誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

心室中隔欠損+大動脈縮窄+大動脈弁(もしくは弁下)狭窄の複合疾患について CoA complex(大動脈縮窄複合)  CoA complexについて  疾患29

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前回はCoA単独について説明しました。簡単に復習するとCoAとは大動脈弓が狭窄する疾患でした。CoAのできる原因には2つあり、①大動脈に血流が少なく十分育たなかった②PDA組織が大動脈に迷入し出生後PDAの狭窄とともにCoAができた、という2つの原因が考えられます。CoAは身体所見が重要でSpO2と血圧の上下肢差が認められ、動脈管が閉まると下肢やお腹の血流が途絶え、ductal shockと言われる緊急事態になります。なので、CoAがある時はPDAを開けるようにしましょう。手術は斜めに切ってつなげると術後の狭窄が少なくなります。そんなところでしょうか。

 

でも今回の項目は複合疾患、VSD+CoA+AS(もしくはSAS):CoA complexについてです。CoAは単独で出現する事も多いですが、実際は2/3と半分以上は複合疾患として出現します。なので、CoA単独で知っていても、実際には他の疾患との合併の中で考えないといけないので、混乱してしまうことが多いのです。

とは言え、ある程度CoAには合併するパターンがあります。題名にあるようにVSDとかAS、SASとかに合併することがとても多いのです。では、これはただの偶然かと言うと、そうでもないのです。

今回は、「なんでこの組み合わせでCoAが出現するのか」を説明していこうと思います。

 

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図:CoA complexの図

ちなみに今回のところを読む前にTOF(Fallot四徴症)のところを読んでおいたほうが理解はしやすいかと思います。もしTOFについて大して知らないようなら以前の記事で軽く勉強してからのほうがいいかと思います。(なるべく今回の記事を読んだだけでわかるようにはしようとは思いますが…)

 

VSD+CoA+ASの成り立ち〜円錐中隔の後方変異〜

ではCoA complexの成り立ちについて説明していきます。CoAの多数を占める複合疾患がどうしてできるか、がわかると治療もわかりやすくなります。そして考え方が理解できるとどういう組み合わせで起こるかが、簡単に出てくるようになります。

では図を見ながら考えていきましょう。

 

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図:CoA complexの成り立ち

 

なんとなくこの図見覚えありませんか?TOFででてきた円錐中隔(Conus)です。TOFではConus septemが前方変異することによって、心室中隔の壁が合わさらずVSDができ、肺動脈が狭くなってしまいましたね。今回のCoA complexはまさにその逆で、円錐中隔(conus septem)が後方変異することによって起きているのです。

心室と左心室は左右に並んでいると言うより前後に並んでいます。前に右心室、後ろに左心室が位置します。間の壁は筋性中隔が下からニョキニョキ延びて、上からは円錐中隔(conus septem)が下に向かってのびて、2つが合わさり心室中隔は完成します。ですが、この円錐中隔(conus)が前方にズレるとTOFができてしまいました。今回はこの円錐中隔(conus)が後方にズレることによってできる疾患を考えていきます。感のいい方や心臓をある程度勉強している人はこの時点で全部わかったかもしれません。でもだれでもわかるようにちゃんと説明しますね。

心室中隔というものは右心室と左心室を分ける壁です。この壁は実は2つの筋肉が盛り上がって合わさってできています。上から円錐中隔(conus septem)がのび、下から筋性中隔がのびて、あわさって1つの壁=心室中隔になります。しかし何かが原因で、円錐中隔(conus)が後ろに変異すると、下からのびてきた筋性中隔と合わさらず心室中隔を形成できません。ギャップができてしまい、結果的に心室中隔欠損(VSD)ができてしまいます。TOFの時はこの円錐中隔が前にズレて心室中隔欠損ができましたが、後ろにズレても孔はできるので、同じようにVSDができてしまうのです。

大動脈と肺動脈はTOFとは逆で、円錐中隔(conus)が後ろにズレるため、図のように肺動脈は大きく、大動脈は小さくなってしまいます。すると大動脈の弁が小さくなってしまったり(大動脈弁狭窄症:AS)、大動脈の弁の下のあたりが狭くなってしまったり(大動脈弁下狭窄:SAS)が起きたりします。

大動脈弁狭窄や弁下狭窄が起こると、大動脈の入り口が狭いため、大動脈に流れる血液が少なくなってしまいます。すると大動脈は血流が不十分になってしまいます。とりあえず最も大事な頭への血流は確保します。でも血流が十分ではないので、頭以外の所は血流が確保できず十分に成長できず、小さくなってしまい、大動脈縮窄(CoA)を起こしてしまいます。程度がひどいと大動脈離断(IAA)になったりすることもあります。

なんとなくTOFの成り立ちと似ている所があると思いませんか?一つのズレが原因で複合的な疾患ができてしまっているところがよく似ています。そのため、大動脈縮窄(CoA)は大体VSDやSAS、ASとかと一緒に合併する事が多いのです。理由がわかれば一見関係ない複合疾患が一つの道につながっている事がわかりとても覚えやすくなると思います。なので、図を見てわからなければ、読み返し理由を理解するように頑張ってください。

 

まとめると、大動脈縮窄(CoA)はVSDと大動脈弁狭窄(AS)または大動脈弁下狭窄(SAS)と合併する事が多く、原因は円錐中隔(conus septem)の後方変異の影響です。円錐中隔(conus septem)が後方にズレると、心室中隔欠損(VSD)ができてしまい、大動脈は小さくなり(ASやSAS)、大動脈に流れる血流が減ってしまい、大動脈弓(Arch)が十分に成長できず、大動脈縮窄(CoA)を起こしてしまう、という流れになります。

 

CoA complexのバリエーションについて

上記は理解できましたか?理解できればここからの話しも簡単に理解できると思います。大動脈縮窄複合:CoA complex(VSD+AS(またはSAS)+CoA)にはいろいろなバリエーションがあります。

例えば、円錐中隔(conus septem)が後ろにちょっとだけズレた場合にはVSDはできるが、大動脈弁や弁下は多少小さいが、狭くなるまでに至らなかったが、多少大動脈弓への血流が減ったため大動脈縮窄(CoA)ができてしまったパターン:VSD+CoAのみ、というのはよくある組み合わせです。

また大動脈弓への血流がとぼしすぎて大動脈縮窄よりひどくなってしまい、大動脈が離断するケース:大動脈離断(IAA)もあります。この場合、VSD+AS(もしくはSAS)+IAAという組み合わせになります。組み合わさっている疾患は多少違いますが、原理は同じなので考えやすですし、治療も似たような感じになっていきます。IAAの組み合わせも非常によく見ます。こっちの方が大動脈弁下狭窄(SAS)や大動脈弁狭窄(AS)がひどく、Yasui手術をしないといけないケースが多いように感じます。(治療に関してはまた説明しますので、今はYasuiというのは無視していいです。)

このようにいろんなバリエーションがありますが、どれもよく見かけます。なのでちょっと変化しても対応できるように、基本となる考え方:「Conus(円錐中隔)が後ろに偏位してVSDできて、大動脈は小さくなりASやSASができて、Archの血流がしょぼくなりCoAになる」をマスターするようにしましょう!

 

逆に考えるとCoAがあればVSDSAS、ASに注意!

CoA complexの成り立ちはだんだん頭にはいってきましたか?また前回CoAの事は単独で説明したのでCoAの事は理解してもらえたでしょうか?CoAは緊急手術に今でもなりうる疾患であり、CoAが診断できるようになる事は非常に重要です。これが診断できるだけでも大きな価値があります。しかし、注意点があります。CoAを診断しただけで満足してしまわないか」という事です。

今回はCoAと合併するVSDやSAS、ASについて説明していますが、CoAがあると言うことは2/3はVSDSAS、ASが合併している、という事になります。VSDは非常にわかりやすいのであまり診断ミスをしないとは思いますが、SASやASはつい見逃してしまいがちです。しかしASやSASがあると手術方針が大きく変わってしまうため、これを見逃してしまうとせっかくCoAを診断出来たのに大きな取りこぼしをしてしまうことになります。なので、CoAがあれば、必ず逆にVSDSAS、ASはないか?と自問自答する事が大事になります。

とは言っても診断するのは心エコーをする医師の責任にはなります。任せておけばいいのですが、医師にもいろいろなレベルの人がいますので、意識していない人も多いかと思います。そんな中、CoAがあった時は「VSDとかAS、SASはありますか?」と聞いてあげると、できる看護師として一目置かれると思います。なので、「あいつは出来が悪いからちょっと助け舟を出してやるか」くらいのつもりで聞いてあげると親切かと思います。もちろん見逃していれば心臓血管外科に怒られる事になるのでそれも勉強かもしれませんが。。。もし患者さんでこれを読んでいて見逃しがあるのか、と不安になった方がいたらすみません。でも、そんな事は、まずないので大丈夫です。必ずどこかで指摘が入ってチェックされることになります。小児の心臓は、診断する科(小児循環器)と手術する科(心臓血管外科)が違うので、いろんな視点でチェックが入ります。医師からすると自分たちですべてを完結できないので面倒くさいところもありますが、診断する科と手術する科が違うという強みがこういうところにでてきます。話がそれてしまい、すみませんでした。

言いたい事は、CoAを発見したら、VSD、SAS、ASは意識して探そう、ということです。特にSAS、ASですね。弁の大きさ、2尖弁か3尖弁かなど、そういうところもしっかりチェックしておきましょう!

 

まとめ

今回はちょっと字が多くてすみませんでした。言いたいことは絵のところだけなので、そこさえマスターできれば後は読まなくてもいいです。今回はCoA complexの成り立ちを話しました。CoAは単独で発生するよりもVSDやASなどと合併する事の方が多いので注意しておきましょう。

成り立ちは

 ・円錐中隔(conus septem)が後方偏位する

 ・心室中隔にズレができて、VSDができる。

 ・円錐中隔が後ろにずれるため、大動脈が狭くなり、ASやSASができる。

 ・ASやSASのため、大動脈に駆出される血液が減少し、Archが育たず大動脈縮窄(CoA)ができる。

といった感じになります。この成り立ちがすらすらイメージできるようにしましょう。そしてもう一つ大事な事がCoAを発見したらそこから逆にVSDやSAS、ASがないかチェックするようにしましょう。次回話しますが、治療方針が大きく変わることになるので、特にSASやASは重要になります。

 

ということで次回はCoA complexの治療について説明していきます。