誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

総動脈幹症(Persistent truncus arteriosus)について Truncusの成り立ち 疾患25

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今回は総動脈幹症について話していきます。

特になんで総動脈幹症にしたかと言うと、以前お話したTOFとちょっと繋がりがあるからです。(読んでいけばわかります。)

この総動脈幹症はあまりよく見る疾患ではないかもしれません。総動脈幹症は英語では「persistent truncus arteriosus(PTA)」と言います。PTAと略されたりしている病院もあるかもしれませんが、今までいた病院では「Truncus」とだけ言っている所ばかりでした。おそらく日本中でTruncus(トランカス)で通じるのではないでしょうか?

ちょっとマイナーな疾患ではあるかもしれませんが、1年に1人くらいは見るのではないでしょうか?生まれてすぐにhigh flowになる疾患で、治療介入のタイミングが早いので知っておいたほうがいい疾患だと思います。

予後は大動脈弁(正確にはTruncal valveって言います。)の形態に依存していたりするかもしれませんが、二心室修復できる事が多く、あまりFontanになったというのは聞いたことがありません。

という事で今回はTruncus(総動脈幹症)について話していきます。

 

Truncusって何?

Truncusっていう疾患がどういう疾患か、一言で言うと

「肺動脈と大動脈が合体していて、一つの大きな流出路になっている疾患」

です。下の模式図のような形をしています。

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Truncus


 

図:Truncus

 

その他いくつかポイントがあります。列挙すると

・大動脈弁(正確にはTruncal valveと言います)は4尖弁

・大きなVSDが開いている。

・出生後すぐにhigh flowになる。

・ほとんど二心室修復できる。

と、これくらいになります。もう何も考えたくない人はTruncusは大動脈と肺動脈が合体している疾患で、弁は4尖弁で、VSDがあり、大体二心室修復できる、と覚えればいいと思います。形さえわかれば、考え方が定着している人にはすぐにhigh flowになるとわかるはずです。

でも、それでは芸がないので、「なんで大動脈と肺動脈が合体しているのか?」を中心に考えていきたいと思います。まずはこれを理解するためにはまず発生を理解する必要があります。みんな発生は嫌いでしょうが頑張っていきましょう。

 

動脈幹って何?

Truncus(総動脈幹症)って名前なのですが、そもそもこの「動脈幹」ってなんなのでしょうか。この動脈幹は、「幹」であって、「管」ではありません。みなさんのよく知っている「動脈管」(PDA)とは全く別物なのです。

では、この動脈幹って一体何なんでしょうか?するどい人はわかるかもしれませんが、この動脈幹は将来「大動脈」と「肺動脈」になる部分の事を言います。

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Truncus発生


 

図:動脈幹

 

心臓はもともと一つの管がぐにゃぐにゃ曲がって壁とかができて最終的にみなさんのよく知っている形になります。大動脈と肺動脈も、もともとは一つの管で、「動脈幹」と呼ばれる管だったのです。普通は心臓ができていくにつれて、この動脈幹は大動脈と肺動脈の2つの管にわかれていきます。図のように分かれると間は壁ができ、大動脈壁と肺動脈壁になります。今度は動脈幹の下の方を見ていきましょう。

絵を見てもらうと円錐(conus)と書いてありますね。動脈幹の下の方は円錐(conus)と言います。ここも別れて壁になり、円錐中隔(conus septum)になります。これTOFの時に散々話した、Conus septumです!思い出していただけましたか?これ心臓においてはとても重要な部分なのでConus と言われたら即座に反応できるようにしておきましょう。図のようにこの円錐中隔(conus septum)が下にのびて、下からのびてくる筋性中隔があわさると心室中隔ができるのです。

* すみません、上の図ではConus septemになっていますが、正しくはConus septumです。

 ・動脈幹→大動脈と肺動脈にわかれる。

 ・円錐(Conus)→大動弁と肺動脈弁が円錐によって分かれる。

 ・円錐中隔(conus septum)がのびて心室中隔ができる。

という感じになります。

では次に下の方から動脈幹を見上げるとどうなっているのかを考えていきます。

 

動脈幹を下から見上げると…

図のように動脈幹を下の方から見上げるとこんな模式図になります。

下の図が動脈幹を下から見た図ですが、もともと4つの盛り上がりがあります。そのうちの2つが矢印のようにくっついて、大動脈弁と肺動脈弁に別れます。こんな感じで分かれるため、大動脈弁も肺動脈弁も通常は三尖弁なのです。

 

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Truncal valve

図:Truncal valveの成り立ち

 

これがわかるとなぜ大動脈弁と肺動脈弁が三尖弁になっているかがわかると思います。

 ・動脈幹の下の方はもともと4つの盛り上がりがある。

 ・これが、図のように2つにわかれ、大動脈弁、肺動脈弁ができる。

という感じになります。

 

総動脈幹症:Truncusはどうなっているか?

先ほどのところで動脈幹がわかれて、大動脈と肺動脈になる過程がわかったかと思います。では動脈幹が大動脈と肺動脈に分かれるはずが、わかれなかったらどうなるでしょう?話しの流れからわかると思いますが、総動脈幹症(Truncus)になってしまいます。

動脈幹はそのまま1つの管で、その1つの管から大動脈の枝も左右の肺動脈も出ることになります。

下の方(円錐のあたり)も4つの盛り上がりが2つにわかれないので、円錐中隔(conus septum)はできず、そのまま弁になってしまい、4尖弁になってしまいます。この弁、大動脈弁と言ってしまう事も多いですが、正確にはTruncal valveと言います。多くは4尖弁ですが、3尖、5尖の事などもあります。このTruncal valveは出来が悪く、逆流が多いため、困ることが多いです。大体Truncusの最大の悩みどころがこのTruncal valveです。

そして、円錐中隔(conus septum)ができないので、心室中隔の上の方が形成されず、大きな心室中隔欠損症(VSD)ができます。

動脈幹が2つにうまく別れないので、当然動脈幹の上の方もおかしな事になります。そのため、Archのあたりも当然変な事が多く、よくRAA(右側大動脈弓)、IAA(大動脈弓離断)、ARSCAやALSCA(鎖骨下動脈起始異常)を認めます。

 

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Truncus成り立ち

図:Truncusの成り立ち

 

という感じでTruncusは動脈幹が2つにちゃんとわかれなかったためにいろいろと困ったことになってしまう疾患です。

みなさんCATCH22って聞いたことあるかもしれませんが、現在は22q11.2欠失症候群(22q11.2 del)とか言います。これはよく心疾患が合併する遺伝子の異常ですが、この遺伝子の異常は円錐動脈幹の異常があることが特徴です。なので、TOF(conusが前にずれている)、Truncus(動脈幹もわかれずconusもできない)、RAAやIAA、ARSCAなど(動脈幹の上のあたりの異常)などの心疾患を合併している事が多いのです。

以前勉強したConusの知識が生きてくる事になりますよね。ま、よくわからなければ遺伝子のところは飛ばしていいですが、少し知っていれば断片的だった知識がつながると思います。

こんな感じでTruncusはできます。この成り立ちがわかると、Truncusがただの暗記疾患から印象が変わるのではないでしょうか?

 

まとめ

Truncusの成り立ちをまとめると

・動脈幹が大動脈と肺動脈にうまく別れなかったのがTruncus。

・下から見ると4つに別れている動脈幹。円錐中隔(conus septum)もできないので、4つのまま4尖弁になる。逆流が多く、将来の悩みのタネに…。

・円錐中隔(conus septum)ができないので、大きなVSDができる。

・動脈幹の上の方も変な事が多く、RAA、IAA、ARSCAなどを合併する。

・22q11.2delの遺伝子異常を伴っているケースも多い。

という感じになります。

Truncusの成り立ちがこれでなんとなくわかっていただけたでしょうか?VSDが合併している事やArchの異常が多い事も理解できますよね。という事で次回はTruncusの血行動態などをしていこうと思います。