誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

不整脈:ペースメーカーについて その2 ;AAIとrate response(レートレスポンス)機能について 〜基本34〜

<スポンサーリンク>

まだ前回はペースメーカーの話をしませんでしたが、今回から具体的にペースメーカーの話をします。前回はまずその前提となる事柄を少し話しました。適切な心拍数の話、A kickと心房と心室のタイミング、AV delayの話、wide QRSとnarrow QRSの話をしました。これらの事は心機能と大きく関係することなので、とても大事です。心拍数やA kickwide QRSの事がわかれば、心機能を良くするのにペースメーカーをどう設定するのか考えることができますし、なんでそんな設定になっているのか理解する助けになります。すべての治療に言えることですが、ペースメーカーも心機能を良くするように、患児の生活を良くするために入れています。洞不全症候群(SSS)や房室ブロック(AVB)のために仕方なく入れている人もいるでしょうが、その中でもより良い設定を探し、より電池が長持ちするように工夫をしています。

前置きは良いとして、今回から本格的にペースメーカーの話をしていきます。ペースメーカーの作動の仕方にはいろいろありますが、もうここは割り切って3つだけ頭にいれるようにしましょう。それは「AAI」と「VVI」と「DDD」です。この3つの作動の仕方だけ覚えればもういいです。はじめの文字はどんな意味で…とかそういうのもいいです。とにかくこの3つを理解していきましょう。という事でさっそくAAIから始めていきましょう。

 

AAIについて

AAIって言うのは、心房をペーシングするモードです。最も簡単な作動様式の一つです。リードは右心房か左心房(特に左心耳につける事が多いです。)についてます。機械から電気刺激がでて、心房に刺激を伝え、心房に動け、と命令を出すのがAAIのモードです。まず簡単に今から話す事を箇条書きしたので、それを見ていきましょう。

AAIを簡単にまとめると

・Leadが入っているのは心房だけ。

・心房をペーシング、心房を抑制(inhibit)、動き方はこの2つ

心室は刺激伝導系を介して伝導するので、narrow QRS。

・心房と心室の収縮のタイミングも正常(A kickが有効に使えている)。

・適応は洞不全症候群(SSS)のみ。

f:id:inishi:20200917094629j:plain

図:AAIについて

大体こんなところになります。まずはLeadですが、Leadはペースメーカーの電気刺激を伝えたり、自己の脈を感知するために使用するペースメーカーの生命線です。ペースメーカーの様式によってどこに入れるか変わりますが、AAIでは心房のどこかに入れます。右心房でも左心房でもどちらでも構いません例えば手術とかで左心耳を切っている場合や手術創があったりするところはLeadがつかない場合があります。手術の時にどこにLeadがつけられるか心臓血管外科の先生とペースメーカーの業者さんで確認しながらいいところにつけてもらっています。何度も手術している人はこのLeadを入れる場所に苦労することが結構あります、どっちかと言うと心室にLeadを入れる場合の方が苦労している印象はありますが。術前に造影CTを撮ってLeadの位置を検討する事もよくあります。そこらへんはどうでもいいので、とりあえずAAIではLeadは右心房か左心房のどこかに入れる、と覚えておいてください。

次にペーシングについて説明していきます。AAIでは心房にしかリードは入ってないので、心室はペーシングしません。心房だけペーシングするんです。ペースメーカーの機械から電気刺激がでて、リードを伝わり心房に電気刺激が入ります。心房はそれに反応して収縮します。じゃ心室はどう動くのかと言うと、心房の電気刺激は心房の筋肉を伝わり、房室結節にいきます。房室結節からHis⇢右脚・左脚に伝わり、心室も収縮します。心室は刺激伝導系(房室結節やHis、脚)を通じて電気刺激が伝わるので、前に話したようにnarrow QRSになります。なので、AAIでは、ペースメーカーから心房を刺激し動かし、刺激伝導系を伝わり心室が動きます。これが結構大事で、AAIは刺激伝導系を伝わって心室が動くので、心房と心室のタイミングはバッチリあっており、心室は刺激伝導系を通じて一瞬で伝導するので、収縮能も良くて、心電図でのQRS波形もnarrowQRSになるのです。また、AAIのペースメーカーが使えるのはSSS(洞不全症候群)の時だけです。房室結節から心室への伝導が正常じゃないとAAIっていうのは成り立ちません。じゃ、房室ブロック(AVB)になっていたら、どうするの?って思うかもしれませんが、房室ブロックになっていれば、AAIでやっても心室に電気刺激が伝わらないため、ダメです。房室ブロックの時には他のモードでないと機能しません。AAIが使えるのは、SSS(洞不全症候群)の時だけなのです。洞結節が機能低下してしまい、自分の脈を出せなくなった場合に、ペースメーカーで補い、sinus の代わりに心房の脈を出してあげるのがAAIです

例えば「AAI 80」っていう設定であれば、ペースメーカーはⅠ分間に80回心房をペーシングしてくれます。これでSSSとかになって自分の脈がお休みしても心拍数80の心拍は確保することができ、徐脈で心不全になったり、失神したりせずに済みます。AAIは心房のみを刺激するので、心房以下の刺激伝導系が正常であることが重要な条件です。房室ブロックの時は心房で刺激しても、その電気は心室に伝導してくれませんので、結局徐脈になり意味ないことをしていることになってしまいます。SSSのように房室結節やHisなど他の刺激伝導系は普通の場合でないと使えないのがAAIなので、このことは頭に入れておきましょう。

またAAIには心房をペーシングするだけでなく、もう一つ重要な機能があります。それは抑制(inhibit)と言われる機能です。これは脈を感知して、ペーシングしない能力です。何を言っているかよくわからないかもしれなせんが、ペースメーカーには大抵ペーシングする能力とセンシングっていう、リードがついている部位(AAIの場合は心房)から出る自分の脈を感じる機能がついています。心房についているリードから逆探知して、心房自身から脈がでていないかチェックする機能があるのです。心房の脈が出ているか、出ていないか感じる能力がペースメーカーにはあり、もし、自分の脈の機能が残っていて、自分の脈が出るようなら、ペースメーカーは自分の脈を感知して(センスするっとか言います)電気刺激(ペーシングしたり)を出したりはしませんこの機能を「抑制(inhibit)って言います。AAIの「I」はこのinhibitから来ています。つまり、自分の脈を感知してペーシングを抑制する機能があるんです。何もしなければ、ペースメーカーはAAI 80であれば、1分間に80回ペーシングしてしまいますが、AAIというのは自分の脈が出ていれば、その脈をペースメーカーが感知してペーシングしないようにペースメーカーのペーシング機能を抑制してくれます。これがAAIの機能です。自分の脈がお休みしていて、出ないような場合はペースメーカーが動いて、心房を刺激し心房を動かします。自分の脈がでていれば、抑制(inhibit)の機能が働き余計なペーシングをしないようにペースメーカーは出来ているのです。

例えば「AAI 80」という設定の人がいます。AAI 80っていうのは心房にだけリードが入っていて、心房をペーシングする機能と心房の脈を感知(センスする)してペーシングを抑制(inhibit)する機能だけついています。その子が洞不全症候群で自分の心拍が50くらいしかでないとすると、AAI 80という設定では最低80の心拍数を確保する設定なので、足りない分をペーシングして心房に80/分の刺激を加え、最低心拍数80にします。また、その子が泣いて、自分自身の心房の脈から150の心拍が出たとしたら、自分の脈を感知し抑制する能力が働き、ペーシングしないように機械が動きます。AAIはこのように動くペースメーカーです。そのため、電池が続く限りペースメーカーは脈が出ているかチェックしながら、出ていなければペーシング、出ていればペーシングを抑制しペーシングしない、これをずっとしてくれます。もう一度まとめに戻ると、AAIは

・Leadが入っているのは心房だけ。

・心房をペーシング、心房を抑制(inhibit)、動き方はこの2つ

心室は刺激伝導系を介して伝導するので、narrow QRS。

・心房と心室の収縮のタイミングも正常(A kickが有効に使えている)。

・適応は洞不全症候群(SSS)のみ。

f:id:inishi:20200917094841j:plain

図:AAIの心電図

という感じです。ちなみにAAIの心電図は上の図のようになります。かなり同じことを何度も書きましたので、くどかったかもしれませんが、理解できましたか?ペースメーカーっていうのは非常に単純な機械です。機械的に動くので、ペースメーカーの作動は単純なクイズみたいなものなのです。人間のように空気を読んだり雰囲気でペーシングしたりしなかったりではないのです。単純に動いており、機能はたったの2つ、「ペーシングする」か「ペーシングしない」かです。

 

Rate response機能(心拍応答機能)とは?

では、みなさんAAIはよくわかったと思いますが、PMのモードのところによく「AAIR 80」とかってついていると思います。このRって何でしょう?これはRate response(レートレスポンス)機能って言って、運動とかをする時に心拍数を上げる仕組みです。例えば、洞結節が完全に死んでいて、運動をしても全然脈が上がらない人がいますよね。普段、ペースメーカーの設定ではAAI 80とかであれば、最低80の心拍数を確保してくれますが、逆に言うと最高でも80の心拍数しか確保してくれません。運動をすると生き残っている洞結節や心房の脈の機能が働き、勝手に心拍数100とか150とかになる子もたくさんいますが、完全に死んでいて、運動しても全く脈が出ない人もいます。そういう人はペースメーカーを入れていてもAAI 80だったら、運動時も脈は80なので、正直運動の時は心拍数が足りなくてちょっとしんどいかもしれません。そんな時に活躍するのが、Rate response機能です。これはペースメーカーの本体が振動とかを感知して「今運動をしている!」という事を感知して脈を上げていく機能です。なので、「AAIR 80(このRっていうのがrate response機能の事です)」の人は運動時の振動を感知して、脈を80以上に上げていってくれます。80⇢90⇢100⇢110⇢120って振動が続けばどんどん脈を上げていってくれます。運動をやめたら、振動がなくなるので、120⇢110⇢100⇢90⇢80という感じでもとの80まで心拍数を下げてくれます。これがrate response機能です。rate response機能は簡単ですよね?

 

図:Rate response機能

f:id:inishi:20200917094914j:plain

僕らはペースメーカーチェックをする時にどれくらいペースメーカーを使っているのか?っている指標を見ています。それが「ペーシング率」です。それは人によってペースメーカーをどれくらい使っているかが大きく違うからです。例えば、ペーシング率が98%の人がいます。この人はほとんどペースメーカーに脈が依存しており、たとえ運動をしても自分の脈が上がってくれません。なので、こういう人にはRate response機能をつけたほうが、QOLが高くなると思われます。逆にペーシング率が5%の人はどうでしょう?普段からペースメーカーを5%しか使っていないという事はほとんど自分の脈が出ている、と言うことです。なので、こういう人は別にRate response機能をつけなくても、運動とかすれば、自分の脈が勝手にあがってくれるため、この機能は必要ありません。と言うことで、Rate response機能をつけるのは、普段からペースメーカーに脈が依存している人につけると言うことになります。ペーシング率も電池の寿命を考える上でも重要ですし、rate response機能をつける、つけないなどの様々な設定にも影響してくるので、とても重要なので、ペースメーカーの人を見る時は、どれくらい使っているのかを測る「ペーシング率」もぜひ一緒にチェックしておきましょう。と言うことでまとめると

・AAIRの「R」はRate response機能

・Rate response機能は運動時の振動などを感知して心拍数を上げる仕組み

・ペーシング率が高い人に効果的

と言うことになります。他のペースメーカーのモードでも後ろにRがつけば、Rate response機能ってことなので、これも良かったら頭のスミにでもおいておいてください。

 

という事で、AAIはわかったでしょうか?簡単ですかね?次回はVVIについて話します。VVIもとても単純な設定になり、AAIの心室バージョンって感じです。なので、簡単だと思いますが、AAIとの違いを意識して考えると良いと思います。