今回は前回の話の続きになります。
High flowの程度は「孔の大きさ」と「圧の差」で決まる、と前回お話しました。
孔の大きさについては、まあ、当たり前の話なので、すんなり理解していただけたのではないでしょうか?
一言で前回の内容を話すなら、「VSDは6mm以上はしんどいよ」ということになります。
今回は「圧の差」について話していきます。
またまた前回話したVSDを例に考えていきます。
はじめに言うと、右心室の圧は肺動脈に狭窄などなく、肺動脈の圧と同じと考えて話ます。
VSDで圧の差について考えよう
前回、肺血流はVSDの大きさで決まり、6mm以上のVSDは肺血流が多く、しんどくなる、と話しました。
嘘ではないのですが、本当はもう一つ考えないといけない事があります。
それは「圧の差」です。
右心室は肺に血液を送るだけなので20-30mmHgの血圧しかありません。
対して左心室は全身に血液を送らないといけないので、100mmHgの血圧が必要になります。
図:VSDの圧の差
左心室と右心室の血圧の差はいくらかと言うと(右室を30mmHgとすると)
100-30=70mmHg
となります。血圧の差が70mmHgもあるわけです。
そのため、たとえ小さな孔であっても、血圧の差がかなりあるので、結構な血液が流れていきます。
ちなみにASD(心房中隔欠損症)はどうか?
心房中隔欠損症ではどうでしょう?
これもVSDと同じく100人に1人くらいいるpopularな疾患です。
ASD(心房中隔欠損症)は心房の間の壁に孔が開いている疾患です。
右心房(RA)は血圧5mmHg程度、左心房(LA)は血圧6mmHg程度です。
そのため、右心房と左心房の「圧の差」は1mmHgだけです。
図:心房中隔欠損症
もう話がわかってきたでしょうか?
ASDはかなり大きな孔が開いていても「圧の差」がたった1mmHg程度なのです。そのため、どんな大きさの孔でも、たいしてしんどくならないのです。
ASDについて知っている人は納得していただけると思いますが、
かなり大きな孔でも小さい頃に手術が必要になることが少ないのです。
大体は長い年月をかけて負担がかかります。
おじさん、おばさんになって(もしくはおじいさん?おばあさん?)ようやく長年の負担の影響で不整脈などで困るようになります。
なので、大体のASDは社会人になるくらいまでに治療していればいいと思います。
生理的肺高血圧症について
赤ちゃんを診るときにどうしても知っておかなければ、いけない事があります。
それは生理的肺高血圧の事です。
生まれたての赤ちゃんは、肺の血圧が高いです!
これを生理的肺高血圧と言います。
赤ちゃんはお腹の中にいる時、肺がしぼんでいますが、生まれると「オギャー」と泣いて肺が開き、肺に血液が流れるようになってきます。
しかし、急に開いた肺は血圧が高く、全身の血圧と大体一緒です。
生まれたての血圧(大動脈や左心室の圧)を50mmHgとすると
肺の血圧も50mmHgです。
赤ちゃんの血圧は1ヶ月くらいかけて下がってきます。
細かい事はいいので、
「生理的肺高血圧=生まれたての赤ちゃんの肺の血圧は高い」
という事を知っておいてください。
VSDと生理的肺高血圧の関係を考えよう
図を見ながら考えていきましょう。
図:生理的肺高血圧とVSD
生まれたての赤ちゃんは肺の血圧が高く、左室圧が50mmHgだとすると
肺の血圧も50mmHgとほぼ同じです。
「圧の差」がほとんどないので、どんなに大きなVSDが開いていてもほんの少しの血液しか肺に流れません。
しかし、日齢が進めば進むほど赤ちゃんの肺の血圧が下がってきます。
すると肺の血圧は50→30→20mmHgと低下してきます。
すると左室との「圧の差」が30mmHgと差が出てきて、肺に血液が流れ出します。
つまり赤ちゃんは日齢が進めば、進むほど肺の血液が増え、high flowになっていきます。
なので、VSDの赤ちゃんは生まれたてはそれほどしんどくなくても、徐々にしんどくなります。これは生理的肺高血圧が影響しているのです。
High flowの程度は「孔の大きさ」と「圧の差」
まとめると、VSDのhigh flowの程度は
VSDが大きいほど強く、日齢が進むほど強いです。
思い出すと手術で入院するVSDの赤ちゃん達は大体1-3ヶ月が多いのはこのためです。
VSDが大きくても生まれたては肺の血圧も高く、それほどhigh flowになりませんが、1ヶ月を過ぎるとVSDの大きさに見合ったhigh flowになりますので、しんどくなります。
逆にASDは左心房と右心房の圧の差がほとんどないので、どんなに大きいASDでもそうそうhigh flowでしんどくなりません。
今回はここまでにしようと思います。
次回はQp/Qs(肺体血流比)について話していきます。