誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

不整脈:wide QRS、右脚ブロック(RBBB)、左脚ブロック(LBBB)について 〜基本27〜

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wideQRSは1回でやるつもりでしたが、なかなか長くなってしまったので、今回はwide QRSの続きをします。wide QRSになるものとしては以下のものがありました。

 ・心室性の不整脈が出た時。

 ・ペースメーカーで心室をペーシングした時。

 ・WPW症候群で副伝導路から心室に刺激が入った時。

 ・右脚ブロックや左脚ブロックの時。

基本的には図で何度も言っている刺激伝導系(赤い高速道路)の上にのらない場合は、ゆっくり心室に伝導するため、幅広なQRS波:wide QRSになる、という話でした。

今回話す、右脚ブロックや左脚ブロックは途中まで赤い高速道路の上に乗っていて、途中で高速道路が壊れている状態の事です。ちなみに右脚ブロックはRBBB(right bundle branch blockの略)と書いてあったりします。左脚ブロックはLBBB(left bundle branch blockの略です。)です。QRSの幅によって、完全と不完全にわけているので、CRBBB(completeRBBB完全右脚ブロック)とかIRBBB(imcomplete RBBB)とか書いてますが、どうでもいいです。脚ブロックってことがわかればOKです。あまりBBBとBが3つも続く略語はないので、なんとなく覚えてくれればいいです。どっちかと言うと心電図を見てどういう事が起こっていて、それが何を意味しているのか、を知っていてもらう方が大事です。と言うことで、脚ブロックの話を始めていきましょう。

 

右脚ブロックについて

wide QRSの話を前回から長々してきましたが、最後の項目の脚ブロックを話ます。この脚ブロックも同じようにwide QRSになります。ただ、こいつは今までとちょっと違います。前回の3つのパターンは「心室の電気刺激が赤い高速道路の上じゃないところからに伝わった時」にwide QRSになる、という話でした。今回の右脚ブロック・左脚ブロックというのは、赤い高速道路が一部壊れてしまった状態です。小児では右脚ブロックの方が圧倒的に多く見られるので、まず右脚ブロック(RBBB)から話をしていきます。

 

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図:右脚ブロックの図

図を見ながら考えていきましょう。まず右脚ブロックについて話をしていきます。。右脚ブロックというのは赤い高速道路の右室に行く線が途中で断線して使えなくなった状態です。電気刺激は房室結節⇢His束⇢右脚、左脚と伝わるのですが、右脚の方が断線しているため、右室の方は徒歩で電気が伝わる事になります。左脚は問題ないので、左室には高速道路を通って電気が伝わります。するとどういう事が起こるかと言うと、左脚は問題ないので、左室には高速で電気が伝わり、左室は一気に収縮します。左室だけ見るとnarrow QRSです。左室だけだと。ただし、心室の方は右脚はブロックになっており、右脚が断線している状態なので、右室には電気が高速で伝わらず、徒歩でゆっくり伝わる事になります。そのため右室だけ見るとwide QRSになるのです。心臓の中に電極をつけて、右室と左室をわけて心電図をとれば、左室はnarrow QRS、右室はwide QRSという感じになるのですが、普通の心電図は体表から電位をとっており、心電図の波形は右室と左室の波形が合体したものなのでwide QRSになるのです。波形が合体するとwideの方が色濃く出てしまうので、僕らが見る心電図ではwide QRSになってしまいますが、実際は右室だけwide QRSなので、前回の3つのwide QRSとはちょっと違うものになるのです。

 

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図:右脚ブロックの心電図

右脚ブロックの心電図は右室のwide QRSと左室のnarrow QRSが合体したような形になるので、図の心電図のような特徴的な形になります。イメージとしては先に電気が伝わった左室側から、まだ電気が伝わらない右室側に電気が広がる感じなので、電気の方向は左から右に行く感じです。ここで12誘導心電図を見てください。V1の波形を見ると、QRSは山が2つあるような形になります。前の前の記事で12誘導心電図でⅡ誘導だけでいい、と言ったかと思いますが、この脚ブロックの場合は胸部誘導(V1とかV6とか・・・)を見たほうがわかりやすいです。なので、基本的にはⅡ誘導だけ見ればいいと思いますが、申し訳ないですが、Ⅱ誘導でwide QRS波で、上の3つでなければ(頻脈、PVCVTVF、ペースメーカー)、胸部誘導(V1とかV6とか)を見るようにしてください。脚ブロックに関しては胸部誘導が大事です。まずV1に注目しましょう。V1は胸骨の右側の電気を測定しています。V1の方、つまり右側の方に電気が向かってくる場合に波形は上に行きます。逆にV1の方から離れていく場合、V1の波形は下に行きます。右脚ブロックの場合には左室は普通なので一瞬で左室全体に伝導します。右室は右脚ブロックになっているので、左室が一瞬で電気が伝わりきっているのにまだ右室は電気の伝導がはじまってもいないような感じです。なので、電気は電気が伝わりきった左室から右室に電気が伝わっていく感じになります。上の図のイメージです。すると、電気の伝わる方向は左室⇢右室方向に向います。なので、V1では上方向にQRS波が向かいます右脚ブロックでは左室がはじめに収縮して、後から右室が収縮し終わるので、ピークが2つになります。最初のピークが左室、次のピークがブロックになった右室で、V1のQRS波の頂上が2つあるような感じになります。文字で言えば「M」みたいなQRSの形になります。どうでしょうか?波形をイメージできましたか?右脚ブロックは右脚が断線しているので、心房⇢房室結節⇢His⇢右、左脚に分かれると、左室が一瞬で収縮し、その後左室に伝わった電気が右室にも広がる感じです。右室は徒歩で電気が広がるので、ゆっくり収縮します。V1で波形を見ると電気は左から右に行くので、QRSは上側に振れ、先に左室のピークの山が来た後、後で右室のピークの山が来ます。そのため、V1ではwide QRSで、QRSは上に振れ、ピークがずれるので、M字のような2つのピークができます。こんな感じになるので、胸部誘導を見ると図のような特徴的な波形になります。慣れると胸部誘導全体を見れるようになると思いますが、とりあえずはV1だけ見て、図の心電図のような波形になっていれば右脚ブロックだと思ってもOKだと思います。特徴をまとめると

・上の3つでない時はV1をチェック!

・V1でQRSは上向き。

・ピークの山が2つ(M字)ある。

・波形のイメージは左室から右室に電気が伝わるイメージ

こんなところです。イメージはやっぱり大事です。右は徒歩なので、一瞬で電気が伝導した左室から右室の方に電気が伝わるイメージです。このイメージさえあれば、V1に向かってくる方向なので「QRSは上向きだな」とか、「左室に伝導した後に右室がくるからピークがずれる」とかすぐ出てくると思います。と言うことで、右脚ブロックの波形でした。

ちなみに、右脚ブロックはどういう時になるか、というと、よく見るパターンは主に2つです。それはASDがある時 ②VSDTOF等の手術でVSDを閉鎖した際に右脚を損傷した時。の2つです。ASDは右脚ブロックがあったりなかったりしますが、右脚ブロックがある場合はASDを疑います。ASDではIRBBB(不完全右脚ブロック)が多いです。よく学校検診でひっかかるやつです。元気で何もなかった子の心電図をとってみたらIRBBBがあって、調べてみたらASDがあったというパターンです。ASDでは右心系の負荷が来るため、それを反映してか?IRBBBになることが多いです。②はVSDやTOFの手術でVSDを閉鎖した際に右脚をひっかけてしまう時です。以前VSDの孔の位置の記事でも右脚の走行を割と詳しめに話したと思いますが、右脚がVSDのめっちゃ近いところを通っているので手術で損傷してしまう、というパターンです。TOFなどは大きい欠損孔になるので、しょうがない部分もあるかな、とは思います。心臓血管外科の先生方はかなり気を使ってやっている部分ではありますし、めちゃくちゃ小さい心臓のどこを通っているか見えない右脚を、すぐ近くを縫うのに損傷するな、というのはなかなか難しいです。手術後に右脚ブロックになっていてもしょうがないか、という感じです。右脚ブロックは結構よく見るので、ASDやVSD、TOF術後がいればちょっと気にして見てみてください。

 

左脚ブロックについて

どうでしょう?右脚ブロックはわかっていただけたでしょうか?小児しか見てない看護師さんはここでさよならでもOKです。左脚ブロックは正直あまり先天性心疾患では見ません。大人では逆に左脚ブロックを知っていないとモグリだと思われます。臨床のおける重要度は左脚ブロックの方が上だと思います。では左脚ブロックとはどんなものでしょうか?図を見ながら左脚ブロックを考えていきましょう。端的に言うと左脚ブロックは右脚ブロックの逆です。なので、右脚ブロックをしっかり理解出来ていれば左脚ブロックは楽勝でしょう!

 

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図:左脚ブロックの図

左脚ブロックでは左脚だけが断線した形になります。右脚は問題ないので、一気に電気が伝導します。一方、左室は断線しているので電気は徒歩でゆっくり伝わります。左脚ブロックは左脚が断線しているので、心房⇢房室結節⇢His⇢右、左脚に分かれると、右脚が普通なので右室が一瞬で電気が伝導して収縮し、左脚は断線しているので左室はまだ電気が伝わらず収縮しません。その後右室に伝わった電気が、右室⇢左室に広がる感じなので電気は右脚ブロックの反対で右室⇢左室に徒歩でゆっくり広がる感じになります。右室だけ見るとnarrow QRSで、左室だけ見るとwide QRSとなります。これが合体しているので左脚ブロックも右脚ブロックと同様にwide QRSになります。先にくる波形が右室で、次にくる波形が左室でこれが合体した波形が心電図に反映されるのです。と言うことはめちゃめちゃ勘が良ければ、もうどんな波形になるか想像できると思います。

 

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図:LBBBの心電図

上記のような波形になります。V1から見ると電気は先に電気が行き渡った右室から断線して電気がなかなか伝わらない左室に向かいます。つまり右室⇢左室に行くので、V1から見ると電気は離れていくような感じになり、QRS波は下向きに振れます。V1では右室のnarrow QRSの下向き+左室のwide QRSの下向きがくるので下向きの谷のピークが2つできて、「W」の文字みたいになります。わかりやすく、2つの谷のピークがあり、Wの字みたいになっていればわかりやすいのですが、ま、正直あまりなってない場合も多くて、大きな下向きのQRSだけ、って場合も多い気がします。でも下向きの大きなQRSなら左脚ブロックだってわかりにくいですよね。そこでもう一つポイントがあります。V1だけだと下向きの大きなwide QRSがあるだけ、って感じになる事もあるので、ここでV6も見るようにしてください。「えー、V6も見るの?」って思うかもしれませんが、左脚ブロックの場合はV6だけ見てもいいくらいかと思います。ただ小児の心電図では頻度的に右脚ブロックの方が多いので、「wide QRSならV1からチェックしてもらい、V1RBBBじゃなくて、下向きのQRSならV6をチェックしてLBBBか判断する」って順がいいのかな、と思います。V6ってどこの電気を見ているかと言うと、体の左、ちょうど左心室があるあたりの電気をとっています。体の左に向かってくる電気があれば、上向きにふれるのがV6です。すると左脚ブロックをV6で見てみると、右室から左室に電気が向かうため、QRSは上に振れます。一気に電気が広がった右室のQRSのピークと後からゆっくり広がった左室のQRSのピークがずれるので、QRSの山は「M字」のように2つのピークを作ることになります。あれ、これなんかどこかで聞いた話ではないですか?そう、右脚ブロックでのV1の波形と同じです。左脚ブロックだとV6でちょうど同じような波形になります。

 

図:RBBBとLBBBの波形をくらべて

上記の図のようにRBBBのV1とLBBBのV6は同じような波形になります。ま、理屈を考えるとわかるかな、と思います。理屈を考えて、波形がイメージできれば、それでOKかな、と思います。左脚ブロックは、右室に電気が行き渡っても、左室にはまだ電気が伝わってませんので、右室から左室に電気が右室に電気が渡ったところで、まだ左室は電気が徒歩でゆっくり伝わりwide QRSになり、右室は右脚を通じて高速で電気が伝わるのでnarrow QRSになります。合体した波形は左室のwide QRSを反映してwide QRSの形になります。左脚ブロックではV1でW字の谷の2つのピークに、V6でM字の山の2つのピークになります。左脚ブロックでのV6の波形は、ちょうど右脚ブロックでのV1の波形みたいになります。上の心電図と図をみて、しっかりイメージをつかみましょう。

 

右脚ブロックと左脚ブロックってどっちが心臓に悪い?

という事で右脚ブロックと左脚ブロックがなぜwide QRSになるかは理解できたでしょうか?では、体にとって右脚ブロックと左脚ブロック、どっちがいいのでしょう?そんな事考えたことありますか?これは実はちょっと重要な事なんです。さっきの話をちょっとまとめると

・右脚ブロック:右室はwide QRS、左室はnarrow QRS。

  ⇢ 右室の収縮はいまいち、左室の収縮はOK

・左脚ブロック:右室はnarrow QRS、左室はwide QRS。

  ⇢ 右室の収縮はOK、左室の収縮はいまいち

こういう事になります。ダラダラと収縮する方の心室は収縮能としてはいまいちになるのはわかりますよね。となると、右脚ブロックでは右室の収縮がいまいちで、左脚ブロックでは左室の収縮はいまいちになります。これを踏まえた上でどっちの方が体にとってはいいのか考えると右脚ブロックの方がいいですよね。わかりますか?右室は肺に、左室は全身に血液を送る心室なので、左室の方が遥かに重要な心室になるのです右室は肺だけなので、正直ちょっとイマイチでも、左室が正常なら体にとってはたいして変わらないのです。でも左室は全身を賄う重要な心室なので、左室がイマイチだと右室が正常でも体にとってはしんどくなります。なので、右脚ブロックと左脚ブロックを考えると、右脚ブロックはたいして悪くないが、左室がイマイチになってしまう左脚ブロックは悪い、という事になります。左脚ブロックや右脚ブロックだけで、何か起こるというわけではないですが、心不全の悪化因子のひとつには成りうるって事は頭に入れておきましょう。結論だけ言うと、右脚ブロックは「ま、大丈夫」で左脚ブロックは「ちょっと悪いかな」という感じですが、理由をしっかりわかっておくことは循環器においては非常に重要なので、この際にしっかり読んで、図を見て理解してください。

 

どうでも良いことですが、医学生の間でよく言われる語呂合わせみたいなものがあります。僕が医学生の時には知りませんでしたが、下の子が言っていました。

右脚ブロックはMarrow、左脚ブロックはWilliam

です。なんのことかよくわからないかもしれませんが、V1とV6の波形の特徴の事を語呂合わせに入れ込んでいるのです。V1のQRSが「M」なので、Marrowで右脚ブロックなので、maRRowです。話してないですが、V6では左脚ブロックのV1のような下向きの「W」のような形になるので、marroWです。逆に左脚ブロックではWilliamでV1でQRSが「W」だからWilliamで左脚なのでwiLLiamで、V6でQRSが「M」なので、williaMです。覚えやすいかどうかわかりませんが、使いやす人は使って覚えてもいいかもしれませんが、ゴロだけ覚えるのは社会人としては意味ないのでやめましょうね。理由がわかってこそ意味があるのですから。

 

まとめ

と言うことで、今回はwide QRSについてやっていきました。どういう状況でwide QRSが起こるか、と言うことについては覚えておく必要はないですが、赤い高速道路じゃない所に電気刺激が入った場合は徒歩で心室に電気が伝わるので、心室はゆっくりと収縮することになりQRS波の幅は広くなり、wide QRSになるって事はしっかり頭に入れておきましょう。すると、赤い高速道路以外のところから電気が伝わるとwide QRSになるんだな、と考える事ができ、VTやVFなど心室のどこかから勝手に起こる心室性の不整脈やペースメーカーの刺激はwide QRSになるはずだな、とわかると思います。(WPWは一旦忘れてもOKです。)また右脚ブロックのように高速道路の途中が傷んで断線したら、右室は高速で電気が伝わらないため右室はwide QRSに、左室は左脚の高速道路が普通なのでnarrow QRSになるが、2つ合わせるとwide QRSになる事も頭に叩き込みましょう。右脚ブロックと左脚ブロックでは、左脚ブロックの方が左室がゆっくり収縮するため、右脚ブロックと比べると左脚ブロックの方が悪い事も、もうわかるかな、と思います。不整脈を理解するためにはwide QRSは必須の知識なのですが、こんな事はあまり説明されません。臨床の現場では当然知っている上で話が進んで行くので、簡単な事なのによく理解できず心電図や不整脈に嫌な印象を持つことになってしまいます。不整脈を理解する上でwide QRSは非常に重要な事なのでしっかり理解できるようにしておきましょう。具体的には、「VTとかVFとペースメーカーとWPWと右脚左脚ブロックがwide QRSになる・・・」と覚えるのではなく、「QRSがwideになる理由」をしっかり理解して、「こういう場合にQRSはwideになるので、心室性の不整脈とかペースメーカーの刺激はwideになるんだな」と考えれば出てくるようにしてもらう事が大事です。循環器は覚えなくていいのですが、理由がわかるようにしておくことが大事です。僕は覚える事が非常に苦手なので、「理由をわかるので、ちょっと考えればすべて出てくる」状態を目指しています。このブログを読んだ人が、「理由がわかるようになる」ことが大きな目的です。なので、同じ事を何回もちょっと言葉を変えたりして話しているのです。賢い人には鬱陶しいブログでしょうが。。。そういう人は対象ではないので。

と言うことでゴチャゴチャとwide QRSについてやってきましたが、なかなか不整脈にたどり着かずモヤモヤしたでしょうが、次回からやっと不整脈の話ができそうです。と言うことで次回は不整脈の話にはいっていきます。