誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

不整脈:房室ブロック(AVB)について その1:CAVB(完全房室ブロック) 〜基本31〜

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前回は洞不全症候群(SSS)について話しました。洞結節やその周辺を傷つけてなる徐脈でしたね。原因は多くは手術時のSVCの切断や心房操作などsinus node arteryや刺激伝導路を傷つける事が原因でしたね。よく起こる手術としては、FontanやGlenn手術、TAPVCやASD、MVR、MVP、DSOのMustard手術やSennig手術でしたね。心電図ではP波が異常にゆっくりだったり、P波がでなかったりします。治療は基本的にペースメーカー植え込み術で、新生児・乳児なら80以下、3歳以上なら60以下、中学生〜大人で40以下が植え込みを考慮する基準って書きました。

ま、ざっと洞不全症候群はこんな感じでしたが、今回はもう一つの徐脈である、房室ブロックにいきます房室ブロックはAVB(atrioventricular block)と略したりします。ここらへんの略語は慣れないとしょうがないので、一つ一つでいいので、マスターしていきましょう。房室ブロックはⅠ度とかⅡ度とかいろいろ分かれています。正直Ⅱ度房室ブロックまでは外来で主治医が気にして見ていればいいかな、というレベルで、これでペースメーカー植え込み術になることは実際、少ないかなと思います。臨床的に問題になってくるのは高度房室ブロックとか完全房室ブロックと言われるものです。これは心房と心室の伝導が途切れているため、十分な心拍数が出ず心不全をきたすレベルです。なので、高度房室ブロックや完全房室ブロックが続く場合はペースメーカー植え込み術が必要になってきます。この線引がしっかりわかればいいのかな、と思います。

 

Ⅲ度房室ブロック(AVB)=完全房室ブロック(CAVB)について

房室ブロックはⅠ度とかⅡ度とかいろいろ分かれています。大体がまずⅠ度とかから勉強して重要な高度房室ブロックや完全房室ブロックに到達する前に心が折れ、もう面倒になる事が多いかもしれません。わかりにくいかもしれませんが、とりあえずどれかだけと言われたら、完全房室ブロック(complete atrioventricular block:CAVB)だけマスターしてもらいたいので、ここから話をします。教科書をちゃんと読む自信がある人はちゃんとⅠ度、Ⅱ度から勉強したほうがわかりやすいでしょうが、CAVBだけはわかってないと困るでしょうから、ここから話します。ちなみにあまりⅢ度房室ブロックとか言ったりせず、CAVB(コンプリートっとかって言ったりも。)って言うことが多いと思うので、これになれてください。

CAVBは本当に簡単です。下の図のように心房と心室の電気の伝導が完全にとぎれてしまったのがCAVBです。なので、心房はsinusがP波を出して心臓のリズムを調節しようとしますが、電気の伝導が途切れているので、それが心室にはつながりません。心室から見るといつまでたっても命令が来ないので、勝手に補充調律で動きます。なので、心房と心室がバラバラで動きます。かつ心室は補充調律で動くので、とても遅いペースでしか動きません。心臓から血液を駆出するのは心室なので、心室が動いた分だけが心拍になりますので、心拍数は大体50前後かそれ以下になることが多いです。補充調律はそれくらい遅いペースでしか動かないので心拍数50くらいになってしまうのです。これでは生きていく上での心拍数が足りないので、動いたり運動したりは出来ません。ギリギリ、横になって寝ていることはできるかな、くらいの心拍数です。これは結構しんどい状態なので、ペースメーカーがどうしても必要になります。

 

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図:CAVB

心電図を見るととてもわかりやすく、P波とQRS波が別々に出ています。全く連動していないので、P波とQRS波の繋がりが全然ないことがわかります。ちなみに下の心電図が先天性のCAVBの新生児の心電図です。図のP波は規則正しく出ていて、大体rate 140くらいで出ていますが、QRS波は全然違う周期ででていて、大体rate 50くらいで出ています。これがCAVBの典型的な心電図です。大体こんな感じになります。これをみたら誰でもやばいと思うとは思いますが、すぐに死んじゃったりはしません。心室が補充調律を出してくれるので、心拍数は50前後出ることが多いです。横になっていればなんとかなる心拍数なので、落ち着いてペースメーカー植え込み術の予定を立てればいいです。

 

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図:CAVBの心電図

ということでCAVBは簡単ですね。CAVBは実はちょいちょい認められます。術後にもちょいちょいCAVBは認められますし、特定の先天性心疾患に合併する事があるのでそれについてちょっと話しますね。

 

先天性心疾患に合併するCAVBや術後のCAVB

先天性のCAVBは修正大血管転位(cTGA)左側相同(Lisoまたは多脾症候群)で房室ブロックなどの伝導障害を認める事があります。修正大血管転位(cTGA)はまだやってないのですが、簡単に言うと、心房と心室のつながりがちょっと間違っちゃった疾患です。普通は右心房が右心室につながり、右心室から肺動脈につながります。左房は左心室につながり、大動脈につながりますが、cTGAでは右心房が左心室につながり、そこから肺動脈につながります。左房は右心室につながり、右心室から大動脈につながります。また疾患に関してはやりますが、cTGAは右房⇢左室、左房⇢右室と心房と心室のつながりがおかしいので電気の通り道もおかしくなることが結構ありますcTGAはこの後話すⅠ度の房室ブロックなども含めると半分近く伝導障害を認めます。1割くらいはこのCAVBを認めるので、cTGAはAVBと切っても切れない関係にあります。しかもDSO(ダブルスイッチ手術)を施行すると術後にCAVBを認めて、ペースメーカー植え込み術が必要になることもよく見ます。cTGAは生直後や術後にCAVBを起こさなくても、20代、30代と年数を重ねると徐々にCAVBを発症することもあり、CAVBcTGAは切っても切れない関係かな、と思います。CAVBはペースメーカー必須なので、CAVBは割と簡単な概念なので、ペースメーカーの勉強に力を入れたらいいかもしれません。また多脾症候群(Liso(左側相同)と言ったりもします。)もCAVBの頻度が高いので、頭に入れておかないといけません。左側相同(Liso)もまだ話はしてませんが、体を左右にわけた時に右側のものが両方にある状態が右側相同(Riso)(または無脾症候群)で、左のものが両方にあるのが左側相同(Liso)(または多脾症候群)です。例えば、Riso(右側相同)だと心室は右心系の単心室だったり、左房にかえるはずの肺静脈が左側のものがないので、へんなところにかえったり(TAPVC合併)、左にしかない脾臓がなかったりします。Liso(左側相同)では左のものしかなかったりするので、どちらかと言うと洞結節(sinus)や、洞結節から房室結節にいく伝導路は右房にあったりするものなので、洞結節がなかったり、機能低下をおこしたり、伝導路のつながりが悪くCAVBを起こしてしまったりします。なので、多脾症候群は前回やったSSS(洞不全症候群)や今回のCAVBを起こしたりと、よくペースメーカーに関連する不整脈を起こします。ちょっと長くなってしまいましたが、この2つの疾患、cTGALiso(左側相同、または多脾症候群)に関しては房室ブロックを頭に入れて見ていかないといけません。そのほかに膠原病などにあるSS-A抗体を持っている母から出生した場合も10%前後で先天性のCAVBが認められる場合があります。先天性のCAVBは胎児徐脈でお腹の中にいる時に発見されることも多いです。なので、そういう場合には上記のcTGAがないか、Liso(左側相同または多脾症候群)じゃないか、母にSS-A抗体がないか、などを考えないといけないです。

またペースメーカーをチェックしている側から見ると、小児循環器でペースメーカーが入っているのはほとんど術後のSSSCAVBです。たまに先天性のCAVBがいるくらいです術後のCAVBVSDを閉鎖する時に直接刺激伝導系を傷つけたり、直接縫ったりして傷つけなくても手術をした影響で組織がむくんだり、周囲の出血によって圧迫で刺激伝導系がだめになったり、栄養する冠動脈が障害を受けて刺激伝導系がダメになったりします。刺激伝導系を傷つけないように外科の先生は細心の注意を払っていますが、それでも起こってしまうものもあるのです。VSDを閉鎖する時(VSDやTOF、AVSDなど)、cTGAでDSO(ダブルスイッチ手術)をした時、Lisoの手術の時、Ross手術やRoss-Konno手術(ずっと前の記事に手術の説明などもあります。)などでは大動脈弁の下のところにHis束が通っているので、大動脈弁狭窄症があってKonnnoで広げたりするときも注意が必要です。そもそもcTGAやLisoは手術しなくてもなります。手術の時は簡易の一時的なペースメーカーワイヤーがついていますが、CAVBがかなりの確率でおきそうな手術ではあらかじめちゃんとしたペースメーカーリードをつける事もあります。術後のCAVBは一時的な場合も多く、1週間くらいで回復することもあります。例えば手術の影響で浮腫んで房室結節やHis束を圧迫していて、術後管理が順調に進み、しばらくして浮腫がとれて房室結節やHis束への圧迫がなくなる場合があります。そうなると一時は浮腫による圧迫で認められていたCAVBも改善する事があるのです。なので、術後のCAVBに関してはすぐに恒久的なペースメーカー植え込み術をする必要はなく、しばらく待って本当にCAVBが治らないと判断したら植え込み術を施行すればいいと思います。ま、大体術後2週間くらいでは白黒はっきりつけることが多いのかな、と思います。

ちょっと難しかったかもしれせんが、簡単に言うと、VSDを閉鎖する手術やRoss-Konnoなので大動脈弁の下のあたり(左室流出路)をいじる手術で術後のCAVBが起こる可能性があります。疾患で言うとcTGAとLisoは要注意です。術後にCAVBが起こったとしても、術後CAVBは1週間で回復する事もあるので、しっかり見極めてからペースメーカー植え込み術をするようにしましょう。

CAVBの説明より合併する先天性心疾患の説明が長かったかもしれませんが、CAVBは概念が簡単なのでいいですね。まとめると

・CAVBは心室と心房がバラバラに動く。

・P波とQRS波の繋がりがない。

心室は補充調律で動くので、rate 50前後。

・徐脈のためペースメーカー植え込み術が必要。

・cTGAやLisoに合併する。また母体のSS-A抗体も注意。

・VSD閉鎖時やRoss-Konnoなどの手術時に術後CAVBあり。

・ただし術後CAVBは1週間くらいで回復することもあり。

というところになります。ちょっと長くなってしまいましたね。CAVBは房室ブロックの中で概念はとびきり簡単で、すぐに誰でも診断できるようになると思うのですが、手術や疾患と関連したところがポイントであり、そこをしっかりおさえておく必要があります。

 

ちょっと長くなりそうなので、AVBを2つにわけて話します。しかし、CAVBは最も大事なので、今回の記事の内容はしっかりおさえましょう。ちなみに先月末に病棟から頼まれて不整脈(上室性頻拍に絞って)の話をさせてもらいましたが、顔見知りの看護師さんに内容が理解できたか聞いたんですが、ほとんどの人が理解できていなかったみたいです。。なかなか人にわかるように伝えるのは難しいです。おそらくこのブログでも僕が一方的に説明しているので、僕はわかるように書いているつもりでも、わからない人もたくさんいるのではないでしょうか。AVBの話が終わったら、その講義で話した内容を載せるつもりですが、講義の時より、もう少しわかりやすいように努力します。という事で次回はAVBの続きをします。