誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

不整脈:ペースメーカーについて その6;閾値や感度、Auto captureやMVPモードについて 〜基本38〜

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大変人気のないペースメーカーのお話ですが、今回でやっと終わります。今までAAI、VVI、DDDについて説明してきました。心機能にちょっと重きを置いて話したので、あまり知りたいところが出てこない人もいたかもしれませんが、今回はペースメーカーの記録を見るための基本的なところや、便利な機能などについて説明していきます。ただし、ここらへんの事は他のブログなどでも載っているので、あえて書かなくてもよかったのですが、一応簡単に書いときます。

 

閾値(threshold)Auto capture(オートキャプチャー)について

ペースメーカーはPM本体からLeadを通して心臓に電気を送って心臓を動かしています。どれくらいの電気を送っているかというと、Leadの状態とLeadをくっつけた心臓の状態によって大きく変わってきます。なので、人によって電気の量が違います。ペースメーカーから電気を送る際に、心臓が動いてくれる最小の電気の値を閾値(threshold:本当はペーシング閾値と言いますが、大体閾値とみんな言います。)って言います。どうやって決めるか、高い電圧から徐々に電圧を下げていき、ペーシングに反応しないポイントを見つけるのです。例えば閾値が1.0Vの人の場合だと、2.5Vくらいから3拍おきに0.25Vずつ電圧を下げて、反応しないポイントを見つけます。2.5V, 2.5V, 2.5V, 2.25V, 2.25V, 2.25V, 2.0V, 2.0V, 2.0V, 1.75V, 1.75V, 1.75V, 1.5V, 1.5V, 1.5V, 1.25V, 1.25V, 1.25V, 1.0V, 1.0V, 1.0V, 0.75V, 0.75V…..,落ちた!という感じにです。0.75Vでペーシングにのらずに脈が落ちるので、0.75Vの一個上の1.0Vまでは確実に電気に反応することがわかりますので、確実に電気に反応する、1.0V閾値になる、というわけです。この時に心電図もみながらチェックし、ペーシングが載っているかいないか、確認しながらやっていきます。結構早いので慣れないとついていけないかもしれません。心室閾値を調べるのは結構簡単です、落ちるとQRS波が出ないので、心電図が明らかに変化するから。心房は慣れている人でも結構どこで落ちたのかわからず閾値の設定に迷う事がよくありますが、その時は心電図見る人と機械イジる人に分けてやってもいいかもしれません。という事で簡単に言うと閾値っていうのはペーシングがのる最小の電圧です。

ペースメーカーは電気を出力してLeadから心臓に電気を流し、心臓を動かすのですが、出力する電気の量を決める時に、この閾値が重要になります閾値は心臓が反応する最小の電気の量なので、ペースメーカーはこの閾値よりも多くの電気を流さないと心臓が動きません。有効にペーシングするためには閾値より大きな電気を流さないといけませんが、この閾値も多少上下したりするので、基本的に出力の設定は閾値2倍くらいを目安に設定します。例えば、心房の閾値が1.0Vの時、ペースメーカーの心房の出力は2.0Vに設定します。もっと詳しく言うと、出力や閾値にはパルス幅というものもあります。詳しく言うと2.0V/0.4msで、この後ろの0.4msがパルス幅です。電気の量はこの2つの数字、2.0Vと0.4msの掛け算で表します。なので、下の図のように電気の出力は細かく言うとこの2つの数字の掛け算で、面積みたいなものです。なので、本当は閾値1.0V/0.4msと言わないと行けないのですが、大抵は0.4msで固定しているので、そんなに考えなくていいです。閾値が高くてシビアな設定が必要な時はこのパルス幅も1.0msとかにのばして設定したりしますが、普段は考えなくていいです。話を戻すと、ペースメーカーの出力は閾値の2倍くらいに設定すると大体安全なので、コレくらいにするのですが、もっと電池をケチりたいときにはオートで設定する方法があります。ペースメーカーが勝手にオートで設定してくれる、Auto capture(オートキャプチャー)という機能を使うと勝手に閾値を設定してくれて勝手に出力を設定してくれます。SJMとMedtronicではオートキャプチャーの方法が多少違いますが、どちらも出力を抑え電池をケチる事ができます。ペースメーカーの手帳に書いてある設定と違う事がありますが、それはAuto captureでペースメーカーが勝手に変えているから、という事が多いです。よく聞かれるので、ペースメーカーにはAuto captureでオートで出力を変える機能があることも知っておいてください。まとめると

閾値(threshold):心臓が動く最小の電力

・PMの出力:閾値の2倍くらいで基本設定する。

・Auto capture:PMがオートで勝手に閾値を測定し、出力を設定する機能。

特に閾値は重要なので、閾値=ペーシング閾値は理解出来たほうが良いかな、と思います。

 

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図:閾値(ペーシング閾値)

 

感度(sense)far fieldについて

閾値とともに重要なのが感度(sense)です。ペースメーカーにとって最重要なのはペーシングすることですが、次に重要なのが感度です。感度は正確に言うと感度閾値と言いますが、大抵感度とだけ言います。感度(感度閾値)とは、自分の心臓の脈がどれくらいの大きさの電気で感じているか?というものです。例えば心房の感度が5mVの人は自分の心房の脈を5mVと感じています。つまり自分の心房が動くと、ペースメーカーには5mVの電気が伝わってくるので、それを感じてペースメーカーは「心房が動いている、ペーシングやめなきゃ」ってなるわけです。下に説明するペースメーカーの設定の感度とこの感度閾値をごっちゃにしてしまい、感度を理解できない人がちょいちょいいるので、別物と考えてください。でも普段の感度閾値は感度っていうので混同してしまうんですよね。申し訳ないですが、慣れるしかないのが現状です。

ペースメーカーの設定にも感度(sense)っていうのがあります。このペースメーカーの設定の感度っていうのは「これ以上の電気が出れば、心臓が自己脈を出していると判断します」ってやつです。例えば、ペースメーカーの心房の感度の設定を2mVに設定していれば、2mV以上の電気がきたら心房は自己脈を出していると判断します。なので、心房の感度閾値5mVの人では、心房が自己脈を出せばペースメーカーには5mVの電気が出たと伝わります。ペースメーカーの心房の感度の設定は2mVであり、自己脈は5mV2mV<5mVなので、ペースメーカーは心房の自己脈が出ていると判断し、ペーシングしないようにします。しかし、ペースメーカーの感度の設定を7mVにしていたら、自己脈は5mVなので、自己がでていても7mV以下なので、ペースメーカーの側では自己脈が出ていると判断できず、ペーシングしてしまう、というわけです。「じゃペースメーカーの感度の設定を0.1mVくらい低くしておけばどんな自己脈もちゃんと拾ってくれるじゃん?」って思うかもしれませんが、人間の体は電気の塊、体のあらゆる筋肉が電気で動いているので、もしペースメーカーの感度の設定を0.1mVにしていれば、筋肉の動きが0.2mVの時、筋肉の動きも心房の自己脈と勘違いをしてしまう可能性があります。筋肉の動きを心房の動きと勘違いしてしまうと、本当は脈が出てないので、ペーシングしてほしいのに、ペースメーカーはペーシングしない、という状況が起こってしまいます。なので、ペースメーカーの感度の設定をあまりにも低くしてしまうことは避けないといけません。

ペースメーカーの感度の設定は感度閾値を参考に設定します。大体、感度閾値(自己脈をどれくらいで感じているか)の半分以下に設定している事が多いです。あまり高くすると自己脈が出てても拾えない可能性もありますし、あんまり低く設定すると周辺の筋肉のノイズをすべて自己脈と勘違いしてしまう現象が起きてしまいます。大体0.5mVくらいで設定していることが多く、後は感度閾値とかノイズの大きさやfar fieldなどを見て変えていきます。far fieldって言うのは、心室の自己脈を心房の自己脈と勘違いする事です。心室は心房と距離も近く、心室の出す電気も大きいので間違って心室の電気も心房の電気として拾ってしまうことがよくあります。これを「far field(ファーフィールド)」って言います。感度はfar fieldや筋肉のノイズを自己脈と勘違いしないようにあまりに低くせず、かつ自己脈を十分読み取れるくらい高くしすぎないように設定しないといけません。まとめると(ペースメーカーはPMと略してます。)

・感度(感度閾値):自己脈をどれくらいの電気と感じているか?

・(PMの設定の)感度:これ以上の電気が出れば自己脈と判断する電圧

・PMの感度の設定は感度閾値の半分以下にする。

・far fieldは心室の脈を心房の脈とPMが勘違いすること。

・あんまりPMの感度設定を低くするとノイズやfar fieldが入る。

という感じです。上の閾値と比べるとちょっと理解しにくいでしょうが、閾値と感度の理解がペースメーカーの理解にとって、かなり重要です。実際にイジるとそんなに難しくはないのですが、なかなか文字では伝わりにくいですよね。

 

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図:感度(感度閾値)とPMの設定の感度

 

MVP(Managed Ventricular Pacing)モードについて

MVP(Managed Ventricular Pacing)モードはAAIDDDを自動的に行き来するモードになります。普段はAAI(もしくはAAIR)で作動しているのですが、房室ブロックになってQRS波がでなくなれば自動的にDDD(またはDDDR)に切り替わる便利なモードです。なんでこんなモードがあるのか、というと心臓にとってはなるべく自己のQRS波を出した方がいいし、ペースメーカーにとっても心室ペーシングをしないほうが電池の温存につながるので、こういうモードができました。MVPモードの目的は「なるべく心室ペーシングを減らす」って言うことなんです。

具体的にどういう人に使うかと言うと、普段は洞不全症候群(SSS)なのに加えて、PQ時間が長く房室伝導が悪い人に有用な設定です。PQ時間が長く房室伝導が悪い人は普段はP波とQRS波の間がものすごく長いだけでなんとかつながるんですが、たまにつながらなくなってQRS波が落ちてしまったりします。QRS波が落ちるっていうのは房室ブロックになってP波は出るのに心室までつながらずQRS波が出ないという事です。普通ならこういう人にはDDDにするしかないのですが、少しでも心室ペーシングを減らすには普段はAAIにしておいて、QRS波が落ちた時だけ心室ペーシングが入るDDDに変わるようにすれば最小限の心室ペーシングで済みます。MVPモードでは最新の4拍中、2QRS波が落ちたら、AAIからDDDに切り替わるようになっています。しばらくすると自己のQRS波が出てないかチェックし、出ていればAAIに勝手に戻るという便利なモードです。たまに落ちるQRS波のためにずっとDDDにすると不要な心室ペーシングが入ってしまいますが、MVPモードならば普段はAAIで管理してくれて、QRS波が落ちた時だけDDDにしてくれますので、心室ペーシングが必要時以外は極力入りません。簡単に言うと、MVPは普段はAAI、QRS波が落ちたらDDDに勝手に切り替わるモードというわけです。割とよく見る設定なので、知っておいてもいいかと思い書いておきました。

 

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図:MVPモードについて

 

という事で今回は閾値(ペーシング閾値)、Auto capture、感度(感度閾値)や設定の感度、far field、MVPモードなどについて話しました。これでおおよそペースメーカーの話はしたかな、と思います。後は実際にさわって学ぶのが一番の近道です。次からは不整脈に戻っていきますね、次回は上室性不整脈にいきたいと思います。