前回はVSDの位置について説明しました。Muscular VSDとⅠ型VSDについて話しました。
・弁に接していないVSDはmuscular VSD(mVSD)と呼びます。
・mVSDは位置により以下の3つにわけます。(呼び方も記載します。)
・Outletに近いところはmuscular outlet
・inletのあたりにあるやつはmuscular inlet
(ここはmuscular VSDとかmVSDと言います)
・trabecularのあたりにあるやつはmuscular trabecular
(通常ここもmuscularとかmVSDといいます。)
このように弁に接していないVSDはmuscular VSDはmuscular outlet VSDとmuscular VSD(inletとtrabecularは省略されることが多い印象です)と呼ばれることが多いです。
次に肺動脈弁に接するVSDはⅠ型VSDと呼ばれます。doubly committed subarterial VSDと同じ意味ですが、日本ではⅠ型VSDと言えばまず話が通じます。ここは肺動脈弁に接しており、主肺動脈を切開してアプローチします。
・肺動脈弁に接しているVSDは通常、「Ⅰ型VSD」という。
(その他doubly committed subarterial VSDとも言う)
・主肺動脈を切開してアプローチ。
・VSDの血流に引き込まれ、RCCP→ARを認める。
となります。
前回の図を見ながら復習してください。
Perimembranous VSDについて
今回は三尖弁に接しているVSDについて説明していきます。このperimembranous VSDはVSDの大半(約80%)を占めるので、これを理解しておくことは最重要です。正直小児循環器でなければ、perimembranous VSDが三尖弁のところにあるVSD、くらいで十分かもしれませんが…。
まず三尖弁に接していて緑の膜様のうすい部分のあたりにできるVSD、ここは膜性部周囲型欠損孔(perimembranous VSD)といいます。peri VSDとか略される事が多いです。日本語の膜性部周囲…は名前が長ったらしいので、循環器をする人は日本語で言うことはほとんどありません。なので、periで覚えた方がいいと思います。下の図を見ながら考えていきましょう。
図;peri VSD
このperimembranous VSDは緑の膜様中隔が欠損しているVSDですが、厄介な事にここはどちらの方向にのびているかで下記の3つにわけられます。
・perimembranous inlet VSD
・perimembranous trabecular VSD
・perimembranous outlet VSD
と名前がついています。右室のどちらの方向にのびるかで、inlet、trabecular、outletとついています。特にinletとoutletの区別をつけることがとっても重要になります。
この指標になるのが、medial papillary muscule(内側乳頭筋、MPM)です。やっとこの乳頭筋がでてきましたね。でもperi VSDは実際かなりの割合で認められるので、この乳頭筋を意識する機会もすごく多くなります。この乳頭筋を知っておかないとinletとoutletの鑑別ができないので、重要です。MPMの上の方にのびるVSDがperimembranous outlet VSDで、MPMの下の方にのびるVSDがperimembranous inlet VSDです。Perimembranous trabecular VSDはその間で、ちょっと曖昧ですが、上にも下にも広がるVSDです。図のラインの上の方にVSDが広がっていればperi out、ラインの下に広がればperi inletです。なぜこのように分けて考えないといけないかと言うと、peri inlteとperi outletでは電気の通り道が違い、peri inletではVSDの辺縁を刺激伝導系が通るので、傷つけてブロックにならないようにより気をつけないと行けないのです。
図;peri inletの電気の通り道
図:peri outletの電気の通り道
上記の図のようにperi inletではVSDの孔のすぐのところを通っています。なので、孔を閉じる時に何も考えずに閉じてしまうと電気の通り道を傷つけてしまいます。ではどうすればいいかと言うと、VSDの辺縁から2-3mm離れたところを縫ってあげれば電気の通り道を傷つけずにVSDを閉鎖する事ができます。心臓外科にとってはかなり当たり前の知識ですが、実際に手術しない僕らにはあまり馴染みのない事です。ですが、VSDで刺激伝導系を傷つけて房室ブロックなどになったらペースメーカーを植え込まなといけなくなるので、大変な事ですよね。
逆にperi outlet VSDであれば、電気の通り道は少しVSDの辺縁と離れた所になります。上の図のような所を通ります。なので、そこまで気をつけて縫わなくても電気の通り道を傷つけてブロックになる可能性は低くなります。じゃ、peri trabecularはどうかというとinletに似た走行になるので、刺激伝導系を傷つけないようにperi inletと同様に2-3mm辺縁と話して縫わないとブロックになる可能性があります。
VSDの辺縁のどのあたりを電気の通り道が通るかは少し違いますが、どのVSDでも最終的に電気はMPM(medial papillary muscule)の所に行き着き、そこから右心室の電気の通り道、右脚がMPMの根本からでていきます。なので、どのVSDでも右脚ブロックにならないように、MPMの根本のところは避けるように縫わないといけません。
また、前回話したⅠ型VSDと同様にperi VSDも左室側から見ると大動脈弁に接しています。位置によって右冠尖(RCC)や無冠尖(NCC)が逸脱する可能性があります。これをRCCPやNCCPと言います。RCCやNCCが逸脱する事によりARが出てくると手術を考慮しなければなりません。これはⅠ型VSDと同じような感じになります。頻度はⅠ型と比べると少ないとは思います。という事で
Perimembranous VSDをまとめると
・三尖弁に接していて薄い膜様のところに開いているものはperi VSD
・VSDののびる方向によって3ついわけられる
→MPMの上の方に広がるVSDはperi outlet VSD
→MPMの下の方に広がるVSDはperi inlet VSD
→MPMの上にも下にも広がるのはperi trabecular VSD
・peri inletはVSDの下の辺縁に刺激伝導系が通るのでブロックに注意。(trabecularも)
・peri VSDはRCCPやNCCPでARを生じうる。
という感じになります。Perimembranous VSDについて大体わかってもらえたでしょうか?
inlet VSDについて
最後に三尖弁に接しているもう一つのVSDについて説明します。
図のように三尖弁に接しているけれど、peri VSDでないものです。peri VSDは比較的上の方にあり、心エコーでいうところの4チャンバーではperi VSDは見えません。右心室のもっと下の方にあり、三尖弁に接しているVSD、これをinletVSDといいます。ちなみにエコーでは4チャンバーでバッチリ見えるのがinlet VSDです。
これはちょうど房室中隔欠損症で見られるVSDのような位置となり、三尖弁と僧帽弁の間にお肉(心室中隔)がありません。これを専門用語では「線維性連続がある」とか言いますが、この用語は知らなくても全然いいと思います。忘れてください。が、弁の間に心室中隔の壁、お肉、がないので、僧帽弁と三尖弁はまるでつながっているような感じで見えます。これを頭に入れておいてください。エコーで見るとどう見えるかでもまた後日説明していきますので、それもあわせて理解してくれたらいいかな、と思います。刺激伝導系は房室結節が下方に変異していて、心室の電気は下から上に広がっていくような形になるので、左軸変異を呈する事がよくあります。全体的にinletのVSDは頻度は低く、あまり見かける事はありません。
図:inlet VSD
まとめると
・peri ではなく三尖弁に接しているVSD
・房室中隔欠損型のVSDで三尖弁と僧帽弁の間に心室中隔がなく、2つの弁はつながっているような形に見える。
・左軸変異になる事がしばしば。
という感じです。peri VSDの方が遥かに多く、重要なので、それを理解してからで十分ですが、こういうのもあるくらいで知っておいてください。
以上、三尖弁に接するVSDでした。VSDはこれで全部だと思います。
VSDの位置について(まとめ)
VSDの位置の説明をしましたが、まとめると下の図のようになります。これだけ印刷でもして覚えてもらってもいいかもしれません。いちおう電気の通り道とかいろいろ話さないとなんで位置を分けているのか意味がよくわからないと思ったのでお話しました。
図:VSD位置のまとめ
どうですか?なかなか難しいことないですか?
僕のスキルでは、これでなるべく簡単に説明したつもりですが、VSDを見たことない人、エコーやったことない人にはやはり意味不明かもしれません。。。
VSDの位置だけでも結構難しいのに、更にエコーでどう見えるか?も結構悩みどころではないでしょうか?鎌田先生のエコーの本(小児の心エコー:広島市民病院 鎌田正博先生 総合医学社)にはエコーでどう見えるかについていろいろ図を交えて書いてくれていますので、この胡散臭いページよりちゃんとした本がいい、と思われる方はそちらを参考にしてくれたらいいかなと思います。
鎌田先生は偉い先生で教育を熱心にしている印象の先生です。世の中わかりやすい本が少ない中、バカでもわかるように書いてくれているとてもいい本です。僕は医学部の中で底辺なので、すごくありがたいです。世の中そんなに頭いい人で溢れているわけではないので、受験の本のようにもっと簡単な本がたくさんあってもいいのではないかな、と日々思います。どうでもいいことですみません。
と言うことで次回はVSDの位置がエコーでは実際どう見えるか、どう診断するるか?を説明していきます。これにも異論があるかもしれませんが、一応僕が知る限り、一番シンプルでわかりやすい方法を書いておくつもりです。
後、だんだん記事が多くなってきましたが、間違っている記載もあるかと思います。もしよければ、間違っているところあればコメントなどいただけたら大変ありがたいです。この前はげましのコメントがあり、大変ありがたかったです。このブログ結構作るの大変です(特に絵とか…)が、役に立っているという声があるだけで、励みになります。頑張って続けていきますのでまた読んでください。