今回はTGAで最も重要だと考えられる、冠動脈について少しだけ説明します。今回も若干看護師さんにそこまで求めなくていいような内容な気がしますが、知っていて損はないですし、TGAに対する理解は深まります。
冠動脈のバリエーション〜Shaherの分類やLeiden convention
冠動脈の走行にはいろんなバリエーションがあり、冠動脈の走行によって術式が変わってきます。主に2つの分類だけ覚えていれば十分です。ちなみに一応、RCA:右冠動脈、LCA:左冠動脈、LAD:左前下行枝、LCx:回旋枝など冠動脈は略語で表記しています。
・Shaher分類
・Leiden convention
日本ではよくShaher分類を使っているような気がします。どの教科書にも載っているので見てみてください。覚える必要はないのですし、僕も覚えていません。その都度チェックしましょう。また外科ではよくLeiden conventionという表記の仕方もします。Leiden conventionのsinusの決め方はちょっと理解するのが難しいですが、図を見て頑張って理解しましょう。
図:Leiden convention
大動脈の3つのsinusのうち、肺動脈に接してないsinus(図のNF(non-facing cusp))に自分が入ったと過程し、右手側がsinus1、左手側がsinus 2になります。そこからどの冠動脈の枝が出ているかを表記しているのが、Leiden conventionという表記になります。
わからなかったら、誰かに聞きましょう。Sinus1からLADとCX、Sinus2からRCAが出る時に{1LCx;2R}などと表記するのがLeiden conventionです。これはShaher分類の1にあたります。
表現できない形態などもありますが、パッとどう冠動脈が起始しているかイメージしやすいので、とても優れた分類だと思います。逆にShaherは1とか以外は全然覚えていないため、冠動脈の走行がイメージできません。ま、誰も覚えてないので、メモ帳などに分類を貼っている人が多いと思います。
ShaherやLeiden conventionはあまり覚えなくてもいいと思いますし、そんなものがあるんだな、くらいでいいかもしれません。ただし、循環器内科にとっては冠動脈を正しく診断する事は重要ですし、外科にとってもどのように冠動脈を移植するか考えるために重要な診断になってきます。僕ら小児循環器内科は手術前までの数日で何回もエコーをして診断を確実にするように努めています。
冠動脈造影(Laid back法)
エコーで何回もチェックして冠動脈がどう走行しているか同定しようと試みますが、どうしてもわからない事もあります。
そんな時には、カテーテルで造影すればはっきりとします。ただし、新生児は小さく大人のカテーテル検査のように、冠動脈にカテを突っ込んで造影できません。そこで、鼠径の大腿静脈からカテーテルを上げて、IVC→右房→右室→大動脈とカテを持ってきて、大動脈で造影を行います。この時、体の下45度くらいから見上げるような形で造影すると、冠動脈の走行がわかります。(図を参照にしてください。)このような造影方法をLaid back法といいます。
図:laid back法
多くの施設では、BAS(心房中隔裂開術)をした時には、ついでにしてしまうことが多いのではないかと思います。心エコーで診断が難しくても、この方法で造影すれば、冠動脈の走行がしっかりわかると思います。ちょっと見方は特殊で画面の一番上にくる冠動脈がLADになります。真ん中らへんでいくつかに分かれるのがCxになり、一番下にくるのがRCAになります。興味あれば、TGAの子の造影を見てみれば図のような画像が見られると思います。いくつか当院で撮ったLaid backの造影を載せてみましたので参考にしてください。
でも小児循環器の理想としては、造影しなくてもエコーで診断をバッチリつけられるようになりたいものですね。
冠動脈移植が難しい例→AoとPAの間を走行する冠動脈や壁内走行には注意!
一部冠動脈をボタンとして移植することが難しいものがあります。(ほとんどできますが、注意が必要なものもあります。)これも難しいですし、書く必要があるかどうか迷いました。。サラッと聞き流すくらいのつもりでいいです。
大動脈と肺動脈の間を走行している冠動脈や大動脈の壁内走行(intramural)などの冠動脈には注意が必要です。また冠動脈がnon-facing sinus(Leidenの図のNFのところ)から起始するものなども移植ができなかったりします。
壁内走行や大動脈と肺動脈の間を走行しているものは、下の図のような走行なので、こういうやつは注意しましょう。移植できたとしても狭窄したりする確率もあり、いつも以上に注意が必要です。
図:注意すべき冠動脈の走行
まとめ
今回は看護師さんにはあまり関係がないところではありますが、TGAの重要な冠動脈について分類など簡単に説明しました。これで、オペレコでsinus 1とか書かれていても意味がわかるようになりますね。
・Shaherの分類(ってものがある、Shaher1くらいは覚えてもいいかな)
・Leiden convention(sinus1がどこを指しているか理解できたかな?)
・Laid back法で冠動脈の造影をすると簡単に診断できる
・壁内走行や大血管の間を通る冠動脈には注意
今回はこんなところです。
では次回は術後にTGAで気をつけるポイントについて説明していきます。
やっぱり術後も冠動脈が最も重要なところになります。