誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

完全大血管転位症(TGA:) 術後に注意すべき点 ~ 疾患15

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術後に注意すべき点について

Jatene手術で重要となってくるのが、術後の合併症です。

TGA特有なので、TGAの時は意識するようにしてほしいポイントです。

 

 ① 冠動脈の狭窄・閉塞

 ② 肺動脈の狭窄

 ③ 大動脈弁の逆流

 

上記の3つが主なものです。3つも頭に入らない人は①の冠動脈の狭窄・閉塞だけでいいので覚えましょう。冠動脈は心臓を栄養する血管のため、ものすごく大事です。冠動脈が狭窄したり閉塞したりすれば心筋梗塞になってしまい、命に関わります。なので上記の中でもダントツに重要なのが1番目の冠動脈のイベントです。

 

冠動脈の狭窄・閉塞

1番目は冠動脈の狭窄・閉塞です。小児の、しかも新生児の冠動脈はすごく細い組織なのに、それを付け替えないといけないので、狭窄や閉塞に注意が必要なのは当たり前といえば、そうですよね。うまく繋がないと心機能が落ちてしまい、せっかく手術しても元気になりません。なので、冠動脈に狭窄や閉塞がないかどうかは目を光らせて注意しておく必要があります。

 

ただ注意する、と言っても難しいですよね。いくつかポイントがあるので記載しておきます。

 ・冠動脈イベントは多くは3ヶ月以内に起きる。1年大丈夫ならほぼ安心

 ・手術がうまくいっても、冠動脈の内膜だけが成長して狭窄する事がある。

 ・エコーではわからない事も多い。(心機能がパッと見、低下しないことも多い。)

 ・心電図の小さな変化が重要!心電図は大事です!

 

ポイントは大体こんなところかな、と思います。エコーではわからない事も多く、心電図が重要になってきます。心電図の変化に目を光らせないと発見が遅れるケースがあります。実際にエコーとか見ていたにも関わらず、わからなかったことが何回かありました。僕のようなキャリアが短い医者でも経験しているので、注意していないといけません。

 

TGA術後の冠動脈イベントでは心電図が重要

ここで重要なのが、心電図だと思います。結構小児循環器の分野で軽視されがち、というかみんなわからないからスルーされがちな心電図が重要なのです。

小児の心電図は年齢によっても変化しますし、疾患や患者毎に全然違う形をしています。なので、どれが正解なのか、非常につかみにくく、とっつきにくい印象をみなさん持っているのではないかと思います。

でもここでは、難しく考えないでください。

TGAでは術前、術直後、必ず心電図を取り、同じ患者さんの心電図を比べ、変化(特にSTのあたりなど)していないか並べて比べればいいのです。これなら難しい事は何もないし、誰でもできると思います。

怪しければ、薬物負荷試験(ジピリダモールなど)やカテーテル検査で冠動脈造影をして確かめればいいのです。問題は疑えるかどうか、というところです。医師もスルーしているケースが多く、看護師さんが見つければお手柄なのではないのでしょうか。

 

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冠動脈狭窄

図:TGAの冠動脈狭窄

 

両側肺動脈の狭窄

2番目には、肺動脈の狭窄です。

TGAではLeCompteをするため、肺動脈が引っ張られ、図のような位置に肺動脈の狭窄が起きやすいです。心エコーで、左右の肺動脈の流速が2-3m/secであれば、良い方であり、4m/sec超えるようならば、バルーン治療や手術介入を考慮しないといけません。

解剖学的にどうしてもなりやすいので、仕方なのですが、TGAでは、肺動脈の狭窄が起こっていないか注意し、適切に介入してあげないといけません。ちなみにエコーで大体あたりを付けますが、肩枕をして、エコーのプローベを上から覗き込むように当てないとTGAでは肺動脈が見えません。

 

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肺動脈の狭窄

図:両側肺動脈狭窄

 

大動脈弁の逆流

そして3番目は大動脈弁の逆流です。

Jatene手術をした後の大動脈弁は、もともと「肺動脈の弁」になるはずだった弁なので、高い血圧に耐えられるような上部な弁ではないのです。そのため、長いこと高い血圧にさらされると、徐々に傷んできて大動脈弁逆流が認められるようになってしまいます。昔の術式の影響もあるとは思いますが、大人になって大動脈の弁置換をしている症例がチラチラ認められます。

もともと肺動脈弁だったため、普通と比べると大動脈弁逆流は認めやすく、長期に渡って注意が必要なところとなります。これもTGAのチェックポイントとなります。

 

そうは言っても、最も重要な合併症は冠動脈の合併症です。手術した後はとりあえず、「冠動脈は大丈夫なのか?」と常に注意しておく必要があるのです。

 

まとめ

TGAは大動脈と肺動脈が逆にくっついている。

手術は大血管スイッチ手術(ASO:Jatene+LeCompte)を施行する。

・大動脈と肺動脈を切って、付け替える(Jatene手術)

・付け替えるとき、大動脈は肺動脈をまたいでつなぐ。(LeCompte法)

・冠動脈も付け替える。

上記のような手術を日齢5前後にします。

注意すべきは術後の合併症で、①冠動脈の狭窄・閉塞、②肺動脈の狭窄、③大動脈弁の逆流、などが起こりえます。特に冠動脈は注意すべきで、心電図の変化に目を光らせておきましょう。

 

次回は、これもあまり必要ないかもしれませんが、TGAのいにしえの手術について少し説明します。