけです。こんな感じでTAPVCは分類されているのです。

 ・心臓(右房)から遠い方からa, bとつく。

こんな感じで分類されているのです。いろんな疾患の分類がありますが、その中でもわりとわかりやすい分類ですので、できたら一回頭にいれておきましょう!すると覚えなくても使える知識になるはずです。

 

まとめ

TAPVCの形はなんとなく頭にはいりましたか?最近の疾患は難しかったので、それと比べるとかなり簡単かと思います。

まとめると・・・

 ・TAPVCは「肺静脈が左房に返ってこない疾患」

 ・TAPVCは心房間交通が必須。しかも必ず右⇢左に流れる。

 ・PVOに注意。SpO2<90%、Xpで肺鬱血あり。PVOあれば手術!

 ・TAPVCは心房間が開いている事が生存に必須。

 ・分類は肺静脈が還ってくる場所(心臓の上がⅠ、心臓がⅡ、心臓の下がⅢ)で決まる。

 ・右房から遠い方からa, bとつける

 ・Ⅳは肺静脈がいろんなところに還るタイプ。

という感じになります。簡単に言うとこんな感じですね。分類とか形はこれで大丈夫かな、と思います。特にTAPVCではPVOが大事なので、これがないかどうかだけでも気を配れるようにしてください。レントゲンとSpO2でほぼわかります。PVOあれば手術を急がないといけません!では次は手術やその後などについて話していきます。