今回はいよいよVSDの位置について説明していきます。
前回の右室の解剖がわからない人はついていけないと思いますので、前回の記事をまず理解した上で読んでください。
VSDの位置の呼び方はいろんな「あだ名」みたいなものがあります。全国でも統一されていませんし、この分類の呼び名でみなさん言いましょう、というのもありません。これがVSDの位置を複雑にしている原因(とっつきにくい原因)だと思います。ひとつの分類でピシッと決まればみなさん、その呼び方しかしないのでしょうが、そうではないのが困った所です。この記事を書く上でもどう書いたらいいか非常に困ったものです。
はじめに断っておきたいのは、この記事ではあくまで「僕の周りで使われているVSDの言い方」を中心に書きます。おそらく日本中で通じると思いますが、保証はありません。しかし、いろんな呼び方のために頭がこんがらがっている人の助けには少しはなるかと思いますし、いろんな分類を覚えるよりはよっぽど実践的だし、役に立つと思いますので、なんとか理解しましょう!
弁に接しているか接していないか?muscular VSD!
まずはじめに、右室には2つ弁があります。三尖弁と肺動脈弁です。この弁に接しているか、接していないかで話をわける必要があります。「接している」というのは弁とVSDの間に筋肉がない、ということになります。弁のすぐのところに孔が開いている、そういうものは「弁に接している」といいます。
まず、弁に接していないものから話していきます。
下の図を見ながら読んでいってください。
図:muscular VSD
実は弁に接していないVSDは、全部muscular VSDと言います。
みなさんのイメージされるmuscular VSDと言えば、心尖部の方にちょろっと開いているやつでよく自然閉鎖するやつではないでしょうか?もちろんそういうVSDもmuscular VSDです。
でも本当のところは、弁に接していないVSDはみんなmuscular VSDなのです。どのあたりのmuscular VSDなのかで名前の呼び方が変わってきます。
右室の解剖を思い出してみると、inlet、outlet、trabecularと位置がわけてありましたね?この位置に従って名前がついています。なので、下記のようになります。(図も参照に。)
・Outletに近いところはmuscular outlet
・inletのあたりにあるやつはmuscular inlet
(ここはmuscular VSDとかmVSDと言っているような気が…)
・trabecularのあたりにあるやつはmuscular trabecular
(通常ここもmuscularとかmVSDといいます。)
と、本当はこのように言います。
Outletに近いところは「muscular outlet 」とみなさん、フルネームでそのまま読んでいる事が多いと思います。他のinletやtrabecularのmuscular VSDとは明確にわけてmuscular outletと言います。肺動脈弁には接していないけど、その下のあたりのVSDの事です。
Inletのあたりにあって、三尖弁に接していないVSD(頻度は低くあまりお目にかかりませんが)はinletが消えて、「muscular VSDとかmVSD」と呼んでいる事が多いように感じます。逆にinlet VSDと言ったら、房室中隔欠損型のinlet VSDと取られてしまう可能性があり、muscular VSDと言ったほうが通じるのではないでしょうか。
Trabecular のあたりに開いているmVSDはみなさんお馴染みのmuscular VSDです。mVSDとかよく略したりします。でも本当はmuscular trabecular VSDなのです。Inletと同様にtrabecularは省略されることがほとんどです。省略されて、muscular だけ残ったのです。ここには大小の様々な大きさのVSDが多数開いている事があります。ネズミがかじったチーズみたいな孔なので、Swiss Cheese type(スイスチーズ様)と言われたりします。(スイスチーズ様のmVSDは閉じにくい)
まとめると、本当の名前はmuscular outlet VSD, muscular trabecular VSD, muscular inlet VSDなのですが、通常どう呼ぶかと言うと、muscular outlet VSDはそのままmuscular outlet VSD、muscular trabecular VSDとmuscular inlet VSDは両方ともmuscular VSD(mVSD)と呼びます。
このように話しを聞くとスッキリする気がしませんか?省略されているため、別物だと思っていたmuscular outletとmVSD(inletやtrabecular)が同じ基準によってわけられていたのです。ま、そんなにスッキリでもないですね笑。
もしこの名前の付け方が理解出来れば、略されていつもこう呼ばれている、と言う話しがスッキリくるのではないかと思います。僕も長い間使っていても、なんでこんな名前なのかが恥ずかしながらわからないでいました。でもこのように理解すれば簡単ですね。実際こんな事誰にも教わりませんでしたし、書いてある本ないですよね。
弁に接しているVSD
次に弁に接しているVSDについて説明していきます。右心室には2つの弁があります。肺動脈弁と三尖弁です。この2つに接しているVSDについて説明していきます。次の2つのVSDはかなり頻度も高く重要なVSDとなります。しっかり理解するようにしましょう。
肺動脈弁に接している、Ⅰ型VSDについて
まず、肺動脈弁に接するVSDについてです。肺動脈弁に接しているVSDは通常「Ⅰ型VSD」といいます。(何のⅠ型かといいますと、東京女子医大分類のⅠ型です。でも女子医大分類は知らなくていいですが、ここがⅠ型というのだけ知っておきましょう。)
日本で診療をしている限りこれで通じます。その他にもいくつか呼び方がありますが、一番メジャーで、はっきりとこの位置を言い表しているのは「doubly committed subarterial VSD」ではないかと思います。この位置は肺動脈弁下に肺動脈弁に接してVSDが開いており、裏に大動脈弁があります。図を見ながら考えましょう。
図:Ⅰ型VSD
ここは、図のように主肺動脈を切開して手術する必要があるため、muscular outletとわける必要があります。図のように肺動脈弁の下に心室中隔の筋肉がないため、縫い代がありません。そのため、肺動脈弁に糸をかけて縫う必要があります。ここは日本人に多く東京女子医大分類ではここを明確にmuscular outletとわけています。海外ではmuscular outletと一緒に分類していたりします。またここは、以前VSDの項目で話した大動脈弁の逸脱を起こす部位です。孔の位置が右室側からは肺動脈弁の直下で、左室側から見ると大動脈弁の直下になります。右冠尖(RCC)がVSDのところにあたります。するとVSDの血流にひかれて、右冠尖が徐々に変形し、逸脱(prolapse)を起こします。(これをRCCPと言います。)RCCPを起こすと、大動脈弁逆流(AR)が生じます。この場合はVSDが小さくても手術、という話しを以前しましたが、まさにこのⅠ型VSDでよく起こる話なのです。
という事でまとめると、
・肺動脈弁に接しているVSDは通常、「Ⅰ型VSD」という。
(その他doubly committed subarterial VSDとも言う)
・主肺動脈を切開してアプローチ。
・VSDの血流により右冠尖が逸脱し(RCCP)、ARを起こす。
という感じになります。大体こんな感じになります。
では、VSDの位置の話しはまだまだ長くなるので、わけて説明します。次回は三尖弁に接するVSDです。
膜様部欠損型VSD、perimembranous VSDとinlet VSDについて説明していきます。次回で終わるつもりなので、頑張ってついてきてください。その次は心エコーでこれらのVSDがどのように見えるかを説明していきます。