誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

不整脈(心不全):ペースメーカー CRT(心臓再同期療法)について 〜基本39〜

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前回不整脈やると話していましたが、ペースメーカーでもかなり重要なCRTを忘れていました。CRTはちょっと出てきていますが、ちゃんと説明していないので、説明しようと思います。CRTは心臓再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy)の略で、ペースメーカーでできる心不全治療の一つです。His束ペーシングのところでちょっと出てきたかもしれませんね。ペースメーカーでできる心不全の治療なので、ペースメーカーの中でも結構重要なところだと考えられます。心臓再同期療法(CRT)を説明する前にdyssynchrony(ディスシンクロニー:同期不全)について知っておく必要があるので、そちらから話していきますね。

 

dyssynchrony(ディスシンクロニー:同期不全)について

普通の心臓の筋肉は電気が刺激伝導系から流れてきて、ほとんど同時に収縮します。何度も話ししている、正常なnarrow QRSの人は60-80msの間に心室が収縮するので、ほぼ同時に心室全体が収縮する、といった感じになります。そのため、血液を効率よく一気に送り出すことが出来るのです。重要なのはすべての心筋が同じタイミングで収縮する事です。これが良い収縮には必要なのです。(正確には左室は心尖部から心基部に向かって左右、前後対称的に広がりますが細かい事は良いです。)

心不全の人でwide QRSの人には伝導障害があります。心筋が傷んだり、手術で刺激伝導路を傷つけたり様々な理由で起こります。伝導障害が起こると、心室全体に同じタイミングで電気が届かなくなります。ある心筋は正常な刺激伝導路から電気がきて正常なタイミングで収縮しますが、他の心筋は伝導障害があるため、なかなか電気が届かなくて、正常のタイミングから遅れて収縮が始まったりします。心臓の筋肉がバラバラに収縮をすると効率良く血液を送り出せず、結果的に収縮能が低下してしまいます。左脚ブロックなどがCRTの適応となる代表的な伝導障害ですが、左脚ブロックだと、右脚は正常で左脚が障害されています。右脚は正常なので、正しいタイミングで収縮しますが、左脚は障害されているため、右脚が収縮してからしばらくしてようやく電気が行き渡り、収縮を始めます。まず右室、心室中隔が収縮し、その後遅れて左室が収縮します。そのためwide QRS波になりますし、心室全体の収縮のタイミングがズレているため効率の良い、良い収縮が出来ません。そのため、左脚ブロックになると収縮能が落ちてしまうため、最悪心不全になってしまいます。下の絵を見ながら理解できたらありがたいです。本当はこれは動画を見れば一瞬でわかりますが、僕は動画は作っていませんので、検索してみてください。

 

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図:dyssynchrony

このような心筋の収縮のズレの事をdyssynchrony(同期不全)と言います。同期不全と日本語で言っているのはあまり聞かないので、dyssynchronyと英語で言わないと誰にも通じないかもしれません。dyssynchronyの原因は様々ですが、先程話した左脚ブロックは大人でCRTの適応となる代表的なdyssynchronyです。小児ではこういう典型的な左脚ブロックでのdyssynchronyはそれほど認めず、割と多いのが流出路の収縮が他とズレているパターンではないかな、と思います。カテーテル検査や心エコーを見ると、収縮のタイミングがズレている事がわかり、そのため心不全になっているような人にとって、ペースメーカーを使ったCRT(心臓再同期療法)が功を奏する事があります。では実際どのように治療をするのかを説明していきますね。

 

CRTの治療法

CRTの治療は理論的にはそんなに難しくありません。基本的な考え方は、ペースメーカーで収縮の遅れている心筋を、他の心筋の収縮とタイミングがあうようにペーシングしてあげる、という事です。多くの場合、ペースメーカーの心室Leadを2つつけます。

例えば上の図や下の図を例に挙げると、右心系単心室でwide QRSで心機能が悪く、流出路の収縮が遅れている患児がいたとします。こういった子に心不全治療としてCRTを考えた場合、まずペースメーカーを入れないといけません。心房にLeadを1つ、心室にLeadを2つ、植え込みます。心房はどこでも良いです、しっかり感度がとれて、閾値が低いところを選びましょう。心室のLead植え込み部位は、1つは心尖部、もう1つは流出路です。心尖部と流出路が同じタイミングで収縮するように、心尖部と流出路のペーシングのタイミングを調整してあげます。20-50ms程度ズラしてペーシングすることが多い印象ですが、エコーやカテで見ながらどれくらいペーシングのタイミングを変えると収縮能が一番良くなるかチェックしながら微調整します。このような感じでCRTを行います。

これがwide QRSでdyssynchronyがある人の心不全治療、CRTです。もちろんペーシングをしないと効果は期待出来ないので、心室のペーシング率はほぼ100%になるように設定する事が重要です。CRTではペーシング率ほぼ100%で行うため、電池の減りは他のペースメーカーの方と比べるとだいぶ早くなってしまいますが、そこは仕方ないとあきらめるしかありません。しかしCRTによる心機能改善が認められれば、電池交換の回数が増える以上に大きなメリットを得られる事間違いないです。また心室のLeadは2つ装着しますが、位置がとても重要になります。大人であれば、経静脈でやるので、1つは右室の心室中隔、もう一つはCSにいれて、左室の側壁をペーシングするように留置しますが、小児では心外膜でLeadを留置するので、どこにでもおけますが、どこにおけば良いのか、は結構ムズカシイです。カテーテル検査でいいところを探したり、上記のような右心系単心室で流出路の収縮が遅れているケースでは心尖部と流出路に入れたりします。Leadで心室を挟み込むようにつけてあげるといい、というケースも多くどこにLeadをつけるか、もとても重要なポイントです。これはオーダーメードなので、「どこにつけるべき」と言及できませんが、患児の最も収縮が良くなるポイントを見つけてCRTをしてあげる必要があり、これも小児のCRTの難しいところになります。下の図は右心系単心室の一例の場合です。

 

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図:CRTの治療法

CRTには一応適応があります。しかもCRTはペースメーカーを使用して治療をするので、かなりハードルが高くなってきます。軽く導入する、なんてことはまずない治療になります。大人では「中から重度の心不全、左脚ブロックでQRS幅130ms以上、EFが35%以下、薬物では良くならない」など適応基準があります。昔はQRS幅180ms以上でしたので、ここらへんの細かい適応基準は時代とともに変わっていくと思います。小児ではしっかりとした基準は定められてはいませんが、まずdyssynchronyがないと効果は期待出来ません。そのため、心機能が悪く、wide QRSで、dyssynchronyがある人が条件になります。またこのCRT(心臓再同期療法)は誰にでも効くわけではなく、効果がない人も一定数います。成人では20-50%程度CRTが効果がなかった人がいる、と報告されています。小児ではっきりとしたデータがあるわけではありませんが、よく効く人(super responder)とあまり効果がなかった人両方報告されています。でも効果がある人はEFで約30%上昇した人もいたりしますので、効果がある人にとっては非常に有効な治療法と言えます。薬物や手術などで治療をしてもEFが30%も上がる人はそうそういないでしょうから、効果がある人にとってはかなり画期的な治療です。

ペースメーカーは必ずしも不整脈のせいで入っているわけではなく、心不全の治療としても用いられています。このCRT(心臓再同期療法)は効果がある人にはかなりの改善をもたらす治療ではありますが、できる施設が限られてきますから、どこでもできるわけではありません。ただ、ペースメーカーでこのような心不全治療もできる事をちょっと知っていてもらえたらいいかな、と思います。

 

まとめ

今回はペースメーカーを使ってやる心不全治療、CRT:心臓再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy)のお話をしました。CRT心室がバラバラのタイミングで収縮する、dyssynchrony(同期不全)を改善する治療であり、典型的には左脚ブロックで、wide QRS、心機能が悪い人にする治療です心室にLeadを2つつけて、収縮の遅いところのペーシングのタイミングを調整することで、心室の収縮のdyssynchronyを改善させ、心機能の回復をもたらします。みんながみんな効くわけではありませんが、めちゃくちゃ効く人はEFが30%以上改善する事もあり、とても有効な人がいます。デメリットとしてはペースメーカーを入れないといけないこと、電池の消耗が大きい事になりますが、効果がある人にはデメリット以上の大きなメリットがある治療になり、心不全治療の大事な選択肢になります。以前ちょっと話したHis束ペーシング(この下の記事参照

www.inishi124.com

、記事の最後の方にHis束ペーシングの記載あり)もペースメーカーでできる心不全治療であり、このCRTと合わせて今後もどんどん発展する分野だと思われます。

まとめるとこんな感じになります。詳細を覚えておく必要はありませんが、ペースメーカーでやる心不全治療がある、くらいは知っておいてもいいのではないでしょうか?

ということでまたペースメーカーの話ですみませんでした。今度こそは上室性不整脈にいきたいと思います。