誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

不整脈:wide QRSついて 〜基本26〜

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前回で心電図について話をしました。

・心電図はまずⅡ誘導を見て、後の誘導は前の心電図と比べる。

・1心拍は「P波⇢QRS波⇢T波」で構成される。

・洞結節(sinus)から心房に電気が伝わり心房が収縮:P波

・心房の血液が心室に充満するまで房室結節でタメを作る:P波とQRS波の間

心室内の高速道路に乗って電気が一気に心室に伝わり心室が収縮:QRS波

・収縮した心室が次の心拍のため、拡張する:T波

・心房と心室は絶縁されている。ただし、房室結節だけは電気を心房から心室に通す。

前回のおさらいとしては、こんな感じだったかな、と思います。心電図から心臓の動きがイメージできればOKなのかな、と思います。心電図も所詮、心臓の状態を把握するためのツールにすぎないので、気楽に接する事ができればいいのかな、と思います。

 

不整脈について話をしていきたいところですが、もう一つだけその前に話しをしておきたい事があります。それはwide QRSについてです。このwide QRSをしっかり理解しておかないとなんで不整脈が悪いのか、なんで不整脈ではそういう波形になるのかがわからないので、ちょっとしんどいですが頑張って理解するようにしましょう。wide QRSとは、その名の通り幅が広いQRS波の事です。前回の心電図の時に、QRS幅が狭い方が収縮が良い、というようなお話をしているのですが、ちょっと足りないかな、と思うので、まずwide QRSについて話をします。

 

wide QRSとは・・・

wide QRSとは何でしょう?簡単ですね、幅広のQRS波の事です。前回の話を思い出してほしいのですが、QRS波は「心室が一気に収縮する時の波形」でした。心室が収縮する時には赤い高速道路のところを電気が通るので、電気は一瞬で心室全体に広がります。そのため、心室は一気に収縮する事になり、幅の狭いQRS波になる、というわけです。普通はこのように赤い高速道路を通るためQRS波は幅の狭いものになります。この赤い高速道路みたいなところは実は名前がしっかりついています。覚えなくていいのですが、一応下の図で名前を書いておきます。まず房室結節から出てすぐのところをHis束といいます。その後赤い高速道路は右室側と左室側に別れます。右室側に行くものを右脚、左室側に行くものを左脚といいます。さらに左脚は左室の前に行く前脚と左室の後ろの方に行く後脚があります。右脚、左脚の先っちょの方はPurkinje線維という名前がついています。

 

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図:赤い高速道路のちゃんとした名前

ちゃんとした名前は覚える余裕や興味があれば覚えてもらったらいいですが、知らなくてもいいです。大事な事は、この赤いところが高速道路のように電気を素早く通すので、そこに乗った電気刺激は一瞬で心室全体に行き渡る、と言うことです。不整脈や心電図を見る上でとても大事な観点なので、頭に入れるようにしましょう。赤い高速道路にもいろいろ名前があり、ほとんど覚えなくてもいいかな、と思うのですが、右脚と左脚だけ不整脈や伝導障害の名前で出てくるので、申し訳ないですが覚えてください。覚えるって言っても言われたらわかる程度でいいので頭にいれておきましょう。

ではwideQRSって言うのはなんでしょうか?普通は心室と心房は完全に絶縁されており、2つの電気の架け橋は房室結節しかありません。房室結節と通して心房の電気は心室に行くため普通は房室結節から赤い高速道路を通って心室全体に電気刺激が広がります。こういう時は心室が収縮する時間はとても短く、QRSの幅はそれを反映して狭くなります。これをnarrow QRSとか言ったりもします。わざわざ言わなくても普通はnarrow QRSになります。しかし、電気刺激が赤い高速道路に乗らずに心室に広がった場合はどうでしょう?下の図を見ながら考えていきましょう。

 

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図:wide QRSとnarrow QRS

 

一番わかりやすい例は心室性の不整脈がでる場合です。こういう場合には心室のどっかから勝手に興奮が起こり脈がはじまるため、赤い高速道路に乗らずに電気刺激が心室に伝わります赤い高速道路以外のところは徒歩で電気を伝えるようなものなので、非常にゆっくり心室全体に電気が伝わる事になります。心室が収縮するまでに時間がかかってしまい、心電図は幅の広いQRSになるのです。これをwide QRSって言います。wide QRSは幅が広いだけではなく、心室の収縮能もいまいちです。想像してもらえばわかると思いますが、一気に収縮するのとダラダラ収縮するのとどっちが心機能良さそうに思いますか?もちろん想像通りで、一気に収縮するほうが心機能は圧倒的にいいのです。ゆっくりダラダラ収縮する場合、心機能は良くないのです。wide QRSは幅が広いだけでなく、収縮能も悪いのです。心室性の不整脈がしんどいのは、脈が早くてしんどいだけでなく、たとえ同じ脈だったとしてもwide QRSになる分、収縮能が低下するので、それだけでしんどくなるのです。そう考えると房室結節を通じて心室に電気が伝わる事がとても重要だということが理解できますよね。房室結節⇢His束⇢右脚、左脚を通じて心室を収縮させることは心臓にとっては理想的であり、とても効率の良い収縮になるのです。逆にこの赤い高速道路の上を通らない脈は収縮の効率がわるく、wide QRSになり、心機能の低下につながってしまいます。なので、心電図を見る時には「QRS波の幅はどれくらいだろう?」って考えながら見るのはとても重要なのです。僕は必ずQRSの幅は見ています。心電図を見る時は必須の項目だと思っています。この観点から心電図を見れると、とてもいいので、僕らが行う治療がもっと理解しやすくなるかな、と思います。

 

wide QRSになる時ってどんなとき?

wide QRSについては理解できましたか?重要なので、図を見て、しっかりイメージをつけてくださいね。wide QRSが良くないって事は理解してもらえたかな、と思いますが、どんな時にwide QRSになるかを知っておく事も重要だと思いますので、ここではどんな時にwide QRSになるかを話していきます。結論を言うと

 ・心室性の不整脈が出た時。

 ・ペースメーカーで心室を動かしている時。

 ・WPW症候群で頻脈が起こっている時(pseudoVTっとか言われたりします)

 ・右脚ブロックや左脚ブロックになった時。

思いつく限りはこんなところです。他にもあれば、こっそり編集して付け足しているかもしれません。基本的には心室の中で何かあった時に電気刺激が赤い高速道路の上に乗らず、徒歩で電気刺激が伝わる事になるのでwide QRSになります。一応ひとつひとつ説明していきます。

心室性の不整脈

まず心室性の不整脈が出た時です。心室性の不整脈って言われてもまだ不整脈の事を全く話していないのに困ると思いますが、これは図のように心室のどこかから電気刺激がおこるものの総称です。みなさんのよく知っているPVC(心室性期外収縮)、VT(心室頻拍)とかVF(心室細動)とかです。あの波形を見てみると必ずwide QRSになっています。これは赤い高速道路から電気刺激が伝わらず、心室の何もないところからPVCやVTやVFが始まり、徒歩で心室全体にゆっくり電気刺激が伝わり、心室はゆっくり収縮するためwide QRSになります。集中治療室とかでAlineの波形を見慣れている看護師さんならPVCが出た時にA lineの波形の血圧が少し下がる事を経験していると思います。まさにこの事で、PVCがでると刺激伝導系(赤い高速道路)の上を伝導しないため、心室にはゆっくり電気が伝わり、ゆっくり収縮することになります。それを反映してPVCの波形は幅広のQRS波形になり、収縮能も悪くなるため血圧もPVCが出た時は少し下がるのです。もしAline入っていて、PVCがたまに出る患者さんがいたら注意してみましょう。実感できれば、納得できると思いますし、理解も格段に早いです。上の図のwide QRSはPVCを例にしているので、それを参考にしてみましょう。下の図に実際の心電図も載せておきますね。

 

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図:wide QRS:心室不整脈(PVCやVT)

ペースメーカーで心室を動かしている時

同じようにペースメーカーを入れるとwide QRSになります。(正確に言うと心室をペーシングしている時だけですが。)ペースメーカーは何らかの原因で脈が出なくなったりした時に入れるものです。いずれ詳しく話しますが、ペースメーカーは本体があり、リードがあります。リードを心臓の心房や心室にくっつけて電気刺激を送る事で心房や心室を動かしています。今回の話は「心室」にリードをつけた場合の話です。

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図:ペースメーカーで心室ペーシングが入る時

小児では心臓が小さく、血管内にリードを入れると血管が詰まるおそれがあるので、心外膜(心臓の表面に)にペースメーカーのリードを植え付けます。植え付けたところから、電気刺激が心室に伝わり、心室が動くという仕組みです。すると当然、心臓の表面には赤い高速道路がありませんので、何もないところから電気を伝える事になります。徒歩で電気刺激が心臓全体に伝わるので、心臓はゆっくり収縮してwide QRSになります。基本的に大人でも同じで、大人の場合は心内膜(心臓の内側)にリードをつける事が多いですが、心内膜にも赤い高速道路はありません。心臓の壁の内側なので。そのため、大人で心室をペーシングしても同じようにwide QRSになります。理想的に言えば赤い高速道路の上にペーシングリードをくっつけてあげれば、ペーシングしてもnarrow QRS(幅の狭い、普通のQRS波)になるので理想的でいいのですが、赤い高速道路のところは心臓の中の見えない所なので、実質的には無理な話です。なので、房室ブロックなどが原因でペースメーカーをつけた場合で、心室のペーシングが入った時はwide QRSになります。ちなみに自己のQRS波(もともとある自分の脈の事。ペースメーカーの人は自分の脈が出たり出なかったりする。)が出た場合には普通の脈と同じなので、赤い高速道路を通り心室に刺激が行き渡るので、narrow QRSになります。QRS波の形を見て、「今はペーシングだな。」とか「今は自己の脈が出ているだな」と僕らは判断しています。(ペーシングのスパイクがあればいいのですが、スパイクが見えない場合も多いので。)じゃ、ペーシングって悪いの?って思うかもしれませんが、そんな事はありません。脈がでないよりよっぽどいいです。ただし、自己のnarrow QRSがbestだとすると、ペーシングのwide QRSはbetterって感じです。できることならnarrowの方がいいけど、ってくらいです。覚えておいてほしいのは、「ペースメーカーがついている人で心室にペーシングが入ったらwide QRSになる」って事です。ペースメーカーのリードは赤い高速道路のところに植え付ける事ができないので、普通の心室の筋肉につける事になり、そこからペーシングした場合は徒歩でペーシングの刺激が伝わる事になり、wide QRSになるのです。ペースメーカーとかマジ意味不明って思ったかもしれませんが、ペースメーカーについてはいずれ話をしようと思います。(質問が来ると思ったので書いておきます。わからなくてもいいですが、心房にリードがくっついている場合は心房に電気刺激が伝わるので、心房から房室結節に電気が行き、房室結節から赤い高速道路を伝わって心室に電気が一気に伝わりますので、心房のリードから刺激した場合はnarrow QRSになります。ペースメーカーの勉強をすればわかりますが、今回は心室にリードがくっついていて、心室に刺激を加えた場合の話をしています。)

WPW症候群のpseudoVT

次にWPW症候群のpseudoVTが起こった時です。WPW症候群と言うのは不整脈を起こす有名な疾患です。今回は詳しく話しませんが、WPW症候群はどんな疾患かと言うと、「心房と心室の間に副伝導路がある」疾患です。前回心房と心室は房室結節の他は電気が通らない、っていう話をしたかな、と思います。なので、心房の電気刺激を心室に伝えるためにはどうしても房室結節を通る必要があったのです。しかしWPW症候群には副伝導路と言って、心房と心室の電気がつながる道があるのです。副伝導路にも色々ありますが、WPW症候群は一番有名なもので、Kent束という名前の副伝導路を持っており、このせいで頻拍発作を起こします。普通は電気を通さない心房と心室の間を、Kent束という電気を通す場所があるのがWPW症候群です。もしWPW症候群があり、心房の電気刺激が副伝導路を通って心室に伝導したらどうでしょう?副伝導路はもちろん赤い高速道路の上を通ってないので心室全体には徒歩でゆっくりと電気が伝わる事になります。そのためQRSの幅は広くなり、wide QRSを呈する事になります。ちょっと字では伝わりにくいので、絵を見てイメージすれば簡単な話だとわかるはずです。

 

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図;WPWのwide QRS(心電図なくてすいません、教科書とか見てください。)

WPW症候群は副伝導路がある疾患なので、上記のような事が起こりwide QRSになる可能性があります。図のような副伝導路(Kent束)がある場合で、心房頻拍などが起こると、心房の頻拍はKent束を伝って心室に伝わってしまいます。Kent束のある場所は赤い高速道路ではないので、心室全体には徒歩でゆっくりと電気が伝導していきます。するとQRS波形はwide QRSになってしまいます。心房頻拍が連続して心室に伝わり、wide QRSが連続しておこると、本当は心房の頻拍なのに、波形だけ見るとあたかもVTのように見えるのです。wide QRSが連続して認めれば、普通はVTとかVFだと思います。9割はそうだからです。でもWPW症候群の一部ではこのような事が起こり、心房性の不整脈なのにwide QRSになるため、「ニセのVT」って意味でpseudo(シュード)VTって言ったりします。あだ名みたいなものです。ちょっとむずかしいかもしれませんし、WPW症候群はもっとしっかり説明しないとわからないかもしれません。ここでわかってほしい事は、「副伝導路を通って心房の電気が心室に伝わると、赤い高速道路の上に乗らずに、心室に電気がつたわるため、wide QRSになる」という事です。wide QRSになる、という理屈がわかりさえすればOKです。図さえ理解してくれればいいです。副伝導路があるWPW症候群の場合、wide QRSになる事がある、っていうのを知っていてくれればOKです。心房性の不整脈なのに副伝導路から心室に電気刺激が伝わるため赤い高速道路に乗らずゆっくりと心室内に電気が行き渡りwide QRSになってしまいます。wide QRSの中でも特殊な例ですが、WPW症候群は結構いるので、知っておいてもいいかな、と思います。

 

ここまでの話は大丈夫ですか?とにかく、上記の3つは全部同じ理屈です。心室に電気が伝わる時に、刺激伝導系(赤い高速道路)の上に乗っていない場合は徒歩でゆっくり心室全体に電気が広がるため、ゆっくり収縮し、心電図ではwide QRSになります。心室のどこかから不整脈が出た時、ペースメーカーで心室を刺激したとき、WPW症候群で副伝導路から刺激が心房⇢心室に伝わった時、こんな時にはwide QRSになります。もうひとつ、右脚ブロックや左脚ブロックになったときもwide QRSになりますが、これは上の3つと少しパターンが違いますし、重要なので次回話をします。というか、長くなって疲れたのでわけて話をします。とにかく、QRSの幅に注目してほしい、という事です。QRSがwideなのか、narrowなのかが大人でも重要ですが、小児でももちろん重要ですので、注目してみるようにしましょう。