誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

総動脈幹症(Persistent truncus arteriosus)について Truncusの血行動態high flowから心内修復術へ 疾患26

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前回のTruncusの成り立ちはOKですか?

Truncusの形は単純です。

大動脈と肺動脈が合体していて、大動脈弁が4尖弁で逆流が多くて困ることが多く、VSDが大きく開いており、大体二心室修復できる疾患です。

でもそれではなかなか頭に入りにくいので、前回はどうやってTruncusができるかを話しました。円錐中隔(conus septem)もまたでてきましたが、理解できましたか?成り立ちがわかるとTruncusは覚えなくても形が頭にスッと入ってくると思うので出来たら成り立ちを理解していただけたらいいかな、と思います。

今回はTruncusの血行動態について説明していきたいと思います。

 

Truncusの一生

まずTruncusの一生がどんな感じか、お馴染みの表を書いてみましたのでまずこれをみてみましょう。

 

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図:Truncusの一生

 

Truncusは大体こんな感じの一生かと思います。大体生まれたらすぐにhigh flowになり、bil.PABを挟んで心内修復術をします。予後に大きな影響を与えるのはTruncal valveになります。多くの場合、この弁は出来が悪く、結構逆流が多くなり困ることが多いです。便宜的に大体このTruncal valveを「大動脈弁」と言っていますが、正確には違うのでその事は頭に入れておきましょう。でもARとか話していたらTruncal valveの逆流と考えるようにしましょう。

もしよく勉強していたり、循環器をものにしていれば、この心臓の形を見ただけで大体の治療のストラテジーが頭に浮かぶと思います。そのレベルになれば、このブログを読む必要は全くなくなりますね。みなさん、そのレベルを目指していきましょう!

 

出生後は速攻でhigh flow

ちょっとそっこうの漢字があっているかわかりませんが、出生後Truncusはすぐにhigh flowになってしまいます。HLHSと同じで、同じところから大動脈と肺動脈が出ているため、同じ圧が大動脈と肺動脈にかかります。生まれた時はまだ生理的肺高血圧がありますが、1日たてばだいぶ肺の血管抵抗は下がり、肺にたくさん血液が流れ出します

図を見て考えてもらえばわかると思いますが、出生直後は肺の血管抵抗も高く、全身とほぼ同じくらいです(これを生理的肺高血圧といいます。わからない人は昔のhigh flowの記事をみてください)。なので、図のようにTruncusの場合は心臓からの出口がTruncal valveしかありません。一つの出口から全身にも肺にも血液を流すため、全身と肺動脈に同じ圧がかかります。出生直後は肺の血管が開いたばかりなので、全身に6、肺に4程度の割合ですが、1日たったら、肺の血管抵抗は半分以下になるので、どんどん肺に血液が流れやすくなります。すると日齢1には全身に3、肺に7くらいの割合になってしまい、すぐにhigh flowになります。

Truncusは肺動脈狭窄を合併していない事がほとんどで、肺の血管も良く育っています。肺がいいので肺が悪い疾患や肺動脈に狭窄がある疾患より肺に血液が流れやすく、すぐにhigh flowになってしまう、という事です。

 

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図:Truncus high flow

 

なので、TruncusはHLHSなどと同じ様に出生後にすぐにhigh flowになってしまいます。ちなみに肺血流は大動脈から出ていて動脈管(PDA)は基本的に関係ないので、LipoPGE1を流す必要は基本ありません。形見ればわかりますが、HLHSとはそこが違います。(ただし後述するhemi TruncusはPGE1がいります。)

新生児期に心内修復術にいきなり行くのはなかなか負担が大きいので、high flowの治療として、ここは一旦PAB(肺動脈絞扼術)で逃げます

いちおうTruncusにも分類(Collet & Edwards分類とVan Praagh分類)があり、ちょっとだけ形にバリエーションがあります。下の図にのせておきますが、Collet & Edwards分類のⅠ型であれば、mPAB、Ⅱ型であればbil.PABなどが必要になります。ちなみにほとんどがこのⅠ、Ⅱ型です。Van Praagh分類のA3のような形の場合はhemi Truncusっていうあだ名がついているので、なんのことかわからなかったら、下図を見てみてください。半分だけTruncusみたいなイメージでOKです。どちらの分類がメジャーかはよくわかりませんが、Van Praagh分類の方が馴染みがある気がしますが、どうでしょうか。。どちらも覚えなくていいです、どっちか覚えたいならVan Praagh分類でしょう。

 

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図:Truncusの分類

ちょっと脱線しましたが、Truncusは心臓の出口がTruncal valve一つであり、大動脈と肺動脈に同じ圧がかかるため、肺に流れやすくなり、かつ肺動脈狭窄もなく肺の血管の状態がいいので、なおさら流れやすいのです。すると出生後すぐにhigh flowになってしまうため、早々に処置が必要になります。出生後すぐに心内修復術は結構しんどいので、まずPABで逃げるという流れになります。

 

心内修復術(Rastelli手術を一回挟む事もあります)

PABで一旦落ち着いたら全身状態を整え、生後1ヶ月くらいでRastelli手術もしくは心内修復術に向かいます。この時点で一気に心内修復術をするケースとRastelli手術だけしてから、1歳くらいで心内修復術をするケースとあります。図表にはRastelli手術と心内修復術と書いて薄い色にして、カッコ付けにしていますが、この時点で心内修復術をすることもあるので、そうしました。今回は心内修復術をする、という形で話します。

心内修復術ではRastelli手術も一緒に含まれるので一緒に覚えちゃったらいいかな、と思います。

ほとんどTruncusは二心室修復できますので、ほとんど治療方針に迷う事はありません。では具体的に何をするかというと…

・もともとあったTruncal valveは大動脈として使う。

・VSDを閉じる。

・肺動脈と右心室を導管でつなぐ。(Rastelli手術)

とただこれだけです。こうすると普通の二心室循環に戻ります。これだけで終わればいいのですが、多くの場合Truncusには重要な問題が生じるのです。

それが、Truncal valveの逆流です。ARと便宜的に言う場合が多いので、今回のTruncusの項で「AR」って言ってたら「Truncal valveの逆流」と考えてください。普通の臨床現場でもARと使う場合が多いです。

 

Truncal valveの逆流とその治療について

このTruncal valveは4尖弁の事が多く、弁の出来は悪いです。大体はmoderate近くの逆流を認め、手術時には弁形成が必要になります。この弁形成というのはかなり難しく、moderateがmildになったらかなり成功例だと言えます。弁を縫って3尖弁化、2尖弁化したり、4尖弁のうち1つの弁を切り取って3尖弁化するなど、いろいろ工夫をして手術をしますが、完全に逆流がなくなる事はありません。困ったものです…。

 

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図:Truncus 心内修復術

 

大人の場合であれば、機械弁に弁置換すればいいのですが、子供の場合はそうはいきません。なぜかと言うと、0歳は3kg、1歳で9kg、6歳で20kgと、子供はどんどん成長していきます。当然、機械弁自体は大きくならないので、0歳3kgの時にちょうどいいサイズの弁でも、もう6歳20kgになればだいぶ体に対して小さくなってしまいます。成長の度に機械弁を入れ替える手術をしていては大変なので、機械弁にするのは少しでも大きくなってからにしたいのです。そのため、今回の心内修復術では「少しでも大動脈弁をもたせる」事が最低限の目標になります。

最高の結果なら、逆流が減って今後一生大動脈弁(Truncal valve)を直さなくていい状態になりますが、最悪でも機械弁にするタイミングを少しでも遅らせる事ができるように少しでも逆流を減らしておきたいところです。数年でも弁置換術(機械弁に置き換えます)を遅らせる事ができればいいのです。

こんな低い目標を心臓外科の先生に言ったら怒られてしまいますが、患者さんをはじめ、みなさん「手術すれば治る」という意識が強すぎて弁の形成に対する期待値が高すぎます。弁形成は少しでもよくなればラッキーくらいに構えるのがいいと個人的には思います。それほどこの弁形成というのは難しくやっかいなものなのです。他の弁に関しても同じです、かなり厄介でなかなか治りませんから、そのつもりで構えといたほうがいいです。

という事で心内修復術のポイントであり、AR(Truncal valveの逆流)について説明しました。これがTruncusの最大のポイントです。

「弁の成り立ち→4尖弁→Truncal valveの逆流と治療」が流れでわかるとOKです。大動脈の方はわかったとして、肺血流はどうするのでしょうか?

肺血流は右心室から肺動脈に送るルートを作らないと流せません。どういう手術をするかというとRastelli手術という手術をします

次回はRastelli手術について説明していきます。