誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

小児の心臓カテーテル検査について:造影と圧を疾患と絡めて その2 ~基本24~

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疾患別にカテーテル検査のポイントについて羅列しています。長いので、2つにわけて説明しています。今回は前回の続きで、PA/IVS、BDG術前、Fontan術前・術後、TOF術後やRastelli術後などをやっていきます。ということで、どんどんやっていきましょう!

 

PA/IVSのカテ

PA/IVSは重要な疾患の一つです。そのうち疾患として取り上げようか、と思っています。(本当はTAPVCではなく、PA/IVSを書こうと思っていましたが、なんとなく気分でTAPVCを先に書いてしまいました。)この疾患で重要な点は①右室の形と大きさ②sinusoidal communication(ジヌソイドってみんな言います。日本語で言うと右室冠動脈類洞交通っていうのかな?)、の2点になります。右室が使い物になるかならないかでFontanになるか二心室になるかが決まります。また右室に冠動脈の血流が依存している場合には容易に心筋梗塞とかになり、結構予後が悪いです。手術でのトラブルや突然死の原因になり、最も嫌なものの一つになります。またPV/IVSではこのことについても話をしますね。

とりあえずPA/IVSのカテで重要なのは以下の2点です。

 ・右室の形(tripartiteあるか?)と大きさ

 ・sinusoidal communicationの有無(右室依存性かどうか?)

   ⇢ RVGとAoG両方必要!

 ・右室流出路(肺動脈弁が膜様閉鎖かどうか)

なのでカテではまず右室造影が必要です。これで右室の大きさと形をみます。右室の3要素(tripartite)があるかどうか、inlet, trabecular, outletが揃っているか、それともtrabecularがないか、とかそんなところを見ます。次に右室の大きさもチェックします。三尖弁の大きさも右室の大きさとともに参考にします。また、この右室造影で冠動脈がどれくらい映るか、を見ます。右室造影で冠動脈が写ってくるようなら、右室依存性のsinusoidであり、これはかなり注意して手術や治療方針を決定しないといけないからです。また冠動脈の還流を調べるために大動脈造影をして冠動脈もチェックしておく必要があります。なので、冠動脈を見るために、原則としてはPA/IVSでは右室造影(RVG)と大動脈造影(AoG)の両方が必要となります。最後の右室流出路に関しては、右室流出路をどうするかを考える時に必要です。おそらくエコーで目星はほとんどついているので、カテで必須ではないか、と思いますが、膜様閉鎖ならカテ治療で肺動脈弁を開ける事ができるので、その判断に右室造影をして右室流出路をみておく必要があります。

PA/IVSでは、カテが重要な診断につながる材料となり、必須の検査になります。特にsinusoidal communicationは重要です。PA/IVSのカテではとりあえず右室造影だけはチェックしておきましょう!

 

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図:PA/IVSのカテ

 

BDG(グレン手術)前のカテ

これもいつかは必須ではなくなるような気がするのですが、今の所必ずしています。BDGはSVCを肺動脈につなげる手術なので、肺動脈の条件が重要になります。SVCというのはもともと圧が低い血管なので、肺高血圧など、肺の血管の条件が悪いとSVCと肺動脈(PA)をつないだとしてもSVCPAへと血液が流れてくれません。またCTなどでも代用できますが、つなぐSVCの走行も見ておく必要があります。ということで、BDG前のカテとしては以下のポイントをおさえておきましょう。

 ・肺動脈の条件(PHの有無、Rpが低いか、PA血管径、PA/PVの狭窄はないか?)

 ・SVCの走行

基本的にはRp3単位・㎡以下、肺動脈圧平均圧で言うと20mmHg以下が目標になります。ま、あまり重視されている印象はなく、ちょっと高くてもBDGだったら問題ない事も多い印象です。肺動脈に高度な狭窄がないか、とか肺静脈の閉塞はないか、とかもチェックするポイントになると思います。PAI (PAindexと言って肺動脈の成長具合を計測したものです。左右の肺動脈の第一分枝のところの断面積の和を体表面積で割ったもの)は参考程度で見ていますが、PAI:200mm2/m2あればありがたいですけど、高度な狭窄でなければまあいいかな、という感じだと思います。またSVCは右だけでなく、InnVがなく、左のSVCがあることも多くこの場合は両方の走行を確認するため、両方のSVCの造影が必要になります。

 

Fontan(TCPC)術前のカテ

Fontan術前のカテではBDG前と同様、肺動脈の条件が重要になります。BDGの時よりもっとシビアに検討します。肺動脈の平均圧は10-15mmHg以下がいいですし、Rpもできれば1単位・m2くらいがよく(3単位・m2以上なら肺動脈の圧を下げる方法を検討)PAI200mm2/m2くらいあったほうがありがたいです。全然PAI:200 mm2/m2なくてもFontanできますが。

またConduitをどう通すか?も重要な課題になりますので、SVCPAの造影とIVCの造影をみて手術の方法を検討する必要があります。これはCTでも代用可能ですけどね。

また単心室ではSpO2が80-90%程度の低酸素で暮らしているため、大動脈の枝などから肺動脈への側副血管ができています。多ければ術後の胸水の原因や肺動脈の圧上昇の原因になったりしますので、Fontan術前にどれくらいあるのかをチェックし、多ければFontan術前にCoil塞栓術を施行します。これはCTで見るのは難しいのでカテで確認する必要があります。ということで、ポイントは以下のようになります。

 ・肺動脈の条件(RpやPA圧、形態(PAIがいくらとかも))

 ・SVC-肺動脈の造影とIVCの造影 ⇢ 手術の方法を検討

 ・大動脈造影で側副血管をチェック ⇢ Coil塞栓術の必要性

などがポイントになります。Fontan前も必ずカテをしていますが、肺動脈の条件が最も重要になります。次にコラテがどれくらいあるか、などがカテでないとわからないところかなと思います。

 

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図:BDG術前、Fontan(TCPC)術前のカテ

 

Fontan(TCPC)術後のカテ

うちの病院ではFontan術後1年後に心カテを施行しています。今までいた病院もそうでした。修行をした病院では術後1年、その後は5年毎にカテをしていたので、Fontan術後のカテは多く見ることになると思います。

Fontan循環で最も大事な事は1にも2にもCVP(中心静脈圧)です。FontanでCVPと言ったら、IVCとSVCとRtPAとLtPAとConduitなどなどです。Fontan手術で全部つながっているため、CVPはこのあたりの圧の事を指します。Fontan術後では、CVP1mmHgでも低くする事が重要です。心エコーとかでCVPがわかればいいのですが、残念ながらCVPを測るのはカテでないとできません。「圧を測るのはカテでないとできない」のでCVPをチェックしたい場合はカテをせざる得ません。ということでFontan術後はどうしてもカテが多くなってしまいます。またFontan術後は肺動脈などの組織が見えにくくなりますので、カテで造影をしたり、CTを撮らないと肺動脈の狭窄などがわかりにくいです。心エコーでは逆流、心室の動きくらいしかわからなくなってしまいますので、Fontan術後は心エコー以外のもので心臓を評価していく必要性が高くなっていきます。ちょっと横道にそれましたが、Fontan術後には1にも2にもCVPなので、CVPをチェックするのがカテの目的になります。ポイントは・・

 ・CVPの圧(大体平均圧で評価)

 ・CVPが高ければ原因をチェック

   ⇢IVC, SVC, PAに狭窄ないか?コラテ多くないか?

 ・EDPが高くないか?

上記がポイントになります。CVPが重要なので、それを高くする原因がないかどうかを考えながらチェックする必要があります。また心室の拡張不全などもあればEDP(心室の拡張末期圧LVEDPとかRVEDPとか書きます。)も上昇してきます。10mmHg以上であれば高めではないかな、と思います。手術や今までのダメージにより、心室の筋肉が線維化して硬くなり拡張不全が起こっている可能性があります。ここらへんもカテでチェックすべきポイントになります。もちろんEDPはFontan術後だけでなく、いつもカテでは注意しておくべきところです。

 

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図:Fontan(TCPC)術後のカテ

 

TOF術後やRastelli術後、肺動脈弁置換術後のカテ

基本的に肺動脈弁逆流や狭窄が問題となる疾患のカテについてです。このような疾患は肺動脈弁を人工弁にしていたり、TOFならTAPで修復していると思います。二心室修復術後にはPRやPSが必ず問題となってきます。小児は小さい頃とかに手術をすると、人工弁ならかならずサイズアウトするのでPSが問題になったり、TAPならPRが問題になったりします。TOF術後やRastelli術後はどこかで再介入が必要になってきます。そのタイミングや手術適応を評価するため、カテをします。この時に評価するのは、PSの程度、PRの程度、RVの大きさ(RVEDVやRVESVなど)です。最近はMRIで評価したりしますが、まだうちの病院ではMRIの数値は参考とされているだけで、MRIのみで手術に行くことはほとんどなく、カテをして手術適応を決めています。そのため病院によってはこのカテをしていないところもあるかもしれませんし、今後はだんだんMRIで評価する方向になりカテはしなくなるかと思います。ということで見るべきポイントは

 ・PSの程度

 ・PRの程度

 ・RVの大きさ

PSに関しては右心室と左心室の圧の比で治療介入を決めたりします。RV/LV比が>0.6以上だとPSの治療介入の適応になります。カテーテル治療が効きそうであればカテーテルで肺動脈弁にバルーンで広げる治療をしたり、肺動脈弁置換術を考慮します。ま、しかしPSは心エコーで評価できるので、そこまでカテの重要度は高くはありません。PRによる右室の拡大を測定することが、このカテでのメインになってきます。

という事でこのカテのメインは「PRによる右室拡大がどれくらい来ているか?」ということになります。右室の大きさを測定するのが最も重要になるのです。右室の大きさによって手術介入が必要かどうかを決めないといけないです。基準はいろいろ言われていますが、良く使われているのは「RVEDV>150% of normalRVEDVI>150ml/m2なら肺動脈弁に介入する(肺動脈弁置換術)適応」だと思います。RVEDVIとはRVEDV(ml)を体表面積で割った値であり、RVEDVindex(RVEDVIと書くことが多い)で評価することの方がメジャーかもしれませんが、実際に臨床している感じではRVEDV >150% of normalが基準になっているような気がします。

TOFの時にもいろいろ書きましたが、ちょっとだけ説明すると、肺動脈弁逆流があるとだんだん右室が大きくなります。右室は大きくなりすぎると、肺動脈弁を治しても右室の機能が戻ってこなくなるラインがあります。肺動脈弁置換術は人工弁が10-20年くらいの寿命なので、生きている限り肺動脈弁置換術を何回もしないといけません。なるべく手術の回数を減らしたいので、肺動脈弁の介入は遅らせたいのですが、あまり遅らせすぎると右心不全になってしまい手術をしても、もう右心室の機能は戻ってこなくなります。このボーダーラインがRVEDVIで言うと、160-170ml/m2あたりだといろんな論文で発表されています。RVESVIもあまり大きくなると駄目で70-80ml/m2あたりがラインだと言われます。なので肺動脈弁置換術などの介入はなるべく引き延ばしながらも、このライン(RVEDVI 160-170ml/m2RVESVI 70-80ml/m2)を超える前にしないといけないのです。そのタイミングを決める検査がこのカテです。なので、RVEDVI150ml/m2、やRVEDV150% of normalなどで手術を決める感じになってきます。「150」という数字が覚えやすいでしょうから、この数字で覚えておくといいかな、と思います。いずれこれはすべてMRIで行われるようになると思いますのでそのことも頭にいれておく必要があります。

 

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図:TOFやRastelli術後のカテについて

 

大体思いつくところはこんなところになります。なんだかんだでまあまあ説明しているので長くなってしまいましたが、カテはその都度、「何で困っているのか」によって見る項目が大きく変わってきます。DORVなんかはTOFみたいな経過をとったり、TGAのようにJatene手術をしたり、単心室のようにFontan手術をする症例があります。病名だけではカテは理解できず、経過も含めて考えないとカテは理解できません。なので、まずは病名、経過をしっかり踏まえた上でカテの結果を見ていくようにしてください。なかなかポイントを把握するのは難しいと思いますので、病名・経過を把握した上でこの項目を見返してもらうとカテの検査がわかるようになるのではないかな、と思います。説明分の長さなどでわかるかと思いますが、カテの中でもTOFのカテやPA/IVSのカテなどは非常に重要な項目だと思います。ここらへんのカテの内容がわかっていると、「できる!」と思われる事間違いないですね!

 

なかなか大変な内容ですが、一応検査についてはこんな感じです。後のチェックポイントについては疾患毎に違い、あまりひとくくりに出来なかったので、病歴を把握し、疾患について勉強し、カテで何が必要な情報なのかを考えてください。何回も話したようにカテを理解するには病歴と疾患の理解が必須です。この2つで8割を占めます。カテなんてただ疾患を理解するためのツールにすぎず、大した検査ではないのです。上記の項目もFontanがわかっていればFontan術前、術後のカテのみるべきところなんてわざわざ書かなくても当たり前の内容なのです。誰もこういう事を教科書などに書かないのは、疾患を知っていれば当たり前の項目だし、疾患を知らなければこのように書いたところで、結局理解してもらえず、書く労力が無駄だと思うからではないかな、と思います。とは言ってもこの言い分はカテを実際にしている医師の意見なので、実際にカテをしない人から見ればやっぱり疾患をわかっていてもカテが理解できないこともあり、こういう記載も少しは役に立つかな、と思い書いて見ました。薄い内容で助けになるかどうかはかなり不明ですが、カテに関して書けるのはこんなところかな、と思います。

「圧、造影」に関してはこんなところですが、小児の心カテは治療のウェイトが大きいです。他の診断技術が発達してきているので、小児の心カテは今後ますます治療がメインになっていくのではないでしょうか?

という事で次回からはカテ治療について少し話をしていこうと思っていましたが、4月であたらしく小児循環器に配属された人なども多いでしょうからマニアックなカテ治療については後にして、みんなが苦手な不整脈(いや、むしろ得意な人いるの?)について話をしていこうと思います。