誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

完全大血管転位症(TGA:) 血行動態、mixing、BAS(心房中隔裂開術)について ~ 疾患12

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だいぶおやすみをしていてすみません。

体調不良により何もできませんでした。

私事で申し訳ありません。

みなさん、顎がコキコキ言っている人がいたら注意してください。

僕は顎関節症で病院をお休みしました。救急でソセゴン(痛み止めの超効くやつです。)3回打ってもらいました。

それでも、しばらくはスムージーしか飲めず、話すのも難しかったです。

今は普通に話せるようになりましたが、まだいろんなものが食べれません。毎日カレーを流し込んでいます。1週間以上たったのに・・・。

尿路結石はこれ以上痛いのでしょうか・・。

でも出産はこんなもんではない痛みなのでしょう。。。

 

お話を戻します。今日はTGAについてです。

今日のところはかなり簡単だと思いますし、とても理解しやすい血行動態をしている完全大血管転位症(TGA)について説明していきます。

 

完全大血管転位症(TGA)はどんな形をしているかと言うと「大動脈と肺動脈が逆にくっついている心奇形」という認識でOKです。

 

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TGA血行動態

図;TGAの模式図

 

以前の基本で少し説明しましたが、上記の図に書いてある、静脈血とは酸素濃度の低い血液で、パッと見、青い血液です。動脈血とは酸素濃度の高い血液で、パッと見、赤い血液です。

普通の循環では静脈血は右心室から肺動脈にいき、動脈血に変換され、左心室から全身に駆出されます。全身で使われて再び静脈血となり、右心房に戻ってくるという事を繰り返すのです。

しかし、TGAでは違います。

静脈血が上記の図のようにSVCとIVCから右心房に返ってきて、右心室にいき、右心室から大動脈にそのまま行ってしまうという状態です。一方、肺静脈から返ってきた動脈血は左心房に返り、左心室にいき、左心室から肺動脈に駆出されます。このため、いつまでたっても動脈血は全身に行かないので、低酸素血症で死んでしまいます。

 

じゃあ、どうすればいいかと言うと簡単ですよね、大動脈と肺動脈が反対にくっついているので、もとに戻してあげればいいんです。

これが、大血管スイッチ術(ASO:Atrial switch operation, とかJatene手術)と言われる手術です。現在はこの手術がTGAのスタンダードであり、日齢5-10くらいで行われています。

TGAはこの手術で直してあげれば、普通の循環動態(右心室から肺動脈がでて、左心室から大動脈がでる)に戻るので、手術がキレイに決まると、まるでVSDの術後かの如く、存在感なく(いい意味です)退院していきます。

 

問題は大血管スイッチ手術を行うまでの事です。

先程の図のように、静脈血は「右房→右室→大動脈→全身→また右房」とめぐり、動脈血は「左房→左室→肺動脈→肺→また左房」とぐるぐる同じところを回るところに問題があります。いくら新生児がチアノーゼに強く、SpO2:80%くらいでは平気であっても、この循環のままではSpO2は30-40%くらいに下がり、低酸素血症で1日も持ちません。なぜチアノーゼがそこまでひどくなるかと言うと、全身に静脈血しか行かない血行動態だからです。なので、これを解決するためには全身に動脈血が行くようにしてあげないといけません。

 

これを手術なしで解決するためには、心房中隔を開けておく方法があります。心房中隔が開いていれば、左心房と右心房では左心房の方が少しだけ圧が高いので、左心房にある動脈血が右心房に流れていき、全身に多少の動脈血が流れることになります。

 

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mixing

図:mixing

 

心房中隔を開けて、左心房にある動脈血を右心房に流す事を俗に「mixing(ミキシング)」といいます。動脈血を静脈血に混ぜる、みたいなイメージでいいのではないかと思います。よく「ミキシングがいい」とか言っているのを聞いたことがあるかもしれませんが、これは十分に心房間が開いていて、動脈血が十分に静脈血に混ざっているという事です。ミキシングが悪いというのは心房間で十分に動脈血が混ざっていない、ということになります。

心房間がしっかり開いていて、しっかりmixing出来ているとSpO2は80%台になります。これくらいのSpO2があれば、十分大血管スイッチ術まで問題なく過ごすことができます。逆にSpO2が75%以下であれば、mixingは十分ではないので、心房間をしっかり開けるため治療をする必要がでてきます。

 

それがみなさんのよく知っているBAS(心房中隔裂開術)です。

BASは「バス」と呼びます。Balloon atrioseptostomyの略です。やることは単純で、↓の図のようにカテーテルを心房中隔に通して、左心房でバルーンを広げて右心房に引き抜いてくるだけです。もともと卵円孔としてなんとなく開いている場所なので、野蛮なように見えますが、問題はありません。

 

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BAS (心房中隔裂開術)

図:BAS

 

心臓カテーテル治療など緊急でやる事は昔と比べたらだいぶ少なくなりましたが、このBASだけはまあまあの頻度で緊急でやっています。TGAが夜生まれて、SpO2が上がらない、とか良くある話で夜中からBASをやることがまあまああります。

BASを行い、心房間がしっかり開いてmixingが良くなったら、大血管スイッチ手術まで持ちますので、安心、安心、となります。

 

では次回は大血管スイッチ手術、Jatene手術について説明していきます。