誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

不整脈:上室性頻脈(SVT) リエントリーについて  〜基本44〜

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今回は上室性頻脈の中でもリエントリー性のSVTについて話をしていきます。前回は上室性頻脈にはリエントリーと異常自動能(とトリガードアクティビティ)があるという話をしました。トリガードアクティビティは無視でよく、リエントリーと異常自動能をしっかりマスターしましょう、という話でした。リエントリーは頻脈中の心拍数が一定であり、DC(除細動)が効果的でした。一方、異常自動能は頻脈中の心拍数は変動し、DCは効きません。この違いが重要でまず機序について説明する前にこれを覚えてもらえるように前回話をしました。

・リエントリー:頻脈中の心拍数が一定。DCが効く。

・異常自動能:頻脈中の心拍数が変動。DCは効かない。

今一度上記を頭にいれておいてくださいね。今回はまず上室性頻拍の中でも、リエントリーについて話をしていきます。上室性頻拍の中でも大半を占めるのがリエントリー性の頻拍です。小児の90%のSVTはリエントリー性の頻脈で占められるため、SVT(上室性頻脈)はリエントリーがわかれば大体大丈夫ですよね。リエントリーで意味わからなくてくじける方は多いかと思いますが、不整脈の先生に叱られるくらい簡略化してリエントリーを説明していきますので、これでなんとか理解のきっかけを作っていただけたらな、と思っています。

 

リエントリーの機序

まずリエントリーの説明をする時にわかってほしい事があります。それは電気を通すところと電気を通さないところです。心筋細胞は心房も心室も基本的には電気を通します。なので、下の図のように緑に塗っているところは電気を通します。心房のどこかから電気が発生すれば電気は放射状に伝導していくのが普通です。しかし、この電気も心臓を越えてどこまでも伝わっていくわけではありません。まず、IVC(下大静脈)とSVC(上大静脈)は電気を通しません。なので、緑の図のように電気はそこで途切れます。また弁も電気を通しません、つまり三尖弁や僧帽弁も電気を通さないのです。心房で発生した電気はSVCやIVCも通れず、房室弁も通れません。心房で発生した電気は心房内にしか基本的には伝導しません。しかし、唯一電気を通すところがあります、みなさんも知っている通り房室結節です房室結節は心房の電気を心室に通す、唯一の伝導路なのです。なんとなく、心臓って電気が通るんだよね、と思っていた人多いかと思いますが、房室結節以外には心房の外に電気が通るところはないのです。これはとても重要なので覚えておきましょう。

・心房の心筋は電気を通す。

・IVC、SVC、房室弁は電気を通さない。

・心房と心室の唯一の伝導路は房室結節。

 

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図;リエントリーの機序

上記の事は不整脈を考える上で重要になるので、基本的な知識として覚えておきましょう。またもう一つ、手術の創部とかカテーテルアブレーションをして焼いた心筋も電気を通しません。心筋の性状が変わってしまうから電気を通さなくなります。そう考えると、心臓も電気を通さないところがたくさんあることがわかりますね。

実はリエントリーというのは電気を通さないところがあるために起こる不整脈なのです。普通、何かのきっかけで心房で電気が発生(PACとかが起こったり…)としても、図のように心臓の緑の部位に広がって、一部は房室結節を通じて心室に繋がりますが、それで終わりになります。

しかし、心臓に手術をして創部の痕があると、電気を通さないので、図のように電気は手術の痕を迂回するようになります。迂回した電気が手術の傷の痕を回ってきた時に、最初に興奮した心筋の細胞が不応期を脱していたら、迂回して回ってきた電気に反応してまた興奮して電気が発生します。その脈が一部は房室結節に繋がり、心室に伝導していきます。そして、その脈はまた手術の痕を迂回して電気が回るようになります。1周また電気が回ってきた時にまた不応期を脱していればまた反応して電気がつながるようになります。それがまた手術の痕を回って、また反応して、回って・・・っていうのが続くのがリエントリーです。リエントリーって言うのはすごく簡単に言うと、電気を通さないところの周りを電気がぐるぐる回る不整脈です。三尖弁の周りも電気を通さないので、回りますし、手術の痕も電気を通さないので、周りを回ります。電気が発生して電気を通さないところの周りを回って不応期を脱しているとまた回るって事が重要で、それがリエントリーなのです。

 

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図;リエントリーの機序

ぐるぐる回るため、1周回る速さは一緒なので、頻拍の心拍数も一定になります。これは非常に重要なポイントです。電気の伝導の速さは細胞によって決まっているので、1周回る速さは一定なのです。なので、リエントリーの頻脈は同じ速さでグルグルまわるため、頻脈の心拍数が一定になります。前回のところで「リエントリーは頻拍中の心拍数が一定」と強調しましたが、グルグル同じところを一定の速度でまわるため、頻脈中の心拍数が一定になるのです。まわりだしたら不整脈が始まるので、リエントリー性の不整脈は急に始まります。だんだん脈が早くなって、不整脈に、、、って事にはなりません。回ったら不整脈の始まりなので、急に始まります。そして終わる時も回らなくなったら不整脈は終わるので、急に止まったりするのです。突然はじまり、突然終わる、これがリエントリー性不整脈です。これも重要な特徴の一つです。そして、頻脈はグルグルまわるために起こるので、その電気を一旦止めてしまえば、もう回らなくなるので、頻脈は止まってしまうのです。除細動って言うのは強い電気をかけて、一旦今起こっている電気をリセットする方法です。なので、除細動(DC)を行うと、グルグル回っている電気は一旦途切れてしまいます。リエントリーの治療はDC(除細動)だと話しましたが、除細動が効くのはこのためです。回っている電気を一旦止めちゃえばグルグル回る電気がなくなっちゃうので、頻脈は止まってしまいます。リエントリーっていう機序がわかれば、なんで頻脈中の心拍数が一定なのかが、理解できますし、なんでDCが効くのかも理解出来ますよね?どうでしょうか?なので、不整脈って言うのはちょっと遠回りに思えますが、実は機序を理解するのが非常に重要です。治療にも知識がつながるし、臨床症状にも繋がってきます。まとめると

・リエントリーは三尖弁や手術の痕など電気を通さないところの周りを回る不整脈

・回ってきた時に不応期を脱しているとまた電気がまわり、それを繰り返す不整脈

・回る不整脈であり、1周回る速さは一緒なので頻脈の心拍数は一定。

・突然はじまり、突然終わるのがリエントリー性不整脈

・回っているのを断ち切れば不整脈は治るので、DCで電気を一旦断ち切り治療できる。

という感じになります。下の絵とかを見ながらなんとか理解するようにしてください。リエントリーはグルグル回っている、というイメージができれば、なんで心拍数が一定なのか、なんで、突然はじまって終わるのか、なんでDCが効くのかが理解できるようになるはずです。出来たらこれをなんとか理解してほしいので、頑張ってください。

 

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図:リエントリーの特徴と不整脈

 

詳しく知りたい人のために…

ここの段落はどうしてもリエントリーを詳しく知りたい人だけ読みましょう。と言っても大して詳しくないですが、リエントリーの教科書によく書いてある事を長々と書いてちゃんと説明します。

実はリエントリーが成立するため、「伝導遅延、リエントリー回路、一方向性ブロック」っていう3つの条件がないと成立しないのです。いろんな教科書にはこれが書いてあるハズです。でもこれを言われると一気に脳がショートしてしまうので、これは一旦忘れましょう。知らなくてもリエントリーは理解できるはずです

リエントリー回路とは、電気がぐるぐる回れるところです。手術の痕や三尖弁の周りがグルグル電気が回れるところです。これを専門的に言うとリエントリー回路って言います。リエントリーって言うのは回れるところがないと出来ないです。誰でも三尖弁とかあるので、回るところは必ずあります。ましてや先天性心疾患の人はたくさん手術していますから、手術痕があるわけです。たくさん電気が回れるところがあるので、普通の人より不整脈が起きやすい事がわかります。リエントリーにはまずこのリエントリー回路、電気が回れる所が必要なのです。

次に伝導遅延です。電気は実はすごい速さで伝導していきます。三尖弁や心房の傷の痕のまわりなんかは一瞬で回ってしまいます。電気が一瞬で回って伝導してきたときに、もとの心筋細胞がまだ不応期ならどうでしょうか?不応期であれば、電気に反応できませんので、実は1周ぐるっと回って、この電気はつながらなくなります。1発の心房期外収縮で終わってしまったりします。しかし、もしリエントリー回路に電気がゆっくり伝導する部位があったらどうでしょう?ゆっくり伝導する部位があれば、ゆっくりしている間にもとの心筋細胞は不応期を脱します。そして、回ってきた電気に再び興奮し、また電気を伝導させていきます。伝導遅延部位があるために、心筋細胞は不応期を脱することができ、電気はグルグル周り続き、リエントリー性に不整脈が起こるのです。これがよく言われる条件である伝導遅延です。リエントリー回路のどこかに、電気をゆっくり伝導する「伝導遅延」があると、電気はゆっくり回り(とは言ってもまあまあ早いですけどね)、ゆっくり回っている間に不応期を脱していて、回ってきた電気に反応してしまうのです。

次に、一方向性ブロックっていうのも一応説明すると、電気は本来は放射状に伝導していくので、矢印の方向だけでなく、逆方向にもぐるっと回ります。電気と電気がぶつかると電気の伝導はそこで打ち消し合って終わってしまいます。なので、いくらリエントリー回路があって、伝導遅延があったとしても逆方向からきた電気に打ち消されてしまうと、リエントリーは成立しません一方向性ブロックっていうのは電気がひとつの方向にしかいけないよ、って状態です。図で言うと、時計回りにしか回れません、って状態です。そうなると回ってきた電気を打ち消す電気が反時計方向からきませんので、晴れて電気はぐるっと回れるわけです。

まとめると、リエントリーができるためには、まず電気がぐるぐる回れるリエントリー回路(三尖弁のまわりや手術痕のまわり)が必要であり、電気が打ち消されないように、一つの方向しか回れない事も必要であり(一方向性ブロック)、かつ電気がぐるっと回ってきた時に素早くぐるっと回ると不応期に入っているため、電気がつながらないので、ぐるっと回ってきた時に不応期を脱しているタイミングでまわるためにどこかでノロノロと伝導しないといけません。(伝導遅延)リエントリー性の不整脈が起こるためにはこんなに条件が必要になってくるのです。なので、そうそう簡単にはリエントリー性のSVTって言うのは起こらないのですが、偶然この3つの条件が重なった時にリエントリーが成立してしまい、不整脈が起こってしまいます。なので、本当は「伝導遅延、リエントリー回路、一方向性ブロック」っていうのがリエントリーの条件なのだけれども、これを言われると大体の人はアレルギーが出るので、ちゃんと説明しませんでした。なんとなく、傷や三尖弁のまわりを回っているイメージがついたらリエントリーは頻拍中の心拍数が一定だとか、突然はじまって終わることとか、DCが効くとかがイメージしやすいので、こんな説明にさせていただきました。

 

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図:伝導遅延、リエントリー回路

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図;一方向性ブロック

 

エントリー性不整脈の種類

リエントリー性の不整脈にはいくつか種類があります。ざっと挙げると、

 IART(Intraatrial reentrant tachycardia);心房内回帰性頻拍

 AFL(Atrial Flutter):心房粗動 (IARTに含まれる)

 AF(Atrial fibrillation):心房細動

 AVRT(AV reentrant tachycardia):房室回帰性頻拍

 AVNRT(AV node reentrant tachycardia):房室結節回帰性頻拍

という感じです。

今回の図で説明しているのは、IART(心房内回帰性頻拍)とかAFL(心房粗動)とかです。IARTって言い方はあまりしないかもしれませんが、心房の中で手術痕とか三尖弁とかのまわりを回っていたら、全部IARTです。その中でも、普通の人でもよく起こる三尖弁のまわりを回るやつをAFL(フラッターとか言ったりします)って言ったりします。どっちも心房の中でどっかをグルグル回るやつって思ってもらったらOKかな、と思います。

AFっていうのは子供ではあまり見ませんが、成人では最もポピュラーな不整脈ですね、あれも実はリエントリーでして、小さい心房の傷とかのまわりをグルグル回ってできるものです。またそのうちもう少しまともに説明するので、こんな感じのものがあるってくらいで聞き流してください。

では、次回はリエントリーの具体的な頻脈について説明していきます。リエントリーっていいうのは、とにかく「どこかのまわりをグルグル回る頻脈」ってことだけ、今回のところでわかっていただけたらな、と思います。ということで、次回は最も多い頻脈、AVRT(房室回帰性頻脈)について話をしていきます。