誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

不整脈:ペースメーカーについて その3;VVIについて、V leadの植え込みの位置について 〜基本35〜

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前回はAAIとRate response機能について説明しました。AAIにはいくつかポイントがありました。AAIっていうのは心房にLeadが入っている状態で使えるモードです。心房をペーシングし、心房の脈を感知して、自己の脈がでていたらペーシングを抑制(inhibit)する機能がありました。心室への電気の伝導は刺激伝導系を介して行うので、A kickも活かせるし、QRS波もnarrow QRSで収縮能も良好です。適応は洞不全症候群(SSS)のみで、房室ブロックがあったらAAIは基本的には使えません。また前回はRate response機能(レートレスポンス)についても説明しました。運動時に振動などを感知してレートを上げてくれる機能です。小児などの若い人、ペーシング率の高いペースメーカーに依存している人は良い適応になります。ペーシング率もペースメーカーを考える上ではとても重要な指標なので、チェックしておくといいかな、と思います。前回はこんな感じの内容でした。

今回はVVIについて話をしていきます。前回の知識は前提に話をするので、よくわからなければ前回のところを見てください。

 

VVIについて

VVIAAIと作動の仕方はほとんど一緒です。でも内容は全然違うのがVVIです。まず大きな違いはリードが心房ではなく、心室に入っている、と言うことです。VVIでは心室のどこかにLeadが入っており、心室をペーシングし、心室の脈を感知(sense)して、心室の自己の脈がでていればペーシングを抑制(inhibit)するように働くモードです。なので、VVI 70とかいう設定であれば、普段は心室を70bpmでペーシングしてくれます。もし自分の脈が70以上の心拍数ででていれば、自分の脈を感知してペーシングをやめてくれます。作動の仕方はこの2つだけです。ペーシングか、ペーシングしないか、この2つだけです。ここまで見たらほとんどAAIと同じですが、問題はペーシングや感知する部位が「心室」というところです。重要な事が2つあり、VVIを理解する上でとても重要な事になります。

 

VVIで重要な点について

VVIでは作動の仕方はAAIと一緒なのですが、ペーシングや感知するところが「心室」だけなので、下記のような問題があるのです。これはペースメーカーを考える上で重要な点なので、ぜひ頭に入れておきたいポイントになります。それはこの2つです。

・Leadは普通の心筋をペーシングするのでwide QRSになる。

・心房の脈は感知できないので、A kickを活かせない。

この2つがとても重要です。では、まずひとつ目の「wide QRSになる」について話していきます。ペースメーカーのLeadの付け方を知っているとすぐ理解できるかと思いますが、Leadは心外膜、つまり心臓の外側に引っ付けるのが小児では普通になります。なので、刺激伝導系を介して電気刺激を送る事ができず、普通の心筋を介して心室全体に電気を伝導します。この電気刺激は刺激伝導系の上をのらないでゆっくり心室全体に広がる事になり、心室はゆっくり収縮する事になるのです。それを反映してQRS波はwide QRSになります。収縮能も通常のnarrow QRSより落ちます。普通の心筋にLeadをくっつける⇢ゆっくり伝導⇢wide QRS⇢収縮能低下、という感じになります。これがVVIでの重要なポイントになります。大人でも通常は普通の心筋をペーシングするため、VVIではwide QRSになり、収縮能は落ちます。なので、このwide QRSっていうのはVVI、というかペースメーカーにとっての一つの大きな課題だと言えます。

2つ目は心房と心室のタイミングの問題です。VVIでは心室にしかLeadを入れませんので、心室の脈しか感知できません。なので、心房の収縮に関しては、ペースメーカーには全くわからないのです。心房が動いているのか、動いていないのか、心房が不整脈をおこしているのか、VVIではこれらのことが全くわかりません。心房の収縮がわからないと、心房の収縮にあわせて心室を動かす事が出来ませんので、A kickを活かした心室の収縮が出来ません。A kickがないと25%心機能が落ちる、と前書きましたが、VVIではA kickを活かせませんので、VVIにしただけで結構心機能が落ちてしまいます。これが2つ目の重要な問題です。後でVVIの心電図を載せますが、P波を完全に無視してペーシングしているのがわかるかと思います。VVIは心房の収縮を活かせないので、心機能にとっては結構な痛手になります。これがVVIの2つ目の大きな特徴です。

作動の仕方はAAIと似ているのですが、VVIは実情が全く違うことがわかっていただけたでしょうか?A kickを活かせず、wide QRSなのでなんか悪いところばかりのような気もしますが、全くその通りで、出来ればVVIの設定にはしたくないのが、本心です。しかし、小児では仕方なくVVIにしている事もよくあります。

 

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図:VVIについて

 

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図:VVIの心電図

 

VVIの設定にしている例

上記で話したようにVVIはA kickを活かせず、wide QRSになるため、収縮能も落ちます。なので、できればVVIの設定は避けたいところですが、それでもVVIの設定を使用するのは下記のような時です。

・新生児で先天性の完全房室ブロックなどの時。

・DDDで植え込んだが、途中でA leadが駄目になった時。

・A leadが植え込めなかった時。(傷の問題や植え込む位置がなかった時)

・ずっとAF(心房細動)が止まらないAVBの例。

こんな時はVVIの設定を使います。ちなみにVVIの適応は基本的にはAVB(房室ブロック)です。でも洞不全症候群(SSS)の時でも、最悪VVIさえ入っていれば命は大丈夫です。なので、あらゆる徐脈にとりあえず対応できるのがVVIなのです。SSSで洞結節が動かなくても、とりあえずVVIで心室を動かしておけば死にません。房室ブロックになったとしても、とりあえずVVIで心室を動かしておけば死にません。このようにVVIはあらゆる徐脈にとりあえず対応可能な設定なのです。しかし、実際のところは、洞不全症候群(SSS)の時は大抵、AAIが入っているので、VVIが入っている時は大抵、房室ブロックの場合が多いです。という事で、先程言ったようにA kickが活かせない事、wide QRS波になること、とデメリットも結構ある設定がVVIですが、VVIはAVBの時の一つの対処法になります。VVIの適応はAVBではありますが、AVBには次に話すDDDっていうモードの方が優れており、出来ればAVBの人にはDDDを入れたいところです。じゃ、VVIなんか使わずにDDDを入れればいいじゃん、と思うかもしれませんが、そうはいかない症例が小児にはあります。(小児じゃなくてもあります。)それが上に記載した、新生児例とA leadがダメになった例、A leadが植え込めなかった例、AFの例です。小児に特徴的なのは新生児例です。なので、特に新生児例ではAVBに対してVVIを使う、と言うことを頭にいれておきましょう。では少し詳しく話をしていきます。

 

図;VVIの使用

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新生児は3kgくらいしかなく、サイズがとても小さいです。先天性の完全房室ブロックは基本的にはペースメーカーが必須になります。ほっておくと心不全で死んでしまったりします。しかし、DDDのペースメーカーは新生児には少し大きいのです。DDDを入れるにはできたら6kgくらいはほしいところです。でもそこまで待てない場合はVVIの単純な機能しかない500円玉くらいのペースメーカーを植え込みます。セント・ジュード・メディカル(今はAbbott社に買収されました)社から出ていたSolus μ(ソーラスマイクロ)という500円玉くらいのペースメーカーを植え込んでいました。まだいくつか残っているようですが、残念ながらこのSolus μは廃盤になってしまいました。今後はでっかいペースメーカーを無理やり埋め込む事になるのでしょうか?出来ればこの機種は残してほしいところですが。。。残念ながら廃盤なので今後はちょっとペースメーカーの実情が変わるかもしれませんが、基本的には新生児はこのSolus μを使用して、VVIで対処している事がほとんどだと思います。ただし、この小さいペースメーカーはVVIしか出来ませんので、新生児の心機能に余裕がある人しか入れることが出来ません何度も言うように、A kickを活かせず、wide QRSになってしまうので、VVIにしただけである程度心機能は落ちてしまいます。それに耐えられるだけ心機能の余裕があれば、Solus μでVVIの設定をすることができます。なので、新生児で心機能が良い人限定ってところは注意しておきましょう。

もうひとつの例はA leadが壊れてしまったり、A leadがどうしても植え込めなかった人たちです。DDDでペースメーカーを植え込んだものの、A leadが断線したり、壊れたりしてしまって途中で使えなくなる人たちは止む得なく残っているV leadだけを使ってVVIで設定しています。また植え込む時に手術の創部の関係(胸骨を切ってまでしたくない、とか傷を大きくしたくない人)や、植え込む心筋の関係(どうしても良い植え込み場所がない人)からA leadを植え込めなかった人もVVIでいったりすることもあります。

またこういう人もちょいちょいいますが、AF(心房細動)がどうしても止まらない房室ブロックの人は、心房を無視するしかありませんので、VVI心室だけをしっかり動かすので、こういう場合もVVIを使います。これはあまり説明が必要じゃないですよね?AFは心房が1分に300回とかふるえている状態なので、ソレにあわせて心室を動かす事は不可能です。なので、こういう場合も仕方なく心房は無視するしかないので、VVIの適応になります。

という事でVVIを使用するのは基本的には房室ブロックの場合ですが、房室ブロックでは出来ればDDDという次に話すモードを使用したいのですが、仕方なく使用している例をあげました。①小さい新生児の先天性完全房室ブロックでSolus μしか入らない例、②A leadが壊れたり、A leadを植え込めない例、③AF(心房細動)がどうしても止まらない房室ブロックの例、などがあります。今パッと書きながら浮かんだのはこれくらいですが、もしかしたら他にもあるかもしれませんので、詳しい方がいればコメントに書いていただければありがたいです。

 

VVIの植え込み位置について

最後に少しVVIの植え込みの位置について話をします。AAIについては正直心房であればどこいLeadを植え込んでも変わりありません。しかし、VVIの心室のLeadの植え込み位置については少し考えないといけません。先に言っておきますが、正直、先天性心疾患の子は何回も手術をしていたりするので、植え込める場所が限られている場合も多く、位置を選べない事もよくよくあります。しかし、理想を言えば「植え込みの位置はここがいい」という所が心室Leadにはあります。では、どこに植え込むといいのでしょうか?それを話していきましょう!一応まず普通に二心室ある場合を考えていきましょう。

・右室の心尖部は一番良くないと言われている。

・右室流出路や心室中隔は割と生理的な収縮になるため、経静脈ならここに。

・右室より左室ペーシングが良い。

・心外膜なら左室心尖部がベスト。

・His束ペーシングは理想的だが小児では今の所あまりない。

CRT(心臓再同期療法)に関してはそのうち話しますが、今回はVVIでLeadを心室に一本だけ入れる場合にどこが一番いいか、という話をします。Leadの植え込み位置はとても重要です。昔は結構心尖部に植え込んでいるケースがありましたが、ここはあまり良くないと言われております。ペースメーカー由来の心不全や拡張型心筋症なども認められたため、基本的には右室の心尖部は推奨されません。右室なら右室流出路や心室中隔の方が生理的なので、良いと言われています。確か収縮は生理的に近いので、心尖部よりいいのはなんとなくわかります。しかし、右室のLead植え込みよりも左室のLead植え込みの方が良いと言われています。もちろん大事なのは左心室の収縮なので、これは感覚的にもすぐにわかりそうですね。右心室でペーシングした場合、左心室に電気が波及するのに時間がかかります。図を見てもらうとわかると思いますが、部位によっては左心室に電気が到達する時間にかなり差ができてしまうため、左心室全体で見ると部位によってかなり電気が到達する時間差ができ、収縮に悪影響を及ぼしてしまいます。なので、右室ペーシングよりも左室ペーシングの方がずっといいのです。左心室ラグビーボールのような形をしているので、特に左室心尖部でのペーシングはラグビーボールのような心臓が中心から外側に向かって収縮していくため、良いと言われています。なので、Leadの植え込み位置の理想としては

 (悪い)右室心尖部⇢右室流出路(中隔)⇢左室自由壁⇢左室心尖部(良い)

となります。後にいけば、いくほどいい植え込み位置と言うことになります。ペースメーカーを入れるのは単心室の場合も多く、一番いいのは、体心室の心尖部(右室型単心室だったら右室の心尖部に、左室型単心室だったら左室の心尖部)が良く、一番避けたいのは、主心室ではない方の心室の心尖部です。

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図:心室Lead植え込み部位

最後にちょっとHis束ペーシングについて話をします。His束ペーシングについては全然触れていませんでしたが、基本的に心外膜でLeadを入れる小児ではやっていません。経静脈で入れられる体格であれば可能だと思います。His束ペーシングは何かって言うと、房室ブロックの場合、His束から先は右脚、左脚と刺激伝導系が正常につながっています。なので、His束をペーシングしてしまえば、電気は刺激伝導系を通して右室、左室に伝導するため、narrow QRS波のいい収縮になる、という考え方です。確かに理想的ですね。実際に僕はやっていないのでわかりませんが、なかなか難しいらしく、植え込みの不成功が多かったり、植え込めたは良いけど、閾値がとても高くて困ったり感度がすごく低かったり…といろいろ問題点はあるようです。ただ、刺激伝導系を直接ペーシングするHis束ペーシングは正常の心臓と同じ伝導様式であり、刺激伝導系に乗った電気が一気に心室に伝わるため、narrow QRSになって良い収縮能が期待できます。なので、非常に有用な方法だと思います。いずれ話すCRT(心臓再同期療法)に比べても良い成績を出している、という報告もあり、期待できるペーシングの方法だと思います。まだいろいろ課題はあるようですが、将来的には小児でも心外膜でHis束ペーシングが普通にできるようになれば本当にいいな、と思います。(解剖学的には難しいか?)

 

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図:His束ペーシング

 

まとめ

正直書き始める前はこんなにVVIで話す事があるとは思っていませんでした。ちょっと難しいかもしれませんが、簡単に言うと、VVIは心房のA kickが活かせず、wide QRSになるからなるべくしたくないよね、というのが一番大事なところになります。房室ブロックの新生児やA leadに問題があった人は仕方なくVVIにしている、っていう話もしました。また、心室をペーシングする事は非常に生理的ではないので、少しでも生理的に近い、良い収縮のため、Leadは右室よりも左室に、将来的にはHis束ペーシングができればいいな、というような話でした。

という事でVVIについてはこんなところになります。次回はDDDについて話をしていきます。DDDは房室ブロックの人に適応され、心房と心室、両方にLeadが入っているモードになります。ペースメーカーの中でも最もメジャーなモードになります。