誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

総肺静脈還流異常(TAPVC, TAPVR)について 出生時の診断と手術について 疾患34

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前回からTAPVCをやっていますが、前回の内容は大丈夫でしょうか?今回はTAPVCの経過と手術についてやっていきます。

 

TAPVCが生まれるまで

最近の先天性心疾患はかなりの頻度で胎児エコーでわかるようになってきています。単心室などは4chをパッと見ただけでわかるので、ほとんど胎児エコーに回ってきていつ頃生まれるかわかった状態で準備ができます。しかし、胎児エコーでも結構診断が難しい疾患があり、TAPVCやTGA、CoAなどがそれに当たります。4chではパッとわかりにくい疾患が比較的胎児エコーでスルーされやすいのではないかな、と思います。しかし、これらの疾患でさえまあまあの確率で胎児エコーで引っかかってくる時代になったので、すごい時代になったな、という感じです。緊急でなにかが必要ということがかなり少なくなったのです

。その中でも前回やったCoAやTGAなどと並んで緊急になったりするのが、このTAPVCなのです。

 

出生後のTAPVC

TAPVCは実は結構診断が難しい疾患です。なんせ心エコーがパッと見ではかなり正常の心臓と近いのです。たくさんいる正常の赤ちゃんの中からこれを見つけてくるのは常にTAPVCを意識している医師でないとできないかもしれません

どういう経過か、典型的な例で話していきます。

例1) ここは某病院の新生児室。生まれてきてなんかSpO2が上がらない赤ちゃんがいて、酸素いっても100%にならず90-95%にしかならず看護師さんに言われてエコーをしてみるとあやしい共通肺静脈腔が!これは噂のTAPVCかと思い、InnVやらIVCの方やらあやしい血管がないかチェックしてみたらあった!送ろう!みたいな。

例2) ここは某病院のNICU。生まれてきた赤ちゃんがPPHNでしんどそう。酸素使ったりPHの治療をしても一向によくなる気配がない。そういえば「PPHNとTAPVCの鑑別は重要だ」みたいな事をえらそうに上司が言ってたな、TAPVCなんてなかったよな、、、と思うも、もう一度エコーをチェックすると怪しい血管(垂直静脈)があり、よくよく見てみるとTAPVCだ。。。しまった。。。こんなケースもよくあるケースかと思います。

上の2つの例は本当によくあるパターンです。見つけれたからよかったものの、ちょっと冷や汗みたいなケースは多くの医師が経験しているのではないでしょうか?実際TAPVCは共通肺静脈腔がわかりやすいケースでは見つけやすいですが、そうでないケースも多く判断が難しいケースが多々あります。そんなときはまず心房間交通をチェックしてみてください。TAPVCでは心房間が必ず右⇢左に流れています。右心房から左心房に血液が流れます。必ずです。これはTAPVCを疑う非常に重要な所見なので、心エコーをするときは必ず頭にいれておいてください。肺高血圧がなく、右心房から左心房に血液が流れていれば必ずTAPVCを疑ってよーく見直してください。

しかし例外があって、パッと見正常な心臓でも肺高血圧がある時は何もなくても右⇢左に流れる事があります。特にPPHNだと考えているときは更に判断が難しくなります。何故ならPPHNでは心房間が右⇢左に流れている事が多いからです。PVOで肺鬱血になってPPHNみたいな状態になったりすることはよくあります。これに関しては「PPHNでは必ずTAPVCを鑑別する」と覚えておく他ありません。PPHNでも感染や胎便吸引症候群などが原因であれば、レントゲンでもTAPVCの肺鬱血との違いがわかりにくい事があります。PPHNだとNOや酸素は効果がありますが、TAPVCであれば、余計肺鬱血が進行し、状態が悪化するので最悪ここで気がつくかもしれません。でもこれでは状態が結構悪くなってしまいますので、できればその前に気付いて手術ができる施設に搬送するのがベストです。

TAPVCは最初のエコーが結構むずかしかったりします。生まれたては共通肺静脈腔(common chambre)がはっていなくてしっかりわからないケース多く、一見4本の肺静脈が左心房に還ってきているように見えるケースがかなり多いです。なので必ず心房間はルーチンで左⇢右なのかを確認しておき、もし右⇢左であればTAPVCを疑いましょう。またPPHNとTAPVCのPVOは症状やエコーの所見なども似ているので間違えるケースがかなり多いですので、PPHNと診断した場合は必ずもう一度TAPVCを疑いエコーをチェックしておきましょう!まとめると

 ・TAPVCは見逃しやすい疾患。一見普通の心臓に見える事も多い。

 ・しかし、心房間は必ず右⇢左に流れている。

 ・PPHNでは症状が似ており必ず鑑別を。PPHNの治療はPVOを悪化させる事もある。

という感じです。日齢いくつでもかまいませんので、見つかり次第近くの手術できる施設に電話してすぐに送るようにしましょう。

 

TAPVCの経過

まずいつものようにTAPVCの経過を図にしたのでそれをパッと見ていきましょう。

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図:TAPVCの経過

基本的にTAPVCが見つかればすぐに手術になります。特にPVOがある場合には夜中緊急で手術をする事も普通にあります。PVOがなくて、ちょっと待てたとしてもせいぜい生後1ヶ月以内というところです。手術に関しては後ほど書きますが、肺静脈を左房にくっつける手術しかありません。手術が済めば多くのTAPVCはその後一生何もありません。再手術も必要ないし、運動制限もありません。普通と同じように暮らせます。大半のTAPVCはそのようになるのですが、一部(10%〜20%)の人はTAPVCの術後に肺静脈の狭窄をきたします。これをPVOと呼びます。上に書いたPVOと同じで、完全に閉塞していなくてもPVOと書く場合が多いです。(最近はPVSと言うこともあります。)PVOになると再手術やカテーテル治療などいろんな手を尽くしてもなかなか救うのが難しくなり予後はかなり悪くなってしまします。なので、TAPVCPVOがあるか、ないかで天国と地獄のような経過の違いがあります。下にTAPVCの経過を図にしたので、参考にしてください。

 

 

TAPVCの手術

まずTAPVCの手術について簡単に説明していきます。TAPVCは診断がつき次第手術になります。PVOが進行していれば、その場で緊急手術になることもあります。余裕があれば生後1, 2週間くらいで手術が多いのではないのでしょうか。ここでは手術について簡単に説明していきます。

 

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図;TAPVC repair

TAPVCの手術は単純です。4本の肺静脈が還ってきている共通肺静脈腔(common chamber)を左心房にくっつけて垂直静脈を切断すれば終了です。(Ⅱ型はちょっと違うけど、さして重要ではないかなと思い、書きませんでした。気になる人は教科書とかチェックしてみてください。)ケースによっては心房中隔の位置を再建することもあります。こんな感じで小さい心臓を手術するのは大変ですが、言葉にすると非常に簡単です。手術はOKとして、TAPVCでは術後に困ることがいくつかあるので、それを話していきます。手術後を管理する看護師さんが多いと思うのでここからをしっかり頭に入れておく必要があるかなと思います。

まず1つ目は肺高血圧です。術前にPVO(肺静脈狭窄)PH(肺高血圧)がある場合には術後に肺高血圧が遷延するケースがあり、肺高血圧でちょっとしんどい時期が続く場合があります。こういうケースでは薬やNOなどを使用して術直後に対応する必要があるので、基本的には必ず用意しておく必要があります。2つ目は左心不全です。TAPVCでは肺血流が右心系に還っているため、左心系に血液が流れにくく、左心室の発育が悪い事が多いです。左心室が育っておらず、心室が小さいため手術をして普通の循環にすると一気に負担がかかるため、心不全になることがあり、これも注意が必要です。負担をかけないように水分の調整や薬物でのサポートが必要となります。3つ目は心房性の不整脈です。TAPVCは心房を切ったりするせいか、心房性の不整脈が多いです。術後に心房頻拍などを認め苦労するケースがよくあります。不整脈が出るものと思い準備をしておくことが必要です。またこの不整脈は手術後も数ヶ月くらいはしばらく認められる事が多いので、抗不整脈薬を内服して退院するケースもちょいちょいあります。

しかし、これらは基本的には乗り越えられるものです。TAPVCの術後にPVOが認められた場合は深刻です。頻度は上でも記載しましたが、治療しても改善しない予後不良のものは数%です。多くても10%くらいでしょう。しかし数が少なくとも、PVOは治療してもなかなか治らない事が多く、かなり予後が悪くなってしまう病態です。上記の3つも術後早期に必ず遭遇する問題なので大事ですが、なにか一つだけ覚えろというなら間違いなくTAPVCではPVOについて知っていてほしいです。

まとめると

・TAPVCは共通肺静脈腔を左房にくっつけて治す。

・術後①肺高血圧、②左心不全、③心房頻拍(不整脈)で困ることが多い。

・TAPVCの術後にPVOあればとても大変。頻度は10%くらい。

という感じです。

 

まとめ

今回はTAPVCの出生時の診断と手術について簡単に書きました。出生時の2つの例は本当にあるあるなので、新生児の先生とかは絶対経験しているのではないでしょうか?呼吸器疾患やPPHNとよく似ているので、本当に間違えやすい疾患だと思います。しかも一見心臓は普通に見える上、肺静脈がちゃんと左房に還っているように見えちゃうケースも多いです。そんな中、多くの普通の心臓の子の中から疑って見つけ出すのはなかなか大変ですが、

「心房間は必ず右⇢左に流れている」

「PPHNでは必ずTAPVCを鑑別!」

この2つのポイントを抑えておけばきっと見つけられると思います。なのでいつか来るその日のために頭にいれておきましょう!また手術についても話しました。TAPVCの手術は共通肺静脈腔(common chamber)を左房にくっつける手術です。これで普通の循環に戻ります。術後は①肺高血圧、②左心不全、③心房頻拍(不整脈)で困ることが多いので準備しておきましょう。しかし最も恐ろしいのは術後のPVOです。頻度ははっきりとはしてませんが、10%前後と低めです。しかし、PVOになったら予後不良です。TAPVCで最も重要な事項はPVOですが、次回はこのPVOについて話していきたいと思います。