誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

左心低形成症候群(HLHS)〜Norwood手術 疾患19

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今回はNorwood手術について説明していきます。

前回はHLHSの血行動態について説明していきました。HLHSに限らず、単心室ではよくある血行動態なので、考え方の基本になるのではないかと思います。RVから肺動脈と全身の両方を還流している疾患になります。そのため、血液が流れやすい肺に血液がどんどん流れ、生後1日くらいでhigh flowになってしまいます。こういう時は両側肺動脈絞扼術(bil.PAB)で一旦しのいでNorwood手術に持っていく、という話でした。

生後すぐhigh flowになり、bil.PABでしのいで1ヶ月くらいもたせたら、いよいよNorwood手術になります。今回はNorwood手術について説明していきます。今回も外科の先生に話してもらった方がいい項目ですが、我慢してください。

 

Norwood手術

Norwood手術は名前くらい聞いたことがあるのではないでしょうか?前回とか前々回にNorwood手術は心臓血管外科の登竜門的な手術、と言う話をしましたが、難易度の高い手術になります。間違っていたら申し訳ありませんが、なんとなく内科のイメージではASD→VSD→TOF→TGA→Norwoodっていう感じでレベルが上がるというイメージがあります。Norwoodができればなんでもできる、的な。最近は管理が進歩した事もあり、当てはまらないところもありますが。。。

どうでもいい話はおいておいて、Norwood手術の話をしていきます。

Norwood手術を一言で表すと、「しょぼい大動脈と太い肺動脈を合体させて新しい大動脈を作る手術」です。(DKSに似た感じです。)弁はもともとの肺動脈弁を使い、しょぼい大動脈をくっつける事により冠動脈の血流を確保します。Archのところはパッチで形成し太い大動脈を作ります。(肺動脈を使って形成することもあります。)これでしょぼかった大動脈は太く全身を還流するのに十分なものになります。

 

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Norwood Arch

図:Norwood手術Archの部分

 

では、肺血流はどうするのかと言うと、「BT shunt」と「RV-PA conduit」の2つの方法、どちらかで肺への血液を確保します。下の図を見ながらイメージしていきましょう。

 

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Norwood PA

図:Norwood手術 肺血流の部分

 

「BT shunt」と「RV-PA conduit

肺血流の還流には「BT shunt」と「RV-PA conduit(RVPA shuntとかSano shuntとかいろいろ呼ばれます)」の2つの方法があります。2つの方法には利点と欠点があります。

ちょっと歴史みたにな話をしますと・・・。もともとのNorwood手術はBT shuntでしたが、BT shuntだと大動脈の枝から肺血流が取られるため、拡張期圧が下がるという問題点がありました。PDAとかと同じで、拡張期に肺に血液が流れ、その分血圧が下がるという事です。拡張期血圧が下がるだけならいいじゃん、と思うかもしれませんが、冠動脈の血流は主に拡張期に流れるため拡張期の血圧が下がると冠動脈に血液が流れにくくなり虚血になりやすいのです。実際Norwood手術をはじめた頃は手術はうまくいったものの、術後に血行動態の管理が難しく、亡くなったりするケースが多かったです。その中には冠動脈の血流が低下して虚血になり、心機能が低下して突然死というケースも多かったようです。またhigh flowにもなりやすいため、そのコントロールが難しく術後はかなり難渋しました。

それの弱点を補ったのが、RV-PA conduitです。Sano shuntとも呼ばれています。右心室に穴を開けて、導管でRVとPAを直接つなぐ方法で肺血流を確保する方法をとったのです。すると拡張期に大動脈から肺血流が取られる事がなくなったため、冠動脈の血流は安定するようになりました。RV-PA conduitの登場によりNorwood手術の成績は向上し、まだまだ難しい疾患ではありますが、だいぶHLHSは死ななくました。

 

Norwood手術の歴史的なところを書いてしまいましたが、BT shuntとRV-PA conduitの利点と欠点をまとめます。

BT shuntでは①「high flowになりやすい。」②「拡張期にshuntに血流をとられるため、拡張期圧が下がり冠動脈の血流がとられ、虚血になりやすい。」などの欠点がありました。しかし技術的にはこちらの方が簡単で、後述するRV-PA conduitと比べると右心室に穴を開けなくて済むので右心室へのダメージは少なくいい点もあります。

RV-PA conduitだとBT shuntと違い、①「冠動脈の血流に影響がない。」という利点があります。また血行動態が安定しやすく条件の悪いHLHSにはこちらの方が良いと考えられています。しかし、②「右室に穴をあけるため、右心機能に影響がでる。」という欠点もあります。TOFの手術のところでも書きましたが、右室を切る、と言うことは後の心機能の低下につながってしまいます。TOFの手術であれほど「右室切開を小さくする」、という事にこだわっていたのはそのためです。しかし、HLHSはそもそもなかなか助からず、ようやくRV-PA conduitなどをして成績がよくなってきたので、右室機能低下はわかってはいるが、死んでしまってはどうしようもないからしょうがない、というのがまだ現状だと考えられます。なので、現在のところは、手術の方針としては、条件のいいものはBT shunt、悪いものはRV-PA conduitというところではないのでしょうか。

 

条件のいいHLHSとわるいHLHS

上に条件のいいHLHSはBT shunt・・・とか書きましたが、そもそも条件のいいHLHSってなんでしょうか?体重が大きいもの、卵円孔が大きく開いているもの、血行動態が安定しているものetc…といろいろ思い浮かびますが重要なのは条件の悪いほうですよね。もともとHLHSは予後が悪いですが、下記に当てはまるようなHLHSはさらに予後が悪いと言われています。

 ・早産児(在胎週数37週未満)

 ・体重が小さい(体重2.5kg未満)

 ・卵円孔が狭い、もしくは閉鎖

 ・三尖弁逆流が多い人

 ・high flowショックになっちゃった人

 ・他の奇形がある人  ….etc

ちょっと思いついたのがこれくらいでしたが、まだあれば教えてください。当然小さく、未熟性の高い症例は条件が悪いです。他に奇形がある、とか三尖弁逆流が多い、とかショックになっちゃった人も条件が悪いのは考えなくてもわかりますよね。卵円孔が狭い、とか閉鎖している人が条件が悪いというのはどういう事でしょうか?

肺血流は肺静脈からLAに返り、LV→Aoに行くはずなのですが、HLHSの場合だとLA→LVに行けず、LA→RAの方に返ってきます。そのため、卵円孔は大きく開いているのが普通なのです。それでも「卵円孔が狭いとか閉鎖している」ということは、肺がしっかり育っておらず、そのため肺血流が少なく、卵円孔を通る血流が少ないという事を意味しています。肺がしっかり育っているという事はFontanに行く上では重要な条件であり、良い肺は手術にとっても重要な条件であります。このため、卵円孔が狭いとか閉鎖している事はそれだけでもBASが必要になったりといい事がありませんが、さらに肺があまり育っていないという証拠でもあり、条件が悪いHLHSだと言うことになります。

なので、35週のHLHSとか出生体重2.3kgのHLHSとか、 BASが必要だったHLHSとかはそれだけで条件が悪いHLHSなんだな、と考えてください。それを加味した上で術式はRV-PAかな、、とか予想できたら、もうNorwoodはバッチですね。

 

Norwood手術のまとめ

Norwood手術とは「しょぼい大動脈と太い肺動脈を合体させて新しい大動脈を作る手術」でした。肺血流はどうするかと言うと、BT shuntとRV-PA conduitの2つの方法があります。

BTshuntは手術の難易度は低めだが、冠血流がshuntに取られ虚血になりやすい、high flowになりやすく血行動態が安定しにくい、という欠点がありました。

RV-PA conduitは拡張期に冠血流が取られる事はなく血行動態が安定しやすいという利点がありましたが、右室に穴をあけるため、右心機能の低下を招くという弱点もありました。

なので、条件のいいものはBT shunt、条件のわるいやつ(2.5kg, 37週未満, BASが必要な卵円孔など)はRV-PA conduitというのが現状の方針、という感じです。

 

なんとなく難しいと思っていたNorwood手術もやってる事は単純ですね。考え方と2つの術式の利点と欠点が分かれば十分だと思います。

Norwood手術が終われば、半年で両方向性Glenn手術、2-3歳でTCPC手術となり、他の単心室と同じような方針になります。なので、Norwood手術をうまく乗り切るのがHLHSの重要なポイントになるんですね。

 

次回はHLHSの親戚みたいな疾患群、HLHCについて話していきます。