誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

左心低形成症候群(HLHS:hypoplastic left heart syndrome)〜成り立ち など 疾患17

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HLHSはどういう心臓か?

左心低形成症候群は知っていますか?国試とかでも出てくるような、頻度の割には有名な先天性心疾患です。血行動態はまた説明しますが、とりあえず下の図のような形をしており、左心室が小さくて使い物にならない疾患です。結構予後も悪く、手術が難しいという事でも有名な疾患です。今回からしばらくはHLHSについて話をしていこうと思います。

 

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HLHS

図:HLHS

 

左心低形成症候群(HLHS)〜序章〜(ここは読まなくてもいいです、暇な人は読んでください。)

左心低形成症候群(HLHS)と言う疾患を聞いたことがありますか?

最近はそうでもないですが、5−10年くらい前まではなんとなく特別視される疾患でした。「HLHSが来た!やばい、やばい」みたいな。

なんでそういう扱いだったかと言うと「予後がとても悪かった」からです。HLHSの症例は日本よりも欧米の方が多く、最初から移植になったりもします。以前なかなかFontanまで到達しませんでした。

2010年から臓器移植法が変わり小児の心臓移植が可能になりましたが、日本では実際HLHSで移植という選択肢はなく、みんな頑張って手術をして、なんとか成績を上げようと頑張っている疾患なのです。

一昔前までは、外科にとっても「手術の上手さ」を図る指標としてもなんとなく使われ、元岡山大学の佐野先生はHLHSのNorwood手術が上手く有名でした。以前より成績は向上しているとは言え、依然として予後の悪い大変な疾患です。HLHSと言えばなんとなく構える気持ちが生まれるのは僕だけではないはずです。

現在でも予後が悪いBig 2と言えば、「無脾症候群(または右側相同Riso)」と「左心低形成症候群(HLHS)」でしょう。

両方ともに共通している事わかりますか? (ヒントは前回のTGAのMustard手術)答えは簡単ですよね、そう、両方とも心室が右室なんです!!体心室が右室のやつは悪いんです。

なぜHLHSが特別に予後が悪いかは、後でもう少し説明します。

でも、予後が悪いだけに、HLHSを上手く治してやれれば、施設としての評価も心臓血管外科の術者としての評価も上昇します。そういう事もあって、医師たちはこの疾患が来たら気合いれて構えるという感じなのだと思います。

 

HLHSで覚えてほしい事は3つだけ!

また極端な事を言っている、と思われるかもしれませんが、HLHSもTOFと同様で考えれば大体わかる疾患です。重要な事は下の3つだけです。

  ・体心室が右室

  ・心臓は血液が流れないところは育たない

  ・冠動脈の血流がしょぼい

極端な事を言えばこの3つがわかっていればHLHSはOKです。

 

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HLHS体心室右室

図:HLHS重要点1

 

まず1つめは「体心室が右室」と言うことです。

Mustard手術のところでもでてきたけど、またかよ?って感じたあなたはいい感じに小児循環器が根付いてきているのだと思います。

これは何度も出てきていますが、HLHSはその名の通り、左心室が小さく使い物にならない疾患です。左室が使えなく、HLHSでは体心室が右室なのでイマイチなんです。(わからなければ以前の記事2019/4/2:「右心室と左心室の違いについて 基本16」などを参照してください。)

心室として右室を使わないといけない疾患なので、収縮能も微妙だったり、ついている弁(三尖弁)も逆流が出やすかったりしてなかなか大変です。特にGlenn手術をするくらいまではTR(三尖弁逆流)が結構大変で悩みの種になることが多いです。何度も言いますが、「体心室が右室」これがまずHLHSの重要なポイントです。

 

2つめに「心臓は血液が流れないところは育たない」というのが重要なポイントになります。これは簡単ですが重要な原則で、これを理解するとHLHSの血行動態は簡単に把握することができます。

 

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HLHS血液流れないところ育たない

図:HLHSの重要点2

 

図を見ながら考えていきましょう。「左心低形成」というのは実は左心室が低形成なだけではなく、左心系、つまり心室についている僧帽弁、出口となる大動脈弁および大動脈すべてをひっくるめて「左心」であり、低形成なのです。

では、なぜこの左心系が低形成になったのか考えてみましょう。

この理由を考える際に重要となるのが、「心臓は血液が流れないところは育たない」という原則です。

お腹の中にいるときにMS(僧帽弁狭窄)やMA(僧帽弁閉鎖)があればどうなるでしょうか?心室の入り口である僧帽弁が狭かったり、閉鎖していると、左心室の血液が流入してこなかったり、流入する血液が減少したりします。そうなると左心室は育たず、大きくなることができません。同様に心室に血液が流れてこなければ、出口になる大動脈弁や大動脈にも血液が流れないので大動脈弁や大動脈は育たず、大動脈弁狭窄や閉鎖になったり、異様に細い大動脈になったりしてしまいます。これがHLHSの本質です。

なので、HLHSはお腹の中で、僧帽弁狭窄や閉鎖があり、左室や大動脈が育たなかった人たちなのです。あまりにも大動脈が育たなすぎて図のようにPDAを介して矢印のように大動脈を逆行して血液を流さないと冠動脈に血液が流れないくらい、育ってないのがHLHSなのです。

このように考えるとHLHSは簡単に理解できますし、大動脈が細いとかMSとかMAとかAAとかいろいろ覚えなくても簡単に理解できますよね。どうでしょうか?

 

3つ目は冠動脈の血流です。

図を見てもらうとわかると思いますが、HLHSでは大動脈がしょぼく冠動脈の血流は「RV→PDA→大動脈を逆行して→冠動脈」と」いう風に還流されているのです。普通はLV→大動脈→冠動脈ですが、HLHSでは細い、しょぼい大動脈から逆行して冠動脈の血流は還流されています。このためHLHSは簡単に冠動脈の血流が低下してしまいます。冠動脈の血流が低下すると、心筋虚血に陥ってしまいます。HLHSでは容易に心筋虚血に陥り、心機能が低下したり、突然死したりするのです。

 

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HLHS冠動脈の血流しょぼい

図:HLHSの重要点3

 

HLHSの予後が悪いのは「体心室が右室」+「冠血流がしょぼい」、この合わせ技のせいです。TGAでも体心室が右室だったことが問題で心房内血流転換術からJatene手術に変わり、Jatene手術では冠動脈が最大のポイントでしたね。HLHSでも似たようなところがポイントになります。

 

まとめ

HLHSは予後が悪く、みんなの気合が入る疾患です。

重要なポイントは3つ

・体心室が右室

・心臓は血液が流れないところは育たない

・冠動脈の血流がしょぼい

だけです。

右室が体心室のため、ポテンシャルが低く、三尖弁がついているので容易に逆流して困ります。またHLHSの成り立ちはお腹の中で僧帽弁狭窄や閉鎖があり、左心室に血液が流れなかったため育たず低形成になってしまった(そしてLVの出口の大動脈も育たず低形成)疾患という事でした。冠動脈はしょぼい大動脈を逆行して還流されているため、簡単に虚血に陥るというのもポイントでした。

どうでしょうか?これが分かれば、HLHSは半分以上わかったようなものです。特に2番目のHLHSの成り立ちがわかると理解は大幅に変わります。理解できるように頑張ってください。よくわからなかったら、もう一回読んでみて、それでもわからなければ近くの先生に聞きましょう。

 

では次回はHLHSの血行動態について説明していきます。