誰でもわかる先天性心疾患

先天性心疾患など小児循環器をなるべくわかりやすくお話します。主に看護師さん向けですが、小児循環器を専門としない医師向けの内容も多く含まれています。教科書ではわかりにく内容の理解の助けになればと思い書いています。

動脈管(PDA)をPGE1で開存させるとhigh flowになる?コントロールの仕方とBTshunt手術について 基本11

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前回はlow flow の治療についてお話しました。

肺動脈狭窄(逃げ道なしの)や肺動脈閉鎖の時は

とりあえず、PDAを開けておいて、BT shuntにつなげる、という発想でいいかと思うのですが、それだけではいけないのです。

 

high flowで話した事を思い出してください。

本来肺に血液を流すのは右室であり、血圧はせいぜい20-30mmHgでした。

肺の血圧も同じですが、動脈管を介して肺に血液を流しているのは

大動脈です。

→大動脈の血圧は左室と一緒、大人で言うと100mmHgもあります!

新生児は大動脈60mmHg程度なので、下記の図のようになります。

 

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low flow or high flow ?

図:low flow or high flow

 

前話したようにhigh flowの時の考え方で、肺に流れる血液は

「孔の大きさ(管)」×「圧の差」

でしたね。

普通に何も考えずに動脈管を開けておくと大動脈と肺動脈の「圧の差」は

かなり大きくなってしまうので、みなさんの得意なhigh flowになってしまいます。

下記のポイントに注意しましょう!

新生児は生理的肺高血圧なので、生まれてすぐにPDAが開いていても、high flowにはなりません。しかし、1日毎に肺の血圧はドンドン下がります!昨日high flowではなかったのに、今日はすごいhigh flowで苦しんでいると言うことはよくあります。

プロスタグランジン製剤は肺の血管抵抗を下げるお薬(肺の血圧を下げる)でもあるため、動脈管を開けると同時に肺の血圧もドンドン下げます!なので、プロスタグランジン製剤はhigh flowを助長します。

 

このため、

放っておくとlow flow で困っていたはずだったのに、

プロスタグランジン製剤を投与し、放っておいたら

時間が進む毎に肺血流がドンドン増加し、high flowで困る事になってしまいます。

この事を覚えておく必要があります。

 

肺血流はどれくらいにコントロールすればいいでしょう?

これは臨床で患者さんの状態を見ながら、

・尿量が確保できているか?

・呼吸が早くないか?

・体重増加は得られているか?

・血液ガスでLacは上昇していないか?

などなど、いろんな評価の仕方があると思います。これは正直自分で患者さんに張り付いて、どれくらいが一番いいのかを探っていく必要があると思います。

しかし、簡単な目安としては

「SpO2:80%前後にコントロールする」

というのが一つの目安になると思います。

 

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SpO2で肺血流を推測

図:SpO2:80%でコントロールしよう

 

上記を見るとだいたい肺と全身に流れる血液が同じ量の時に、SpO2は80%くらいになる事がわかると思います。

SpO2が90%だったら、肺と全身は3:1になるので、結構なhigh flowだと言うことになりますね。

患者さん全員が、SpO2:80%が最適のところではないと思いますので、あくまで一つの指標としてですが、SpO2:80%前後を目標に管理できればいいと思います。

 

動脈管のコントロールの仕方

ではどうやってコントロールすればいいのでしょうか?

  • プロスタグランジン製剤はある程度流し、肺血流はN2を投与してコントロールする。(もしくは挿管してCO2を貯める)
  • プロスタグランジン製剤の投与量を調節する。流れすぎていれば、量を減らしたりする。(実際はうまくいかない事が多いです。)
  • もうBT shunt手術をしてしまう!(コントロール不能ってことですね。)

などがあります。

ちなみに、下記数行は読み飛ばしてもらっていいのです………。

  個人的には①の窒素療法(N2療法)は一番好きな方法です。

  早期から始めていれば、割と楽にhigh flowを管理できます。

  始めるのが遅いとhigh flowの進行は止めるのが難しいです。

  しかし、腸管血流などにも注意する必要があり、

  NECなどにならないように注意する必要があります。

  ②は量をうまく調節して、思うようになることが少なく、

  あまり好きではありません。PDAにrigdeが一旦できると、

  狭くなっていくのをコントロールするのは難し印象があります。

  しかし、そういうやり方もあります。

  また、出生後すぐにプロスタグランジン製剤を開始していれば、

  少量投与で動脈管を維持できる、という事もあります。

とにかく施設によってもやり方は違いますし、手術にいけるハードルも違うと思いますので、それぞれのやり方でしましょう。

で、どうしてもダメならBT shunt手術に踏み切りましょう。

 

BT shunt手術(Blalock-Taussig手術)

これも施設によっても少し違うかもしれませんが、

一般的にはBT shuntは

  ・生理的肺高血圧がとれてから。(生後2-3週間以降)

  ・体重が3kgは欲しい。(小さくても必要な時はしてくれますが、できたら)

が手術の条件になると思います。

Shuntの管の太さは、つける位置と手術する時の体重によります。

(中枢に近い位置につければ、より血液が流れやすくなります。同じ太さの管でも多くの血液がshuntの管を流れます。)

大雑把に3kgなら3.5mm、4kgなら4mmと適当に覚えておけばいいと思います。

この手術は結構難しく、上手にしないと管が閉塞したりします。

 

Low flowの話でも結局high flowの話がでてきました。

結局、low flowであっても、high flowは常に意識しておかないといけない、という事です。

肺血流は常に変化し、いつでも同じ状態をキープしてはくれません。

常に考え、肺にどれだけ血液が流れているのかを意識することは先天性心疾患を診る上で基本中の基本になります。

これが肌でわかるようになってくると、小児循環器へのアレルギーがなくなってくるのではないでしょうか?

 

長かったですが、high flow、low flowの話はここで一旦おしまいとなります。

次回は、先天性心疾患の全部の疾患の大まかな流れについて話していこうと思います。次回からの話がわかると、僕らがどこを目指して治療をしているかが、見えてくると思います。