今回は心室中隔欠損+大動脈縮窄+大動脈弁(もしくは弁下)狭窄の複合疾患について話していこうと思います。
面倒くさいので、略語を使用していきたいと思います。心室中隔欠損(VSD)+大動脈縮窄(CoA)+大動脈弁(もしくは弁下)狭窄(ASもしくはSAS)と略していきます。VSDはもう知っていますよね。大動脈縮窄は下図のように大動脈がくびれて狭くなっている状態です。英語でCoarctation of Aortaを略してCoAとしています。よく「コアク」って言ってたりしますので、「コアク」って言ったらこの大動脈縮窄(CoA)と考えてください。大動脈弁狭窄はAortic stenosisの略でASと略します。また大動脈弁下狭窄はSAS「サス」と略します。subvalvar aortic stenosisの略でSASです。略語が多くて申し訳ないですが、循環器にはつきものなので頑張って少しずつ慣れていきましょう。昔略語の表を出した記事もあるので、それも参考にしてもらってもいいと思います。
図:CoA complexの図
実はCoAにはいろいろな疾患が合併する事があります。CoAに他の心疾患が合併している状態をCoA complex(大動脈縮窄複合)とか言います。よくある組み合わせが上に書いた「VSD+CoA+ASやSAS」です。今回はこれについて話して行こうと思います。
その前にCoA(大動脈縮窄)について
複合疾患・・・アナフィラキシーなったわ、と言われそうなので、少しずつアレルギー出ないようにやっていこうと思います。まず大動脈縮窄(CoA)からやっていきます。
CoAはとてもシンプルな病態です。左心室から全身に血液を送り出す管が大動脈と言い、ここから頭、手、お腹、足と肺以外のすべての臓器に大量の血液を届ける管が大動脈です。ほぼすべての臓器がこの大動脈を通じて血液が送られるため、狭窄すると臓器に血液が届かなくなります。
図:大動脈縮窄(CoA)
図のように大動脈は左心室からスタートして心臓の上のあたりで頭や手に行く枝を出したあと、カーブして下半身に血液をおくるため、心臓の後ろの方を下降していきます。言葉で書いてもわかりにくいので図をみてください。このカーブしているあたりを大動脈弓と言います。大動脈縮窄ではよくこのカーブのあたりがキュッと狭くなっているのです。
なぜ大動脈が狭窄するのか?
全身に血液を送る大事な管が狭窄する理由は大きく2つあります。
一つは以前にもHLHSでお話した「血液がこないところは育たない」という理由と同じです。心臓が形成される胎児のときに僧帽弁の狭窄や閉鎖があると左心室に入る血液は減少し、左室が育たず左心低形成になり、左室から出る血液もしょぼくなるので、ASやAA、しょぼいArchになりましたよね?(覚えていなければ是非HLHSのところを復習してください。小児循環器ではとても大事な考え方です。)これと同じでASなど、大動脈への血流が減少するような事が胎児の時に起こると、大動脈は育たず大動脈に縮窄が起きてしまいます。これが極端になるとHLHSみたいになりますが、大動脈縮窄ではそこまでひどくないものの大事な頭に血液を送ったあとは血流が足りず、よく頭への枝を出した後に縮窄してしまいます。すべては胎児の時にASなどによって大動脈に流れる血流が減少し大動脈が十分育たなかった事が原因なのです。これが一つ目の理由になります。
2つ目の理由としては「動脈管組織が大動脈に混じってしまっている」事が原因になります。ASとかなくてしっかり大動脈が育った場合でも、動脈管の組織が一部大動脈に混じってしまう場合があります。動脈管はお腹にいる時はドカンと開いているのですが、生まれると1-2日で閉鎖してしまいます。つまり出生すると収縮するんですね。動脈管がなくなってしまう分には全然OKなのですが、動脈管組織が大動脈に混じってしまっている場合はどうでしょう?生まれると動脈管組織は収縮して閉じようとするため、動脈管組織が混じった大動脈も一緒に収縮してしまいます。そうすると大動脈縮窄ができてしまうのです。これを「ductal tissue theory」とか難しく言ったりしますが、どうでもいいです。動脈管が大動脈に混じってしまったらCoAになってしまう、と考えることができたらOKです。
上記がCoAのできる2つの理由です。①血液が少なくて十分育たず縮窄、②動脈管組織が大動脈に混じってしまい出生後に一緒に収縮し縮窄、という事になります。
図:CoAができる理由
CoAだとどんな事に困るか?
CoAができる理由がわかれば、次はCoAによる症状です。CoAになることによってどんな事に困るかを考えていきましょう。
まず狭いところに血液を通すためにはパワーがいります。そのため、狭窄の前の大動脈と左心室の血圧は上昇し、狭窄の後の大動脈と血圧差ができます。そのため、狭窄する場所にもよりますが、大体の場合は手の血管の枝が出た後に狭窄するため、上肢と下肢の血圧差がでます。
また血圧の差もありますが、SpO2も上肢と下肢で変わってきます。下の図を見ながら考えましょう。生まれたての新生児の場合、動脈管がまだ開いています。狭窄があるため、足やお腹に送る血液が少なくなってしまいます。新生児ではこれを補うため、足とお腹には動脈管から血液が供給されます。動脈管を通る血液はもともと右房→右室→肺動脈→動脈管→大動脈と流れるので、酸素濃度が低い静脈血が流れる事になります。そのため、動脈管を介してある程度の血流は確保されるのですが、酸素濃度は少し低い血液が下肢やお腹に流れる事になってしまうのです。このため、上肢ではSpO2:100%でも下肢は85%になるような現象が起きてしまいます。
図:CoAの症状
生まれたての新生児の場合はまだ動脈管が開いており、下肢やお腹の血流が確保されるので、なんとか状態を保てますが、動脈管が閉じたらどうでしょう?すると今までは動脈管から下肢やお腹への血液がなんとか供給されていたのに、動脈管の閉鎖とともに血液の供給が途絶えてしまいます。下肢やお腹の血流が途絶えると急激に状態は悪化します。昨日まで元気だった子が急激にしんどくなるのです。これがCoAで有名な「ductal shock(ダクタルショック)」です。なんかカタカナで書くとかっこ悪いですね(笑)。でも状態は決して笑える状況ではなく今にも死にそうな状態になるので、緊急で治療が必要になります。手術するしかないのですが、それまでのつなぎとして内科的にまずできることはプロスタグランジン製剤の投与で、開くかわからない動脈管をなんとか開いてやることです。プロスタンディンを100ng/kg/minとか大量に投与してやるのです。これで動脈管が少しでも開いてくれたらなんとか一時しのぎになり、手術までの時間稼ぎができます。この判断ができるかはとても重要です。なので、新生児でしんどそうな子が来た場合は必ずこのductal shockを頭に入れて診察しないといけません。これに気付くためには、上下肢のSpO2と血圧をとっておく事が大事になります。最終的には心エコーで診断をつけますが、疑えるかどうかが鍵となりますので、できる看護師さんは新生児と言うだけで、上下肢SpO2と血圧をとってくれます。そういう情報があれば、アホな医者でもCoAを疑う事ができるのです。言われた事だけやるのが看護師さんの仕事ではありません!状況を考え、適切にアホな医師を誘導する事ができるのが一流の看護師だと思います。みなさんもそういうレベルを目指しましょう!
まとめると、
・CoAがあるとductal shockになる可能性がある(まずこれを念頭に動く)
・血圧の上下肢差、SpO2の上下肢差が認められる。
・CoAがあれば何も考えずにPGE1投与。とにかく動脈管を開く!
という感じになります。
CoAの胎児診断
最近の心疾患は胎児診断がついているケースが本当に多いです。単心室はほとんどついています。それだけ医療が進歩しているという事です。CoAもひどいものは胎児診断を付けることができますが、最も胎児診断が難しいところでもあります。理由はCoAが起こるところは動脈管があるからです。胎児の時には動脈管が大きく開いており、まるで2本の大動脈弓があるかのように見えます。このため、この動脈管が閉じた時にCoAができるかどうかは、動脈管が閉じない限りわからない事が多いのです。胎児エコーでは慎重にチェックしていますが、怪しいケースでは、出生後にLipoPGE1を投与し動脈管を開いておき小児循環器や心臓血管外科の先生に判断してもらうほうがいいです。新生児の先生がファーストタッチされるケースが多いかと思いますが、胎児エコーのところに「CoAかも…」とか少しでも書いていれば、LipoPGE1を投与し、後は小児循環器を呼んで見てもらえばいいと思います。CoAは今でもductal shockで発見されるケースや心雑音で発見されるケースが多く胎児診断がとてもむずかしいのでこのことは頭に入れておきましょう!
・CoAは胎児診断が難しい。
・胎児エコーでCoAかも、とか書いてあればとりあえずLipoPGE1投与。
CoAの手術は?
CoAの手術は大動脈弓再建術です。そのままですね。オペレコとかには「Arch repair」とか「EAAA」とか書いてある事が多いかな、と思います。Arch repairはそのままで、EAAAはExtended Aortic Arch Anastomosisの略です。日本語で言うと拡大大動脈再建術?というところかなと思います。大体同じような意味なので大動脈の修復術と認識していればいいかな、と思います。
図:CoAの手術 Arch repair
図は大動脈の再建術の図です。単純に狭いところを切ってくっつけても狭窄が残ります。なぜかと言うと、血管を吻合する時に多少なりとも縫い目の部分はキュッと狭くなります。例えば3mmの血管をそのまま吻合して縫うと縫い目で多少狭くなり2mmの血管になってしまいます。でも斜めに切ることで吻合孔は直径6mmとか7mmとか倍くらい取れることになります。すると多少縫い目で狭くなっても狭窄するところまではいきません。3-6mmの小さい血管にとってはその縫い目の部分だけでも結構狭くなってしまうのです。なので、血管の吻合には工夫や形態に注意した工夫が必要です。詳しい事はわかりませんが、基本的には狭窄部を含め、血管を斜めに切ってくっつければ吻合する部位が大きくとれて、より拡大できます。図を見ればなんとなくイメージできるのではないでしょうか?
また、新生児の大動脈は結構引っ張れば延びるのでこのように結構切っても再建できるのですが、大きくなってくるともう大動脈が延びなくなります。そのため、手術はなるべく新生児から乳児期早期の間くらいの時期にしてあげるのがベストかと思います。
ちなみにうちの病院の先生のArch repairは上手です。狭窄したの見たことありません。その前いた病院の先生も上手でした。(もう引退されましたが)狭窄が残りやすいところなので、結構難しいと思いますが、上手な先生がすると違います。なので、きれいに治っているのが当たり前だと思わないでくださいね。昨今の「治って当たり前」的な態度の人結構いますけど、実際の手術見てみると驚くほど小さい心臓を細かく直しているのがわかるかと思います。VSDひとつとってもかなり小さいのでよくやるな、と思います。楽しそうですけどね。
まとめ
今回は心室中隔欠損+大動脈縮窄+大動脈弁(もしくは弁下)狭窄の複合疾患、CoA complexのCoAについて話しました。
CoAのできる原因としては
①血液が少なくて十分育たず縮窄、
②動脈管組織が大動脈に混じってしまい出生後に一緒に収縮し縮窄、
と2つの主な原因がありましたね。
そしてポイントは身体所見でどれだけCoAを疑えるか?です。血圧・SpO2の上下肢差、狭窄部の雑音、鼠径動脈の触れ具合etc…など様々ありますが、血圧とSpO2はかなり客観的な指標なので、これでまず疑えるようにしましょう!
ductal shockになっていれば緊急を要する事態なので、PGE1を即座に投与しましょう。また最近は胎児診断が多くCoAを疑っていればLipoPGE1をとりあえず流し動脈管が閉じないようにしておき、循環器内科や心臓血管外科に判断をしてもらいましょう。
手術は大動脈再建術です。新生児から乳児期は大動脈を引っ張れば延びるので、斜めに切って引っ張りくっつける手術をします。
CoAに関してはそんなところです。1回で済ませてますが、CoAはいろんな疾患に合併しかなり出現頻度高めですので、しっかりマスターするようにしてください。特に身体所見から疑えるかどうかがかなり重要です!
CoAは単独でも発生する事がよくあるのですが、2/3ほどはVSDとかと合併して発生します。なので、次回は複合疾患CoA complexについて話していきます。