誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

左心低形成症候群(HLHS)ではなくてHLHC!〜HLHSの親戚?HLHC(hypoplastic left heart complex)について。 疾患20

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今回はHLHCについて説明していきます。

あまり看護師さんには関係のない話かもしれませんが、こういう事で小児循環器医が悩んでいる、と言うことを知っておいたら、と思いお話します。関係ないとは言いましたが、疾患を理解する上では一段レベルが上がると思いますので、お話しておこうかと思います。

 

みなさん、パッと見は結構左室もあって、Archも普通だけど、MSが強かったり、ASが強くて、残念ながら二心室修復(BVR;biventricular repair)に行けない人達って見たことないですか?

実はこういう人達って結構たくさんいて、小児循環器の医師の悩みの種になっています。このような人達を「HLHC:Hypoplastic Left Heart Complx(日本語で何と言うかわかりません。)」 と言います。内容的には左心低形成症候群のちょっとできのいい親戚みたいな認識でいいかなと思います。

 

本来左心室って全身に血液を送るポテンシャルを持っています。しかし、僧帽弁の狭窄があったり、僧帽弁の形の異常があったり、大動脈弁の狭窄などがあったりすると左心室が育たず、全身に血液を送る十分なパワーを備える事ができない場合があります。

下の図を見ながら考えていきましょう。

 

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HLHC

図:HLHCの概念

 

全然ダメな例がHLHSで、僧帽弁の閉鎖してたり、左室も見るからに小さく、Archまでしょぼしょぼっていう状態です。どんなに頑張っても左室は全身の血液を送るのに十分なパワーを持てないので、Norwood→BDG→Fontanと単心室を目指すしかありません。

でももう少し左心系が良かったらどうでしょう?Archはしっかりしていて、僧帽弁の狭窄は少しで、でもちょっと左心室は小さそう、、、という感じだったらどうでしょう?これで単心室、と決めてしまうのはもったいないですよね?

以前にも話しましたが、心室と二心室では予後は大きく違います。(2019/3/19〜30の記事を参考にしてください。)二心室修復の方が圧倒的に予後はいいので、僕らはなるべく二心室修復をしたいと考えます。でも無理して二心室にいって成り立たなかった場合の二心室修復は、単心室よりも予後が悪いのです。なので、「無理して二心室いったらダメだけど、できれば二心室にいきたい」といつも僕らは悩むわけです。

では、どこが二心室修復できるかどうかのラインなのか?と考えますよね?左室がどこまでの大きさならOKか?僧帽弁狭窄はどこまで小さくても大丈夫か?僧帽弁が8mmなら二心室いけるか?7mmはどうか?…..とこのように悩むわけです。

今回お話しているHLHCというのが、正にこの二心室か単心室か?と悩む図の真ん中あたりの人達の事をいいます。HLHCはパッと見、二心室に行けそうだったりしますが、弁の形態が悪くてダメだったり、少し小さい左室に見えるが、二心室に行けたりと様々です。でも心室、二心室どちらになるかで運命が大きく変わってしまうので、HLHCではどこにボーダーラインを引くのかが最も重要になります。

 

迷った時はどうするか?

HLHCはどこでラインを引いて、二心室と単心室に分けたらいいか、と昔からたくさんの人達が悩んできています。いろいろなスコアなどがあり、Rhodesらのスコアなどはよく知られているのではないでしょうか?でも、実は今でもハッキリと決まったラインがあるわけではありません。

心室にいけるかどうか微妙な場合に重要な点があります。それは動脈管を開けておかなければいけない、と言うことです。もし左心系が十分でなく、左心室から全身への血液を十分に出せなければ、動脈管を経由して右心室から全身への血液をまかなってもらわないといけません。なので、こういうHLHCの症例では「とりあえずPDAを開けておく!PGE1を流しておく!」というスタンスが大事です。必要なければ、PGE1を中止すればいいので、投与して二心室修復であっても全然問題ありません。でも逆に左心室が不十分なのにPDAが閉じてしまっていたら取り返しがつかないことになります。循環が成り立たないのに、PDAがないため、全身を還流するのは不十分な左室だけになります。すると、循環が成り立たず、どうしようもなくなるので、Norwood手術などの処置が必要になります。

 

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HLHC重要事項

図:HLHCで迷った時

 

なので、とりあえずPDAを開けておいてゆっくり考えればいいのです。ちなみに卵円孔も開いてないと動脈血が全身にいきませんので、大体開いてますが、開いてなければBASをしましょう。ここらへんはHLHSと同じです。

生まれた時にトラブルなどがあり、ショックで心機能が悪いとか、ちょっと左心系が小さめで決めきれない、というときには一旦bil.PABをして先延ばしにする、という方法もあります。Bil.PABで待っている間に左心系が育ってくるケースもあり、bil.PABで結論を先延ばしにしたことで、安心して二心室修復にいけるという事もあります。なので、急いで単心室と決めなくてもいいのです。微妙なHLHCが生まれた場合にはとりあえずPDAを開けておき、bil.PABで結論を先延ばしにし左心系の成長を見て、じっくり検討すればよいのです。

 

まとめ

HLHCはHLHSと正常心の間のスペクトラムの疾患群の事です。微妙に左心系が低形成であり、場合によって左心室は全身を還流する十分なポテンシャルがない場合もあります。そのため、HLHCは症例により二心室修復する事や単心室にいく事もあります。どちらになるかで予後が大きく違うため、どこにラインを引くかがかなり重要になります。そのためいろいろな論文でスコアなどで線引をしていますが、まだハッキリとした基準は決まっていません。こういう人が生まれた場合はとりあえずPDAを開けて、左心室に十分なポテンシャルがあるか検討します。Bil.PABをして、もう少し結論を先送りし、左心系の成長をチェックする事もできます。ということで、、

HLHCをまとめると

  ・HLHCは正常とHLHSの間の疾患群。微妙に左心系が低形成。

  ・二心室修復できるかどうかが重要。

  ・とりあえずPDAを開けておく(PGE1投与)

  ・bil.PABで結論を先延ばしもOK。

という感じになります。

ちなみに病名で、HLHCと書くことはほぼなく、MSとかASとかhypoLVとかShone complexとか・・・単心室になるならHLHSと診断名がつくことも多いです。でもArchはしょぼくなく典型的なHLHSとは違います。こういうのがHLHCです。

ちゃんとした名前がある疾患ではないですが、二心室にいけるかどうか、よく悩む疾患でもあり、PDA開存が必須の疾患なので、知っておいて損はないと思います。教科書に書いてあることは少ないかもしれませんが、こういう疾患群に当てはまる人達は結構多いです。なので、HLHSを勉強する時はこういうHLHSと普通の人の中間のような疾患群、HLHCを頭にいれるとより深い理解になると思います。

 

今回は少し難しかったかもしれません。わからなかったらすみません。実際の患者さんで悩んだ人がいたら、よくわかる話だとは思うのですが、文字や言葉だけで伝えるのは難しいですね。

いつも投稿する時は次回の記事はできているのですが、今回はまだ記事ができてません。TruncusかTAPVCなどを考えています。PA/IVSも結構重要で熱い疾患かな、とも思います。一番難しそうなのはDORVです。。。