誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

不整脈:房室ブロック(AVB)について その2:Ⅰ、Ⅱ度房室ブロックと高度房室ブロック 〜基本32〜

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前回はCAVBについて説明しました。今回はその続きです。今回の内容は小児に特化したところでもないので、大人の循環器の本を読んだ方がいいかもしれませんが、せっかく作ったのでちょろっと見ていってください。あまり重要ではないと思うので、適当に読んでもらってもいいかな、と思いますが、CAVBだけはしっかり理解するようにしましょうね。

 

Ⅱ度房室ブロック(WenckebachとMobitz2型)について

Ⅱ度AVBというのは、たまに心房と心室の伝導が途切れるものです。なのでいつも途切れるわけではないのです。Ⅱ度房室ブロックには簡単に言うと2つあって、だんだん心房と心室のつながりが悪くなり、ついに心房と心室の伝導が途切れてしまうWenckebach(ウェンケバッハ)というのと、普通に心房と心室がつながっていたのに突然つながらなくなるMobitz2(モビッツ2)という2種類のⅡ度房室ブロックがあります。Wenckebach型は治療の必要がない場合がほとんどなので、経過観察でいいのでそっとしておきましょう。もし医師であれば、運動負荷や基礎疾患があるかはチェックし、今後悪くなっていかないかは見ておいたほうがいいかな、と思います。

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図:Wenckebach

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図:Wenckebachの心電図

Mobitz2型に関しては絶対ペースメーカーの適応ではないのですが、進行してCAVBに進行する事があったり、たくさんQRS波が落ちるため徐脈になったりして、しんどくなったり、失神したりすることがあります。最悪突然死もあったりします、正直小児ではMobitz2型はお目にかかることはほとんどないので、大人の循環器内科の方がよく見ているのではないでしょうか。絶対ペースメーカーではないのですが、結構悪いので、かなり注意が必要です。心電図は下の図のようになります。

 

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図:Mobitz2型の心電図

Ⅱ型AVBはそんなに重要ではないかもしれませんが、Wenchebachという現象がどんな現象かは知っておいたほうがいいかな、と思います。ちょいちょい出てくる言葉だし。Wehchebachっていうのは徐々にP波とQRS波が離れてついに繋がらなくなることを指します。Mobitz1型とか書いてある教科書もあるかもしれませんが、それは完全に無視しましょう。モビッツって言ったら誰もがMobitz2型をイメージするので、通じません。仕事をする上では共通言語が非常に重要なので、かならずWenchebachって言うようにしましょう!

Ⅱ型AVBをまとめると、

・だんだん繋がらなくなるやつがWenchebach

・いきなり落ちるやつがMobitz2型

・Wenchebachは大丈夫、Mobitz2型は大丈夫じゃない。

とこの2つの言葉と意味だけわかればいいです。このⅡ型AVBに関しては特に教えられる経験や知識もないので、どこの教科書にも書いてあるし、そっちで勉強してくださいね。

 

高度房室ブロック(advanced AVB)について

これ結構よく聞く言葉なんですが、あまり教科書に説明がないことが多いです。これはちょっと曖昧な概念で、「2.5度房室ブロック」みたいな意味合いです。Ⅱ度AVBは基本的にはP波とQRS波がつながっている事が多いです。そしてたまにポッとQRS波が抜けるのがⅡ度AVBですね。しかし、もっと悪い状態になると「基本的にはP波とQRS波はつながらないけど、たまーにつながる」という状態になります。例えばP波3拍に1回QRS波がつながったり、P波4拍に1回QRS波がつながる状態っていうのがあります。これはほとんどCAVB一歩手前ですけど、かろうじてつながったりするので、高度AVBって言います。まさに2.5度AVBみたいな位置づけですね。とりあえず、何拍でもいいので、何拍かに1QRS波がつながれば高度AVBって言います。でもこれはほとんどCAVBと同じような状態なので、高度AVBは基本的にペースメーカー植え込み術になります。ただし、例外としては心筋炎とかで高度AVBに一時的になることがあって、治療とともにしばらくすると治る事があります。なので、全部が全部ペースメーカーではないのですが、ほぼほぼCAVBと同じ扱いでいいかな、と思います。まとめると高度房室ブロックは

・P波の何回かに1回QRS波がつながる状態。

・基本的にペースメーカー。

・心筋炎では一時的になることもある。

という感じです。高度房室ブロックって聞いたら、何回かに1回つながるやつね、と考えれたらOKです。心筋炎で高度AVBになったりすることがあるので、心筋炎は結構怖いですね。なので、心筋炎の急性期にはこれを頭にいれてみていかないといけないんですね。

 

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図:高度AVB

 

Ⅰ度房室ブロックについて

Ⅰ度AVBに来ました。房室ブロック(AVB)はQRS波が落ちる、というイメージがあるかと思いますが、Ⅰ度AVBは伝導がちょっと悪くなっただけで、QRS波が落ちたりしません。その代わり、伝導が悪くなるので、P波とQRS波の間の時間が延び延びになってしまうのが、Ⅰ度房室ブロックです。臨床的にはそんなに重要ではないですし、どんどん悪くならなければ経過観察でOKです。

じゃ、どれくらいP波とQRS波が離れていたらⅠ度AVBって言えばいいのでしょう?年齢別に細かく教科書に書いてありますけど、だれがこれを覚えるのでしょうか?僕も絶対に覚えません。僕は簡単に大きなマス1つ以上(ちなみに小さいマス1個が0.04秒で、5(=大きなマス1)0.2秒です。)、つまり0.2秒以上P波とQRS波が離れていれば、「ちょっと長いんじゃない?」って考えます。心電図で言うとこのP波とQRS波の間の時間をPQ時間とか言います。心電図には自動でPR時間(これはP波のはじまりからR波まで)を測定してくれてのせてくれてます。ですが、この数字を見る前に心電図をパッとみて「大きなマス1個以上離れてるな。。ちょっとあやしくねえ?」って思えるのが大事かな、と思います。自動測定の数字をみないと何もできない人はイマイチだと思いますし、基本的には波形だけでいろいろな事がわかるようにしましょう。でもよっぽどの不整脈マニアじゃないといろいろ覚えられないので、ここは割り切って大きなマス1(0.2)以上はⅠ度AVBあやしいって覚えましょう。心拍数の数え方もちょっと前に記事にしましたし、PR時間も大きなマス1個を目安にすればいいかな、と思います。これが正しいかは別として、年齢別にいろいろ覚えるのは現実的じゃないですから、なるべく簡単にシンプルにして大きく間違わなければいいかな、と考えています。まとめるとⅠ度AVBは

・QRS波は落ちないが、P波とQRS波の間隔が延びる。

・大きなマス1個(0.2秒)以上延びていたらあやしい

・基本経過観察。

という感じかな、と思います。

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図:Ⅰ度AVB

 

まとめ

AVBについて書いてきましたが、大丈夫でしょうか?とりあえずCAVBが一番大事なので、そこをしっかり理解するようにしましょう。これを読んでなんとなく理解できればまた教科書に戻る事をおすすめします。すると睡眠薬にしかならなかった教科書に書いてあることがわかるようになると思います。でも、コレを読んでもわからない人は・・・僕にはお手上げです。とりあえず、CAVBだけはマスターしましょう。これは大事ですからね。Ⅰ度とⅡ度AVBは正直そんな知らなくてもいいかもしれませんが、CAVBは重要なのでしっかりわかるようにしましょう。AVBをまとめると

CAVB

・一番大事なのはCAVB(完全房室ブロック)

 (あまりⅢ度房室ブロックとはいわずCAVBと言うことがほとんどです。)

・CAVBは心室と心房がバラバラに動くため、P波とQRS波のつながりなし。

心室は補充調律で動くので、rate 50前後。

・徐脈のためペースメーカー植え込み術が必要。

・cTGAやLisoに合併、また母体のSS-A抗体も注意。

・術後CAVBもあり、1週間位で回復することもある。

・ただし術後CAVBは1週間くらいで回復することもあり。

高度AVB

・CAVBとⅡ度AVBの間のもの。

・基本P波とQRS波がつながらなくて、たまにつながる(3,4回に1回とか)

・CAVBと同じく基本ペースメーカーだが、心筋炎では一時的になることもある。

Mobitz2型

・P波とQRS波は普段つながっているのに、突然QRS波が落ちる。

・落ちまくると徐脈になったり、CAVBに進展したりと結構悪い。

・正直あまり小児で見ない。

Wenchebach型

・健診とかでちょいちょい見る。

・P波とQRS波の間(PQ間隔)がだんだん延びて、最後にQRS波が落ちる。

・症状や運動時に問題なければ大丈夫。経過観察。

Ⅰ度AVB

・P波とQRS波のつながりが少し悪く、PQ時間が延びる。

・PQ時間(またはPR時間)延びるけどQRS波は落ちない。

・大きい1マス(0.2秒)以上P波とQRS波延びてたら注意。

・経過観察でOK。

という感じになってます。メジャーな呼び方で書いてますので、普段こんな呼び方で言っていると思います。また上から重症度が高いものになっているので、そのつもりでまとめを読んでください。箇条書きがスッと入ってくるようなら大丈夫だと思いますが、入ってこないならもう一度戻って見直してください。ちょっと長くなってしまいましたが、AVBはこんなところかな、と思います。とりあえずCAVBだけでいいので、そこはおさえておきましょう。

今後はペースメーカーについて軽く話し、上室性不整脈(SVTとか)にいきたいと思います。SVTとかはおそらく不整脈の山であり、最も重要なところかな、と思いますのでぜひマスターしてください。(っていうかわかりやすく書ければいいんですけど。。。難しいですね。)