誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

心室中隔欠損症(VSD:Ventricular Septal Defect)について 〜 疾患2

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VSDの経過について

次に経過について説明していきます。

 

VSDについて前回話ししましたが、

多くの人にはあまりピンと来ない話かもしれません。

前回のところで考えているようなところは、ほとんど外来の時点で外来の先生が悩んだり考えているようなところなのです。

ほとんどは前回の事などを踏まえた結果、「手術が必要」と判断され、入院してきます。なのでそこではじめてVSDの子を見る事になるので、あまりピンと来ないのではないか、と思います。

今日はもう少しピンと来るような話をしたいな、と思っています。

 

VSDの経過ついて

VSDの手術が決まって入院する人がいますが、年齢や体格が違う事気づいていますか?

実は同じVSDの手術でも、年齢や体格によって手術のしんどさは違ってきます。今回はその事がわかるように説明していきたいと思います。

 

VSDの人は大まかにいうと下記の3種類の経過を辿ります。

 ・VSD大きく、PHあり。3ヶ月、3-4kgくらいの乳児で手術をする人。

 ・PHなし、1歳、10kgで無輸血手術をする人。

 ・PHなし、自然閉鎖する人。

 

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VSDの経過

図:VSDの経過

 

おおまかにこういう3種類の子が多いと思います。

上の図にすべてを網羅させましたので、上の図を見ながら考えていきましょう。

図の縦軸はVSDの大きさです。上に行くほどVSDの大きな子ということになります。

図の横軸は年齢になります。ポイントとなる月齢などを記載しています。

上記の図のように手術は主にこの2つのタイミングで行われる事が多いです。ちなみにその手術は単純にVSDの孔をパッチで閉じる手術の事です。

 

まずは3ヶ月、3-4kgくらいでの手術です。

この時期の手術は体格も小さく体にも負担が大きいです。また心臓の手術をする時は心臓を一旦止めないといけないため、体外循環を回さないといけません。体外循環を回すために血液が足りないので、どうしても輸血が必要になります。そのため、僕らはできればこの時期の手術を避けたい、と考えています。

 

次に1歳、10kgくらいでの手術です。

この時期の手術は体格も大きく、だいぶ手術が楽にできます。体外循環も輸血せずに回せるようになるのです。(これを無輸血手術といいます。)これは大きなメリットであり、できればこの時期の手術に持っていきたいと考えています。

 

そして最も運がいいのは自然閉鎖です。

VSDは全体の50%くらいが自然閉鎖すると言われます。多いのは1-2歳の間で4歳くらいまでに閉鎖しなければ、残る事が多いです。VSDはできる位置によって自然閉鎖しにくいところがあり、肺動脈弁下(よくVSD Ⅰ型とか書いてます。)は、ほとんど自然閉鎖しないので、期待しないようにしましょう。このことは必須ではありませんが、余裕があれば知っておいても損はありません。

 

上記が手術についての知っておいた方がいい知識です。これを踏まえてもう一度図に戻ってみましょう!

 

まず、出生した直後は生理的肺高血圧です。生まれた直後(大体1ヶ月くらいまで)は生理的肺高血圧でたいしてしんどくないので、手術が必要ないです。この時点で手術が必要になる人は多くありません。しかし、しんどくなってくるのは生後1ヶ月を超えてからになります。

まず赤い枠の人達について考えましょう。

この人達は比較的大きめのVSDの人たちになります。(6mm以上だとほぼ間違いなくここになります。)こういう人は生理的肺高血圧が取れてもPHを認めます。High flowでしんどく(心不全)、体重もなかなか増えません。

PHが残存する場合(赤い枠)には、PHが完成する前に手術をしないといけないので、3ヶ月前後で手術をします。この時は体重も小さく、体外循環を回すため輸血がどうしても必要になります。できれば、この体格で手術したくないですが、PHがある場合にはPHが完成する前に手術してあげないといけません。

 

次に橙色の枠の人達について考えましょう。

ちょっと赤枠と重なっているのですが、4-6mmのVSDの人はどっちに転ぶかわからず、オーバーラップするのでこのように枠を重ねています。

PHがない場合(橙色の枠)には手術を急いでする必要がなく、手術を待つことができます。大体1歳、10kgくらいまで待ち、楽に無輸血手術(体外循環を回すのに輸血なしでできます)で手術を行います。何度も言いますが、VSDはできれば、無輸血手術ができるまで待って手術をしたい、というところなのです。

 

最後に黄色の枠の人達は運がよく自然閉鎖する人達です。1-2mmのVSDは大体自然閉鎖が望めます。自然閉鎖するなら、「全員自然閉鎖を待ってればいいじゃん?」と考える人がいるかもしれませんが、PHがあるような大きなVSDは自然閉鎖を待つことはできません。生後6ヶ月以上はPHが残ってしまうため待てないので、手術しないといけません! PHが生涯残れば、予後は悪いですからね。

 

ここまで理解できればほぼほぼいいかな、と思います。

まとめると

 VSDが大きい(6mmくらい)人はPHが残り、3ヶ月で手術。

 PHがないVSDは1歳10kgで無輸血手術。

 PHがないVSDで幸運にも自然閉鎖することもある。

こんな感じだと思います。

上の図が理解できたらVSDがどんな経過をたどるのか理解できるかと思います。

もし余裕があれば、AR(大動脈弁逆流)が出現する場合も理解してほしいので、簡単に説明します。

 

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VSDのAR

図:AR

 

上記の図を見てみるとイメージしやすいかと思います。

VSDは大動脈弁に接している事がよくあり、VSDの血流に引き込まれて、大動脈弁が変形してしまう事があります。この影響でARが出る場合があり、悪くなると弁を治さないといけなくなります。でもARの手術はVSDの手術と比べてすごっっっく大変なのです。ARが軽い間はVSDを閉じてあげれば、変形していた大動脈弁が治る事が多いので、PHがなくても早めにVSDを閉鎖する手術してあげるのが良いです。

 

なので、上記のような事を考えながら外来で適切な治療のタイミングを考えているのです。

その他、よく教科書にのっている、「VSDの孔の位置」や「手術」については血行動態が理解できれば、教科書で勉強してみてください。

多分、上記を理解する方が大事かなと思い、今回は省きました。

今回の経過の図は結構よくできた図ではないかと自分で思いましたが、どうでしょう?

 

次回はASDについて少し話をしていきます。