誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

小児のカテーテル検査について〜造影〜 その3 基本22

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以前、カテーテル検査のポイントは3つで、「圧と酸素濃度、造影、治療」、と話したかと思います。もうこれは適当に僕が作ったので、自分の病院では言わないようにしてくださいね。話す順番があるといいかな、と思って言ってるだけなので。

ということで、今回は2番目の「造影について」話していきます。造影は本当に単純でわかりやすい検査です。カテーテルの先から造影剤をだして、心臓の形を見るだけです。造影剤で心臓が染まるので、形がわかります。また心臓が動きながらの形がわかるので、駆出率などが計算できます。カテーテルの造影検査は字にするとほんと、こんなもんです。それだけでは芸がないので、少し画像を交えながら考えていきましょう。適応におもいついたものを羅列してみたので、この項目抜けている、っていうのがあれば教えて下さい!

 

駆出率とvolume

カテーテル検査では大体心室の造影を行います。右室、左室の駆出率と大きさを測定します。これはカテーテル心室に突っ込み、造影剤をバーっと入れ、それを前後、左右で測定し、収縮末期と拡張末期を測定し、駆出率を測定するものです。いろいろ略語とかがあってややこしいかもしれませんが、慣れですので必要な箇所から覚えていくようにしましょう。まず重要なのがLVEDV(left ventricular end-diastolic volume)です。LVEDVと書いている時は「左室の拡張末期の容積」、つまり左室が一番大きい時です。LVESVは逆に「左室の収縮末期の容積」、つまり左室が一番小さい時です。この値から計算してLVEF(左室の駆出率)を求める事ができます。またvolume(LVEDVとかの事です。よくVolumeとか言いますので、慣れてください。)は体格によって大体このくらいの大きさ、という基準があります。この基準の何%くらいなのかを示すもの(% of normal)で表記し大体LVEDVの近くに表記しています。また似たような指標で、LVEDVI「左室拡張末期のvolumeのindex」というものがあります、これはLVEDVを体表面積で割ったものです。よくindexというものもいろいろなところででてきます。このindexというのは基本的には「体表面積で割ったもの」なので、LVEDVIとかのように「〇〇I」とか「〇〇index」と書かれていれば、〇〇を体表面積で割った数なんだな、と思ってもらえればいいです。このLVEDVIも同じように基準として使っている指標ですが、そんなに出てこないので、まずLVEDVを見て、何% of normalなのかをチェックし、駆出率(EF:ejection fraction)を見るのがいいかな、と思います。慣れてくればESVやEDVIなどにも神経がいくようになりますが、まずはこの3つの値からなれていきましょう。下の図にEFの計算の仕方も書いておきますので、参考にしてください。ちなみにRVでも同じです。右室の場合はRVEDVとなります。RVEDVの方が先天性心疾患では重要になることが多いかな、と思います。TOFやRastelli手術後の患児では右室の大きさがかなり重要になります。RVのEFはLVのEFよりちょっと低いので、50%以上で大体正常かな、という感じで思ってもらったらいいかな、と思います。

 

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図:駆出率(EF)とVolume

最近、VolumeはMRIで見る、というやり方がだんだん普及してきています。MRIでVolumeをとるのは結構大変で、辺縁もよくわからない事があり、個人的にはまだ完全に信用できませんが、カテの造影よりMRIの結果を信用している、という先生も増えてきています。ま、これは忘れてもらってOKですが、そのうちVolumeはカテでなく、MRIで評価する時代が来るというのは頭にいれておいてもいいかな、と思います。

 

心室と右心室の形

心室や右心室を造影する時にもちろんVolumeも大事ですが、同時に心室の形も非常に大事になります。特に単心室の時とかです。心エコーで大体右心系の単心室なのか、左心系の単心室なのかは頑張って判断しますが、どうしてもどちらなのかよくわからない時があります。そんな時に造影をすると形や肉柱の様子から左心系か右心系かがわかることがあります。単心室において左心系単心室か、右心系単心室かは非常に重要な項目です。予後に関わってくるので、知っておきたい項目です。なので、心室の造影の際は形なども見てエコーだけではわからなかった情報も拾っておきましょう。

 

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図:心室の形

 

逆流の程度

心室の造影や肺動脈、大動脈の造影で逆流を評価する事もできます。もっとも、逆流は心エコーの方がきれいに評価できるため、参考程度になることが多いかな、と思います。エコーの所見と矛盾ないかどうかはチェックする必要があると思います。一応逆流の程度にはSellers分類という分類があり、それで程度を言い表す事もできます。一応こんなのもあるくらいでいいかな、と思います。

 

血管の走行と狭窄や拡張の有無

カテーテルでは大動脈や肺動脈、SVC、IVCなどで造影し、血管の走行を確認したり、狭窄や拡張の有無をチェックしたりします。また大動脈を造影する事で冠動脈の走行を確認したり、大人と同じように冠動脈に直接カテーテルを突っ込んで造影したりします。血管などの大きさや走行を確認することで、手術でどう繋ぐか、どう治すかの判断材料になったり、カテーテル治療の指針になったりします。これは簡単です、見たままですね。なので、あまり説明する必要もないかな、と思います。最近は造影CTから3D画像を構築したりしますので、造影の重要性も以前よりは薄れてきているかと思います。

 

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図:血管の走行など

 

その他カテでわかること

その他カテでわかることは側副血管の有無や走行、いろんなshunt(PAVFやVV shunt)の有無などかな、と思います。

側副血管(AP collateralsとかmAPCAsとか書かれています。コラテと言えば大体この事です。)とは、単心室で、Glenn術後とかFontan術後とかに大動脈やその枝から肺に延びる細かい血管です。酸素濃度が低いと肺への血流を増やそうとして、体が勝手に大動脈やその枝から肺へと血管を作り出すのですが、これが肺の血圧を上げる原因になったり、術後の胸水の原因になったり、脆くて破れやすいので肺の出血の原因になったりしますので何もいいことをしない事が多いのです。カテーテル治療でこれをコイルで潰したりして治療しますが、CTではなかなか描出できず、造影でないとこれはわからない事が多いです。

 

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図;コラテ

 

また肺動静脈瘻(Pulmonary AV fistulaPAVF)も造影でわかる重要な要素の一つです。肺動脈の造影をする際に僕らは肺静脈のreturnも重視して見ています。肺静脈がちゃんと心房に還ってきているか?肺静脈の造影されるタイミングが早くないか、などです。肺動静脈瘻とは肺動脈と肺静脈がつながってしまうシャントの事です。肺胞で酸素をもらわずに肺静脈に勝手につながってしまうので、肺動静脈瘻がある場合は肺静脈の酸素濃度が低下してしまいます。これを見るためには肺動脈を造影しないといけません。肺動脈の血液は肺に行って、肺胞の毛細血管に行き、そこで酸素を肺からもらいその後肺静脈から左房に還ってきます。肺動脈の血液は毛細血管に分布するので、普通はちょっと時間をおいてから肺静脈に還ってきます。しかし、肺動静脈瘻がある場合は肺動脈と肺静脈がつながってしまっている(シャントしている)ので肺動脈を造影するとすぐに肺静脈が写ってきます。肺動静脈瘻は酸素濃度が下がる大きな原因の一つになりますが、これは肺動脈を造影することによってわかるので、カテの重要な所見の一つになります。

 

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図:肺動静脈瘻(PAVF)

似たようなものですが、VV shuntも造影でわかります。単心室のFontan candidateに認められるSVCやIVC、InnVから肺静脈(PV)へのシャントの総称です。文字通り、静脈から肺静脈へとシャントします。これもPAVFと同様、肺で酸素化されないまま、肺静脈に還ってきてしまうので、SpO2の低下の原因になったりします。あまり大きいもので低酸素で困る場合にはコイル塞栓を行ったりします。これも下の図のように造影で発見されます。

 

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図:VV shunt

 

とりあえず造影で見るべきものを羅列してみました。でもこれを見てもあまりカテの結果はわかるようになるものではありません。今回説明した造影の検査は目で見てわかるものなので、比較的理解しやすいかと思います。次回は、疾患と絡めて、造影や圧を理解できるように説明していきます。